次の主役はクエン酸!

前回はいわばパチモンのアミノ酸といえるD体、いわゆる右手型のアミノ酸について、「甘いし美容効果はありそうだけど、アルツハイマー統合失調症その他精神疾患の人で存在量の上昇が見られるという、ちょっと気になる情報もある…」など(逆に診断に使える可能性もあるし、D-アミノ酸を上手く調節することで治療薬の開発も期待できるかもしれないなど、この仮説が正しかったとしても、必ずしもネガティブな話ばかりではないですけどね)、ちょこまか見ていたら時間がなくなってしまいました。

 

その他の情報も見てみようと思ったものの、パッと見特にそこまで目ぼしい話もなかったので、「この先の研究の発展も楽しみにしています」という無責任丸投げお祈りメール的な感じで(笑)、次の話題へと移らせていただくといたしましょう。

 

立体構造うんぬんの話はあくまで脱線ネタであり、元々は呼吸反応について見ていたのが本筋でした。

(まぁ、呼吸についてもそもそも脱線ネタだったというか、こんなブログに本筋なんて存在しませんけど(笑))

 

少しずつ脱線した元を辿っていくと、

・乳酸は代表的な「炭素4本腕に違うモノが結合している」もので鏡像異性体があった

→嫌気的な反応として、乳酸発酵やアルコール発酵がある

→発酵ルートは、解糖系の最後の物質、ピルビン酸から移行するものである

…といった具合で、呼吸の3ステップの内、解糖系まで見終わっていた感じですね。

 

人間の場合も、酸素が不足している状況だと、最も効率の良いエネルギー(ATP)合成手段である電子伝達系、そしてそれを走らせる駆動力ともなるクエン酸回路へと入らず、乳酸代謝経路へと入りがちなわけですが、ここでようやく、その本来の呼吸の方=素晴らしい効率を誇る「好気呼吸」の後半戦へと入っていく形です。

 

既に何度も貼っている、細胞呼吸の流れを模式的に示した一枚絵を改めてお借りしておきましょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/細胞呼吸より


そう、解糖系の最終産物であるピルビン酸は、(グレーの矢印に黒い字でめちゃくちゃ分かりにくいものの)アセチルCoAへと姿を変え、これがオキサロ酢酸という炭素4つの有機物に酢酸基を受け渡されてクエン酸が生まれることで、グルグルとまわるエネルギー合成回路の始まり始まりぃ~となることから、この回路を「クエン酸回路」と呼んでいるわけですが……


…まぁこの名前は、(正直名前なんて本質的ではないというか、人が勝手に名前を付けて勝手に呼んでるだけなので、通じれば何でもいいと思いますけどね)高校では「クエン酸回路」と呼ばれるものの、大学以降ではなぜかあまりそう呼ばれず、「TCA回路」や、発見者(というか同定者)の名前にちなんで「クレブス回路」などと呼ばれますけど、まぁ英語の意味が分かればそっちの方が情報量は多いといえるものの、横文字アルファベットでカッコつけるのもキショいですし、普通に「クエン酸回路」が一番分かりやすいかな、って気がします。

(英語でも、普通にクエン酸をそのまま英語にした「Citric acid cycle」と呼ばれることも多い感じですしね。

 とはいえ、漢字がなくて何事も長ったらしくなりがちな英語ではやっぱりイニシャル呼びされることが多いですし、「TCA cycle」の方がどちらかといえば主流なのかな、って気もしますが、改めて、決まりやルールはなく、他人に通じるものならどれでも好きなのを使えばいいと思います。)

 

まずはその、グルグル回路の起点(まぁオキサロ酢酸が一番のきっかけというか出発物質といえる気もするものの、アセチルCoAが入ってきて最初の産物はこちらですし、ここが起点と考えるのがスタンダードでしょうか)である、クエン酸について簡単に見てみると……

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/クエン酸より

…構造はズバリこんな感じのもので、非常に分かりやすいというか特徴的というか、有機化合物で「酸」を作る代表的な官能基であるカルボキシ基 -COOHが3つもついている分子なんですね。

 

そもそもクエン酸も、何となく日常生活でも聞いたことがある物質ではないかと思うんですけど、何の知識がなくても恐らく「酸っぱいもの」という印象があるのではないかと思うのですが、まさに酸を作るCOOHが3つもあるということで、酸っぱいのも納得のナリをしてらっしゃるものだといえましょう。

 

(実際は、別にCOOHが3つあるからといって塩酸のように強酸性になるってわけではないんですけど、まぁあくまでイメージとして、レモンや梅干しに多く含まれているとても酸っぱいクエン酸に相応しい構造で覚えやすいともいえますね。)

