いい脂肪、悪い脂肪その4:オメガスリー!

邪悪な脂肪であるトランス脂肪酸などの話を経て、前回は良い脂肪として、多価不飽和脂肪酸、いわゆる必須脂肪酸と呼ばれるものに触れていました。

今回はもう少しそいつらに着目して、もうちょい詳しく見てみようと思います。

まず、良い脂肪酸の条件は、二重結合をシス型でもつことでした。

その理由は、シス結合があることで炭素の鎖が折れ曲がり、折れ曲がると何が良いかというと、すぐ固まるドロドロのギトギトで不器用なゴミクズアブラだった感じから、柔軟性のある、優秀で有能なエリートオイルへとその性質が変わるから、という感じだったわけです。

前回までで何度かちらっと述べた通り、色々な長さのものがある脂肪酸の中で最もメジャーなものは、素数18のものとなっています。

まぁ理由は分かりませんが、ちょうどこの地球上という環境において、作るのにも、使うのにも、恐らく一番都合がよかったのでしょう。

素数18の、二重結合を持たない飽和脂肪酸18:0とも表記します。まぁ別に単なる略称表記なのでどうでもいいですけど)はステアリン酸でしたが、これに二重結合が1つ加わると、18:1オレイン酸になります。

オレイン酸はオリーブオイルに多く含まれることからその名がついたものですが、誰でも何となく聞いたことある気はする、一番メジャーな脂肪酸かもしれませんね。

例によってWikipediaより、こちらがその構造…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/不飽和脂肪酸より

オレイン酸は、必ず9番目の炭素に二重結合が、しかもシス型で入ることが知られています(まぁ、この形のものを「オレイン酸」と呼んでいるのでそれは当たり前かもしれませんが、ステアリン酸に二重結合が導入されるときは、必ずここにシス型で入ることが知られている、ということですね。前回書いた通り、この反応は、我々人間も自力で行うことが可能になっています(その反応をする酵素をもっているから))。

9番目の炭素に二重結合があるので、簡略化した数値表現で、18:1, Δ9みたいに表記することもあります(Wikipediaのように、(9)と書くこともありますが、こちらの方が丁寧。三角形の記号は、ギリシャ文字のΔで、デルタと読みます)。

上述の通りこれは自前で作れますから、こいつは必須脂肪酸ではありません(もちろんシス型の良い脂肪酸なので、必須ではないだけで、「避けた方がいい」みたいなものでは全くないですけどね。オリーブオイルは優れた油と呼ばれるのも、この、シス型のオレイン酸が多量に含まれているからでしょう)。

しかし、ここにさらに二重結合を追加することは、我々人間にはできないので、二重結合が2つ以上ある油は必須脂肪酸といわれているわけです。

二重結合が1つ追加された、18:2, Δ9,12は、前回名前だけ出していたリノール酸、構造はこうなりますね。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/不飽和脂肪酸より

(恐らく省スペースのために、Wikipediaの画像では二重結合部が平らになるように描かれているのでまっすぐな形に見えますが、これはただこの図でそう表示されているだけで、現実的にはもっと折れ曲がっています。)

これも、理由は謎ですが、天然の脂肪酸では、二重結合は炭素3つおきに導入されることが知られています。

だから、9の次は、12に入るんですね。

一方、リノール酸にさらに二重結合が増えたものは、こちらも当然炭素3つ離れた位置に導入されるわけですが、こちらはなぜか左側(リノール酸のときと同じ側)に増えるか右側に増えるかの2パターンが存在し、それぞれα(アルファ)-リノレン酸γ(ガンマ)-リノレン酸と呼ばれています。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/不飽和脂肪酸より

数値表現でいえば、α-リノレン酸18:3, Δ9,12,15、γ-リノレン酸18:3, Δ6.9,12ですね。

ちなみに、γ-リノレン酸は、必須脂肪酸と分類されることもありますが、実は、我々人間はこいつをリノール酸から合成することが可能なので、厳密にいえば必須脂肪酸ではありません(全く摂取しなくても、リノール酸さえあれば、自力で作れるので)。

