胃薬とか

ここ最近の記事では、消化酵素、特にタンパク質分解酵素について、主なものやそのnomenclature(命名ルール)なんかを軸に、軽く小話的に紹介していました。

 

関連ネタの最後に、消化酵素と現実世界で触れ合うことがあるとすれば何かと考えてみたときに、これはやっぱり胃薬であろう、ということで、胃薬をちょっと垣間見てみようかと思います。

 

といっても僕は生まれてこの方胃薬を飲んだことがないのですが、まぁ前回は食べたこともないベジマイトを紹介していましたし、未経験のものでも積極的にネタにして記事を水増しせずにはおれない状況、って感じですね(笑)。


ちなみにさも当たり前のように出していたベジマイトですが、これは「世界一まずいジャム」としても有名なもので…

 

ja.wikipedia.org

…「酵母エキス」の項目に画像が載っていたのでそのまま紹介しましたが、こちらはオーストラリアの商品だったようで、どうやらアメリカでは輸入が禁止されている…という情報を日本語ページで見かけたものの、上記WikiP記事の英語版によるとそれはただの都市伝説で、完全なるデマみたいですが(税関・国境警備局が公式に否定)、まぁマズすぎて人気がない=そんなにどこのスーパーでも見かけるものではないことは事実のようですね(笑)。


日本でも、特に輸入禁止ではないものの、あまり店頭で見かけることはないようです。


そもそもこのベジマイトというのは、元々イギリスで販売されていた「マーマイト」が、戦争中品薄でオーストラリアに輸入できなくなったため、ちょっと改良して売りに出したものだったようで……

ja.wikipedia.org

…いわばマーマイトの方がオリジナルであり、伝統もある商品みたいですね。


当然僕はどちらも食べたことないものの、どちらも耳にしたことはある感じで、流石は我らが酵母のエキス、どちらも凄まじい栄養を含んでいる(ただし不味い(笑))のには間違いなく、こちらさんは味(というかマズさ(笑))を楽しむためのジャムではなく、特に栄養状態の悪かった19世紀に、理想的な栄養補助の食品として使われた(登場してきた)ものだといえましょう。

 

…と、全然予定していなかったベジマイトの補足に逸れましたが、話を戻すと、今回は胃薬に着目してみる感じですね。

 

胃薬にも色々あって、「消化を助けるもの」と、あるいは全く逆の「胃酸・消化酵素の分泌が過剰すぎて、胃の内壁が攻撃されて痛んでいる状態を和らげてくれるもの」なんかもあるわけですが、消化酵素に着目してきた今回は当然、前者のタイプの胃薬をチェケラッチョしてみたい所です。

 

もちろん胃薬未経験なので好みとかそういうのはないのですが、パッと浮かんだ「いい薬」といえばやはりコレ、「太田胃散」が検索トップに来ていて目に付いたこともあり、こちらの情報をお借りさせていただこうと思います。

 

ohta-isan.co.jp

…と、何気に実は検索トップに来ていたのはエーザイの解説記事で、こちらは2番目のヒットだったのですが、この「Aで脂を分解っしゅ」とかいう、「は?超大手企業が、まさかのミスタイプ??」と思えるインパクトあるタイトルにつられた形だったともいえるんですけど(笑)、あぁ、何のこっちゃと思ったら、太田胃散の現在のCMイメージキャラクターは、DAIGOさんだったんですね。


まぁ、「うぃっしゅ」ってギャグというか決め台詞は僕でも知っていますが、それ自体はクソつまんねぇにも程があるものの(笑)、やはりイメージのいいお坊っちゃまのDAIGOさんは大変印象が良く、CMに打ってつけなのは間違いないですね。

 

とはいえ「分解っしゅ」やDAIGOさんは本題とは全く関係ないのでともかく、早速、胃薬にはどんなものが含まれているのか、成分表の方をチェックしてみるといたしましょう。

 

http://ohta-isan.co.jp/ohtaisanaj/より

ズバリ、「消化剤」として、リパーゼAP6、プロザイム6、ビオヂアスターゼ1000といった各種酵素が載っていますねぇ~。

 

改めて酵素のnomenclatureとして、基本的に「-ase」というのが酵素でよく使われる名前であり、「なんとかーゼ」の「なんとか」を分解する酵素という意味になるわけですけど、リパーゼはズバリ、脂質を意味するlipidから来ているものですから、「働き」欄にある通り、これは脂肪分解酵素のことなんですね。


ただし、「プロテアーゼ」と言っても特定の酵素を指すわけではなく、漠然と「タンパク質分解酵素」全般を指す集合名詞になっているのと同様(具体的にはペプシンとかトリプシンが、固有の物質を指す名前)、「リパーゼ」も固有名詞(特定の物質を指す名詞)ではない感じです。

 

まさに、↓のウィ記事の冒頭に…

ja.wikipedia.org

リパーゼ (lipase) は、脂質を構成するエステル結合を加水分解する酵素群である。


…と、「酵素」とある通りですね。

 

とはいえ、太田胃散Aに含まれるのは「リパーゼAP6」というもののようで、これは「AP6」という下の名前があるように、特定の物質を指すものだといえましょう。

 

検索してみたら、こちらは我らが試薬合成販売・世界最大手のSIGMAのページがヒットしてきて…

 

www.sigmaaldrich.com

この商品ページ似よると、通称リパーゼAP6と呼ばれるリパーゼは、クロコウジカビ(学名Aspergillus niger)由来の、カビさんが産生するリパーゼだった、ってことなんですね。

 

とはいえリパーゼは、これまで見てきたRNaseやタンパク質分解酵素と違い、よっぽど脂質代謝をメインで研究しているラボでもなければ滅多に使わず、僕も全く何の知識もないんですけど…

