β酸化とは

前回の記事では、「散々見てきた炭水化物=糖=グルコースを起点とした呼吸よりも、脂質を使ったエネルギー合成の方が実は凄まじいエネルギー効率を誇るのです」…などという話をしていました。

 

その話の中で、糖よりもよっぽど効率が良いのに、「我々はなぜエネルギー獲得のために基本的に糖を用いるのか?」という問を投げ、

「効率が良いからこそ『いざ』という時のための蓄えにうってつけ」

「糖の方が即効性がある」

「全身への運搬も用意」

…などという形で自問自答をしていましたが、やはり飽食の時代にあって、脂肪が身によくつくのが悩みの種となりがちなのが現代人ですから、その辺について話を広げるべく、せっかくなので脂質代謝についてももうちょい深入りして見てみようと思った次第です。

 

この辺はまぁ、身近な運動の話にも広がるので面白そうな点なわけですが、まずは例によって、クッソつまんない「分子レベルの反応」の方から話を進めてみますと、脂肪酸代謝というのは、糖代謝が「解糖系」であったのに対し、こちらは「β酸化(ベータ酸化)」と呼ばれる反応が行われる感じになっています。

 

ja.wikipedia.org

 

糖の基本単位が「グルコース」であったのと違い、脂肪酸には、もちろん前回話に出ていたパルミチン酸とか代表的なものはあれど、「これが基本単位」というものがなく、まぁそれが理由というわけではないものの、上記日本語版ウィ記事には一枚にまとまった概略図がなかったので、一枚絵はやむなく同記事の英語版からお借りさせていただきましょう。

https://en.wikipedia.org/wiki/Beta_oxidationより

これがβ酸化の基本的な流れで、脂肪酸ってのは炭素が17とか21とか、結構な数ズラーっとつながったものであるというのは、中学理科…ではそこ(=炭素がつながったものということ)までは触れなかった気がするものの、まぁ高校有機化学で習う話で、以前のブログ記事でも色々触れていた感じでした。

 

con-cats.hatenablog.com

 

で、↑の概略図では、長々と炭素原子「C」を並べるのも邪魔くさいだけなので、分子左側の長い炭素鎖はまとめて「R」と表記されているわけですが(炭素の鎖を「R」と表すのは、こないだもケトン記事で見ていました)、その隣=右端から3番目の炭素がCβ、2番目の炭素がCα、そして端っこにはCOOH…ではなく、あぁ、この画像ではCoAがつながっている感じですね。

 

話が前後してややこしいですが、解糖系でもエネルギーを取り出すための準備として「グルコースをリン酸化する」といった反応が最初に行われていたのを覚えてらっしゃる方もいるかもしれませんけれども、脂肪酸も全く同様に、エネルギーを産み出す反応を起こすためには、「貯蔵型」から「活性型」……いわば「今から代謝してエネルギーを取り出します型」に変換する必要があります。

 

それについては、日本語版の記事でも簡単に説明されていたので、そちらの画像をお借りしましょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/Β酸化より

脂肪酸ってのは「~酸」であることから明らかなように、有機化合物の酸といえばこちら、「-COOH」のカルボキシ基が末端についた分子なわけですけど(ちなみに、COOHは電離してCOOとHに分かれるわけですが(水素イオンを出すからこそ、「酸」という話でした)、画像では電離後のCOOの形で描かれています=左の赤字分子)、これがズバリ、ATPの力を借りて、CoAこと補酵素Aが末端にくっつくつことで(二段階の反応が起こり、COOどころか、C=O(C・二重結合・O)に直接つながる形ですね)、活性型の脂肪酸に生まれ変わる形になっています。

 

この活性型脂肪酸は画像にもある通り「脂肪酸アシルCoA」などと呼ばれますが、まぁ~これはもうあまりにも細かい話ですし、少なくとも名前や細かい反応機構については割とどうでもいいでしょう。

 

いずれにせよ、脂肪酸というのは(色々なものがありますが、どれも全て)「炭素が沢山つながって、末端にCOOH」という分子なわけですけど、この、末端の炭素(↑の画像ではCOOHではなく補酵素A(CoA)がつながっていますが)の一つ横の炭素を「α」、その横を「β」、その横を「γ」……などと呼ぶわけですが、結局「β酸化」ってのは、このβ位の炭素が酸化されていくことからつけられた名前になっている感じですね。

 

(ちなみに、炭素鎖がズラーっとつながった長い脂肪酸において、COOHと逆側の端っこから名付けた場合は、「オメガ〇番」という呼ばれ方をします。

 ズバリ、先ほど貼った昔の記事の少し後ぐらいに、どこかで聞いたことがあるのではないかと思われる、油の「オメガスリー」なんて話も見たことがありました(↓))

