糖と脂肪、相性バッチリ…!

…という割と面白そうなタイトルをつけてみましたが、食事や栄養学に関する身近でためになる感じの話ではなく、例によってクッソつまらなくてどうでもいいにも程がある、分子レベルのしょうもない話のみなので、タイトル詐欺、どうも恐縮です。

前回前々回と、糖に糖以外のものがつながったものを見てきましたが、今回は、こちらも以前、有機化学入門編一連のシリーズで何回か細かく見ていた重要物質、脂質

これまで、タンパク質DNA脂質と代表的な生体分子を見てきましたが、ついに、グループ同士がつながりあうフェーズにまで突入してきました。

タンパク質とDNAはハッキリとした明確で分かりやすい定義(20種類のアミノ酸がつながったもの・4種類のヌクレオチドがつながったもの)がある一方、糖はそれよりややカッチリした定義はなく広いグループで、脂質はそれ以上に漠然とした「何となく油っぽい、炭素+水素がズラズラつながってるやつら」ぐらいのもんですが、ややこしいことにそんなやつらがつながることで1つの分子として働いているものが存在するということですね。

まぁ実はこれら代表的な生体分子の内、タンパク質と脂質が一緒に存在して共同で機能しているやつは既に以前出てきており、何かというとコレステロールの話で触れていたリポタンパク質なんてのがあったわけですが、これは、タンパク質と脂質が同じ場所に寄り添うように集まって存在はしているものの、いつも画像で見ているような炭素と他の元素が手をつなぎあう形のしっかりした結合ではなく、もっと別の、手をつなぐ形に比べてかなり弱い力で分子同士がただ寄り添っているだけなので、これは、実は1つの分子ではなかったのです。
(だから、あの記事では「油入りボール」とかいうだけで、CとかHとかの原子レベルの構造の図はなかったわけですね。)


一方、今回登場する糖と脂質の共同体は、原子同士が手をつなぎあった、かっちり強く結び付いたものなので、これは1つの分子として存在するやつだということになります。

まぁその辺もかなり細かいのでどうでもいいのですが……というか、今回触れる物質自体がかなり入門からは逸脱した話(高校化学では触れず、大学の代謝学でようやく出てくるような話です)なので、マジで覚える必要も理解する必要もない、流し読みでOKの話といえましょう。

では、つまんない分子レベルの話へ…。

コレステロールの続きの記事で、リン脂質という「水になじみやすい頭と、水となじまない=油とよくなじむ足が2本」のクラゲみたいな形のやつを話に出していましたが、脂質の中でも、何か別のものが結合した形のもの(複合脂質)というのは、そのリン脂質と、今回登場の糖脂質の二種類に大別されます。

まぁいうまでもなく、リン脂質にはリン酸が、糖脂質には糖がつながっているわけですけど、そもそも脂質というもの自体も、脂肪酸グリセリンがつながったものでした。

具体的には、脂肪酸は割と長めの炭素の鎖の端っこにCOOHがあるやつ、一方グリセリンはOHが3つあるアルコールの一種で、このCOOHとOHがエステル結合でつながる、なんて話でしたが(詳しく覚える必要もない話ですけど)、実は、高校化学では触れないものの、脂質を作るアルコール(脂肪酸の鎖をつなぐ、土台みたいなものですね)として、生体内ではもう一つ別の分子も存在します。

それが、スフィンゴシン

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https://ja.wikipedia.org/wiki/スフィンゴシンより

全く聞いたことも見たこともない名前だと思いますが、正式名「2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール」とあるように、炭素18個がつながった、これ自体も結構長い炭素の鎖なのでこれ自体が最早脂肪酸っぽいわけですが、末端にCOOHはなく、代わりにOHが2つと、さらに二重結合が1つとアミノ基までもっているという、結構欲張りセットな分子ですね。

こんなよく分からん分子が、誰でも知ってるグリセリンとタメを張る感じで、生体内で脂質を形成する二大分子として存在するってんだから意外なもんです。

つまり、ややこしいにも程がありますが、何かがつながった複合脂質には大きく分けてリン脂質糖脂質があり、しかも、その脂質自身もグリセリンが土台かスフィンゴシンが土台かで「グリセロ脂質」「スフィンゴ脂質」の2種類があるということになるわけです。

要は、全部まとめると、「グリセロリン脂質」「グリセロ糖脂質」「スフィンゴリン脂質」「スフィンゴ糖脂質」の4種類が存在する、って形なわけですね。

この内リン脂質は、まずグリセロリン脂質は例の頭と二本足のクラゲっぽいやつ=細胞膜やその他あらゆる膜成分で大活躍している重要分子という感じで、既に見ていました。

一方スフィンゴリン脂質ですが、こちらは、特に神経細胞で、神経特有の膜(というか鞘)「ミエリン」という構造を形作るスフィンゴミエリンとして機能していることが最もよく知られている例ですね。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/スフィンゴミエリンより

…が、まぁ、「神経で重要」という話以上のことは神経を専攻する学生でもない限り学ばないですし、どうでもいいでしょう。


一方今回メインネタの糖脂質ですが、とりあえず構造はこんな具合ですね。

(左から、糖脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質の3つの構造が並んでいます。)

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https://ja.wikipedia.org/wiki/糖脂質より

グリセロ糖脂質の方は、特に特記事項もありません。

ちょうど上図真ん中にあるように、グリセリンの3つの炭素とOHの内、2つに脂肪酸(RとR'で表記)がつながり、残る1つに糖がグリコシド結合でつながっているという、まぁそらそうだわなという構造です。

