興奮、抑制、バランスよく…

前回は、熱を感知する受容体(TRPと総称されるイオンチャネル;「TRP」自体はTransient receptor potential channelの頭字語からで、日本語にすると「一過性受容体電位型チャネル」となりますが、温度感知が最も知られている機能といえます)がカプサイシンでも全く同じようにチャネルをオープンして電気信号を生み出す…という話をしていました。

 

その途中で、めちゃくちゃ熱いものを触った時は、これは人間誰しも、「アチッ!」と思うよりも先に手を離す(まぁ「先」は言い過ぎかもしれないものの、人間の意識下での反応速度をゆうに超える、ほぼ同時ぐらいの反応ですね)、いわゆる「反射」(この場合、手を引っ込めるので屈曲反射)が起きるわけですけど、そういえば、例えば40℃ちょいの、負荷のかかってるコンピューターとかスマホとかを触っても「アッツ」と無意識で手を離すことはないわけですけど、一体どのぐらいの刺激が加わると人間は反射的な反応を引き起こすのか、そしてそもそもどういう仕組みで反射が起こるのか(=指などの感覚器で熱を感じる→TRPが表面に存在する感覚神経細胞に電気が発生→脊髄に伝わる→ここで、信号が脳へ行き、脳から運動神経に向かって「手を離そう」という命令シグナルが発生するのではなく、脊髄が直接運動神経へと「手を離せ」という命令シグナルを発生させる)……つまり、「なぜ、というかどういう仕組みで脊髄は勝手に運動神経に命令を送るのか?」といったそんな疑問が頭をよぎったので、軽く調べてみたわけですが……

 

…結論から言うと、よく分かりませんでした(笑)。

 

まぁ、「どのぐらいの刺激で反射が起きるのか」に関しては、健康な人と筋肉に病気(線維筋痛症)を持った人とで、「どの程度の刺激強度で反射(英語でreflex)が起こるか?」が調べられた論文の結果をまとめたレビュー記事なんかもありましたが(↓)…

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

…「健常者と線維筋痛症患者とで、反射を引き起こす刺激の大きさ(閾値)に、有意な違いは認められなかった」というだけで、特にどのぐらいの刺激で屈曲反射が起こるかみたいな詳しい話にまでは触れられていない、正直おもんない話だったので触れるまでもないかな、って感じなんですけど(笑)、まぁ、多くの研究で「全体の傾向として、疾病の有無での違いはない」とはなっていたものの、個々人では当然「反射を起こす刺激の閾値」に違いはあるようで、当たり前ですが「どのぐらいの刺激でピクッと反射が起きるか」は人によって違うものではあるようですね。

 

そして、同時に個人的に気になった、

「反射が起こるのはいいとして、脊髄は一体どういうメカニズムで、どのぐらいの刺激が来たら『脳ではなく直接筋肉に呼びかけよう!』と判断しているんだろう?

 その基準…についてはまぁ、↑で見ていた通り人によって異なるということだけど、仕組みというか、なぜ都合よく信号が筋肉の方へと伝わるんだろうか?」

…という、いわば「反射でのみ普段と違う神経経路が使われる仕組み」に関しては、特にそんなことに関して調べられた論文などは見つからず(まぁ本当にサラッとしか調べていないので(reflex molecular mechanism(=「反射 分子メカニズム」)で検索など)、もっとしっかり調べたらどこかで見つかるかもしれないものの)、あくまで推論になりますけど、これはもう普通に、

「そういう仕組み(=生命に危険が加わるような刺激が入ったら、脊髄から直で信号が筋肉に伝わる)を進化の過程でたまたま獲得した生物が生き残ったから」

…という、「そうなってるから、そう」みたいな、何というか何の説明にもなってませんけど(笑)、例えば「心臓が無意識でも一定のリズムで鼓動を刻み続けるのはなぜ?」と聞かれても、

