カフェイン程の力はないかも…

分子の立体構造に関するウンチクを終え、前回からまた呼吸反応の話に戻っていましたが、酸素を使って走る好気呼吸の第2ステップ・クエン酸回路について入っていく前段階のサワリとして、クエン酸についてちょろっと見ていました。

 

クエン酸は酸っぱすぎて食えんさ、というクソウマギャグを書くのを忘れていたため今書いてみましたが(笑)、分子内の炭素6つの内、酸性を作るもととなるカルボキシ基 -COOHが3つもあるという話なんかには触れており…

(ちなみに今さらですが、カルボキシ基があると酸性になる理由は、COOHは水の中で電離し、COO + Hに分かれるからで…

 もう結構前になりましたが、英語スラングネタからこの辺の話にいきなり脱線するきっかけとなった、酸性塩基性うんぬんの記事あたりで触れていた通り、酸性というのは水素イオンHが多く存在する環境だと、そういう話だったので、COOHが3つもあると酸っぱそうですよね、という感じでした)

…イメージ通りの酸っぱさを誇るのがクエン酸ことシトラス酸なわけですけど、「クエン酸」で検索してみたら、かなり大手の食品会社・製薬会社が何社も、

クエン酸は、疲労物質である乳酸の生成を抑制することからも、疲労回復に効果があることが知られています。」

…と記述していたのを見かけたんですけれども、正直これはちょっと、眉に唾をベロンベロン塗りたくって見た方がいい話かもしれませんね。

 

(まぁ前回終わりの方でチラッと書いていたことの繰り返しにもなりますが……)


まず「乳酸の生成を抑制」という話、これはまぁ流れとしては正しいといえそうで、こないだからずっと見ていた話からも明らかでしょう、ズバリ、代謝の出発点といえる解糖系が進んで生まれたピルビン酸は、その後乳酸になるかアセチルCoAとなってクエン酸回路へと入っていくかの主に2択になっていますから、クエン酸が体内に入ってくれば、その分クエン酸回路がまわるようになる…

…と一瞬思えたものの、しかしよく考えたら、クエン酸があれば、回路の最初というか最後というかの、「オキサロ酢酸+アセチルCoA ⇒ クエン酸」という反応がなくても回路がまわり続けることになりますから、むしろアセチルCoAを無駄に使う必要がなくなる=余ったアセチルCoAはむしろ、乳酸経路に入りやすくなるともいえるのでは……?

……と一瞬思えたものの、しかしさらによく考えてみたら、クエン酸回路がまわればそれで十分なエネルギーが生み出せますし、エネルギーが強烈に不足した際に緊急で酸素がなくても走る乳酸産生経路にあえて入る必要はなくなると考えて問題ないでしょう……とも思えたので、まぁ「疲労物質である乳酸の生成が抑制」という流れ自体はいいとして……

 

ポイントは、そもそも乳酸は別に疲労物質ではないことが明らかになっていることでして、これもちょうどこないだ触れたばかりでしたけど……

con-cats.hatenablog.com


…ここで見ていた通り、むしろ乳酸は筋肉の回復にも役立っているなんて話でしたから、これはちょっとおかしな主張になっている話だと言えてしまいましょう。

 

そもそも今までの人生を振り返っても、レモンや梅干しをかじって「くぅ~疲れが引いてくぅ~!」なんて経験したことはただの一度もありませんし、科学的にのみならず、個人的にはクエン酸が特に疲労回復に効果があるってのは、どうもあまり信憑性のある話にはなっていないように思えてなりません。

 

(もちろん、真夏の炎天下で大量の汗をかくなどして電解質が失われたとかで、塩類が不足している状況なんかですと、レモンとかをかじって「キクゥ~!」とか、他にも尋常じゃなく空腹な時にクエン酸入りのお菓子とかを食べれば「生き返るぜぇ~」なんてことはあるかもしれませんけど、それは正直クエン酸じゃなくても、そういう状況で例えばガリガリ君とかチロルチョコとか、どんなしょうもねぇ食品であろうと水分・栄養分が豊富に含まれるものを口にすれば絶対何でもそうなるから(笑)…としか思えない感じですね。)

