毒もあるよ

炭素とOH以外のいろんなものがつながった糖を見てみようと書いてみた前回の記事でしたが、アミンのみに終始していたので、もう少し広げてみましょう。

当然、何かがつながった糖には様々なものがありますが、身近で面白いものから見ていくとしますか。

まずは、最早糖以外の部分、つながってるそっちの方がメインであり、糖ではなく別のグループにカテゴライズされる物質になってしまいますけど、恐らくどなたでも耳にしたことがあって、性質もご存知のことでしょう、ソラニン

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ソラニンより

3つの糖(最早おなじみグルコースガラクトース、そしてもう1つは初登場の、CH2OHのOがなくなって(=デオキシ)、ちょうどメチル基CH3がくっついている感じになったラムノース(これも、天然には珍しいL体も天然に存在するタイプで、ソラニンにもL体がつながっています))に、複雑なリング骨格がつながったものですが、このリングは、鋭い方ですと覚えていらっしゃるかもしれません、そう、こいつはコレステロールの話で出てきた、「ステロイド」なんですね(ソラニンは、ステロイド骨格の四環に、さらに追加でもっとリングがつながっていますが)。

(また、ラムノースのない二糖のものがβ-ソラニン、さらにグルコースも欠けてガラクトースだけのものがγ-ソラニンと呼ばれるようですが、メジャーな形態は上記α-ソラニンとのことです。)

そして、このソラニンステロイドであると同時に、さらに、アルカロイドとも呼ばれるグループに所属しています。

正直そんな区分はどうでもいいんですが、まぁアルカロイドも何となくどこかで聞いたことがある単語ですしね、ちょっと触れておきますと、アルカロイドというのは何てことはない、めちゃくちゃ単純な定義で、窒素原子Nを含む有機化合物のことなのでした。

ソラニンにも、Nがありますね、右上の方に。)

ただ、そうすると、前回のグルコサミンとか、あとそういえばDNAの塩基にも窒素があったはずだし、アミノ酸なんて「アミノ」って単語があるぐらいだから、全ての分子に窒素が含まれるやんけ!アルカロイドって危ない物質の印象だけど、DNAとかタンパク質・アミノ酸もヤベぇアルカロイドの一種だというのか!!……と思えるかもしれないんですけど、「DNA・タンパク質・アミンなどの生体分子は、窒素を含むけど通常アルカロイドには含まない」という、めちゃくちゃ恣意的な区分になっています。

…と、メジャー所に例外を設けるという大分人為的なカテゴライズとはいえ、それ以外の窒素を含む化合物は概ね有毒、あるいは時には有用な薬理作用を示すものが多いので、例外ありすぎのめちゃくちゃ適当なグループ分けであるにも関わらず、アルカロイドというグループ名は未だに用いられているという感じですね。

ソラニンから大分話が逸れちゃってますが、とりあえずアルカロイドの話を続けてみると、最も有名にして、歴史上初めて単一の分子として生体から分離・抽出されたアルカロイドといえば、そう、ケシの花由来の、モルヒネです!

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https://ja.wikipedia.org/wiki/モルヒネより

モルヒネ自体は20種類のアミノ酸の1種チロシンベンゼン環を含む、芳香族アミノ酸ですね)を大元にして生合成されることでも知られていますが、完成までには極めて複雑な反応経路が必要なので、ケシさんぐらいにしか作れない珍しい物質ですね。

モルヒネという名前(英語ではmorphineで、モーフィンと発音されますが、確実に「モルヒネ」の方がカッコ良く、いい名前ですね)は、この物質が「夢のように痛みを取り除いてくれる」という優れた作用をもつことから、ギリシャ神話におわします夢(眠り)の神モルペウス(Morpheus)にあやかって付けられたものであることもあまりにも有名でしょう(そうか?)。

その由来通り、モルヒネ超強力な鎮痛作用を有する物質で、バファリンロキソニンなど目じゃない圧倒的な効果の最強薬として、一番有名なのはガンの末期患者の方の痛みを和らげるためなんかに用いられていますが、当然、あまりに強すぎる作用のためこれは一般の人の使用は認められておらず、適切な用法用量で投与しないと依存性が生まれることも知られていますから、これは単純所持すら違法になる、麻薬の一種なんですね。

