いい脂肪、悪い脂肪その2:目の敵にされている、最低最悪の脂肪

 前回の「いい脂肪、悪い脂肪その1」では摂りすぎは良くない脂肪の例として飽和脂肪酸を見ていましたが、今回はその続きで、不飽和脂肪酸について見ていきましょう。

…とその前に、ちょうど毎度非専門家的視点からとても良い質問を下さるアンさんから、いくつか質問を受けていたので、そちらに触れておきましょう。

まず質問ではなくコメント的なものですが、「二重結合の方ががっつり手を繋いでて安定してるようなイメージだけど…逆だったとは!」という内容の感想をいただいていたのですが、実際、一重結合(単結合)C-Cより二重結合C=Cの方が、さらにもちろん二重結合より三重結合C≡Cの方が、その手を結び合っている炭素間のつながり自体は強固なものになっています。

ただし、2本目以降の結合は、最初の結合より遥かに弱いものになっており(これは例によって電子の絡む大学化学レベルの話で、強い結合をσ結合(シグマ結合)、弱い方をπ結合(パイ結合)と呼んでいますが、こんなのはマジでどうでもいいにも程があるので、直ちに忘れてください!(なら話に出すなよ(笑)))、「結合自体は強くなっているけど、不安定」という形になってるということですね。
(2つめの腕は、簡単に別の原子や官能基との結合に浮気する、いわば尻軽結合、ということ。)

「がっつり手を2本繋ぎあってるけど、多少無理してるのであっさりと1本は手を離しやすい」というのは、特に矛盾なくイメージできるのではないかと思います。

一方ご質問の方ですが、「飽和脂肪酸は二重結合がないとのことだが、COOHって二重結合なんじゃなかったっけ…?」というものでした。

これは確かに、ちょっと説明不足で誤解を招く形になってたかもしれませんが、飽和・不飽和の話は、あくまで炭素鎖(炭素と水素の、炭化水素部分)内、つまりC-C間の結合の話であり、カルボキシ基のC=Oはカウントしない、って形なんですね。

その旨分かりやすくなるように、前回の記事も微妙に修正しておきました。


というところで続いて不飽和脂肪酸の話ですが、一口に不飽和脂肪酸といっても、いくつかのパターンが存在しています(飽和脂肪酸は、炭素の数さえ決まれば1種類しかなかったのとは違って)。

当然、二重結合の場所というのが、いの一番に思い浮かぶ違いですが、場所に関しては、そうやたらめったらデタラメな位置に二重結合は存在できません。

基本的には、二重結合が入るのはまず概ねど真ん中の炭素に入り、複数の二重結合がある場合は、そこから炭素3つおきに入ることがほとんどです。

例によってそんなルールは覚える必要が全くないですし、なぜそうなっているのかについては、「脂肪の勝手でしょ」って話になる感じですね。
(もちろん、「二重結合導入酵素(例によって、そういうタンパク質があります)が、その位置に二重結合を入れるようにできてるから」とか、「その方が安定だから」とか、生理学・生化学的あるいは物性的な説明も可能ですが、「なんでその酵素はそこに入れるの?」とか「なんで安定なの?」みたいに、突き詰めれば結局「そうなっとんねん、この世界は」となってしまう感じといえましょう。)

で、二重結合の数や場所よりも、もっと大きく不飽和脂肪酸を2つの派閥(悪者と、いいヤツ)に分ける要因が存在するのです。

それが、何気にこないだの二重結合の記事でも触れていた、分子構造の違いを生み出す部分、炭素骨格が同じ方に続くか違う方に続くかの、シス型・トランス型の話!

なぜかWikipedia飽和脂肪酸の方のページに、めちゃくちゃ分かりやすくまとめてある表があったので、こちらをご覧いただければ一目瞭然でしょう。

f:id:hit-us_con-cats:20210620064055p:plain

https://ja.wikipedia.org/wiki/飽和脂肪酸より

こちらは自然界で最もありふれている、炭素数18個の脂肪酸ですが、一番右が二重結合なし(改めて、「炭素間の結合」のことですね)の、飽和脂肪酸であるステアリン酸、そして、その隣真ん中が、二重結合をシス型でもつ、数値表現で書けば18:1(「炭素数:二重結合の数」のことですね)で表されるオレイン酸、そしてその隣左端が、二重結合をトランス型でもつ、同じく18:1のライジンですが、表真ん中のボールスティックモデル(黒:炭素、白:水素、赤:酸素)からも明らかな通り、シス型は折れ曲がる構造になるんですね。

この「折れ曲がる」ことが、たったそれだけのことなのに脂肪酸分子にはとてつもなく大きな影響を及ぼし、劇的に融点が下がる=よりサラサラの液体に近付いていく、という感じになるわけです。

表に書かれている融点の差からも明らかですね。

まさにちょうど、体温付近では、シス型のオレイン酸(融点16.3℃)は完全に液体、一方、トランス型のエライジン酸は融点43-45℃で、ドッロドロベットベトグッチョグチョの脂身状態(固体)になっているということで、(前回も同じこと書いて繰り返しですが、必ずしも脂肪酸が単体で存在しているわけでもないので、あくまでイメージとして、ですけど)溶け込んだ血液をよりドロヘドロにするという感じで、トランス型は悪者、逆にシス型は良者といわれているんですね。

…ん?脂肪酸…?トランス型…??

