アミノ酸チャージ!

前々回の記事で見ていた、tRNAに関していただいていたご質問の続きに参りましょう。

最初の点(塩基数とか、tRNAは修飾されており、どれも大事とか)は既に触れていたので、その次からですね。

tRNAは、中身は違うのに形が全部同じっていうのは凄いねぇ。

塩基数も同じってことなんかい?

大事な3塩基(アンチコドン)以外は、大事じゃない感じなんかな?

アミノ酸は、別の酵素がtRNAに持たせてくれる』ってことだったけど、最初は持ってなくてこのアンチコドンに対応したアミノ酸をどっかで誰かがくっつけるって感じ??いや、これはちょっと…ややこしいけど面白いかも笑


それから、この表(注:酵母の、アンチコドンも載った表のことですね)を眺めていて思ったんだけど…tRNAの数は決まってるってことなんかい?

ざっと見て数えると、41種類200個くらいのtRNAが1つの細胞内にあるってこと?

200個って、思ったよりずっと少なかったんだけど(いや、酵母自体全く知識がないので、全くなんの根拠もない、ただのイメージでしかないけど)、、これってもしかして再利用されるっていうか、同じtRNAがずっと働いて何回も運ぶみたいな感じなんでかな?

あぁ、、やっぱりそーゆうことなんだろうねぇ、きっと。1回運んだら死ぬなんてことは無さそうだもんな。めっちゃ長い配列のタンパク質だと回らなくなってきちゃうだろうしねぇ。(全て妄想)


まず、tRNAの3'末端にはアンチコドンに対応した各tRNA特有のアミノ酸がつながるという話でしたが、当然、世の中には(というか細胞の中には)「アミノ酸がくっついたtRNA」と「アミノ酸がくっついていないtRNA」が存在するわけですね。

そしてもちろん、合成直後(DNAから転写された直後)のtRNAはアミノ酸がくっついていないし、リボソーム(タンパク質合成を行う場・巨大分子)上にてmRNAのコドンに対応するアミノ酸を届け終えた後も、アミノ酸は離れていなくなっているわけですが、こういうフリーのtRNAにはその後アンチコドンに対応したアミノ酸が何者かによってくっつけられるという形になっています。

それを行うのが、まぁ毎度おなじみ、それ専用の酵素(タンパク質)なんですけど、この「tRNAにアミノ酸をつなげる」という機能をもった輩は、アミノアシルtRNA合成酵素と呼ばれるものになります。

…これは正直、名前が悪い!

「アシルって何だよ、『アミノ酸付加酵素』でいいじゃねーか」とか思えますが、まぁアシルというのは有機化学の用語で、カルボン酸の-COOH(カルボキシ基)からOHを除いた、-CO-(CとOは二重結合、別の表記で書くなら、>C=Oですね)の部分を表す語で、まぁ高校化学ではあんまり出てこない用語なので、最も深く有機化学について学ぶのは受験期という一般的な生命科学系の学生にとってはなじみが薄めの用語になっているわけですけど、まぁ名前は名前で、単にそう名付けられてそう呼ばれているからそれに従う他ない感じですね。


ただ、名前がつまらなければ中身もつまらない感じなのか、特にこれといって語ることもない酵素といえるでしょうか。
(普通に、「tRNAにアミノ酸をつなげる」というそれだけ。もちろん、tRNAもアミノ酸も似通ったものが多いので、ミスがないように校正機能を有する結構高機能な酵素である、とかいう話はありますが、割かしどうでもいい点でしょう)。

Wikipediaには使える画像すらあんまりなかったですが、それも寂しいしせっかくなのでまた構造ぐらいは見ておきましょうか。

パッと検索して出てきたのが、またまた日本人研究者の手によるデータ・報告で、この記事で触れたことがあった超ビッグラボ・横山研に当時在籍していらした関根俊一さん(現在は理研でチームリーダーをされてらっしゃるようです)他によるX線結晶構造解析の図で…
(こちらは、PDBでおなじみ、あらゆる構造解析図が詳細な情報とともに収められているProtein Data Bankからの抜粋です)

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https://www.rcsb.org/structure/1G59より

