酵素にも色々あるよ

前回は、「酵素」について、これは特定の物質を指す名前ではなく、何らかの機能を持ったタンパク質全般を指すものなので、誤用をしないようご注意ください…と、「酵素」が健康に役に立つ何か1つの決まった栄養素だと思っていた僕のおばあちゃんに向けて、時を越えたお願いをしていた感じでした(笑)。

 

ちなみにさらに詳しく書けば、主に化学反応を触媒する、つまり「何かを何かに変えることを容易にする」という機能をもったものが酵素だといえ、高校生物では「一遺伝子一酵素」という話で習う通り、生物のもつ「遺伝子」ってのは結局なんてこたぁない、基本的には特定の酵素を作る情報が掲載されているだけのもんであり、単にその「酵素情報」が極めて大量に存在しているものだと言えますから、「生きる」ってことは「体内で様々な酵素を作って、活動する」こととほぼ同義だと言えるようにも思えます。

(遺伝情報の流れは「DNA→RNA→タンパク質」でしたけど、要するに酵素ってのはタンパク質であり、遺伝子が抱える情報の最終産物といいますか、遺伝で伝えるものの本質なわけですね。

 酵素が食べ物を消化して栄養に変えたり、その栄養から血や肉や髪や爪や活動エネルギーなんかを創り出しているわけです。)


もっとも、「一遺伝子一酵素説」は、↓のウィ記事にもある通り、分子生物学の黎明期に、アカパンカビ(正直この話でしか聞いたことのない生物ですが(笑)、面白い名前でめっちゃ印象強いですね)を用いてビードルさんとテータムさんが打ち立てた学説で……

 

ja.wikipedia.org

…基本的には「1つの遺伝子が1つの酵素を作っている」のは間違いないんですけど、研究が進むにつれて、やれスプライシングやら、やれノンコーディングRNAやらも見つかってきて、必ずしも1つの遺伝子が1つの酵素を作り出すとは限らないことも分かっているのですが、まぁ歴史的に極めて重要な概念を打ち立てたのは間違いない、現代生命科学の金字塔の1つですね。

 

まぁ酵素それ自体の細かいことはともかく、そんなわけで酵素には「何かの反応を行う」(厳密には「反応速度を上げる」だけなので、「容易にする」とか「手助けする」とかの方が適切ですが)役割があるわけですけど、ちょうど洗剤に関する話を見ていた最近の記事では、RNA分解酵素やタンパク質分解酵素やでんぷん分解酵素といった、分子が大量につながってできた「高分子」を分解する機能を持つものを見ていました。


ちなみに豆知識として、酵素というのは基本的に「-ase」という接尾辞で終わることが多いのですが、「物質名+ase」の場合、「その物質を分解する酵素」という意味になっています。


なので、RNA分解酵素は(最後のAがaseに融合される感じですが)RNase、DNA分解酵素はDNase、タンパク質分解酵素プロテインなのでProtease、脂質分解酵素はlipidからlipase…などのようになる感じですね。


この「ase」、日本語では「アーゼ」と呼ばれがちですけど(「プロテアーゼ」のように)、英語の場合は基本的に「エース」呼びで、「アールエヌエース」「プロティエース」などと呼ばれる形です(「アーゼ」呼びは、ドイツ語由来なんですかね?少なくともアメリカ英語は、100%「エース」です)。

(学生時代は「エース」呼びとか何かカッコつけてるみたいでめっちゃ抵抗があったんですけど、実際英語で話すとなるとそう呼ばないと絶対に通じないので、やむなく僕も「エース」派に寝返ることとなってしまいました(笑)。)

 

とはいえ分解酵素以外の酵素も「ase」で終わることは多く、例えば分解と真逆の「合成酵素」は、「合成」を意味するsynthesisとの組み合わせで「synthetase」(日本語だとシンセターゼと呼ばれることが多く、英語ならシンセテース)となるし、リン酸化酵素は、生物学的にあまりにも重要だから専門用語が用意されておりなぜか「kinase」という名前で、これまた日本語だと「キナーゼ」であることが多いものの英語だと「カイネース」になりますけど、何となくどこかで聞いたことがあるであろう、「ナットウキナーゼ」ってのは、実は納豆が持つリン酸化酵素(DNAやRNAの末端に、元素P(リン)をくっつける酵素)のことだったんですね。


