脂肪とは…

誰しもが知っている身近な物質、現代人には目の敵にされている脂肪ですが、「勝手に有機化学入門講座」として、今回は脂肪について触れてみましょう。

…といっても有機化学の視点から見ているシリーズですので、生き物と脂肪との関わり、つまり栄養としての脂肪というより、まず「脂肪とは物質として何なのか」みたいな、例によってあんまり面白くない話からになりそうです。

そもそも脂肪という単語は、日常生活ではDNAとかタンパク質より遥かによく使われている単語なんですけど、実はこいつはかなり漠然とした用語で、定義があいまいであり、科学の世界ではほとんど使われません。
(でも、日常生活では細かい定義なんてどうでもいいので、「お腹に脂肪がついちゃった」みたいに使っても全然問題ないですし、それで何をいってるのか分からない人など絶対に存在しないでしょう。)

学問的には脂肪ではなく、「脂質」という語が使われます。

しかし、実はこの「脂質」というワードも、結構定義があいまいなのです。
(一般的には「生物由来の、水に溶けにくく、油に溶けやすいもの」みたいな定義ですが、「溶けにくい」とか、もうこの時点であいまいですしね。)

逆にいうと、それだけ脂質というのは幅広い物質を含んだ総称であり、一口に脂質といっても色々なバリエーションをもったやつらが含まれるということなんですね。
(「ヌクレオチドが一直線につながったもの:DNAやRNA」「アミノ酸が一直線につながったもの:タンパク質」のように、全ての構成メンバーをバシッと決め打ちできる完璧なルールが存在しない。)

ただし、そうはいっても共通項のある物質同士でまとめることはできるので、特に生化学・栄養学分野では、似た性質のあるグループごとに覚えるというか、ある程度のカテゴリー分けすることは可能になっています。

しかし、かな~り細かくて相当複雑な話になる上、その多くはあんまり生活に直接役立つ話でもないので、詳細は後回しにしましょう。

脂質を語る上でまず一番重要なポイント、それはやはり、脂質というのは基本的に脂肪酸アルコールが合体してできたものだ、という話に尽きます。

こないだのグリセリンの記事でもちょろっと話に出していましたが、改めて振り返っておきましょう。

結局細かすぎる話にどうしてもなっちゃうのですが、意外と重要なので、あえて構造を含めて触れてみますと、カルボン酸(カルボキシ基-COOHを含む有機物)とアルコール(ヒドロキシ基-OHを含む有機物)は、混ぜるとCOOHとOHが反応して、合体することが知られています。

これは何気に重要な反応であり、これを、何とな~くどこかで聞いたことがあるかもしれない気もするワードで、エステル化反応と呼んでいます。

一番有名な例(高校の有機化学でも最初に習う)は、酢酸とエタノールの反応でできる、酢酸エチルでしょうか。

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CH3COOHのOHと、C2H5OHのHとが手を組んで離れていくことで合体し、CH3COOCH2CH3の示性式で表される酢酸エチルが産まれるわけですが、OHとHが外れることから、これはずばりH2O、水であり、こいつは脱水縮合と呼ばれる反応になっています(が、そんな名前はどうでもいいでしょう)。

ちなみに矢印が両方向になってる通り、この反応は、脱水縮合で酢酸エチルができますが、その後速やかにまた水が加わって逆方向にも反応が進み(加水分解)、再度酢酸とエタノールに分解されるので、要は行ったり来たりの反応なんですね。

でもまぁその辺を詳しく覚える必要はないでしょう。

なお、この酢エチはパイナップル臭というか特有の果実臭のする物質で、よく説明に使われるのが、駄菓子屋で売ってそうな、昔懐かしい、透明の液体というかゼリーみたいなやつをぷく~っと膨らませられる風船(風船玉とかトラバルーンとか呼ばれてるんでしょうか。結構丈夫で、キラキラ綺麗なプラスチック風船ですね)、あれを使ったことがある方なら、特有の匂いがしたのを覚えてらっしゃると思いますが、あれがズバリ酢エチのにおいですね。


まぁ酢エチはどうでもいいとして、このように、-COOHと-OHは反応して、エステルと呼ばれる物質を形成することが知られているわけです。
(生じた-COO-の部分を、エステル結合と呼んでいます。つまり、この結合を含む物質は、エステルというグループの仲間に含まれる、ってことですね)

