いい脂肪、悪い脂肪

前回に引き続き脂肪の話、今回は有機化学的な物質っぽい内容から、より生活に近い、身近な話へと近づいていけそうなネタですね。

よく健康番組とか、それ以外にも普通に食用油のラベルとかでも見る気がしますが、「いい脂肪と悪い脂肪」なんて話は、よく聞く気がします。

もちろん、脂質自体が一枚岩ではなく色々なタイプが存在するので、一口に断定するのも難しいのですが、前回ラストにチラッと書いていた通り、その脂肪の善悪を分ける最大のキーは、二重結合にあるといえましょう。

二重結合に関しては、こないだの記事で構造について軽く触れていましたが、ああいう炭素同士が2本以上の腕を同時に使って手をつないでいるもの、つまり、一重結合(単結合)以外の結合を不飽和結合とも呼ぶことがあるのです。
(もちろん、単結合飽和結合。)

このワードの意味としては、基本的に炭素Cと水素Hの結合はとても安定であり、二重結合があるとその分安定な単結合でつながっている水素の数が減りますから、水素の数が飽和していない(まぁ単結合の相手は必ずしも水素だけではないので、水素に限らず、「安定な結合が減っている」の方が適切かもしれませんが)=他の原子や官能基が新たに割って入ってくる余地があるという意味で、不飽和と呼ばれている感じですね。

まぁ別にあんまり使われない用語なので覚える必要もないんですけど、この脂肪酸の話に限っては、唯一、よく出てくるというか、おもむろに脚光を浴びるワードになっています。

恐らく飽和脂肪酸不飽和脂肪酸という言葉は、どこかで必ず聞いたことがあるのではないでしょうか?

聞いたことがあっても意味まで理解されている方は少ないかと思いますが、何てこたぁない、飽和脂肪酸というのは二重結合の一切ない、アルカン(炭素と水素のみの、一番単純な有機化合物)とCOOHがつながったもののこと、一方不飽和脂肪酸というのは、炭素鎖の部分に1つでも二重結合(もちろん用語的には三重結合があっても不飽和ですが、三重結合みたいな不安定なものは、自然界で見られる脂質には出てきませんね)がある脂肪酸のことをいっているだけだったわけですね。

詳しい話をしてもややこしくて面白くないだけなので、ざっくり語ってしまうと、基本的に、「二重結合がないものは安定=しっかりカッチリしている」というイメージの通り、飽和脂肪酸の方が、融点が高くなることが知られています。

「融点が高い」というのも、慣れないと「ん?どゆこと?」とパッと聞きでは悩んでしまうかもしれませんが、固体になり始める温度が高いということですから、要は固まりやすいっていうことなんですね。

一番分かりやすい水の融点は0℃なので、体温では水は当然液体ですが、例えば炭素数12のドデカンからできる脂肪酸であるドデカン酸の融点は44.2℃なので、体温付近ではこいつは既に液体ではいられず、体温とか普通の室温では固まった状態として存在することになるんですね。

もちろん、基本的に脂肪酸というのは単独ではなくエステルや塩(イオン)として存在することが多いので、単体の融点どうこうが直接体内での動態に関係するわけではないものの、あくまでイメージとして、飽和脂肪酸を摂りすぎると、こいつらは融点が高いですから血液の中でも簡単に固まってしまい、血管がふさがってしまって良くない、というイメージ(くどいですが、脂質代謝はもっと複雑なので、そんな簡単に血管が詰まることはありえませんけど、あくまで印象として、ですね)につながるといえましょう。

そんなわけで、一般的に、飽和脂肪酸の摂りすぎは健康に良くないといわれています。

まさに、血液がドロドロになっちゃうイメージですかね。

しかし悩ましいことに、飽和脂肪酸が豊富に含まれるのは、基本的に動物性脂肪、具体的には牛乳バター卵黄チョコレートなど、人間にとってクッソ美味しい魅力的な食品が多いんですね。

まぁ、美味しいからこそ過剰に摂取してしまいがちなのであり、逆にいうと極めて高い栄養価をもつ優れた食品(物質)ともみなせますし、適量であれば健康面に問題はないともいわれています。

(逆に、欠乏で害をもたらすという話もありますが、これは栄養学の専門家でもなんでもない僕個人の勝手な意見ですけど、現代の食生活で飽和脂肪酸が欠乏することなどまずあり得ないと思うので、その心配をする必要はなく、やはり過剰摂取の方に気をつけるべき物質なんじゃないかな、なんて気がします。)