 

まぁ別にクエン酸に親を殺されたわけでもなし、クエン酸には全く何の恨みはないですし、そこまでクエン酸を否定したいわけでも全くないんですけど(笑)(必ずしも間違ってはいませんし、商売の謳い文句としては効果的なのは間違いないですしね)、ただやっぱり、特にクエン酸が、例えばカフェインの覚醒作用とかと比較して、本当に同じぐらいの確たる疲労回復効果があるとは言えないんちゃうかなと思えてしまう…って話でした。

 

ちなみにカフェインなんかの覚醒作用は、分子レベルで、生理学的に完全に仕組みまで分かっているものですから、こちらは「ガチ」ですね。

 

簡単にまとめてある記事から拝借しますと……

 

www.ncnp.go.jp

 

疲労に伴い体内で産生されるアデノシンという物質がアデノシン受容体に結合すると、覚醒作用のあるヒスタミンという神経伝達物質の放出を抑えるため眠くなります。カフェインは、このアデノシン受容体に結合することでアデノシン自体が結合するのを阻害するため、ヒスタミンの放出が抑制されなくなり、眠気を感じにくくなります。

 

…と、アデノシンってのはもう何度も出てきました、DNAを構成する4塩基・ACGTの1つ「A」であり、また、呼吸で作られる、全ての細胞がエネルギーとして活用するATPの一部でもあり、更にはアセチルCoAのCoA部分にも含まれているものでもあるわけですけど、まぁそういった代謝で出てくる奴らは「アデノシン」にリン酸基がくっついたものですから、色々活用されてリン酸基が分解されたアデノシンは、「役目を終えて活性がなくなったアデノシン」ということで、疲労物質とみなせるわけですね。

 

で、アデノシンが溜まってきて、アデノシンをキャッチする受容体(この「受容体」自身も、タンパク質からできている機能性分子ですね)にくっつくと、脳は、

「アデノシンがいっぱいくっついてきたぞ!アデノシンが多いってことは、疲れているってことだ、休むべし」

…と、覚醒作用のある神経伝達物質ヒスタミンヒスタミンも色々な効果のある物質ですが、一つの作用は、神経から分泌されてアドレナリンのように興奮作用をもたらす効果がある感じですね)の放出が抑えられる……と、そういう仕組みで「疲れたら、人間は覚醒状態から休眠状態へと移行する」という上手い形になってるんですねぇ~。

 

で、カフェインというのは、本来アデノシンをキャッチして「ヒスタミン、止まれ!」という命令を下すアデノシン受容体にくっついて、新たにアデノシンがくっついてくるのをブロックすることで、受容体に、

「ん?何かくっついたけど、アデノシンではないな。ヒスタミン、止まる必要なし」

と、どれだけアデノシンが溜まってきても普通にヒスタミンをドバドバ作り続けることで覚醒状態が醒めないと、そういう形になっているのでした。


(なので、本当に疲れているのにカフェインでごまかし続けるのが危ないのは、体からの異常事態を無視しているということで、言うまでもない話だといえましょう。)

 

そう聞くと、「偽物に騙されるとか、受容体、バカすぎ(笑)」と思えるものの、とはいえしかし、基本的に何かの薬というものはそういう受容体ブロッカーであることが多い…のみならず、実際の自然に起こる生体反応でも「一方向に反応が進みすぎないように、阻害剤が結合して、反応をブロック」とかはよく見られますし、これは生体反応の特異性をついた、非常によくできたメカニズムなんですね。

 

そもそも「受容体が騙される」ということで、こいつらの構造がどうなっているのかもちょっと見ておきましょう。

 

ヒスタミンの構造はこんな感じで……

https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒスタミンより

 