…あぁーっ!巷でいわれているトランス脂肪酸は、これのことだったのか!!と気付いた方がいらっしゃるかもしれませんが、まさにその通りです。

ちなみに、実は以前の記事でも、トランス脂肪酸のからむこの辺のネタはチラッと話に出したことがありました。

何で出したんだったかなぁ、と思ったら、コストコ価格比較記事の、バターについて触れたやつでしたね。

con-cats.hatenablog.com
そう、飽和脂肪酸以上に、人類の敵、クズ野郎、いるだけで迷惑、この世から消えてなくなって欲しい…等々と全会一致でみんなに思われてる嫌われもの、トランス脂肪酸というのは、二重結合がトランス型をもつヤツの総称だったんですね…!

全く同じ数の原子・しかも同じ順番で並んでるというのに、たかが炭素が同じ側に続くか反対側に続くかというそれだけの差で性質に明暗が分かれ、人間にとってのお役立ち度は天と地となるわけです。

結局、脂肪酸のように無駄に長い物質は、いかにコンパクトになれるかが重要で、シス型の折れ曲がった構造は、生体内で使う上でとても有能だということなんですね。

ということで、良い脂肪不飽和脂肪酸のうち、シス型をもつもの、そして悪い脂肪は、不飽和脂肪酸のうち、トランス型をもつものと、二重結合なしの飽和脂肪酸だというのが、一般的な見解であるという話でした。


なお、アメリカではトランス脂肪酸はマジで親の敵(カタキ)以上に敵視されている物質で、どの食品ラベルでも、トランス脂肪酸の含有量が強調されていたはずです。

一例を見てみましょう。

先ほどリンクを貼った記事に前後して、僕はコストコを使うようになりましたが、実は肝心のシリアルの品揃えがゴミカスレベルでしょぼくて泣いているんですけど、唯一、まだマシかなと思えるQuakerのSIMPLY GRANOLAというのを、正直ちょっと重いというかいかにもアメリカンな雑な感じで、カルビーのフルグラと比べたら月とすっぽんレベルで微妙なんですけど、マジで他にどうしようもないシリアルしか置いてないので、コストコではこれを買っています。
(結局、それもあってたまに少し離れた地元スーパーに行くこともある状況なので、何だかんだシリアルはコストコ以外頼みな所もある状況なんですが…。
 ブログ記事でも、コストコ話の続きにいずれ戻るつもりだったんですが、健康食品→クレカ→飲み物→DNA・タンパク質→有機化学とひたすらに脱線を続けまくっているので、果たしていつ戻れるのかは謎ですね…。)

まぁそんな御託はどうでもいいんですけど、コストコはネット上で商品が見られないから、別のサイトから…と思いきや、コストコオンラインにも取り扱いがあるものはWeb上でも見られるようで、検索したらヒットしましたね!

こいつです。

f:id:hit-us_con-cats:20210621055411p:plain

https://www.costco.com/quaker-simply-granola-cereal%2C-34.5-oz%2C-2-count.product.100381580.htmlより

ちなみに、レシートを確認したら、店頭価格は7.99ドルでした。

978グラムが2袋セット(1.95 kg)で、約800円…まあまあ、安いっちゃ安いけど、正直、無駄に重い感じで、個人的には地元スーパーPBのRaisin Bran Crunchの方がカサ増し用のメインシリアルとしては好きですねぇ(しかもそっちの方が安いし)。

まぁシリアル談義はともかく、右下の、各種栄養強調コーナーですよ。

拡大して見てみましょう。

f:id:hit-us_con-cats:20210621055837p:plain

上記画像、拡大図

あるぇーっ?!

ずっとここにはトランス脂肪酸含有量が載ってると思ってましたが、大して気にも留めてなかったので、実際は違ったみたいですね…!

…が、トランス脂肪酸は強調表示されていなかったものの、実際に載っているのは、もう一つの悪者、SAT FAT=Saturated Fatsで、飽和脂肪酸でした!

この商品は、2/3カップ(68グラム)で、270 kcal、飽和脂肪酸 1グラム=1日所要量 (Daily Value)の内4%が摂れてしまうということで、まぁ食感どおり、かなりヘビーなシリアルですね。

ただ、表面に載ってはいなかったものの、成分表示には当然トランス脂肪酸も掲載されていました。

f:id:hit-us_con-cats:20210621060510p:plain

裏面・栄養成分表示の拡大図

トランス脂肪酸Trans Fatは0グラムで安心ですね。

あぁそうか、なぜ表面でトランス脂肪酸が挙げられてなかったかというのは、アメリカではトランス脂肪酸の食品添加は禁止されましたから、基本的に0に決まってるので、最早あえて強調表示する意味などなかった感じなんですね、恐らく!

(参考:農水省の、米国トランス脂肪酸規制に関する記事より↓)

www.maff.go.jp

…と、そんなわけで、今回はトランス脂肪酸に着目する感じで、シリアルとかに脱線していたら、いい方の脂肪酸にたどり着く前にいい分量になってしまいました(というか、トランス脂肪酸にすらほとんど触れずじまい)。

追って続きはまた次回へとさせていただきましょう。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村