一方不飽和脂肪酸は…とそちらにいく前に、飽和脂肪酸の方で具体的に何かないか、個別に物質をチェックしておきましょうか。

こちら、恒例のWikipedia大先生から、よく知られた飽和脂肪酸のまとめになります(文字列の表ですが、スクショの画像で)。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/飽和脂肪酸より

脂肪酸もやはり身近な物質ですから、ほぼ全て、「(アルカン)酸」以外にも慣用名が存在する感じですね。

基本的に炭素鎖が長くなるほど融点は高くなるわけですが、食用油として生物で使われるのはもっぱら炭素数16のパルミチン酸より長いやつらで、やはり融点はかなり高いことがうかがえます(通常世界では、固体=脂の塊として存在)。

パルミチン酸とか、ステアリン酸とか、なんとな~く聞いたことがあるのではないでしょうか(生化学を学んだことのある人しか、ないのかな?何となく、生活でも目にするような気がしますが…)。

でもまぁ、正直、どれもほとんど耳にしませんね。

一応、何気に聞いたことがある人が多いかもしれないのは、先ほど話に出したC12のドデカン酸(ちなみに、表中の「12:0」というのは、「(炭素の数):(二重結合の数)」なので、飽和脂肪酸のまとめであるこの表の右側の数字は全て0ですね)、慣用名はラウリン酸ですが、こいつの硫酸エステル・ナトリウム塩(正確には、硫酸エステルは脂肪酸ではなくアルコールから生成されますが、結果的には同じ炭素骨格)である、ラウリル硫酸ナトリウムドデシル硫酸ナトリウム)、これ、成分表示に敏感な方であれば、ご存知かもしれませんね。

これはいわゆる石鹸の成分であり、洗剤シャンプーなんかで非常に広く使われている物質です。

そして、しばしば自然を愛する方(特にヘアケア界隈)には敵視されている物質でしょう。

まぁ実際硫酸塩というと響きは怖いですし、結構強力なタンパク質変性物質なのでまぁ気にされる方は気にされるのかもしれませんが、個人的には、別に石鹸で手を洗うのと似たようなもんだし、そんなに気にせんでもえぇんでない?って気はしますね。
(ちなみに、高校化学で覚えさせられますが、石鹸というのは、「高級脂肪酸のナトリウム塩」のことであり、まさにこれそのものなんですね。なおちなみに、脂肪酸が高級低級というのは値段ではなく、炭素の数が多いものを高級、少ないものを低級と呼んでいるだけです。)

また、余談ですが、生命科学・生化学系の研究室ではバリバリ使われまくっている物質で、なぜかこれは慣用名よりも正式名の方が浸透していまして、研究室では「ドデシル硫酸ナトリウム」を略してSDS(ナトリウムは英語でソディウム・硫酸塩はスルフェイトなので、Sodium Dodecyl Sulfateから)と呼ばれており、タンパク質をゲルに流して分析するという、分子生物学や生化学研究の肝の中の肝、マジで毎日やってるレベルの超絶おなじみ実験(SDS-PAGEと呼ばれてます)で登場する、ドチャクソ親しみのある物質です。


まぁまとめると、全般的に、飽和脂肪酸は、食生活から切っても切り離せないだけに、油断すると摂りすぎてしまうという意味で、「良くない脂肪」とされることが多いですね。

実際、何度も書いている通り飽和脂肪酸は安定しているので、体内でエネルギー貯蔵物質として蓄えられるモノ、つまりいわゆる体につくお肉の脂肪は基本的にこいつらですから、体型を気にされている方であれば、「キエェェーーッ、死ねやあぁぁーー!この世から消えてなくなれえぇぇーーーぃ!!」と、こいつさえいなければ世界は平和なのに…とも思える悪の枢軸、人類の敵、絶滅希望種といえるかもしれませんね。

ただ、味や食感がまろやかになり、人間にとって垂涎ものの食べ物を作り上げてくれるのもこいつらですし、何より、飢えと戦ってきた長い歴史の中ではずっと人類の味方であり続け、飢饉のときにはこれらのおかげですぐ餓死することもなく生き延びてこれたわけですから、個人的には、「ま、これのおかげで人類は発展してきたともいえますから…」と、若干肩もち派かもしれないですね。


一方、不飽和脂肪酸、この流れでいくと、当然、こちらが「いい脂肪、人類の味方、飽和とかいう脂カスは不飽和さんの立派さを見習えや、ペッ!」と、お役立ち有能アブラカダブラかと思いきや…!

実は、不飽和脂肪酸の方も、そんなに一枚岩ではなかったのです…。

というところで、飽和脂肪酸だけで大分長くなってしまったので、続き不飽和さんの方は、また次回とさせていただきましょう。

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