もう1つのキモいやつ

消化酵素の話をしているついでに前回は消化の話に脱線していましたが、長々と書いていた割に、結局、

「言ってることバラバラすぎて、結局どういうことなのか、自分の中で上手く消化できかねますわいHAHAHA」

とか適当抜かして、日常生活でいう「消化にいい」がどういうことなのか分からないまま、放っぽり出して終わっていました(笑)。

 

まぁ結局、脂分より水分が多めで、いわゆる「重くない」ものが消化にいいんだろうな、ってのは推測が立つわけですが、それにしてはマヨネーズとかバターとかが消化に良かったり、パイナップルは消化に悪いってのもちょっと理解に苦しむ感じではありましたけど、まぁ普通に、

「胃腸が弱っているときは自分の体感で食べたくなるものを食べるのが良いでしょう、身体というのは正直なものです」

…と、結局ボンヤリした漠然とした話にならざるを得ませんが(笑)、それぐらい栄養学というのは複雑で一筋縄ではいかないものだということですね、面白いです……などとポジティブに締めくくろうかと思います。

 

それではこないだの「偉大な消化酵素・トリプシン」に続き、せっかくなので「三大タンパク質分解酵素」の最後の枠まで見ていこうかなと思い立った次第です。

 

もちろん他にもまだいくつかあるわけですけど、人間の持つタンパク質分解酵素は、胃で働くペプシン、腸で働くトリプシンと、もう一つ同じく腸で働く、有名でメジャーな酵素が存在しています。


それがズバリ……キモトリプシン

 

そう、トリプシンにそっくりな名前で、「肝トリプシンってこと?」と初見時は思いがちなのですがそういうわけでもなく、また当たり前にも程がありますが記事タイトルで挙げたように「キモい」というわけでも決してなく(笑)、これは普通に英語ではchymotrypsinで、アメリカ英語だと「カイモトゥリプシン」と呼ばれる語になるわけですけど、まあまあ、実際「トリプシン」に「chymo」という接頭辞がついただけなので、トリプシンのバッタもんというか兄弟分子に思える気もするものの、実際はペプシンとトリプシンが語尾は似ているけれど別物であるように、こいつらも全くの別物なんですね。

 

(とはいえ、「タンパク質分解酵素のグループ」としては、しばしば「どのアミノ酸がタンパク質切断に重要か」という分類でカテゴライズされるんですけど、ペプシンはこないだ見ていた通り(↓)…

con-cats.hatenablog.com

…2つのアスパラギン酸が機能するんですけど、トリプシンと今回のキモトリプシンはセリンが活性中心でして、「セリンプロテアーゼ」と呼ばれているという共通点はありますけどね(「プロテアーゼ」=「タンパク質分解酵素」のこと)。

(もちろん、ペプシンは「アスパラギン酸プロテアーゼ」と呼ばれるファミリーの一員です。)

 あくまでも同じファミリーなだけで、酵素としては全く別物とはいえるわけですが。)

 

(ちなみに「chymo」ってのは、がんの治療で「キモセラピー」なんて聞くと思うんですけど、あれと同じ……と思いきや、そちらは「Chemo」で、「ケミストリー」の「化学」という意味になるため、違いました(笑)。

 キモトリプシンの方のキモは、「juice, liquid」という意味で、「汁・液体」という意味の接頭辞ということですね。

 まぁ「キモ」なしのトリプシンも同じように膵臓から分泌される液体に含まれるので、こいつだけ「chymo」付きなのも解せませんが、まぁ名前がつけられた太古の昔から別物だということは分かっていた感じだといえましょう。)

 

さらに、トリプシンとキモトリプシンには、実は名前以上の面白いつながりもあります。


まず、キモトリプシンもタンパク質分解酵素ですから、合成されたら自分のみならず周りのタンパク質をガンガン分解する危ない酵素になるわけですけど、その「無差別分解」を防ぐために、これまた面白い仕組みが備わっているのです。


キモトリプシンというのは「前駆体」と呼ばれる、「タンパク質を切断する力がない」状態でまず作られて、その前駆体が加工されて、活性を持つ本来の酵素に生まれ変わるのです。

酵素ができたら、その場で周りのタンパク質を分解してしまわないためのナイスな処置といえますね。

(強い酸性状態でのみ働くペプシン(=基本的に胃の中でのみ機能)と違い、キモトリプシンの至適pHは弱アルカリ性…いわば普通の細胞環境でも結構な活性を有するといえるため、この仕組みがなかったら大変なことになってしまっていた、ともいえそうです。)

(ちなみに、こないだは詳しく触れませんでしたが、実はこれはトリプシンも同じなのですが……そちらも、下でまた触れようと思います。)


ややこしいかもしれませんが、それぞれには名前がついており、前駆体のキモトリのことを「キモトリプシノーゲン」と呼んでおり、それが加工されて生まれた、タンパク質切断能力を持つ本体を「キモトリプシン」と呼んで区別されています。