「そうやって血液を循環するメカニズムを獲得した生物が、酸素の運搬効率に圧倒的に優れて高負荷の運動が可能となった結果、この地球上では生存しやすく繁栄したから。

 なぜ一生拍動し続けるか、って…?……何でだろうね、誰も知らないから心臓さんに聞いて欲しいけど、実際に心臓は一生動き続けるんだから凄いよね(笑)」


…としか言えないのと同じで(まぁちょっと違うかもしれませんが(笑))、「生命の神秘ですね」という最終奥義で逃げるしかない話とでもいいますか、「命に関わる刺激が加わったら、超反応でそれを回避」という仕組みも、たまたま進化の過程でその神経信号の流れを獲得した生物が圧倒的に生き残りやすく、子孫が繁栄して今に至っている…という、そんな考えで納得する他ないのかな、って気がします。

 

…と、全く何の情報量もない話で無駄に長くなりましたけど、他のネタに移行する時間がないのでまた適当に一つだけ想定質問で疑問を呈してみますと、

「熱いものを触ったら『熱い』と感じるのは何でなん?神経の中では、単なる電気信号が伝わるだけって話だったし、どうやってそれが『熱いという自分の感覚』につながるの?」

…というものを考えてみると致しましょう。

 

まぁこれは結局、神経細胞の中は電気が伝わるけれど、次の神経細胞なり、脊髄なり、脳なりの神経細胞といった別の細胞に伝わる際には「神経伝達物質」と呼ばれる特定の分子が放出されるから…というのがその回答への一端と言えまして、まず仕組みについてイラストでチェックしてみますと、改めてこちら和田勝さんによる神経システムの解説記事から図をお借りしますと……

https://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textlife/neuron.htmより

…左が神経細胞の全体図、そして右側が神経終末部の拡大図になっていますが、このように、神経の末端では、電気信号の到達とともに(用語は例によってどうでもいいと思いますけど)シナプス小胞というものに入れられた特別な分子「神経伝達物質」というものがまさに細胞の端っこから「ペッペ」と吐き出される感じで分泌され、それをすぐ隣に配置された次の神経細胞の受容体が受け取る形で新たな電気信号となり伝わっていく……という感じになっていまして、ポイントとしては、一口に「神経伝達物質」といっても、色々なものが存在するという点がまず挙げられます。

 

まぁ神経伝達物質の一覧なんてどんな神経解説記事でもまとめられているものですが、検索したら出てきました、世界のメルク社による日本語版解説記事が、全体的な仕組みの説明も非常に優れていたように思えたのでこちらのリンクをお借りしますと……

 

www.msdmanuals.com

 

少なくとも100種類の物質が神経伝達物質として作用し,そのうち約18種類が特に重要である。いくつかは若干異なる形態で存在する。

…とあるように、人間の体内で神経シグナルの伝達に働いているものには複数の分子が存在するわけですね。

 

そして、具体的な神経伝達物質としては、上記記事にも挙げられています通り、有名所ではドーパミンセロトニンノルアドレナリンアセチルコリン、GABAなどなど、どこかで聞いたことのある分子が名前を連ねており、何気にこれまでの記事でも何度かその構造や作用含め触れたことがありました(一例として、ドーパミンアセチルコリンを見ていた記事↓)。

 

con-cats.hatenablog.com

 

con-cats.hatenablog.com

 

まぁ具体的な物質は今は置いておくとして、神経伝達物質は大別すると「興奮性」と「抑制性」の作用を持つ性質の2種類に分けられており、これを受け取ることで、自律神経であれば覚醒作用または鎮静作用が及ぼされますし、今ネタにしている感覚神経から脳内へのシグナルであれば、「痛い」「気持ちいい」といったフィーリングにつながると、そういう話なんですね。

 

改めて、「なぜ興奮性の神経伝達物質を受け取ったら、脳は『痛い』と感じるのか?」については、これはもう「人間はそうできているから」としか答えようがないんですけど、各神経伝達物質の種類というか違いに応じて、脳は異なる感覚を受け取るようにできているわけですね。

 