一方、α-リノレン酸は、自力では決して作れないので、こちらは食べ物から摂取する必要があります。

よって、必須脂肪酸は、厳密にいえばリノール酸とα-リノレン酸の2種類となります。

「え?リノール酸からγ-リノレン酸が作れるって、俺たち人間は二重結合を1つしか導入できないんじゃなかったのかよ?!」と鋭い方なら思われたかもしれませんが、実は、より正しくいうと、「オレイン酸(二重結合はΔ9番に1つだけ)を出発物質にして、2つ目の二重結合が導入できない」だけで、既に2つ目の二重結合が入ったリノール酸に、3つ目の二重結合をΔ6番の位置に導入することは、人間にも可能だったのでした。
(相変わらず、単純化して分かりやすくするためにちょっと微妙な表現になってたので、ミスリーディングというか却って混乱を招く感じになっていたらどうもすみません。)

ただし!この酵素の活性(力)はあまり強くなく、体内での合成が上手く行われないことも多いため、場合によってはγ-リノレン酸も必須脂肪酸の1つとして分類されることもある…ぐらいの話になっているんですね。

でもまぁ「人間が自力では絶対に作れない」リノール酸とα-リノレン酸とは違って、一応「自力で作ることが可能である」というのは抑えておいてもいいかもしれません。


…と、以上の話を踏まえると、スマートな方でしたら、速やかに法則を見出されるかもしれません。

「つまり、人間は、上の図でいう、真ん中より左側に二重結合を導入できないってこと?」

…right。その通り。よく気付いたね。

そう、そうなのです、人間は、COOHの炭素を1番と数え始めて、最初に二重結合が導入された9番目の炭素を境として、逆側の方に二重結合を入れるのが苦手なんですね(苦手というか、できない)!

ここで、タイトルにした言葉に話がつながります。

料理用の油のパッケージとかで、ω-3(オメガスリー)という言葉が大々的に喧伝されれているのをご覧になった記憶はないでしょうか?

僕は、大学に入って一人暮らしを始めて卵を目玉焼きにして食べるようになりましたが、実家から持ってきた小型の四角い鉄のフライパンみたいなの、こいつはテフロン加工がされていないマジの鉄製だったせいで、一番最初油なしでチャレンジしたんですけど、全くお話にならないレベルでフライパンにこびりついてこの世の終わりになったので、初回の失敗以降、油を引いて目玉焼きを作るようになりました。

で、スーパーに行って手に取ってみた油に、デカデカと「オメガ3の力!」とかなんとか謳われているのを見て、まだ脂質代謝とか習っておらず何のこっちゃ意味は分からないながらも、めちゃくちゃ強そうな響きに魅かれて、「オメガスリー!そういうのもあるのか!!」と、訳も分からずそっちを選ぶという、流されやすい消費者の鑑のような行動をしていた気がしますね。

(まぁ実際はどの油を使うべきか全く分からず、一番最初はテスト感覚で小さいサイズのちょっと高めのから選んで、その中にたまたまそういうラベルが貼ってあっただけ、ともいえますが。
 なお、初めて買ったその手の油で焼いた目玉焼きがめっちゃ美味しかったので、油なんてそんな量使うものでもありませんし、僕にしては珍しく、でかくて底値のものではなく、ややコンパクトなちょっと良さ気な油を以後ずっと使っていました。
 でかいヤツは本当にでかいですし、油はやっぱり酸化したら良くないという知識は学習する前からあったので、目玉焼きでしか使わないチビチビした消費量なら絶対小さい方がいいだろう、という判断も込みだった感じです。

 ちなみに、今はゆで卵にして食べてますけど、味でいえば、油を引いて焼く目玉焼きの方が、530000倍ぐらい美味しいですね。
 以前、これもコストコ値段比較記事で、「卵の違いは確実に分かる」と書きましたが、間違いなく鉄鍋で油を引いて作る目玉焼きが、卵のよさを最大限に引き出してくれる食べ方だと思います。
 油ものが好きじゃない僕でも、油を引いて焼いた卵は、やっぱり、天と地レベルで美味しさに違いがあるというのは、認めざるを得ませんね…。)

…話が逸れましたが、ω-3とは?

実は、以前貼ったDHA(ドコサヘキサエン酸)の構造の画像にも、小さく登場していました。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ドコサヘキサエン酸より

そう、なんてこたぁない、COOH側を1番とするのではなく、逆側を1番とする場合、区別するためにそっちの炭素をω-1番と呼ぶ、というそれだけだったのです!