 

ja.wikipedia.org

…で、↑のウィッキー先生の記事にある通り、その「加工処理」というのは何気にこれまた「タンパク質の切断」であり、キモトリプシノーゲンの最初の15アミノ酸がスパッと切断されることで「キモトリプシン」に変化するわけなんですが、そう、そのときに「スパッ」と介錯を与えてくれるのが何を隠そう、我らがトリプシン先生なんですねぇ~。


ウィ記事に、

トリプシンはキモトリプシノーゲンのアルギニン-15とイソロイシン-16の結合を開裂させる。

…とあるように、トリプシンというのは「LysまたはArgのお尻側を切断する」という酵素でしたから、その知識の通り、トリプシンはキモトリプシノーゲン15番目のアルギニンの後ろ側でスパッと切断することで、生まれ変わってタンパク質を切断できるようになったキモトリプシンが爆誕する…という、そんな話なのでした。

 

ちなみにこないだ詳しくは触れていなかった話として、トリプシン自身も全く同じ「自身の能力解放機構」をもっており、トリプシンも「最初の15アミノ酸がスパッと切断されることで、K/Rを切断できる成熟型酵素になる」ということは、以下の、前駆体物質であるトリプシノーゲンの記事に掲載されている通りです。

 

ja.wikipedia.org

全く別の酵素なのに、全く同じように最初の15アミノ酸が切断されることで活性型へと変化する……やはり名前が似ているだけあって、兄弟分子とはいえるのかもしれませんね。

 

とはいえキモトリプシンの方は、切断対象のタンパク質(アミノ酸)が全く違い、こちらは酵素本体のWikiP記事にある通り(↓)……

 

ja.wikipedia.org

「芳香族アミノ酸」の後で切断するということなので、鋭い方ですと「あっ、ペプシンの切断部位と被ってるジャン!」と思われたかもしれませんが、ペプシンは「酸性アミノ酸-芳香族アミノ酸」という2連だったのでそういう違いがあるという以上に、実は「芳香族アミノ酸」というのは正確ではなく、ペプシン認識配列の後半であった「フェニルアラニンヒスチジンチロシントリプトファン」と比較して、ベンゼン環そのものは存在していなかったヒスチジンが対象外になる一方、なぜかまさかのロイシンが対象に加わっているということで、正確には「フェニルアラニンチロシントリプトファン、ロイシン」の4つが切断対象になるようです。

 

ロイシンは、どの生物でも最も多く含まれるアミノ酸といえるぐらいの存在頻度でしたから、「切断能力(切断箇所の多さ)」でいえば、トリプシンよりもむしろこのキモトリプシンが最強といえるまであるぐらいなわけですね!

 

…と、もうちょいその辺について細かく触れようと思っていたのですが、また時間がなくなってしまいました。

 

↑のウィ記事にも結晶構造のモデル画像がサムネイルで表示されていますが、せっかくなのでここ最近よく見ている、自分で3Dモデルをぐるぐる動かせるRCSBのビューア画像をお借りしましょう。

 

今回選んだ結晶構造モデルは、ヒトのキモトリプシンの内(実は同じキモトリプシンでも、微妙に配列の異なるタイプが存在しています(でも、名前が同じなので当然、機能は同じ))、キモトリプシン-Cと呼ばれるやつですね。

Wikipediaの画像は、A型のようです)

 

https://www.rcsb.org/3d-view/4H4F/1より

まさにこの通り、これは活性を持つ「キモトリプシン」なので、1-15番までは既に取り除かれて存在しない状態であることが、上部に表示されている配列からお分かりいただけるかと思います(アミノ酸配列が、16番から始まっている)。

 

また、この結晶構造は、eglin Cというキモトリプシンの切断機能を邪魔する「阻害剤」と一緒に解明された共結晶構造とのことで、下にあるオレンジの小さい分子が阻害剤のエグリンCだということですね。


当然、エグリンは、キモトリプシンの活性の重要な部分に覆いかぶさって邪魔していることが推察されます。


キモトリプシンは「セリンプロテアーゼ」ということは最初の方に書いていましたが、調べてみたら、195番のセリンがタンパク質分解に最も大きく寄与するキーアミノ酸ということで、若干分かりにくいですが、上の画像では195番Sにカーソルを合わせてハイライトしてあります。

 

ズバリ、ちょうどドンピシャ真ん中ぐらいに、ピンクでハイライトされた小さな部分があると思うのですが、これがS195で、オレンジのエグリンの細くヒョロッと出っ張った部分が近づいて邪魔していることが窺えますね…!

 

このように、大きな酵素でもやはり特定の分子が反応に関与している形になるわけです、ということがまたこの画像からも分かった形だといえましょう。

では次回もまた、もうちょっとだけ消化酵素について見ていこうかな、と思っています。

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