具体的にどうやって切れるのか?

酵素の話からタンパク質分解の話になり、代表的なタンパク質分解酵素であるペプシンと、生体内に最も豊富に存在するタンパク質の1つであるアクチンを例に、分子レベルでの構造の話をここ何回かの記事で見ていました。

 

そういえばあんまり意識していませんでしたが、「分子」といえば「酸素原子と水素原子2つがくっついて水分子」みたいな、そのレベルのもの(=原子が複数個で分子)を思い浮かべるかもしれないんですけれども、基本的にある特定の機能をもった一つながりの物質は「分子」と呼ばれるので、炭素・酸素・水素・窒素が組み合わさったアミノ酸も分子ですし…

(生体を構成するアミノ酸は20種類あり、一番小さくて簡単なグリシンは炭素2・酸素2・水素5・窒素1という分子になりますが、一番大きいトリプトファンの場合は炭素11・酸素2・水素12・窒素2と、結構な大きさになります)

…さらにそのアミノ酸が大量につながってできたタンパク質(ペプシンは326アミノ酸、アクチンは375アミノ酸でした)もこれまた「分子」なので、一口に「分子」といっても、大きさは色々ある感じだといえましょう。


そういうわけで、最近構造を見ているその「タンパク質」は小さな分子が多数つながってできたいわゆる「高分子」と呼ばれるものであり、「分子」の一種ではあるものの、例の構造モデルを見る際、(原子まで表示するとあまりにも細かくなりすぎてしまうため)各原子はほとんど意識されないレベルになっている感じですね。


(一応、前回見ていたペプシン&ペプスタチンの構造では、ペプスタチンは低分子であることもあり、1つの原子が小さな球で表される感じで、こちらはギリギリ原子を意識したイラストにはなっていましたが……今回も、↓の方でまた再登場します。)

 

ちょうどそのタンパク質構造のリボンモデルについても、せっかく触れた以上、もうちょびっつぐらい解説を足しておこうかなと思っているのですが、今回はそれに先立ちもうちょい別の、より分子レベルの細かい話から見てみようかなと思います。


それが、記事タイトルにも挙げました、「ペプシンはタンパク質を切るっつってるけど、どうやって切るのか?」という話になります。

 

前回ちょろっとだけ書いていた気もしますが、特定の原子のもつ電子が他の原子を攻撃し、各種結合が破壊される……というもので、これはもう、大学有機化学レベルの話になるためぶっちゃけクソおもんないにも程があるんですけど(笑)、まあまあそういう話になっているという紹介といいますか、分子レベルでこういうことが起こっているということまで分かっているのです、という参考程度のネタとして出してみる感じですね。

 

この辺は文字だけで説明するのも不可能ですしイラストを見るのが一番ですが、検索したらそれなりに分かりやすい感じのものが、名門UPennことペンシルベニア大学Chemistryのレクチャーの講義資料としてPDFで公開されていたため、そちらから該当の画像をお借りさせていただきましょう。

 

ズバリ、こんな感じになります。

 

https://www.sas.upenn.edu/~crulli/LessonPlan4Pepsin.pdfより

 

低解像のためめちゃくちゃ見にくいですが、まず、青い枠でコの字型(というかCの字型)で表されているのがペプシン酵素で、実は、タンパク質分解に実際に働いているのは32番と215番に位置している、どちらもAsp(=3文字表記のアスパラギン酸、1文字表記だとD)の、たった2つのアミノ酸のみなのでした。


アミノ酸には必ず「-COOH(カルボキシ基)」という部分が存在しており、この図ではAspからCOOH(一部は-COOの形ですが)だけが表示されている形になっています。


図の左端 (a)をご覧いただくと、他には水分子H2Oと、あとは切断される対象となるアミノ酸が描かれていますが、アミノ酸は「R-NH-CO-R」のように表記されているわけですけど(テキストでは表現しづらいので省略していますが、CとOは二重結合)、この「-NH-CO-」の部分をペプチド結合と呼んでおり、まさにアミノ酸の本体なんですね。

(先ほどの-COOHと、もう一つ必ず存在する-NH2が手をつなぎ合って生じる結合になります。)