機能としては、特に細菌類では脂質のほとんどがこの糖脂質の形を取っていることなんかが知られていますが、「ほーん、で?」ってレベルで、ぶっちゃけあんまりどうでもいいです。

一方スフィンゴ糖脂質は、先ほど貼ったスフィンゴリン脂質(スフィンゴミエリン)の図の方がより詳しく構造が載っていましたが、まず、脂肪酸エステル結合(COOHとOH)でつながっていたグリセリンとは違い、こちらスフィンゴシンはなんとアミノ基NH2を介して脂肪酸がつながる感じ(名前なんてマジでどうでもいいですけど、COOHとNH2の結合は、アミド結合と呼ばれるものでした)になります。

そして、この「脂肪酸の鎖(先ほどのスフィンゴミエリンの図でいうところの、青い部分、今貼ったスフィンゴ糖脂質の図でいうと「N-H(=O)-R」の部分)がつながったスフィンゴシン」を、セラミドと呼び、スフィンゴシンのOHにリン酸がつくか糖がつくかでリン脂質か糖脂質かが分かれる、ということですね。
(なお、スフィンゴシンのもう1つあるOHは、OHのまま手付かずのことが多いようです。OHが全部何かとの結合に使われるグリセリンとは違いますね。)

そして、スフィンゴ糖脂質は特に、「セラミドに単糖がくっついたもの」ということで、セレブロシドとも呼ばれることがあります。

このセラミドセレブロシドも、これまた美容液とかで「セラミド配合!」「セレブロシド含有化粧水」とか謳われている印象が強いですが、何てことはない、これは、構造を見れば分かるように、単に糖と脂肪を塗りたくってるようなもんなんですね。

これも、こないだヒアルロン酸同様、完璧なる名前の勝利としか思えない感じですが、セラミドとか何かセラミック感あって高級感重厚感にあふれてますし(まぁ、セラミック自体も、日本語でいう陶磁器なので、これもまた英語の音の勝利な気もしますが)セレブロシドにいたっては、あまりにもセレブ感あふれるワードですから(実際は、脳神経系切片に特にみられたことから名付けられた、糖の古称セレブロースに由来する語で、これは大脳を意味するcerebro-から来ているものであり、セレブリティーCelebrityとはそもそもスペルすら違う、一切関係ない言葉なのでした)、化粧品の売り文句として最強なのは間違いないでしょう。

僕が仮に化粧品系マーケティング部門で働いていても、必ずそうします。

もちろん、「糖と脂肪を塗りたくってるようなもん」といっても、実際に生体内で重要な役割を果たしているのは事実(セラミドもスフィンゴ糖脂質も、細胞膜の成分の1つで、特に角質層の主成分として、お肌の水分保持に機能していることが知られています)ですし、間違いなく美容液としてプラスなので文句つけられるいわれはありませんが、例によって明らかに名前で得しているし、これがもし例えばアブラヌルヌルンゴシンみたいな、何つーかクロちゃんがふざけていってそうなしょうもない名前だったら、この成分が前面に出されることもなかったんだろうな…と考えると感慨深いものがあります。

なお、美容分野では皮膚の膜成分としてのセラミドに着目されていますが、生化学分野では、こちらもスフィンゴミエリン同様、スフィンゴ糖脂質も脳神経に広く分布していることが知られている物質ですね。

(糖としてガラクトースがつながったガラクセレブロシドが特に脳神経に、一方グルコースがつながったグルコセレブロシドはその他の器官で見られるという分布になっているようです。)


その他、スフィンゴ糖脂質は、何気に血液型の話でも顔を出していた、なんて小話もあります。

こないだの単糖の記事で、血液型の抗原にはガラクトースやフコースがつながっているのです、などと書いていましたが、実は、これはスフィンゴシンを介して、赤血球の膜からつながっているのでした。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ABO式血液型より

このABO式血液型のWikipedia記事から画像をいただくのも3回目で、この記事のトップ画像を全部使わせてもらってる感じですが、まさに、スフィンゴシンからつながっていることがお分かりになるかと思います。
(…って、画像では大分簡略化されていますが、血液型の糖抗原はスフィンゴ糖脂質として知られています。
 こっち↓の、UC Davisのオンライン教材の方がより正確ですね。)

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https://phys.libretexts.org/Courses/University_of_California_Davis/UCD%3A_Biophysics_241_-_Membrane_Biology/01%3A_Lipids/1.02%3A_Lipid_Headgroup_Typesより

そういえばこないだの単糖の記事ではまだ名前を出していなかったので触れませんでしたが、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)とN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)の両アミン糖も、この血液型で出てくる糖でしたね。
(ちなみに、UC Davisの画像、GlcNAcとGalNAc間違えてますやん、って気もしますが…。
 正しくは、O型ももつO抗原に含まれる糖(=全血液型の共通部分の糖)は、GalNAcではなくGlcNAcですね。ややこしすぎるので、いくつか見たオンライン教材でも、むしろミスしてない方が珍しいぐらいに、ミスが頻発している図でした。)

 

なお、スフィンゴシン自体はアミノ酸であるセリンから作られる分子なので、脳や神経が上手く機能するため、さらにはお肌をキレイに保つためなんかに必要な物質を作るため、しっかりタンパク質を食べてアミノ酸を摂取する必要があるし、いうまでもなく、現代人の敵とみなされている糖と脂肪も、こうして分子レベルでは非常に重要な役割をもって働いているのです、というお話でした。


「糖と○○」ネタ、一気に終わらせるつもりでしたが、脂肪だけで十分な量になってしまいました。

次回ももう少しだけ続けましょう。

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