ちなみに、毒と薬は紙一重というのはまさにで、このモルヒネもある意味毒であり、ヒトのLD50(半数致死量:投与した動物の半分が急性毒性で死亡する量)はわずか120~500 mg/kgと、体重50 kgの人であればたった6グラムとかそこらを口にしてしまうと、数分から2時間程度で死に至るとのことです。

もちろん医療用途で使う範囲ではメリットしかないわけですが、少し過剰に取り込んでしまうだけで死んでしまうって、結構怖いですね。

…と思ったけれど、よく考えたら、何でも摂りすぎたらヤバいなんてのは当たり前でしたか。

例えば塩のLD50は3000 mg/kgなので、食塩を150グラムとか一気食いしただけで人は死にますから(もっと簡単にできそうなのでいうと、醤油の致死量が2.8~25 mL/kgとのことで、醤油をペットボトル1本飲めば、余裕でアウツですね。戦時中の徴兵逃れかよ!)、別にいうほどモルヒネが特別なわけでも何でもないのかもしれません。


ちなみに以前、サプリメントとして大麻由来の成分が注目されている的な話をしていたこちらの記事でも触れた物質ですが(危なすぎるので、そのときは名前すら出しませんでしたが)、このモルヒネは、アセチル化(CH3CO-をくっつけるやつですね。まさに前回もグルコサミンで出てきましたが、超基本的な有機化学反応の1つです)するだけで、なんと、人類史上最強最悪の化合物、「血液脳関門を突破して脳を乗っ取る」と称される(Wikipediaにあった、ナショナルジオグラフィックの記事より)、ヘロイン爆誕します。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘロインより

これをいうとヤベぇヤツ扱いされるかもしれませんが、もし余命1ヶ月とか宣告されて間もなくこの世を旅立つことが100%確定したら、どんな感じなのか一度ぐらいは試してみたくはありますよね…。

まぁでもやっぱり、違法物質を手にして周りに迷惑かけることとか考えたら、ワンチャンいきなり特効薬ができあがる可能性に賭けて、最後まで希望を捨てず、もがきながらも真っ直ぐ生き続けるかな、っていう気もしますが…。

もしもこいつが合法になっていたら、人生最後のチャレンジとして手を出してみたいですけど、大麻はともかくこの辺のものが合法になることは未来永劫絶対にあり得ないので、それは意味ない仮定の話にすぎませんね。


余計な話が長くなりましたが、ソラニンに戻りましょう。

といっても、これは確か小学校の家庭科とかでも習いますし、どなたもご存知でしょう、ジャガイモの青い芽の部分に含まれる毒ですね。

糖が3つもつながったものだよ」と聞くとメッチャ甘ちゃんな印象ですが、「ステロイドアルカロイドの一種である」と聞くと、確かに、ヤバそうな毒なのも納得だ!と思える感じといえましょうか。

Wikipediaのコピペですが、『神経に作用する毒性を持ち、中毒すると溶血作用を示し、頻脈、頭痛、嘔吐、胃炎、下痢、食欲減退などを起こす』とのことで、案外マジで怖い性質をもってるんですよね。

『成人の中毒量はおよそ 200–400 mg、小児の場合はその約10分の1程度と推定されている』らしいですが、大量に摂取すると中毒を通り越して死に至ることもあるようで、そんな危険な物質がスーパーとかでごろごろ売られていることは、正直、吃驚に値します。

実際これはソラニンに限らずなんですけど、ある程度色々な知識(化合物や化学物質に限らず、菌の培養とか増殖速度とかについても)をもった今だからこそ思うこととして、よく世の中で暮らす全員、毒とか菌とかに冒されず元気に暮らし続けることができるよな…と、感心するを通り越して、「可能か?」と不思議に思える気もたまにするんですよね。

食品とかに限らず、例えば機械とか、それこそもっと簡単なパソコンとか家電製品とか何でもそうですけど、知識がない人どころか、知識がある人が十分注意して使っても、エラーや事故というものは必ず、絶対に一定の割合で起こるというのに、地球上例外なく全ての人が毎日行っている食事とかで、ジャガイモのソラニンに限らず、適度な温度と水分がある環境のせいで致死量の微生物が繁殖してしまうみたいな事故は余裕でありそうなのに、全然みんな元気に生き続けているのは、これスゴすぎん?と思えてやまないんですけど、まぁそれだけ人間は強く、また、特別な知識をもたなくても安全に清潔に暮らしていける世の中になっているといえる感じなのかもしれませんね。