その辺の話は、最早2年以上前の遠い昔、アミノ酸飲料の話(↓)から始まった「分子生物学入門」の話の、最後に満を持して戻ってくる予定だった部分で…

 

con-cats.hatenablog.com

…ちょうど、激甘物質ソーマチンというタンパク質の話にまで来たところ……いわばゴールまであと一歩のところでその他もろもろの話に脱線して今に至るという感じなんですけど、とりあえずアミノ酸やタンパク質についての詳しい構造についてはまたいつか必ず戻りたいと思っているその時に触れる予定です、ということで今はともかく…

ポイントとしては、RやRというのがその前後に続いているアミノ酸を一括で指している形で、一部しか描かれていないものの、これは大きなタンパク質分子のごく一部を抜粋した形になっています。

 

ペプシンが切るのは「酸性アミノ酸(具体的には、アスパラギン酸グルタミン酸の2種類)のN末端側」ということだったので(上で見ていたペプチド結合のNとCはそれぞれつながりの順番を表しており、この窒素と炭素とから、タンパク質の先頭を「N末端」、お尻を「C末端」と呼んでいるわけなんですね)、Rに来るのはアスパラギン酸グルタミン酸になる形で、その次に来るのが芳香族アミノ酸になっているのが基本といえますが、それも今は関係ないのでとりあえず置いておきましょう)。

 

で、反応の仕組みとしては、この図だと上に位置する32番Aspの炭素原子の赤丸で表示されている電子が、水分子の水素原子に働きかけ、それに応じて、まず水分子の酸素原子が、切断されるアミノ酸のペプチド結合の炭素原子の二重結合に働きかけ、新しくCとOが結合する形になります(以上、(a)-(b))。


と同時に、今度は下に位置する215番Aspの電子の働きかけで、元々そちらにつながっていた水素原子を32番Aspの方に受け渡すことになり((b))、その結果またしても32番Aspの余剰電子が先ほど生まれた切断対象アミノ酸のOHの水素原子に働きかけ、また、同時に復活した215番AspのOHの酸素原子からの影響で切断対象アミノ酸の窒素原子がその水素原子に働きかけて、N-Cの結合がN-Hの結合に生まれ変わってペプチド結合が切断される((c)-(d))……という話なわけですが……

 

…正直、僕も専門は分子生物学であり、有機化学ではないので、ぶっちゃけクッソ何のこっちゃレベルのイミフ話になっています(笑)。

 

とはいえ、有機化学の知識を使えば、このような反応が起こってタンパク質が切断されるということが分かっている、という話なんですね。

 

解像度が低かったので、念のため、3Dビューアで実際32番と215番のアスパラギン酸がどこに位置するのかだけ、チェックしてみるといたしましょう。

 

こちら(↓)がペプシンの3Dモデルから、32番のAspをハイライトした図で…

 

https://www.rcsb.org/3d-view/1PSO/1より、Asp 32をハイライト

 

一方こちら(↓)が、215番のAspをハイライトしたものですね。

 

https://www.rcsb.org/3d-view/1PSO/1より、Asp 215をハイライト

32番は、中央付近の矢印の先端の三角形が、215番は分かりづらいですが、オレンジで着色された低分子・ペプスタチンのすぐ上の細い部分がピンク色で着色されています。

 

そう、ペプスタチンはペプシンの阻害剤であり、「ペプシンのタンパク質切断機能を妨害する」って話でしたが、こいつはまさに、実際の切断反応に働いている32番&215番のアスパラギン酸の間に鎮座しており、切断対象のタンパク質が入れなくなるようにしている(その結果、ペプシンが他のタンパク質を切断できなくなっている)ことがハッキリと見て取れるんですねぇ~。

 

そんなわけで、3Dモデル図を見てそれっぽいことを言われても、正直「そうかぁ?」と思えるレベルになってることが多い気もするのですが(笑)、こう見ると、まぁ確かにさっきの話と一貫性はあるし、筋は通ってるね、「構造モデルを使うことで、実際の現象の説明や推測ができる」ってのも納得せざるを得ない……と思っていただけるのではないかと思います。


という所で、今回も時間切れとなったので、触れておきたかった別ネタもまた次回以降見ていく形にさせていただきましょう。

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