…まぁまぁオタマジャクシのような小さな分子ですけど、一方のカフェインは、…

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/カフェインより

…と、う~ん、「似てるか?」と言われたら返す言葉がなく、「やっぱり受容体ってバカだわ」って話になるかもしれませんが(笑)、まま、一応、イミダゾール環と呼ばれる、ヒスタミンの頭の部分のリングは何気にほぼ同じものがカフェインにもついてますから、ここのおかげで受容体にくっつけるけれど、しかしヒスタミンがくっついた場合とは違い、命令シグナルは伝わらないという形に………

 

…って、普通にめっちゃ間違えてました、ヒスタミンは結果として分泌される物質で、受容体にくっつくのはアデノシンでしたね(笑)。

 

そんなわけで比較すべきはアデノシンの方でしたが、こちらはもう何度も構造を貼っていた気がするものの、再掲しておきましょう…

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/アデノシンより

…うん、これなら似ている!(笑)

 

まぁ五角形のリボース(糖)部はカフェインにはないものの、イミダゾール環はアデノシンにも健在ですし、これなら騙されても仕方ありません。

 

ということで、カフェインというのも、何気に代謝の重要物質「A」に近いものがあったため、覚醒状態を維持する作用があるのでした…というこぼれ話でした。

 

本当はクエン酸回路の話に入るつもりだったのが、またしても脱線ネタだけで埋まってくれて、シメシメという感じですけど(笑)、一応呼吸の話に戻ると、そんなわけでクエン酸は別に、そういう分子レベルの生体反応惹起メカニズムがあるわけでもなく、単純に栄養素として使われる以上の意味はないんじゃないかなと思える…ってことですね、改めて。

 

もちろん、クエン酸自身は代謝に直接関わるモノであり、エネルギーを作る栄養分子では間違いなくあるんで疲労回復効果がないわけではないと思いますけど、そんなこと言ったら砂糖なめるのでも一緒やん、って話ですしね。

 

というか、思考する上で大量の栄養が必要となる将棋棋士なんかは、砂糖ではなく、解糖系を進ませる上で直接使えるグルコースを紅茶に溶かして飲むこともある…なんてよく言われますけど、それはまさに正しいやり方で…

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/細胞呼吸より

…何度も貼っているこのイラストにある通り、栄養合成=呼吸の出発はやっぱりグルコースなんですね。

 

砂糖を摂取しても、それをグルコースに変換する手間がありますから、グルコース直摂りが一番即効性があるわけです。

 

一方のクエン酸は、クエン酸回路の出発物質とはいえ、(上でも似たようなこと書いてましたけど)これはサイクルでグルグル回るものですし、クエン酸というよりむしろ、外部から必要となるピルビン酸(アセチルCoA)の方が次のサイクルへと反応を進ませるためには重要となりますから、やはり大元のグルコースを補給するのが疲労回復・栄養補給の意味では一番なんじゃないかな、と思えます。

 

なお、解糖系の反応でも、グルコースからグリセルアルデヒド 3-リン酸(G3P)を作る際にエネルギーが必要だという話だったので、

「じゃあグリセルなんちゃらを補給するのが一番、余計なエネルギーを使わんで済むから、最高効率の栄養補給なんちゃいますのん?」

…って気もするかもしれないものの、これは多分、G3Pはエネルギーが大きい分子である=エネルギーが大きいということは不安定だということですから、恐らく、血液に乗って脳やその他栄養が必要な細胞へ届けられる間に、結局もっと安定したグルコース(まぁ飢餓状態でグルコースに戻ることはないと思いますが)とか、あるいはまた別の分子に分解・変換されてしまい、上手く呼吸反応を進めるには至らない…なんて感じで、「必要な場所で、エネルギー合成の呼吸反応を直接推し進める」ことには向いていないんじゃないかな、って気が(僕は代謝の専門ではないので、詳しくは分かりませんが)しますね。

 

結局、即効性のある疲労回復・栄養補給は、棋士が使っていることや、点滴にブドウ糖注射液が使われることからも明らかな通り、グルコースが王者じゃないかなと思う、って話でした。

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