唐辛子はホット!ハッカはクール!

脊椎動物の話へ入る前に、セキツイといえば…という流れでおもむろに見始めていた神経の話ですが、前回の記事では、神経は電気信号で情報を伝えている(それを生み出しているのはイオン)という話から、熱さが伝わる仕組みについてサワリだけ見始めていました。

 

まず神経についてですが、↓のGIF画像をお借りして、こんな感じで電気パルスが神経細胞を伝わっていくのです…などと書いていたわけですけど……

https://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textlife/neuron.htmより

…そもそも「いやこれは何だよ」って話だったかもしれませんが、これはズバリ一つの神経細胞で、神経細胞の特徴としましては、まさにこのイラストで描かれているような、名前はどうでもいいですけど、樹状突起と呼ばれる髪の毛のような枝分かれした細長い部分と、目玉のような核はまぁどの細胞にもありますけど、あとはニョキッと延びた足の部分、これは軸索と呼ばれますが、神経ってのは概ねこんな、樹状突起と軸索という特徴的形をもったものになっているんですね。


両端の毛髪のような突起部分は、まさにGIFアニメでも描かれている通り、シグナルを受け取る役割、また反対側の突起部では逆に次の神経やあるいは筋肉などにシグナルを放出して伝える役割があり、一方の軸索は当然、身体は物理的にサイズがありますから、距離を稼いで遠くまで信号を伝えるために伸長するように進化したものだといえましょう。


これが1つの細胞で、もちろん場所によって小さいものから大きいものまであるわけですけど、一番大きいものだと、坐骨神経細胞と呼ばれる、文字通り座る際の骨=お尻あたりから下半身を縦断する形で存在するものは、なんとたった1つの細胞なのに1メートル程度もの大きさにまで成長するものもありまして、普通にこの細胞が人体の中で最も大きな細胞として知られています。

 

まぁいずれにせよ、神経細胞の形とかはあんまり別にどうでもいいっちゃいいのですが、受け取ったシグナルを、神経細胞の内部では電気信号の形で伝えて、別の神経細胞へは何か最後に丸いボールが発射されている様子がGIFアニメで描かれている通り、神経伝達物質と呼ばれるものを放出することでシグナルが伝わっていくと、そうなっているのでした。

 

(なので、前回は「神経のシグナルは全て、電気信号が伝えている…」という話をしていたわけですけど、神経間は「神経伝達物質」と呼ばれる特別な低分子も使われている感じですね。)

 

それを踏まえて…って程でもなくあまりつながりはないかもしれませんが、具体的に見ていた「熱を感知する部分」として有名な、TRPチャネルというものの概念図も、現在名市大で研究をされていらっしゃる富永真琴さんによる非常に分かりやすい解説PDF記事から再掲させていただき、続きに参りますと……

http://tenaca-nips-2016.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20161004145432-C9A0307CDC5BFFBE368042C37301506118242A368CDD5986EDA4A983ED7B8D92.pdfより

…このTRPV1という受容体は、外界(あるいは体内の別の細胞)から刺激を受けると上手いことパカッと開いて、ナトリウムイオン・カルシウムイオンのみを通過させることで細胞の中に入れてやり…

(なお、こういった、イオンの通り道になる分子を「チャネル」と呼んでいます。ちなみに、ナトリウムイオンは元々細胞の外の方が多いものなので、これは「濃度勾配に逆らった汲み出し」ではないため、一般的に受動輸送と呼ばれるものになっています。

 濃度勾配に逆らってイオンを汲み出す作用=能動輸送を行う生体分子は、ずっと前呼吸の話で見ていました、「イオンポンプ」と呼ばれるものでした→参考:チャネルとポンプ

…チャネルが開いた結果、陽イオン流入により細胞の中にプラスの電気が発生し、その電気が信号として長い神経細胞の中を逆の端っこまで伝わっていく……という流れになっているという話でした。


この受容体はよく出来ていることに、43℃以上の熱が加わるとパカッと開くようになっており、当然熱ければ熱いほど沢山のチャネルが勢いよく開いて「熱」の情報が一気に伝わるのでしょう、そんな感じで「熱」といういわば物理現象みたいなものが、身体の表面に触れてそれが神経内を伝わっていくことで脳に「熱い」という信号となって伝えられるということなんですね。

 

そんなわけで、「熱」というのはこのTRPチャネルが開くことで伝えられるものとなっているわけですが、

「どうも胡散臭ぇな…見てきたように言ってるけど、本当かよ。熱いものは熱いから熱いと感じるんだろ」

…みたいに思えるかもしれないんですけれども(何のこっちゃかもですが(笑)、熱がそんなよく分からんチャネルだけで感知されているとは到底思えない…みたいな感覚ですね)、これはまぁ、例えば爪なんかには当然このイオンチャネルは存在していないわけですけど、爪の表面で熱いものを触っても、そういえば熱さは感じないといえるのではないでしょうか。


