さほど見る価値もない、クエン酸回路で顔を出してくる各分子の構造について、せっかくなので順番に追って見てみていたのが前回の記事でした。
時間の都合で途中までしか見れていなかったので、早速続きに参りましょう。
前回は、回路が始まって初の炭素数減少=脱炭酸が行われてできる、α-ケトグルタル酸まで見てた感じですね。
…触れたと思いきや触れ忘れてたんですけど、両端のカルボキシ基 -COOHではない、中にある二重結合で結ばれた「C=O」、これが4つある炭素の内(炭素は折れ線の頂点として省略されるので、この手の構造図に不慣れな場合、大変分かりにくいですが…)2番目に位置しているのが「α」で、その隣、ど真ん中の炭素につながっているものは「β」と呼ばれる感じになるわけですが……
(普通は、IUPAC名がそうなっているように「2」や「3」と数字で表すものの、「ケトグルタル酸」自体が慣用名ですし、特別な接頭辞が使われてる感じですね)
…まぁそれはともかく、せっかくなので1つ簡単に有機化学ネタにも触れておきますと、C=Oの二重結合でつながった部分、こちらは一般的には「カルボニル基」と呼ばれるものの、炭素の隣(残り二本の腕)に何がつながっているかでより詳細なグループ名が存在し、↑の分子のように、両側とも炭素原子がくっついているものは、ズバリ、「ケトン」と総称されるものになっています。
「ケトグルタル酸」の「ケト」も、まさにケトン由来のものですね、当たり前すぎますが(笑)。
「ケトン」って、昨今のローカーボダイエットブームなどで耳にされたこともあるのではないかと思いますけど、要するに炭素と酸素が二重結合でくっついて、両側になお炭素がつながっており、構造が横に広がっていくものなわけですね。
ちなみに、片方の腕が水素だと、一行表記の場合なぜか「-CHO」と表されますが、これはズバリ(↑の画像一番左にある通り)「アルデヒド」であり、アセトアルデヒドやホルムアルデヒドなど、有機化学おなじみのやつらになり……
さらに、水素ではなく「-OH」がつながった場合、さらにおなじみ…というか何気に最近一番よく出てきまくっています、一行表記で「-COOH」となるこの部分自体は「カルボキシ基」と呼ばれ、これを含む有機化合物は「カルボン酸」と呼ばれる感じになっています。
↑画像の「カルボン酸」で、Rの部分が炭素1つの「-CH3」(メチル基)だと、下手したら日常生活でも目にすることがあって一番おなじみの有機化合物かもしれない酢酸(CH3COOH)、まぁあとはもちろん、クエン酸回路に登場するほぼ全てがカルボン酸に該当しますし、Rの部分に炭素がない=水素Hのみの場合もここに入り、「HCOOH」はズバリ、ギ酸(蟻酸)になる形です。
せっかくなので他のカルボニル化合物も見ていくと、カルボン酸の「OH」が、水素で行き止まりではなく、Oの二本腕の片割れがさらに炭素原子であり、構造が続いていく場合…
(あぁ今さらですが、「R」は炭化水素基全般を指す文字で、要は、「炭素や水素がつながります(その先には酸素とか他の元素がつながることもあり)」ってだけの記号ですね。
「R」自体は「residue」のことで、日本語だと「残基」などと表されますが、正直未だに全くしっくりこない表現なので、正式名は気にしなくていいと思います(英語だと普通に使われますが、日本語だと「残」が何でそうなるのかよぉ分からないし、「基」のみの方が簡潔でいい気がします)。)
…と話が逸れましたけど、要は-COOHではなく「-COOR-」として、なおも横につながっていく場合、これはズバリ、エステル結合と呼ばれるものなのでした。
これは、ずーっと前の「楽しい有機化学講座」の、ちょうど脂肪について見ていくあたりで見たことがありましたね(「脂肪」とは、グリセリンと脂肪酸がエステル結合でつながったたものなので)。
そしてもう一つ、C=Oの隣に、CでもHでもOでもなく、窒素Nがつながっていく場合、これも凄まじく重要なやつで、「アミド」と呼ばれるグループになるわけですけど、我らが生物そのものであるタンパク質を構成するアミノ酸は、全てこの「アミド結合」を分子内に有していることからその名前がついたという感じになってるわけですね。
