乳酸には2パターンある!

唐突に始まった呼吸に関する話から、嫌気的な反応へと脱線し、前回はアルコール発酵と乳酸発酵の2つについて、それぞれ簡単なこぼれ話に触れていました。

 

人体でもアルコール発酵が起こることがあること、そして、乳酸は従来「筋肉にダメージを与える物質」として知られていたものの、最近の研究ではどうやらそうではなかったことが判明した(カリウムイオンやリン酸の蓄積が原因)というネタでしたが……

 

…注意点として、ヒトの体内でアルコールが作られるのは、実は酵母菌が発酵を行っていたからというのがその理由だったので、これは実際ヒトが行っているわけではなくまさに「発酵」で問題ないですけど、「急激な運動を行い、酸素の供給が不十分になって嫌気的反応経路が進み、結果、乳酸が蓄積される現象」は、反応の流れなんかは乳酸菌が行う乳酸発酵と全く同じになるわけですが、ヒトが行う場合は、「発酵」とは呼ばれないというポイントが挙げられるでしょうか。

 

まぁ改めて、反応自体は同じ、ピルビン酸が乳酸脱水素酵素の力で水素が付加されて乳酸に変換されるだけであり、それをどう呼ぶかなんて、正直そんなの人間が勝手に名前を付けて呼んでるだけですから、全く本質的な話でも何でもないと思うんですけどね。


ただ人間の場合、乳酸は再びピルビン酸に変換されたり、肝臓に移ってまた別の反応経路へと移行する(例えば糖新生など……血糖値が不足した際に、生体内の代謝産物をまた糖へと戻していく反応ですね)上、言うまでもなく酸素が供給されればより効率の良い好気反応経路が進みますから、「乳酸だけを蓄積すること」は難しいため、急激な運動で乳酸が作られることを「発酵」というのはやはり語弊がある感じといえましょう。

 

なお、先ほどサラッと出した「ピルビン酸が乳酸脱水素酵素の力で水素が付加されて乳酸に変換」について、「ピルビン酸→乳酸という反応なのに、『乳酸脱水素酵素』って名前なの?」と違和感を覚えられた方もいらっしゃるかもしれませんが、これはまさに、ちょうどこないだも書いていた、「酵素というのは両方向への反応を可能にする」という話と同じものであり、まさに↑の段落でもちょうど書いていた通り、乳酸はまた(同じ酵素の力で、この場合は酵素の名前通り、脱水素=酸化されて)ピルビン酸にも戻ることが可能なんですね。

 

ただ、この酵素は面白いもので、実は同じ名前の酵素ではあるものの複数の型が存在しまして、それぞれどちらの反応を進めるのが得意か、ちょっと違う性質をもっていることが知られています。

 

こないだ酵素の話を見ていたときにも引用したことがありました、PDBプロテイン・データ・バンク)の『今月の分子』で、完璧に紹介されていましたね(↓)。

 

numon.pdbj.org

 

まぁそこまで深入りする話でもないので、「興味がある方はぜひ記事の方をご覧ください」と丸投げしておこうと思いますが、乳酸デヒドロゲナーゼ(=脱水素酵素)はそんな感じでピルビン酸⇔乳酸の反応を司ってくれているという形なわけでした。

 

…と、乳酸脱水素酵素には複数のタイプがあるのですが、ちょうど脱線ネタとして使おうと思っていた似たような話がありまして、実は乳酸自身にも、ちょっと異なるタイプが存在しているのです。

 

それが、乳酸の構造にまつわる面白い話で(まぁそない、そこまで面白くはないですけど(笑))……

 

…乳酸の構造は、ちょうどこないだの記事で取り上げていましたが、小さい画像なのでサムネ表示でばっちりですね、リンクカードで再掲してみると……

 

con-cats.hatenablog.com

 

