脂肪を燃やすと……

もう大分長いこと触れてきた呼吸についての話も(振り返ってみたら、ちょうど1ヶ月もグダグダと書いていたようです)、一通り反応経路の最初から最後まで見終えていた形ですね。

 

具体的には、エネルギーを得る基本はやはりブドウ糖つまりグルコースから始まっており、これを解糖系ピルビン酸にまで分解し、ピルビン酸が細胞の中にある小部屋・ミトコンドリアアセチルCoAへと姿を変えながら移動することで、オキサロ酢酸とくっついてクエン酸となり、以下グルグルと少しずつクエン酸が分解されていくというクエン酸回路がまわり、そこで発生した補酵素・ビタミンの一種であるNADHなんかの力を使って、電子伝達系が走ることでミトコンドリアの膜を境に水素イオンの勾配が産まれる結果、ATP合成酵素が凄まじい効率でATPを作り出す…という流れだったわけですけれども、大まかな流れは何度もお借りしている以下のイラストにまとめられており、それをずっと一つずつ眺めていた感じでした。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/細胞呼吸より

当初そこまで細かく見ていくつもりは皆無だったのですが、何気に1つずつ見ていくことで記事の水増しが可能であることに気付いて簡単に触れ続けてきた結果1ヶ月かかったわけですけれども、それはともかく、改めて、呼吸というのは生きるためのエネルギーを作るためのもので、そのエネルギーというのは、あらゆる生物が共通して細胞の中で自由に使える分子として、ATPという分子の形で存在していると、そんな話が、先ほど長々と書いた呼吸の流れよりももっと重要な話としてまず触れておく点だったかもしれません。

 

いずれにせよ、イラストにもある通り、1分子のグルコース(C6H12O)から始めて…

  • 解糖系では2分子のATP
    (実際は4 ATPが作られるものの、前半のグルコースのリン酸化とグリセルアルデヒド 3-リン酸への分解で、貴重なATPを2分子使っているため、差し引き2 ATPゲットでした)
  • クエン酸回路でも2分子のATP
  • そして超効率を誇る電子伝達系では、34分子ものATP

…が合成されるため、途中経過は気にせず、トータル収支的な、呼吸全体の化学反応式を表すと、以下のようになる感じですね。

 

C6H12O+ 6O2+ 38ADP +38Pi → 6CO+ 6H2O + 38ATP

 

ADPはリン酸基が2個つながったもので、こいつの端っこに更にリン酸基(Pi)がくっつくことで、リン酸基が3個つながったATP(3=「トリ」なのでATP)になるわけですけど、まぁこの式は上記「細胞呼吸」のウィ記事に記述されているものそのまんまのものを流用しただけだったのですが…

(化学式を含むものはウィキペディアではしばしば画像になっているので、テキストへの文字起こしだけした感じですが)

…記事中にもある通り、またこないだ電子伝達系について見たときにチラッと書いていた通り、38 ATP…というか電子伝達系で1分子のグルコースから34分子のATPが合成されるというのは、最近の学説だとあまり支持されていない数字にはなっているんですけど…

(30とか、もう少し小さいぐらいが、現実的に近い値の模様)

…まぁ、「細けぇこたぁいいんだよ」の精神で、今でも34 ATPと表記している教材もあると思いますから(しっかりした教材であれば、まさにウィキペディアのように、ちゃんと「古典的解釈では」などと明記することも多いですけどね)、38でいきましょう。

 

これに関して、「合計で38 ATPも作れる…圧倒的な効率ですね。この数字を得るために、酸素の力を使った酸化的リン酸化・電子伝達が必要なのです」などと書いていました。

 

どういう順番で話を進めようか迷いましたが、まぁ具体的な数字が一番インパクトがあるので、それについて触れられるポイントからいきますと、ズバリ、同じウィ記事には、こんな表(↓)が用意されていまして……


(以下の表は、細胞呼吸のウィキペディア記事より。ただでさえ狭苦しい幅を引用符でより小さくしたくなかったので、引用符は省略させていただきました)

反応 シャトル 細胞質基質内

(解糖系)

ミトコンドリア基質内

クエン酸回路・β酸化)

膜間腔内へ放出

されたプロトン

1分子、モノマー当たりの理論上のATP合成最大量
古典的解釈[5] H+/ATP比 = 4[6] H+/ATP比 = 13/3[8]
C6H12O+ 6O→ 6CO+ 6H2O Glu/Asp 2 NADH + 2 ATP 8 NADH + 2 FADH2 + 2 GTP 112 (10×10+2×6) 38 (10×3+2×2+4) 31 ( (112–4))/4+4) 28.92 ( (112–4)/(13/3)+4)
αGP 104 (8×10+4×6) 36 (8×3+4×2+4) 29.5 ((104–2)/4+4) 27.54 ((104–2)/(13/3)+4)
(C6H10O5 )n + 6O2 → (C6H10O5 )n-1 +6CO+ 5H2O Glu/Asp 2 NADH + 3 ATP 8 NADH + 2 FADH2 + 2 GTP 112 (10×10+2×6) 39 (10×3+2×2+5) 32 ( (112–4)/4+5) 29.92 ( (112–4)/(13/3)+5)
αGP 104 (8×10+4×6) 37 (8×3+4×2+5) 30.5 ((104–2)/4+5) 28.54 ((104–2)/(13/3)+5)
C15H31COOH + 23O→ 16CO+ 16H2O    – ATP (2 ATP 相当,