ここまでは高校化学でも触れますし、あまりにもおなじみなので非常に親しみもあって覚えやすいものになっていますけれども、残りの3つは、まぁ、炭素同士に二重結合が入っていたり、C, H, O, Nという四天王以外の元素(この場合、塩素ですが)がいたり、最後のは単純にカルボン酸同士が脱水縮合でくっついただけのものとか、割とクソどうでもいいやつらなので、無視していいでしょう(笑)。
話を今回の主役・ケトンに戻すと、上述の通りケトンはC=Oの両側になおも炭素原子がつながって広がっていく分子になるわけですが、この「RCOR」自体を「ケト基」(「ケトン基」も使われますが、ケト基の方がメジャーな気もします)と呼ぶこともあるものの、どうやら↑のカルボニル基のウィ記事によると、「これをケト基と呼ぶのは推奨しない」そうで、じゃあどう考えればいいのかまでは書かれていなかったものの、まぁ普通にアルデヒド基でもカルボキシ基でもない、一般的なカルボニル基と考えればいいのかな、って気がします。
(とはいえやっぱり、非推奨なだけで、普通に「ケト基」って呼ばれることが多い気もしますけどね。
改めて、名前なんて通じればいいので、あまり細かいルールは気にしないのが一番かと思います。)
ケトンの場合、Rに炭素なしの水素が来てしまうとその時点で「アルデヒド」とみなされてしまうため、最も簡単なケトンは両側に「-CH3」(メチル基)がつながったものになるわけですけれども、これはズバリ、恐らく女性ならどなたもお世話になったことがあるであろう代表的な有機溶媒、アセトンになるんですねぇ~。
珍しく別名がウィ記事右枠に書かれていませんでしたが、別名はズバリ、メチル基が2つのケトンということで「ジメチルケトン」とも呼ばれるものですけど、命名ルールに基づいたIUPAC名だと、炭素3つの化合物「プロパン」の真ん中2番目の炭素に「ケトン基」がつながったということで(「ケトン基とみなす」ことは非推奨とのことでしたが、語尾の「-one」は普通に使われるものです)、「プロパン-2-オン」とかいう何とも締まりのない情けない名前なわけですけれども、こんな呼び方をする人は絶対に存在しませんね(笑)。
どう考えてもこれは「アセトン」で、先ほど「女性におなじみ…」などと書いていた通り、これは日常社会だと、マニキュアの除光液の主成分として使われているものだといえましょう。
まぁ僕はネイルはしませんけど、逆に実験では使うことがたまにあるのでニオイは知っている形なのですが、あのいかにも有機溶媒……ってほどではなく、そこまで悪いニオイとも思えませんけれども、独特であることは間違いないでしょう、あのちょっとツンとした、甘酸っぱい感じのニオイが、アセトン、ひいてはケトンのニオイなのでした。
アセトンはものすごく揮発性が高く、引火の危険もあるのであえてマジックを消すためだけに使ったりはしないものの、マニキュアを洗い流すことができることからも明らかな通り、ネイルや油性ペンといった有機物由来のデコレーションを面白いほどよく溶かし去ることのできるもので、キャップのフタにマッキーで書いた文字とかも、消しゴムのように消せる感じです。
他にはやっぱり、ダイエットブームで、「ケトン体に注目!」みたいな感じで語られることもありますけど、まぁそれはズバリ、先ほど脂肪にはエステル結合があると書いた通り、脂肪分子にはこの「C=O」カルボニル基が必ず存在しており、体内の代謝過程でこれがエステルからケトンに変換されるため、
「ケトン体をエネルギー源として利用することで、脂肪を使う代謝ルートが活発になり、効率の良い脂肪燃焼につながります!」
…みたいな感じで「糖よりケトン体を摂取しましょう」と言われることが多いんだと思いますが、僕自身はそないダイエットが必要ではないのであまり興味もなく、実際自分でやったこともないためあまり適当なことは言えないものの、体内にケトン体が増えすぎるとそれはそれで良くないことが起こるのも間違いないため…
(ケトアシドーシスなどと総称される、血中のpHが極端に下がって危ない状況ですね。参考↓
…特に糖尿病患者さんでよく見られる症状で、実際に大変危険なものになっています。)
…まぁあんまり何か特定のものを制限する/過剰摂取するのは、個人的には良くないんじゃないかな、って気がするかもしれません。
(…って、365日同じものを食べ続けてる輩に言われたくない話すぎるかもしれないですが(笑))
といった所で、クエン酸回路の脇役を見進めるつもりが、今回はケトンの話で埋まりました。
続きは次回に持ち越しとさせていただきましょう。