αヘリックスとβシート

もはや何から逸れてったのかすら定かではない一連の酵素シリーズ(そもそもそんなシリーズなのかも謎(笑))ですが、消化酵素の分子レベルの話、それから筋肉なんかも分子レベルでの駆動の仕組みなんかを紹介し、概ね脱線しようと思っていたネタは触れ終えた感じですね。

 

確か圧力や温度・湿度のネタからこの辺に逸れていったのでまたそちらに戻っていこうと思っているのですが、もう1つ触れておこうかな、と思っていた点を思い出しました。

 

それがズバリ、何度も紹介していたにも関わらずほぼ何の説明も加えてこなかった、タンパク質結晶構造のモデル図について…!

 

こちら、一連の記事シリーズで初出だった、大腸菌のRNase Hのリボンモデル構造をアイキャッチにお借りしたものですが…

con-cats.hatenablog.com

…この、リボンや矢印で描かれたモデル図、こいつは一体何やねんという話についてですね。


酵素シリーズのラストに、せっかくなのでごく簡単にまとめてみるといたしましょう。

 

まぁ、一応消化酵素の辺りで、「このアスパラギン酸が、タンパク質切断機能に最も寄与しているんですね」という話で、矢印の一部が色つきでハイライトしたこともあったことから明らかな通り、これは単純に、

アミノ酸のつながりを、模式的に分かりやすくリボンのように表したもの」

…にすぎず、現実にはこんなカラフルではないのは言うに及ばず、タンパク質ってのはあくまで炭素・水素・酸素・窒素・硫黄原子のつながりにすぎませんから、こういうしっかりハッキリした形の物質が現実的に存在してるってわけじゃないんですけど、とはいえ複雑な分子をこういう風に単純化したモデルで考えると、各原子の集まりであるアミノ酸のつながりであるタンパク質の大体の形…つまり「どこが表面で、どのアミノ酸とどのアミノ酸が近くに存在して…」といったことが非常に上手に説明できている、って感じになってるんですね。

 

(具体的に、お手持ちのデバイス上で好きなように動かせて、どこがどのアミノ酸に対応するかまでよく分かる3Dビューアが、RCSBの提供するサイトで利用可能……というのも何度も使わせていただいていた話ですね。

 話に出しただけで構造を紹介したことはなかった、パパイヤに含まれる強力なタンパク質分解酵素「パパイン」なんかは、例えばこちらのリンク(↓)で見ることができる感じで…

 

www.rcsb.org

…構造画像のすぐ下にある「Structure」というリンクをクリックすれば、自由に動かせるモードになる感じですね。

 実際に自分の手と目で触って見てみると、より実感が持てやすいのではないかと思います。)

 

まぁ自分で動かせるのはいいとして、ちょっと小さいですが上のリンクサムネイルにもある通り、タンパク質の構造モデルは、パッと見でもすぐ分かると思うんですけど、「くるくるのリボン」と「矢印」とがある感じになっています。

 

こいつらが何なのか分からんから、あのヒモみたいな絵ぇ見ても、何のことかよぉ分からんのよ……と思われるのも当然で、とっとと説明すべき点だった気もするんですけど、実は何を隠そう、あれらが何であるか分かっても、別にこいつらが何で何を意味しているのかとかはよく分かんないんですよね(笑)。

 

つまり、名前もついているし、その「リボン」や「矢印」で表された部分(これらを「構造モチーフ」などと呼びます)に含まれる複数のアミノ酸は、共同で一定の構造を取るように存在しているとはいえるものの、「だからここが重要」とか「こういう特別な機能を持つ」とかが必ずあるわけではありませんし、さらに言えばその割り振り自体も厳密なものではなく、そのタンパク質の溶けている状況(温度とかpHとか塩濃度とか)・周りの環境が変われば変わるものですし、何も絶対的なものではないものになっています。

 

あくまでその結晶構造を解明した条件では、この辺のアミノ酸は一緒になってこういうモチーフを形成しがちだ……と言える程度のもので、だからどうってことは、特に構造生物学をメインに研究されている方以外にとっては、若干「ふーん、で?」としか言えない話でもあるのが事実かもしれません。