いやもちろん、爪の下の肉にはこのチャネルがしっかり存在していますから、あまりにも熱いものを爪の表面で触ってしまうと「アチッ!」とはなるとはいえますが、伸びた爪の白い部分の先っぽとか、あぁ後は似たような「チャネルが存在しない部分」でいえば髪の毛とかもありますけど、髪の毛がめちゃくちゃ熱い鍋とかに触れてしまっても、特に「アッツ!!」とはならないですよね。

 

これは結局、爪や髪にはこのTRPチャネルが表面に埋まった感覚神経が存在しないからで、それは裏を返して言えば、熱を感じているのはTRPチャネルが存在しているからに他ならないと、そう言える話になっているわけです。

(ってまぁ、「爪や髪にTRPチャネルとやらがない証拠は?」と言われたら言葉に詰まりますけど、まぁこの手の受容体が表面に埋まっている感覚神経というのは皮膚の肉っぽい部分にあるもので、爪や髪や歯など硬い部分にそういう分子がなさそうなのは、納得いただける話ではないかと思います。)

 

何とも独りよがりな質問を勝手に書いて勝手に答えているだけでよぉ分からん話になってしまった気もしますが、そんな話をより分かりやすく伝えてくれているのが下の図ですね。

http://tenaca-nips-2016.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20161004145432-C9A0307CDC5BFFBE368042C37301506118242A368CDD5986EDA4A983ED7B8D92.pdfより

あまりにも熱いものを触ってしまうと、信号は脳へと伝わるより先にまず筋肉の運動神経へと伝わることが優先され、頭で意識する前に手を引っ込めることを可能にしているのが「反射」という生体反応だったわけですが、そういえばどういう仕組みで、どのぐらいの信号が発生したら反射が優先されるのか?…とかいった話は、僕は聞いたことがなかった気がしますね…。

 

時間があるときに調べてみようと思います。

 

…と、今回触れてみようと思ったのはそこではなく、最初に貼った「図2」にもありました、唐辛子


このTRPチャネルというのは、あの図にもありました通り、熱だけでなく、唐辛子に含まれる、どなたも聞いたことがあると思われる有名分子・カプサイシンにも反応するようにできているんですね…!

 

ja.wikipedia.org

 

熱が加わると構造が上手く変化してイオンを通すこのTRPチャネルでしたが、面白いことに、カプサイシンが結合しても構造が変わってイオンを通す感じになっているということで、これがつまり、唐辛子を食べると「何だか体中が熱いっ!」と感じる理由だったんですねぇ~。

 

まぁ唐辛子入りの料理なんて基本的に温度的にもアチアチなのでややこしいかもしれないものの、冷めた料理でも、唐辛子を食べまくると(特に唇や舌は)めちゃくちゃ熱く感じると思うんですけど、それはこういった分子機序=熱を感知する受容体イオンチャネルを、全く同じように開いて電気信号を神経に送ることができるから、というのがその理由だったのでした。

 

また、引用PDF記事にもその旨が触れられていましたけど、「冷たさを感じる受容体」というのも存在しまして(同じTRPファミリーのイオンチャネルですが、当然別のもの、具体的にはTRPM8やTRPA1と呼ばれるものになっています)、このチャネルは体温より低い冷気を感じると開くのみならず、ミントに含まれる清涼成分メントールが結合しても開くようにできているため、ミント系のものを食べるとスース―涼しい感じがするし……

ja.wikipedia.org


…他にも例えば、以前ネットで話題になっていた、数滴垂らすだけで真夏でも風呂上がりに(どころか、温かいお湯に入ってるときでさえも)極寒の環境を得られることで有名なハッカオイル「アイヌの涙」なんかも、こういった冷気受容体に働きかけて、チャネルを全開にして信号をブッパし続ける形でその効果が得られていると、そういう話になっているわけですね。

アイヌの涙は、軽く検索してみたら、探偵ナイトスクープが由来なのかもしれませんね。TV番組は動画で貼れませんし、参考リンクとしては、Togetterまとめのいろんな人の反応をお借りしてみましょう↓)

togetter.com

 

唐辛子フーフーもハッカヒヤヒヤも、全てはTRPチャネルというものが働いた結果得られる電気信号、ある意味では「錯覚」ともいえるものなわけでした。

 

(ちなみに、実はカプサイシンというのは脂溶性であり、細胞膜ってのは脂質でできていますから、カプサイシンは細胞膜をくぐって細胞の中に侵入できる分子でして、ちょうど図にもあった通り、このTRPチャネルとは細胞の中から結合できるようになっています。

 唐辛子を食べた後に水を飲んでも熱さがすぐに消えないのは、水は細胞膜を通過できないけれどカプサイシンは膜の内側で作用していやがるから…つまり、カプサイシンのチャネルへの結合を洗い流すことができないからなんですね。)

 

…と、今回もちょっと時間不足につき、記事アップ時刻が普段より遅れてしまいましたが、もう概ね触れ終えた気がするので、少しずつまた動物の分類に歩を戻して行こうかなと思っています(あぁでも、反射について何か分かったことがあればまたまとめてみたいですね)。

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