(でもそれは技術の発達した今だからいえることであって、医療も公衆衛生の概念もその他あらゆるものが未発達の太古の世界で生き抜くのって、正直無理ゲーちゃう?……と、別に普段からそんなこと考えてるわけではないですけど、改めて冷静に考えると、マジで結構な謎というか奇跡に思えてしまいます。
 まあ、実際結構な割合で若くして命を落とすパターンなんかは、原始時代どころか江戸時代とかでさえ今よりは断然有意に多かったんでしょうけど、それでも命を絶やすことなく生き延び続けてきたのが、やはり人間の強さってやつなんでしょうか。)

…などとさらに無意味な与太話に逸れましたが、「本当に大丈夫なの?」と思って見てみた我らが厚労省のデータによると…

www.mhlw.go.jp
やはり、ジャガイモ(ソラニン)からは、少なくとも1年に1件以上は中毒事故が起こっているようですが、直近10年の死亡事故は0件のようで、有名な毒ではあるけれど、「命の危険性」みたいなレベルの心配まではしなくても大丈夫なのがソラニンなのかもしれませんね。
(もちろん、確実に毒ではあるので、しっかり取り除いた方がいいとは思いますが、基本的に熱に弱いようなので、ジャガイモを調理さえすればそこまで不安がることはないともいえるようです。)

くどいですが、小学校低中学年の調理実習とかではじめて習って、ジャガイモの芽はくりぬくように教わるわけですが、ぶっちゃけ人によってクッソ適当にも程があるし(「え、それでいいの?芽、残ってますやん!…っていうか、そんな適当なえぐり方で、本当に残った近隣部のイモはソラニン濃度0になってるの?」みたいな)、途中から面倒くさがって小さい部分とかはもう放置するパティーンも多いですし(でも実際、小さい所まで執拗にくりぬかれたジャガイモは、食べる所も小さくなってもったいないし、見た目穴ぼこまみれボコボコで不味そうになるのもそうなんですけどね(笑))、「くりぬいた包丁、洗わずにそのまま使っとるやん!」と思えるシーンもあった気がするしで、「おいおいこれマジで大丈夫け?」と思える気もするものの…
(改めて、自分が食べるものに限らず、世界レベルで、あまねく世の中の家庭全体に対しての心配ですね。世界中の全員が厳密にジャガイモの芽をしっかり完璧に取り除いているとは、到底思えないため)
…まぁソラニンがついた包丁にまで気をつけなきゃいけないレベルなら、多分ジャガイモもフグみたく免許制になってたのかもしれませんし、「実際大丈夫なんだから大丈夫なんだろ」理論で、ソラニンは毒の中でも幸いザコであった、って感じなのかもしれないですね。

逆に、「ソラニンが発生しうる」という大きなデメリットがあるにもかかわらず、人類の胃袋を大きく支える最強の植物にまで成り上がったジャガイモ先生の味・栄養・育ちやすさなんかがキラリと光っている話になっている…ともいえる感じでしょうか。

ちなみに、先ほどの厚労省のデータにあったリンク、過去10年間の有毒植物による食中毒発生状況を見たら、唯一の死亡事故件数2桁突破(まぁ、10人ですけど)は、まさかのイヌサフラン

www.mhlw.go.jp

まぁ、「まさかの」って、何がまさかなのか書いてて自分でもよく分かりませんが、食中毒の発生件数自体でいえばニラと間違われるスイセンが圧倒的ですけど、死亡事故はこの可愛い名前のイヌサフランが最凶のようですね(スイセンは、10年間で死亡事故はわずか1件)。

イヌサフランの毒性成分も当然アルカロイドで(こちらは糖は含まれまていませんが)、コルヒチンという分子とのこと…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/コルヒチンより

野草を食って生活するようなワイルドライフを送りたい方は、この名前だけは爽やかなイヌサフランを、ジャガイモやタマネギと間違えて喰らいつくことがないようご注意ください、という話でした。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/イヌサフランより


何だか余談にまみれて遅々として進みませんが(いつも通りとはいえ)、次回もまた、もうちょい糖ネタを続けていきましょう。

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