 

まぁ、もちろん構造を解くことそれ自体は非常に重要で意味のあるものですし、こういった情報を基に製薬などさらなる研究が繰り広げられるのも間違いないため、グダグダ「実はあんまりよく分かりません」とか書くのも変な話かもしれないため話を進めると、ズバリ、あの新体操とかでクルクル舞っていそうなまさしく「リボン」の部分は「αへリックス(アルファ・ヘリックス)」と呼ばれる構造で……

 

ja.wikipedia.org

 

一方の、矢印で表されるモチーフは「βシート(ベータ・シート)」と呼ばれるものになっています。

 

ja.wikipedia.org

それぞれの説明は、まさにWikipedia記事を参照していただいたら終わりの話…というか、どうしても「水素結合」というものが絡んでくるので、これを理解しないと意味が分からんというか結局「何のこっちゃ」という話にもなってきてしまうんですけれども、まぁ本当にごくごく簡単に言えば…

  • αヘリックスは、4つ以上、多いときは数十ものアミノ酸がまとまって「螺旋(らせん)」構造を描くように存在しているもの(まぁヘリックスを日本語にしただけですけど(笑))
  • βシートは、概ね3~10アミノ酸程度のつながりが、こちらは逆にアミノ酸を構成する原子同士の結合が引っ張られた状態というか、規則正しくピチッと並んだ状態で存在し、いわば折り紙を角々に細かく折ってしっかり堅い構造になったプリーツ状態で存在しているもの

…って感じですかね。

 

「具体的にどういうアミノ酸の並びになったらヘリックスやシートになるの?」という誰しもが感じる疑問についても、これまた、結局絶対的な法則は存在しません。

そもそもタンパク質は単に20種類のアミノ酸がつながっただけのものとはいえ、何気に「20個の要素がつながる」って指数関数的に凄まじいバリエーションになりますから、あまりにも複雑系すぎて、単純なルールはないんですね。


もちろん、ウィ記事にある通り、「このアミノ酸があると形成しやすい」「これがあるとそのモチーフは破壊される」などはあるものの、絶対的ではありません。

 

そして、「そのモチーフがあったらその部分は何がどうなるっていうか、何が嬉しいの?」という話に関しても、まぁ一般的にヘリックスの部分は柔軟性があり、シートの部分はカッチリ安定しているという、見た目からそのまんま浮かぶイメージの通りの傾向はあるものの、それも必ずしもそうだというわけではない感じといえましょう。

 

じゃあ結局何なんだよ、って話になりますが、改めて、詳しくは水素結合やその他物性化学の知識が必要になるので深入りはしないものの、こういったモチーフから、そのタンパク質が取り得る分子構造や機能を考察する一助には間違いなくなる形ですね。


とはいえ先ほども書いていた通り、それが全てではないし、タンパク質は柔軟性に富んだ分子ですから時に何か小さな分子がくっつくだけでダイナミックに構造が変わることもある感じで、だからこそ今なお盛んに研究が続けられているのです……という、めちゃくちゃフンワリボンヤリした話で恐縮の極みですが(笑)、そんな感じの雑まとめで今回もあっさり時間切れとなってしまいました。

 

なお、このαβの2つは「基本モチーフ」であり、これらが組み合わさって更に特徴的な構造を示すパターンなども存在しています。


分かりやすく、また印象的なものでいうと、βシートが逆平行(=隣同士の向きが互い違い)に多数並んで非常に安定した構造を作る、「βバレル」(バレルは「樽」って意味ですね)なんて構造も存在しており……

https://ja.wikipedia.org/wiki/Βバレルより

…ここまで来るとめちゃくちゃ特徴的ですし、構造解析の本領発揮で、明白な構造的機能をもつ分子になるわけですけど、その辺の、「特徴ある分子」なんかについて、せっかくなのでまた次回脱線してみようかな、などと画策しています。

時間切れにつき、次回へ続く……。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村