要は、TRPチャネルが表面にあって熱を感知可能な感覚神経細胞は、(今調べても具体的にどの神経伝達物質が分泌されるかは分からなかったのですが)恐らくというか間違いなく興奮性の物質を分泌し、これを受け取って、その量に応じて脳が「熱い」というか「痛い」と感じると、そうできている形だといえましょう。

異なる種類の神経伝達物質の授受が行われることにより、異なる感覚が伝わるのが神経ネットワークのシステムだと、おおざっぱに言えばそういう仕組みになっているわけです。

 

…と、そう聞くと、「先ほどの記事だと、主な神経伝達物質は18種類とのことだけど、そんな少ない種類で人間の色んな感覚を再現できるか…?」と思うかもしれませんが、これはちょうど実際よく言われることで、「熱い」って実は「痛い」とほぼ同じなんですよね(あぁ、よく言われるのは「『辛い』は『痛い』と同じ」かもしれませんが、ちょうどカプサイシンと熱は同じ作用があるということでしたし、まさに同じ話ですね)。

 

なので、実は我々が「熱い」と感じているのは、目で見た情報を総合して「あ、めちゃくちゃ火にかけた鍋を触っちゃった、これは『痛い』んだけど『熱い』ってことだな」と判断しているだけとも言えまして、正直「熱さ」と「痛さ」にさほどの違いはないように思われます。

 

それはズバリ、結局は人間は似たような興奮性の神経伝達物質を受け取っているにすぎないから、って話に落ち着き、感覚にはそれほどバリエーションはないということの裏返しだからなんですね。

(なので、例えば真っ暗闇で何も見えない所でふとめちゃくちゃ熱いものに触れてしまったら……って、そんなの危なすぎるのでそんな状況もほぼあり得ませんけど(笑)、もしそうなったら、何に触れたか分からず、熱いのか痛いのかすらよく分からないままパニクる感じになるはずです。

…とはいえこの場合も、自宅の配置なんて記憶に刻まれてますから、「あ、ストーブ消し忘れてたのに触っちゃった!」とか(まぁストーブがついてたら明るいので分かるかもしれませんがそれも置いておくとして)、「推測」が立つので、結局痛みの原因も何となく瞬時に分かるっちゃ分かるかもしれませんけどね。)

 

ちなみに、この「興奮性・抑制性の各種神経伝達物質が、体内でどのぐらい分泌されているか」でその人の健康状態とかひょっとすると性格とかさえもほぼ全て決まっていると言ってもいいぐらいに、極めて重要なものになっているといえます。

 

一般的に、興奮性の神経伝達物質の分泌が悪い、あるいは受容体の数が少なくて、分泌しても上手く受け取れない場合ですと、何事にもやる気が生まれないし人生に希望や気力が全く出ないという、生きる上で非常に良くない感じになってしまいますし…

(原因が前者=分泌が悪いという感じなら、神経の調子が悪く、「一時的に気分が塞がっている」という感じだと思いますが、後者=そもそも細胞側の受け皿が少ないような場合、「持って生まれた性格が、基本的に無気力」となってしまう感じといえるかもしれませんね……まぁそれでも分泌量が増えれば受ける量も増えますし、一概にそうは言いきれませんが…)

…逆に、興奮性の物質が過剰に出過ぎると、暴力的になったり常にイライラしていたり、度を越すと統合失調症的な症例を示すなど、ありすぎてもよくないわけですね。

 

抑制性の方も同様で、分泌が悪いと不安感に襲われるとか眠れないとか、あとは上記メルクの記事にもありました通り、代表的な抑制性物質のアセチルコリンが減少するとアルツハイマーを発症してしまうみたいな話もありますし、逆に抑制性が過剰になると興奮性の過少と同等の状態になってしまうということで、結局は本当に、バランスが全てといえるように思います。

 

…と、もうちょい書こうと思っていた話もあったのですが、今回もまた30分ほどアップ時刻を先倒しにしたにもかかわらず完全に時間不足になってしまったので、今回はこの辺にして、また少しだけ神経に関する続きを次回ちょろっと書いてみようかな、と予定しています。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村