 

ちなみに先ほどあえて触れなかった「TCA回路」のTCAは、「tricarboxylic acid」のことで、日本語に書き下せば「トリカルボン酸」、そして「tri」というのは化学で「3」を表す接頭辞なので(まぁ化学に限らず、「トリプル」とか「トライポッド(三脚)」とかでも使われる一般的な接頭辞ですけど)、要はこれは「3つのカルボン酸回路」という意味の言葉であり、意味さえ知っていればクエン酸の構造を思い出しやすいむしろ有用な名前になっている感じですね。

 

…と、クエン酸はCOOHが3つというのが特徴ですが、もちろん「-COOH」という官能基には腕が1つしかないため、これだけをつなげようと思っても「HOOC-COOH」とそれだけで完結してしまい横につながっていきませんから、それぞれのCOOH基はまた別のフリーな炭素につながっている形で、クエン酸自体は炭素6つの化合物になっています。

 

(ちなみにCOOH同士が単純にくっついたものは……これは、「シュウ酸」と呼ばれる分子で…

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/シュウ酸より

…まあまあ、脇役程度ではありますけど、一応高校化学でも登場するやつで、折に触れてちょいちょい顔を出してくるので何となく覚えてはいるやつですね。)

 

しかし、「クエン酸はCOOHが3つ」という印象が強かったですけど、何気に真ん中の炭素にはヒドロキシ基 -OHもくっついていたんですね、そういえば。

 

ちなみにこのOHがついてないヤツは何て分子だっけ、クエン酸みたいな慣用名もありそうだけど…と思って調べてみましたが……

 

(なお、クエン酸について、慣用名ではなく、命名ルールに則った「IUPAC名」では、先ほど貼ったクエン酸の画像にも表示しておいた通り、面白いことに「炭素6つの化合物=ヘキサン」を基本とはせず、「炭素3つの化合物=プロパンに、ヒドロキシ基が1つと、カルボキシ基が3つつながってできた酸」という考え方で「2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸」となるんですねぇ~)

 

…中途半端に仲間外れ的にくっついてる真ん中のOHがいないやつ、よりシンプルな形だし、クエン酸に近いんだからきっと知っているはず…と思ったのに……

https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/aldrich/t53503より

まさかの「トリカルバリル酸」とかいう、Wikipediaに記事すらない、知らねぇ~!という物質でした(笑)。

 

…とまぁ分子構造のこぼれ話は細かすぎますしその辺にしておくとして、「クエン酸を摂ると疲れが取れる」などとよく耳にする気がしますが、結局の所、クエン酸を摂ればこの「エネルギーを高効率で産み出す、呼吸の後半以降の反応」をグイングイン回すことにつながるからしばしばそう言われている話なんだと思いますが……

まぁ実際、呼吸における律速因子(=色々な物質が関わる反応で、最も量が少ないとか反応速度が遅いとかで、全体の反応のスピードを決定している部分のこと)がクエン酸なのかというと、多分そんなことはない気がしますし…

クエン酸回路自体、回路であることからも明らかな通り、回路中の代謝産物はグルグル回り続けて再生され続けるわけで、別に不足するってことはないはずですから、まぁ「酸っぱいものを食べて疲れが取れる」ってのは若干眉唾というか、クエン酸を含むものには単純にそれなりに健康的なものが多いので、純粋に栄養摂取の重要性を謳っているだけの話ではないか、って気がしますね。

 

(というか、クエン酸のウィ記事にも、「運動成績を有意に向上させることが報告されたが、その後否定されている」と明記されていました。)

 

あぁあと名前の豆知識にもう一つだけ戻っておくと、クエン酸の英語がcitric acidであるというのは上述の通りですが、これはズバリ、「シトロンの酸」ということで、どう考えてもシトロンよりもレモンの方が「酸っぱい柑橘類・日本代表」なので、正直あんまりピントは来ない気がするものの(笑)、まぁ画像を見れば分かる、いかにも酸っぱそうなシトロンの酸…ということで、やはり酸っぱいものを象徴する物質だといえましょう。

 

ja.wikipedia.org

 

(なお、シトロンの和名(漢名)がクエン(枸櫞)とのことで、「シトロン」よりもさらに全く何のイメージもない、これはクソネーミングな気がしますね(笑)。

 どう考えても、「クエン」を知っている人より「クエン酸」を聞いたことがある人の方が多いという、逆転現象になってる気がします。)

 

…と、物質についてはほどほどに、クエン酸回路の反応経路・代謝産物を見ていこうと思っていたのですが、また長くなってしまったので、具体的な回路の中身については次回見ていくといたしましょう。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村