HDLが善玉コレステロール、そしてLDLが悪玉コレステロールなどと毛虫のごとく嫌われていわれるわけですが、実際はHDL・LDLどちらの油入りボールも、生体内では重要な役割をもっている、生きていくうえで欠かせない存在になっています。
例えばコレステロールを体内から完全に消し去って、LDLなどのコレステロール値が0になったら、あなたは即死するでしょう。
結局、生体内には絶対必要で本当に大切な物質なんだけど、生活習慣や食事なんかが良くない状態が続くと、LDLの数値が高くなっていくことが知られているので、こいつが悪者…というか「あなたの体内ヤバいですよ指標」とみなされているということなんですね。
(でも実際、絶対必要な物質ではあるけれど、大量に存在しすぎると血管に悪影響を及ぼすクズになるのも事実ですけどね。)
…と、LDLやHDLの役割の話にいく前に、その油入りボール(自分勝手な用語を使うのはかえって分かりづらいだけかもしれませんが、「リポタンパク質」って言葉がどうにもボール(粒子)をイメージしづらくて良いワードに思えないので、独自表現ですがしばしば油ボールと呼ばせていただいています)について、前回の文字だけの説明ではあまりにも分かりづらかったので、簡単な図だけ、またWikipedia師匠から拝借して紹介させていただくとしましょう。
5種類の油入りボールの内、一番でかいやつであるCM(キロミクロン、カイロミクロンとも呼ばれる)のページに分かりやすい図がありました。
まさに油の詰まったボールですね!
(Tがグリセリンのトリプル脂肪酸エステル、Cがコレステロール(ほとんどが脂肪酸とつながったエステル型)なので、こいつらがまさに「油」です。
ちなみにこれはボールの断面図ですね。)
ボール全体のサイズ、使われてるタンパク質、TとCの割合なんかが変わることで、このCMはLDLやHDLと呼ばれるタイプになるわけですが、基本的にはどれもこんな感じの構造なのです。
…といっても、「ボールの表面、緑色の聞きなれない物質がおるやん」と思われるかもしれませんが、これもいつかもっと大々的に触れようと思って先延ばしにしていた、超重要物質になります。
高校の化学、そして生物でも、まさにこの、頭から足が2本生えているクラゲみたいなやつがよく登場するんですけど、これこそが脂質の最重要ともいえる形態、リン脂質と呼ばれるやつなんですね。
リン脂質という特別な名前で覚えさせられますが、これも何てことはない、結局グリセリンに脂肪酸がつながったおなじみのやつの一種なんですけど、こいつの特徴はグリセリンの3つある-OHの内、2つはいつも通り脂肪酸がつながってる一方、1つを使って、水に溶けやすい(水になじむ)成分である、リン酸がエステル結合でつながっているものになるのです。
結局文字だと分かりづらいだけなので、改めて、図を見れば一発でしょう。
まぁコリンというものもつながってますがまぁそれはどうでもいいので、そこを含め水になじむ「リン酸部分」とみなしてもらいたいんですけど、結局、簡単なお絵描き図でよく出てくる頭+足2本の、頭がこのリン酸部分で、足が各種脂肪酸2本ってことなんですね。
こいつは死ぬほど有能な物質です。
ズラーッと並んで、水になじみのあるリン酸部分を表に出し、一方、水と反発する油成分を隠すことで、「水になじんで存在できるけど、完全に溶けてしまうことはない」物体として存在できるわけです。
例えばこれがボール状に集まれば、中身は油にとって居心地のいい油空間になりますし(まさに先ほどのキロミクロン)、他にも、まず1列にズラーッと並んだ後、次に、反対向きのやつを同じように並べることで(=足と足をくっつけて)、水中に「仕切り」を形成することが可能になるのです。
…相変わらず文字だと分かりづらい、絵だ絵!
(先ほど緑だった頭がこちらは赤ですが)これはまさに、細胞膜の模式図です。
結局、脂質というのは水に溶けない物質なのですが、その水に溶けないという性質こそが、あり得ないぐらい重要でかつ有能なポイントであり、脂質のおかげで、水で満たされている細胞の中や細胞そのものに、「膜」という構造を作ることができるんですね!
だから、先ほどの「コレステロールが消えたら」という話じゃないですけど、例えばもし体から脂肪が完全に消えて体脂肪0%になったら、人間は即死…というか、細胞が膜という仕切りを維持できず全身の細胞が融合してワケ分からん状態になるといいますか、とにかく最早形を保てず人ではない何かになってしまうことでしょう。
かように、脂肪というのは現代人に嫌われるものでありながら、実はエネルギーの貯蔵という役割のみならず、分子レベルでめっちゃ重要なものでもあるわけです。
話が逸れましたが、ちょうど、コレステロールの役割の話には近づきました。
コレステロールの役割の1つとして、この、リン脂質がズラ~ッと並ぶ細胞膜に埋まることで、膜に柔軟性を与えてくれることが知られています。
上図は結構しっかりとした知識のある人が作った絵みたいで、コレステロールは実際の構造どおりリング4つの形で黄色く描かれていますが、まさにこの図のように、細胞膜にちょいちょい埋め込まれることで、膜がしなやかになるんですね。
これがないと、柔軟性に欠けて細胞によっては正しく機能できないこともあるので、コレステロールは生きる上で絶対必要な重要成分だということです。
特に重要なのは、脳や神経の細胞です。
あえて説明するまでもなく、脳や神経の形成に重要という時点で、それ以上ないぐらい、尋常じゃなく重要な成分であるというイメージをもっていただけることでしょう。
そんなわけで、ようやく本題ですが、そのコレステロールやその他の脂質を包み込んでいるHDLやLDLという油ボールは、一体どういう役割をしているのか?