緑色のL字がtRNA(グルタミン酸用)で、tRNA全体を包むように接触・認識しているオレンジ色の分子がアミノアシルtRNA合成酵素…ですが、こいつらはそれぞれのアミノ酸ごとに特有の名前で呼ばれることが普通で、この場合はグルタミン酸を運ぶtRNAを対象とする酵素なので、グルタミルtRNA合成酵素と表される、って感じですね。
(アミノアシルtRNA合成酵素が総称名というかグループ名、グルタミルtRNA合成酵素とかグルタミニルtRNA合成酵素(こちらは、グルタミンを運ぶtRNA用。ややこしいですが、アミノ酸にはクッソ似た名前、グルタミンとグルタミン酸があるので注意ですね)とかが、固有名詞といえましょう。)


ちなみにこちらRCSB(アメリカの研究機関)が運営するPDBですが、構造画像下にある3D View(の横のStructure)をクリックすれば、構造モデルを自分の好きなように、自由自在に回転可能になっており、カーソルを当てるとそれがどの塩基(RNAまたはアミノ酸)なのかも表示される優れものですね。

(下の図は、適当に回転して、アミノ酸がくっつく場所である、tRNA一番お尻のA塩基にカーソルを当てた状態(緑のtRNAの内、75番Aが赤くハイライト)。
 酵素のリボンの色はなぜか紫に変わっていますが、多分変えたければ自分で好きなように色も変えられると思います。)

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https://www.rcsb.org/3d-view/1G59/1より

とはいえまぁ結晶構造を見ても特別何が分かるわけでもありませんけど、この酵素が、画像の通りtRNAを認識して、先っぽにアミノ酸をつなげてくれるということなわけですね。

(ちなみに、PDBは世界各地で運営されており、日本でもPDBjとして同じデータベース(インターフェースは違う)が、主に阪大によって管理・運営されています。
 PDBjなら日本語での操作も可能ですが、パッと見自由に動かせる構造が見つからなかったので、今回はアメリカのPDBを紹介してみました。)

 

なお、両者の結合は、tRNA3'末端のA(アデニン)塩基の3'-OHに、アミノ酸のCOOH(そういえば、「よく分かる有機化学講座」、脂肪や糖まで見て、さぁ最後はアミノ酸!…で最後の高分子タンパク質をじっくり見ていくその直前で話が脱線したので、まだ詳しくは見ていなかったはずですが、全てのアミノ酸には、炭素原子Cに、アミノ基-NH2とカルボキシ基-COOHがつながっています。残る2本の腕に、水素と、あと各アミノ酸特有の側鎖Rがあり、Rが何かでアミノ酸が何か決まっているという仕組みです。RがHならグリシン、Rがメチル基-CH3ならアラニン、という具合)…

…と、余談が長くなったので改めて話を戻すと、tRNAの末尾は基本的にAですが、このヌクレオチドAの3'OHと、アミノ酸のCOOHとが結合するという形でつながります。

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https://en.wikipedia.org/wiki/Aminoacyl-tRNAより

Wikipediaにしてはイマイチ荒い画像ですけど、L字型のtRNAがカラフルなリボンで表示されており、一番最後のA塩基だけ突如例のCやらOやらの構造図で描かれていますが、アデノシン(アデニン+糖リボース)の五角形リボースの左下3'番炭素のOHに、アミノ酸のCOOHがつながっている感じです。

別にこんなの覚えてる必要は全くないですけど、このOHとCOOHからH2Oが取れてつながった形を、エステル結合と呼ぶのでした。

エステルについては最早遥か遠い昔、楽しい有機化学講座の脂肪の記事で初出だった感じですね。


まぁこれも、エステル結合だとして、だからどうしたという話でしかないんですけど、このようにtRNAにアミノ酸がつながったものを「チャージされたtRNA(英語でcharged tRNA)」と呼ぶので、「アミノ酸をチャージする」というと、「アミノ酸飲料でもキメるのかな?」と思えますが、分子的には、「tRNAに、アミノアシルtRNA合成酵素の力でアミノ酸をくっつける(エステル結合でつなげる)」ことを指す、という面白ネタ(あんまり面白くない)に、最後せっかくなので触れてみた次第です。


…といったところで、まだあと1点後半のご質問が残っていますが、冬時間も始まり、記事も軽量化していきたいですしね、そちらはまた次回触れていこうかと思います。

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