それを踏まえて、必須脂肪酸であるリノール酸とα-リノレン酸を見てみると、こいつらはそれぞれ、ω-6番、ω-3番の炭素に、最初の二重結合がついていることがお分かりいただけることでしょう。
(COOHが右にあるのか左にあるのか、ページによってまちまちなのでややこしいですが、先ほどの画像たちはこのDHAの画像とは左右反転・逆向きになっていることにご注意。)

つまり、これらをそれぞれオメガシックスオメガスリーなどと呼んでおり、上述の通り、人間はω-3やω-6に二重結合を導入することができませんから、こいつらは非常に重要であり(食べて摂取しなきゃいけない)、ひたすらもてはやされている、ということだったんですね!

もちろん、上の画像のDHAも、オメガスリー脂肪酸の一種です。
(当然、その先に3個おきに二重結合がありますが、他にいくつあろうと、オメガスリーであることが重要なので(=COOHの反対側の、3番目の炭素に初めて二重結合が登場することが重要。なぜなら、人間はそこに二重結合を導入できないから)、重要なグループとして、「オメガスリー」と呼ばれているわけです。)

オレイン酸ω-9になりますが、これは自前で作り出せるので、そこまで注目はされていませんね。

やはり、必須脂肪酸であるω-3、ω-6が、栄養学・食用油の市場なんかでは盛んに宣伝されている重要成分だ、といえましょう。

(なお、ωはギリシャ文字で面倒くさいということもあり、オメガではなくn-3のように表記されることもあります(Wikipediaの、最初の方に貼った画像ではそう書かれていましたね)。)


しかし、ω-6の方は、必須とはいえ普通の食事で十分摂れる……を通り越して、むしろ過剰摂取になることがよくいわれているので、「しっかり摂りましょう!」とアピールされているのは、やはりω-3の方だと思いますね。

ω-3は、過剰摂取になりがちなω-6の、摂りすぎによる悪い作用を和らげてくれる効果があるといわれていますし、それを抜きにしても、DHAは頭がよくなるとか、とにかくポジティブな脂肪酸として知られています。

Wikipediaにも、代表的なω-3脂肪酸が、構造付きで並べられていました。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ω-3脂肪酸より

まぁ半分はもう見たことがあるものであり今さらですが、表記法についてしっかり説明がなされていて分かりやすかったからこの画像を貼っただけなんですけど、DHA以外に、EPAなんかも、フィッシュオイルのサプリメントとかで、スーパー栄養素として注目されてますよね。

α-リノレン酸が18:3、EPAが20:5、DHAが22:6ですが、こちらもまた鋭い方なら法則にお気づきになることでしょう、脂肪酸は、基本的に炭素の数が偶数個になっているのです。

なぜかというと、脂肪酸の合成は、酢酸由来の炭素2つがペトペトつながっていくことで行われるから……というのがその理由ですけど、まぁ細かすぎるのでそんな知識や詳細については不要ですし、脂肪酸の炭素数は偶数個ということすら覚える必要など皆無といえましょう。

最後、ω-3、ω-6という極めて重要な両者(二重結合の場所という微妙な違いですが、人間は、これらの内一方から他方を作ることが決してできない(ω-3がω-6になることも、ω-6がω-3になることも、決してない)ので、両方が必須脂肪酸なんですね)の代謝の流れの図を貼ろうと思いましたが…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/必須脂肪酸より

…って結局貼っちゃいましたが、まぁ入門編では不要ですね。

一応、DHAEPAなんかは、ω-3代表のα-リノレン酸から自分で合成することが可能だし、γ-リノレン酸はω-6代表のリノール酸から自分で作れる(これは上でも触れてましたが)、という話に触れたかった感じですけど、これもあんまり気にする必要はないでしょう。
(だから、DHAとかはそんなに熱心に摂取する必要もないと思う、と書こうと思っていましたが、DHAEPAは合成も大変で実際生体内では不足しがちですし、ω-3が重要なのは間違いないので、多少意識するのも間違ってはいないと思いますけどね。)


今回はオメガスリーという身近な物質に触れたものの、内容としては細かすぎるしょうもない話に終始してしまいました。長々語って今さらですが、特にしっかりと理解&記憶する必要もない点かと思われます。

これで概ね脂肪酸の話は終わった感じですが、脂質の話は、もうちょい続けてもいいかなと思っています。

物質としてもややこしく、より複雑な話になりがちなので、なるべく簡潔にまとめていきたいですね。

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