まぁ既に以前書いていた通り、これらは脂質を血液に乗せて運ぶために形成されているわけですけど、具体的にはこういう違いがあります。
・LDLは、生体内でのあらゆる代謝の中心拠点、最重要臓器ともいえる肝臓で合成されたコレステロールや脂質を、肝臓から必要な組織へと運搬する運び屋。
・HDLは、逆に、各組織で余ったり不要になったりしたコレステロールや脂質を回収し、肝臓に戻して、肝臓の力で体外へ排出したり、LDLに再度渡して必要な組織へと運んだりしてもらう、いわば回収屋。
まぁ文章だと分かりづらいので、一言で表すと…
・LDL:脂質入りボールを、肝臓→色々な組織へ運ぶ
・HDL:脂質入りボールを、色々な組織→肝臓へ戻す
…という逆向きの役割をもっているということで、う~ん、実に分かりやすい!
これで、LDLの数値が高いとヤバイといわれる理由の一端が垣間見れるようになるかと思います。
つまり、体内にコレステロールや脂質が過剰にありすぎると、各組織は「もう十分、お腹いっぱいです」となって、当然、あぶれたアブラはHDLが回収して肝臓に戻すことになるわけですけど、体外へ排出するのは結構大変な作業なので、時間がかかるのです(具体的には、胆汁酸として排出されますが、まぁ別に詳しくはどうでもいいでしょう)。
結果、HDLは、あぶれた脂質を肝臓に渡し続ける傍ら、処理しきれない分をLDLに「スマン、行き場がないかもしれんけど、とりあえず持っといて」と渡すことになるのです。
LDLは、肝臓で脂質を受け取って血管内へと旅立ちますが、どの組織にいっても「もう要らんて!」と怒られ、結果、行くあてもなく、血管内をウロウロするばかり…。
そうしている間にも、HDLは肝臓にお荷物を持ってやってきますから、やむなくお荷物お届け隊であるLDLはガンガン合成され続けてしまうんですね。
(とりあえず誰かが持ってなきゃいけないので、より大きいLDLが優先して使われるのでしょう。というかそもそも肝臓で脂質を受け取るのはLDLの仕事ですしね。)
結果、血管内で行くあてもなく彷徨い続けたLDLは徐々にくたびれてボロボロになり始め、果てはくたばり、荷物であるアブラがゴミとして血管内に溜まってしまう結果、特に、悪い脂肪酸なんてのは固まりやすいクズですから、少~しずつ血管が塞がってしまい、それでも水流(血流)を生み出すべく心臓は頑張ってポンプし続けるものの、これは結果として血圧が上がるということになりますし、最終的に本当に血管が塞がってしまったら、残念ながらお陀仏、南~無~、となるということですね。
そんなわけで、LDLが血中に過剰量沢山ありすぎるというのは、「もう脂質は要らない状況なのに、あぶれた運び屋がウロウロしてる状態」といえますから、これはヤバいよ、という話につながるんですね。
(しかし、くどいですが、LDLは必要な組織にアブラを届ける重要な役割を持っている大切な生体分子だ、ということも忘れないでやってください。)
まぁ、一部ハショっていますが、概ねこんな感じがLDL/HDLの役割だという感じでした。
ちなみに、コレステロール値に関しては、僕は専門家ではないので詳しくは分かりませんが、僕自身の経験をいうと、僕は卵を1日3個食べてますけど(最初の自己紹介記事でも書いたとおり、マジでもう20年近く、ほぼ欠かさず毎日ですね)、卵がコレステロール値を上げるというの一体本当なのか…??
まぁ健康診断に関する話は、いつか別の記事で語ろうと思ってもう下書きで用意していて(中身はまだ何も書いてませんけど)、そこで改めて詳しく触れようと思いますが、とりあえず、僕の総コレステロール値はかなり低く、当然LDL(Non HDLと分類されますが)の数字も問題ないんですけど、全体的なコレステロール値が低すぎて、HDL(全体-Non HDLの値)が、まさかの推奨値の下限にすら届かず、「低すぎます」と少し警告を食らっているレベルになっています(毎年)。
まぁ、コレステロール値が高すぎるよりはいいかな、と思ってますが、とりあえず、卵がコレステロール値を上げるというのは完全にガセであると、単純計算で人生でもう2万個以上(1年で確実に1000個以上を、20年近く)食べた、いわばタマゴ人間の僕が保証したいと思わずにはおれません。
(まぁ、正確には、卵以外全てを同じ条件で生き続けたもう一人の自分がいないと、厳密にはそれはいえないんですけどね。)
次回は脂質のまとめにでもいこうと思っていましたが、既に膜うんぬんの話はし終えたため、まぁ別の話にいってもいいかもしれませんね。