 

con-cats.hatenablog.com

 

話をβ酸化に戻すと、こないだから割と何度も、「酸化」ってのは「酸素がくっつく」という小学生レベルの解釈の他にも、「水素を失う」「電子を失う」のも同じく酸化と呼ばれる現象です……なんて書いてましたけど、有機化合物の場合、


・「水素を失う=炭素の腕につながっている水素がいなくなって、腕がフリーになる」

⇒「水素はH2なので、隣り合った炭素からHが2ついなくなった結果、その炭素同士が手をつないで二重結合が産まれる」


…という感じで、酸化されたら二重結合が生じることが多いのです、なんてことにも触れたことがあった感じですね。

 

先ほどの英語版β酸化の概略図を見直してみますと、Oxidation(酸化)としてαβ炭素の間に二重結合が産まれ……


…その後、Hydration(水和)として、水分子が付加されることでβ炭素にはOHがくっつき(水素原子は省略されるので、α炭素にはHがくっついた感じですね)…


…そしてさらなる酸化ステップで、β炭素はまた水素を失い、今度はCO間に二重結合が産まれて……


…最後、Thiolysis(チオール開裂)と呼ばれる反応で、β炭素にもCoAがくっつく

 

……と、そんな流れがβ酸化なのでした。

 

まぁこれも、あえて見てみたものの、あまりにも細かすぎる点ですし、割とかなりどうでもいい話だと思いますが、面白いことに、α炭素の方は「CH3CO-CoA」という形になっていますから、これはズバリ、以前見たことがあった「アセチルCoA」そのものであり、更に、β炭素の方はよく見ると炭素が一つ減った結果、元々β位にいた炭素が今度は「炭素が1つ減って、自分がα炭素になった脂肪酸」になっていますから、同じようにまたβ酸化が起きてアセチルCoAが発生する(画像でも、矢印でそのサイクル構造が明記されています)…

…と、そんな流れにもなっているのは、まぁ把握出来たら「なるほど」と思える面白い点かもしれませんね。

 

いずれにせよ、ポイントとしては、「β酸化によりアセチルCoAが産まれる」の一言に尽きまして、アセチルCoAってのは、ミトコンドリアに入ってクエン酸回路をまわすことができる分子(「活性酢酸」とも呼ばれているという話でした)であり……

…何てこたぁない、実は「脂肪代謝でATPを大量に作れる」というのは、「元分子1つあたりアセチルCoAを大量に作って、クエン酸回路~電子伝達系をガンガンまわせるから」という、それだけ=実はATPを実際に合成する反応そのものは、糖を基準にしたものと全く同じなのでした。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/細胞呼吸より

改めてこの一枚絵をお借りすると、まさに、前半の「解糖系」が「β酸化」になるだけで、後半やってることは全く同じであり、結局「脂肪から始めれば、材料をいっぱい作れるのです」ってそれだけの話だったんですね。

 

ちなみに、不飽和脂肪酸(分子内・炭素の間の結合に二重結合を含む脂肪酸)の例として、日本語版記事には「リノール酸」の酸化経路の一枚絵がありました。

 

こちらをお借りしてみますと…

https://ja.wikipedia.org/wiki/Β酸化より

…まさにこんな感じで、β酸化が何段階か起こることで、リノール酸からは3+1+5=合計9アセチルCoAが作られるということで、一方解糖系の場合、1分子のグルコースからは、ピルビン酸から変換される形でアセチルCoAは2分子しかできませんでしたから、これで実に4.5倍も、例の超効率の電子伝達系・酸化的リン酸化を走らせることができるということで、結果として前回も見ていたあのATP合成数の差が生まれていると、そういう話だったのでした。

 

なお、途中見ていた通り、「脂肪酸の活性化にATPを使う」という話だったので、同じく最初期にATPを使うけれど、その後、ステップの下流ではちゃんとATPを産み出せて、トータルでATPを合成できた解糖系と違い、脂質代謝のβ酸化は、実はそれ自体はATP収支がマイナスの反応になっているんですね。

 

したがって、解糖系に比べて気軽に行い辛い(=最終的には大量のエネルギーを産み出せるものの、途中までは逆にエネルギーを消費してしまう)という話にもつながるといえますが、まぁでもそれは、酵素反応の単純さや速さとかもあるので、一概にそれが原因で「糖代謝の方が即効性がある」「エネルギー代謝の基本は糖」ということにつながるわけではないのかもしれません。

 

そんな感じで、おもんない細かい反応の話で結構な分量になってしまったため、より具体的な日常生活に関係しそうな話は、また次回とさせていただこうかと思います。

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