…こんな感じ(↑)の、炭素3つの簡単な分子が乳酸なわけですけれども…

(ちなみに、ピルビン酸は、左側にある「OH」が二重結合の「=O」に代わるだけですが、OHのHと、画像では省略されているCの4本目の腕にいるHもいなくなる(その分酸素原子と二重結合を形成)ので、違いは水素原子2つ分、まさに「脱水素」された形ですね)

…とはいえ何気に、この「炭素を省略した構造」ではあまりにも分かりにくすぎるので、炭素も水素も一切省略していない構造式ものっけてみるといたしましょう。

 

検索したら、日本材料技研株式会社の分子情報ページに掲載されていました……まぁ、「こんなレベルの構造ぐらい、自分で書けや、30秒レベルだろ」って話なんですけど(笑)、やはりソースがあるというのが肝心ですからね、スクショしてお借りさせていただきました。

 

https://www.jmtc.co.jp/product/367/より

そう、これこの通り、乳酸というのは、真ん中の炭素を中心にして見てみると、4本腕の全てに、全く異なる原子(原子団)がくっついているという、非常に特徴的な構造になっているんですね。

 

しかもその4つも、水素原子-H、水酸基-OH、メチル基-CH3、カルボキシ基-COOHという、めちゃんこ基本的(カルボキシ基は、こいつがあると酸性物質になる、特徴的なものでもありますね。酢酸も、ピルビン酸もアミノ酸も、「~酸」がつくのはこのCOOHがいるからに他なりません)なやつがくっついているという、このネタを語るうえでお手本のような分子だといえましょう。

 

このように平面上の紙に描いた場合、4つをどのように入れ替えても、回転させるなり裏返すなりすれば全く同一の物質に落ち着くわけですけど、実は炭素の4本腕というのは平面的には伸びておらず、ピラミッド…というか正四面体という方が正確ですが、立体的に伸びている形になっているのです。

 

そうするとどうなるかと言いますと、実は配置によっては、全く同じもの(=炭素原子と、4種類のグループ)で構成されているのに、どうやっても重ね合わせることのできない……要は、「鏡に映った関係の物質」が存在することになるんですね!

 

4本腕に全部違うものが結合している時点で必ずそうなるわけですが…

(言うまでもないですが、同じものが2つあれば、そうはなりません。鏡に映った形のものも、上手く回転させてやれば、自分自身と重ね合わせが可能になります。

 なお、さらに言うまでもないですが「4本腕の内、3つだけ異なる分子」は、存在しませんね。「3つだけ異なる」は、2つが同じになるってことですから、自動的に「2つだけ異なる」形となります(笑))

…そういう、「4本腕に全部違うものがくっついている炭素」のことを「不斉炭素原子」と呼びまして、まぁ用語はどうでもいいんですが、さらに、そういう「鏡に映したものと重ね合わせができない」性質を、「キラリティーがある」などと呼んでいます。

 

ちょうどいい画像が、キラルに関するウィ記事にあったので、お借りしましょう(↓)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/キラル中心より

これは有機化学独特の記述法で、「太線での三角形は手前に存在する・点線での三角形は紙面よりも奥に存在する」ことを示すというお約束なのですが、ここで並んで表示されているXYZHがくっついた分子は、こういうピラミッド型キーホルダーを思い浮かべていただければ分かると思うんですけど、絶対に重ね合わせができない形になってるんですねぇ~。

(=鏡に映したものが、相手と一致する)

 

すなわち、乳酸には絶対に重ね合わせることができない2つのパターンが存在するといえまして、それぞれ「L体」または「D体」と呼ばれて区別されています。

 

全く同じ元素から成る同じ乳酸なのに、実はL体とD体とでは微妙に性質が違っているというのも面白い点でしょうか。

乳酸のウィ記事によると、

L体は融点53 ℃の無色固体、DL体は融点が16.8 ℃で、常温で粘りけのある液体として存在する。天然にはL体が多く存在する。

…とのことで、かなり違いますねぇ~。)

 

その辺の話ももうちょい深入りしようと思ったものの、またしても時間切れとなったので、また次回に続くという形にしてみようと思います。

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