で、話を脂質に戻すと…。

こないだの記事で書いたとおり、脂質というのは、3つのOHをもつ三価アルコールであるグリセリンと、炭化水素の鎖の末端がCOOHになったカルボン酸の一種・脂肪酸とが合体して存在している物質であると中学理科でも習うわけですけど、これはまさに、分子レベルでは、グリセリン脂肪酸エステル化によって生じた物質だということだったんですね。

エステル結合は割と弱い結合なので、脂肪酸は、グリセリンにくっついたり離れたりして生体内に存在している感じなわけです。
脂肪酸グリセリン(最新の知見では、脂肪酸1つがグリセリンにつながったまま残った、モノグリセリド)に分解されることもあるし、逆に、グリセリンの空いてるOHに改めて脂肪酸がくっついて、脂質、いわゆる日常生活でいう脂肪として体内に貯蔵されることもある、ということ。)

しかし、グリセリンはこないだの記事で見ていましたが、脂肪酸とは結局何なのか?

もちろん、名前からも明らかに脂肪脂肪している通り、この脂肪酸こそが、脂質を日常生活でいう所の脂肪っぽくする物質なわけですが、何度か書いている通り、これは結局、炭化水素の鎖(長さはまちまち)にCOOHがくっついただけのもんなんですね。

「あれ?こないだ具体的な構造も含めて、そんなやつ見てなかった?」と思われる方がいるかどうかは分かりませんが、そう、こないだ見ていたDHA、これもまさに、脂肪酸の一種なのです。

(再掲:DHAこと、ドコサヘキサエン酸)

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Wikipediaより

難しいことはマジで何もなく、長い炭素の鎖の端っこにCOOHがついている、それが、脂肪酸と呼ばれるやつらなんですね。

有機物は、最も単純なメタンCH4から始まりましたが、こいつは「メタンガス」と呼ばれるように気体、一方こいつに-OHがついたらメタノールで、アルコール化して液体になるように、ちょっとの違いで有機物の状態は様変わりします。

脂肪酸自身は、COOHがあるおかげでそれなりに水に溶けやすい性質があり(これも、「なぜCOOHがあると水に溶けやすいのか?」とかは、分子の極性といった、究極的には電子の絡むキモイ話になるので、そういうもんだと覚えてしまうのが吉でしょう)、一方、長い炭素の部分は水には溶けにくく、油のような、ドロッとした性質を示します。

だから、脂肪酸自体は、少量ですが水に溶かすこともできるんですね(力水にDHAが溶け込んでいるのは、COOHがあるおかげです。)

一方、「脂質」は脂肪酸エステルのことであり、水に溶けやすいCOOHの部分がエステル結合で隠れて(いなくなって)しまっていますから、結果として、脂質というのは水に溶けにくいという話につながるんですね。

「水と油」なんてよくいいますし、例えばラーメンの汁で、油が水に溶けずにプカプカ浮かんでいるのは、誰でもイメージできるかと思います。

なお、基本的に、というのは液体であり英語でoil、逆に霜降り肉の白い部分みたいな、固体の脂は英語でfatと呼ばれて区別していますが、日本語ではどちらもアブラと呼ばれることが多いでしょうか。

もちろん当然、脂肪酸の中にも、固まりやすいヤツ・固まりにくいヤツが存在しています。

その秘密は……何を隠そう、二重結合にあったのです!

だから、脂肪の話の前に、二重結合に触れておく必要があったんですね。

また、DHAは炭素の数が22個でしたが、これも何度か書いている通り、脂肪酸の中には色んな数の炭素鎖をもつものが存在します。
DHAは、いっぱい存在する脂肪酸グループの中の、単なる1メンバーということ。)

脂肪酸と二重結合の関係、それから炭素数の違い、その辺は本当に色々ありすぎてややこしいので細かく逐一は触れずにサラッとさわりだけ見ていこうと思いますが、例によってスペースの都合で、また次回とさせていただきましょう。

今回は、エステル結合について触れられただけで十分ですね。

脱水縮合であるエステル反応によりちょうど水分子がいなくなりますから、エステルの一種である脂質は、まさに水に溶けにくくなる、というイメージをもつのも、物質を化学レベルで認識する感じで悪くないかもしれませんね。

まぁ、細かすぎてどうでもいい点ではありますが…。

というわけで、脂肪の話が続きます…。

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