他にも酵素は本当にいくらでもありますが、1つ話のきっかけのRNA分解酵素に着目してみますと、前回も書いていた通り、「RNase」と一口に言っても実は様々なタイプのRNaseが存在しており、ちょうど、RNaseをより正式に書き下したリボヌクレアーゼというウィキP記事(RNAは略さず書くと「リボ核酸(ヌクレイック・アシッド)」という日本語でした)にあるように……

 

ja.wikipedia.org

…研究で一番よく使われる(また、人体とかにもめちゃくちゃ大量に存在する)のがRNase Aと呼ばれるもので、こいつは一本鎖のRNAの、CかUのお尻側で分解する、という機能をもつもので…

RNAは、A, C, G, Uの4つの塩基が大量につながっているものでした。逆にいえば、RNase Aは、AとGだけがつながってできたRNAは一切分解しない(できない)んですね)

…他にもRNase Hと呼ばれるものは、RNAとDNAが二本鎖を形成した状態のRNA側のみを分解するという機能があるなど、酵素ごとにめちゃくちゃ細分化された、「小さな分子で、よくそんな特別な機能が作り出せるものだ」と感心するぐらいなんですけど、こういう特定の決まった機能を、酵素特異性酵素が作用する相手を基質と呼ぶので、基質特異性とも呼ばれますが)と呼んでおり、酵素の最大の特徴ともいえる感じですね。

まぁ僕はRNAも非常によく使う研究をしているので、上記リストに挙げられていた「RNaseファミリー」のほとんど全部使ったことがあるぐらいですけど、冷静に考えたら「だから何だよ…」としかいえないしょうもない話ですね……。

「RNaseにも色んなものがあるんですよ。例えばRNase T1は、一本鎖RNAのGのお尻側のみを切断するので、RNase AとT1とを組み合わせれば、「A」の部分だけが切れずに残るRNAを作ることが可能なんですね」とかそういうことを書いて盛り上がろうと思っていたのですが、どう考えても盛り上がりそうにもなかったので(笑)、「気になる方はWikiPのリストをご覧ください」という感じで自重しておこうと思います。


なお、前回、「RNaseは生体内に大量に存在するし、分解力も、酵素自身の耐久度も非常に強い酵素なのです」なんて書いていましたが、その理由としては、RNAってのは遺伝子DNAから情報を写されて、それを今度はタンパク質=酵素本体を作る反応にまでもっていく仲介的な役割を持っているものであり、遺伝子のON/OFFの制御はRNAの合成/分解を通じて調節されることが非常に多くあるから、ってのがその理由の一端ですね。

RNAの合成はDNAからガンガン行われ(=遺伝子の転写)、時には(その遺伝子から作られる酵素が不要になったときなど)分解もガンガン行う必要があるので、RNA分解酵素というのは常時非常に沢山細胞内で作られており、また強力に作用する酵素になっているんだといえましょう。


…というわけで、RNA実験をしたい我々にとっては、この酵素は試験管内のRNAをすぐに分解して壊してしまう天敵なのです、という話でした。

(マジで実験の邪魔をするRNaseとかこの世から絶滅してほしいですが(笑)、この世から絶滅したら我々生物がまともな生命活動を全く維持できなくなるレベルに重要な分子でもあるので、やっぱり絶滅してほしくないかもしれません(笑)。)

 

…と、今回は…というか今回も、あまりにもサワリ程度の大したことない話のみ(というか、専門外の方にはよぉ分からん話の極み……もうちょっと、どんな酵素があるのかとかも、名前の紹介的に見てみたかったのですが…)になってしまいましたが、時間切れにつき今回はこの辺とさせていただきましょう。

 

アイキャッチ画像も全く何も候補がなかったので、無理やり、代表的なRNaseの1つであるRNase H(こいつは上述の通り「DNA/RNA二本鎖のRNA部分を分解する」やつでしたが、RNAからDNAを合成する、いわゆる「逆転写反応」という実験で、DNAを合成し終えて不要になったRNAを分解するために、めちゃくちゃよく使われています)の、リボンモデル(アミノ酸のつながりでできたタンパク質である酵素を、模式的にリボンのつながりで表したもの……久々の登場ですが、こんなの見ても正直何も分かんないんですけどね(笑))をお借りさせていただきました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/リボヌクレアーゼHより

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村