ATP → AMP + PPi)

31 NADH + 15 FADH2 + 8 GTP

(7 NADH + 7 FADH2 + 8 AcCoA)

400 (31×10+15×6) 129 (31×3+5×2+6) 104 ((400–8)/4+6) 96.46 ((400–8)/(13/3)+6)

 

…こちら、一番上が、これまで散々見てきたグルコースを分解する呼吸経路で、真ん中の項目はグルコースが沢山つながったグリコーゲンになりますが、まぁグリコーゲンからはグルコースが1つずつ削り出されて使われるだけの形なので大した違いはないものの、表の一番下…!

 

こちら、代表的な脂肪酸であるパルミチン酸(C15H31COOH)になりますけど、こちら1分子を代謝(分解)していくと、なんと……

129分子ものATPが合成されるということで、まさかのまさか、「グルコース1分子からは、38分子ものATPが合成されます!」とかキャッキャしていたのは何だったのか……という、超スーパー高効率!!

 

「どういうことだ、じゃあグルコースなんぞに頼るより、脂肪を使うのが生物にとって最も効率の良いエネルギーの作り方なんじゃないのか?!」という話になるかもしれないんですけど、まぁ実際それはある意味そうだといえる感じですね。

 

そもそも生物というのは、長い歴史の中で、常に「飢餓と戦い続けてきた」というのは間違いなく、その意味で、「エネルギー効率の非常に高いものを、いざという時のために身体の中に蓄えておこう」という意識が働いたとでもいいますか、実際にそういうシステムを使った生物が長い栄養不足の時代を生き抜いてこられたといえると思うんですけど、ズバリ、

「普段使いのエネルギーとしては若干効率の劣る糖を使って、脂肪はなるべく体の中に蓄えるようにしよう。その方が栄養が摂れない日が続いても生き残れるから…」

…という戦略を取ったのが今生きている生物だといえ、結果、飽食の時代を生きる我々は、ついつい食べ過ぎて「いざ」という時のためのブクブクと脂肪を身にまとってしまうと、そういう流れになって今があるといえるように思います。

 

もちろんそういう戦略を取った理由としては、

  • 糖の分解の方が即効性があり、「すぐにエネルギーが必要な時に速やかにATPを作れるから」という理由

    および、

  • グルコースは小さいので、血液中で運搬するのにも便利であった」
    (もちろん、あまりにもグルコース濃度が高くなりすぎる=血糖値が高すぎると色々な問題が発生しますが、脂肪でどろどろの血液よりは圧倒的にマシですね)といった理由

…なんかも「代謝の基本はグルコース」となった要因かと思いますけど、それはそれとして、分子の持つポテンシャル(潜在能力)的なものに関していえば、実は、エネルギー獲得という観点において、脂肪は本当に優秀な物質であると、そういうことが数字の上からも明らかといえるんですね。

 

…ってなわけで、脂肪を燃やすと、1分子あたり、生体内における全てのエネルギー生成の基本ということでデカイ面をしていたグルコースなんぞより遥かに大量の、文字通り桁違い・まさかの129分子ものATPが合成できるということで、代謝の王者はむしろ脂肪といえるのではないか…?なんてことに、呼吸ネタの最後に触れてみようと思った次第でした。

 

では、脂肪を燃やすにはどうすればいいのか?

 

そもそも「燃やす」ってよく聞くけど、体の中で火なんて出なくない?…って話なわけですけど、まぁその辺はあえて書くほどでもないネタな気もするものの、今回はせっかくなのでそこまで見ていこう……と思っていたらまた時間不足で届かなかったので、次回はそんな感じのネタをごたごた語ってみようかな、と思っています。

 

アイキャッチ画像に使えそうなものは特になかったので(「パルミチン酸」は、最近のシリーズでは出てこなかった新顔ですけど、実はずーっと前の「楽しい有機化学講座」の脂肪酸の辺りで使ってた気がしますし、そもそもあのイモ虫みたいな分子モデルを貼っても、クソつまんないにも程があるので(笑))、パルミチン酸を非常に多く含む、パーム油の画像をウィッキー先生からお借りさせていただきましょう(↓)。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/パーム油より

現代人には嫌われ者の脂肪ですが、まともな食事にありつけなかった古来より人間含めあらゆる生物を生き永らえさせてくれたのは、まさにこういった植物(あるいは動物)の作るリッチなオイルのおかげであったと、それは間違いない事実だと思います。

まぁ僕は脂っこいものが好きじゃないので、こんなの見ても全然そそられませんけど(っていうか液体の油を見て「ジュルリ…」なんて人はいないと思いますが(笑))、とても重要な物質であることには変わりない感じですね。

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