(ちなみに英語だとlipaseは「ライペース」になるわけですが(少なくともアメリカ英語なら。イギリスだと、「リペース」になる気もしますが)、僕はライペースは口頭で使ったことは一度もない気がするぐらいですねぇ)

…脂質も炭素のつながった有機化合物ですから、このリパーゼAP6も、リパーゼファミリーの中にあって、「脂肪のどの部分を優先的に分解する」ということが決まっているはずですね。

 

軽く検索したら、残念ながらAP6のデータはなかったものの、我らが富士フイルムが、リパーゼの特徴全般についての解説を極めて丁寧に分かりやすくしてくれている記事が見つかりました(↓)。

 

labchem-wako.fujifilm.com

…脂質というのはグリセリンと3つの脂肪酸から成る(エステル結合)というのは、中学理科でもおなじみで、ずーっと前の「楽しい有機化学講座」シリーズの脂質関連記事でも触れていた通りですが(この辺の記事(↓)からいくつか)……

 

con-cats.hatenablog.com

…例えばLipase ASと呼ばれるものは、脂肪酸鎖のつながった3つのエステル結合の内、上記解説記事の表中に「1,3>>>2」とあるように、1番と3番の鎖の結合を優先的に切断する、というような話までちゃんと分かっているんですね。

 

分子レベルでの反応機構含め、非常に丁寧で分かりやすく素晴らしい記事ですが、「なぜ富士フイルムという写真会社がそんな記事を?」と思われる方もいらっしゃるかもしれないものの、富士フイルムは、もちろん写真・フィルムがメインの会社ですけど、そこで培った「イメージング」の技術を、生命科学研究で古くから使われている、各種試薬による反応の結果を画像として見る実験(具体的には、ウェスタンブロッティングとかで、超微量のシグナルをCCDカメラで増幅して捕える…みたいな実験なんかが挙げられますね)の検出器なども開発されており、実は我々バイオ研究をしている民にとっては大変馴染みのある、実際に画像撮影・検出・解析で非常にお世話になっている企業なのです。

 

なので、試薬合成・販売の日本最大手、和光純薬とも提携している感じなんですね!


意外なことに、Fujifilmはバイオ研究にも大変力を注いでいる素晴らしい会社なのです、という話でした。

 

ということで、酵素の方に話を戻すと、リパーゼAP6の具体的な切断部位までは分からなかったものの、胃薬というのはやはり「分解」するもので、一番上に挙げられていた主成分としては、消化がしづらい(例によって消化の良い/悪いはイマイチ分かんないんですけど(笑)、まぁどう考えても重い油で胃がもたれるというのは想像に容易いですね)「脂を分解する酵素」が含まれており、これを飲むことで胃の中で脂質分解酵素ことリパーゼが油を分解し、次の消化ステップへ(=腸へ)ともっていきやすくしてくれている、って話だといえましょう。


もちろん消化が重くて胃に滞留し続けてしまうものは脂肪だけに限らないので、成分表その次に挙げられている通り、タンパク質分解酵素も含まれている感じですね。


こちらは「プロザイム6」という名前のようですけど、nomenclature的に、これはどう考えても「化合物名」ではなく、「商品名」であるのが明らかに思えます。


小林製薬の糸ようじじゃないですけど、これは確実に伝統的な酵素命名法に則ったものではなく、「プロテイン(protein=タンパク質)」と「エンザイム(enzyme=酵素)」を組み合わせただけの造語で、正式な化学物質というより、単純に商品名の一種ですね。

 

調べても詳しい情報はなく(特に「プロザイム6」は)、どういう酵素なのか、物性や化学式や基質(切断対象)などは全く分からなかったのですが、「6」じゃないものなら一応、数字なしの「Prozyme」が、Creating Health社の登録商標としてデータが掲載されているPDFが見つかったものの……

 

https://creatinghealth.com/wp-content/uploads/2019/12/Prozyme-90c.pdf

 

Prozyme ™ is a blend of digestive enzymes derived from the fermentation action of fungi such as Aspergillus niger and Rhizopus niveus, microorganisms safely used in fermenting foods, including cheese, soy sauce, and yogurt.

 

プロザイム™は、チーズ、醤油、ヨーグルトなどの発酵食品に安全に使用される微生物の一種である、Aspergillus nigerやAspergillus niger(クモノスカビ)といった、真菌の発酵作用に由来する消化酵素ブレンドである。

 

…と、酵素ブレンド品であることしか述べられていませんでしたね(当然、実際どういう配合なのかは特許とかもあるでしょうし、公開情報ではないのでしょう)。

 

というか、PDFをさらに読み進めていくと、このプロザイムには、最初に貼った成分表の次の項目に登場するBiodiastase(とはいえこれも、太田胃散は「1000」という特定のものですが)という多糖分解酵素や、さらにはリパーゼなんかも一部含む、これだけで色んなものを消化してくれる万能酵素のようです(とはいえ名前からも、主にタンパク質を分解する作用をもつものだとは思いますけどね)。


(なお、より正確には「biodiastase」で検索したら、都合よくこのProzymeドキュメントが見つかったという流れでした。

 「Prozyme」だけでは、何かそういう名前の企業ばかりがヒットしてきた感じです。)

 

…といったところで、この胃薬の話を起点に、せっかくなのでもうちょい(あんまり関係ない話に)脱線しようと思っていたのですが、またまた時間切れとなってしまいました。

 

時間のない状況が未だに続いており、思いついたネタを有効利用しよう、ということで、次回はその脱線ネタに触れていこうかな、などと思っています。

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