モノクローナル抗体系に始まり、適応外(=メインの治療対象以外の用途)で片頭痛を予防する効果があるとされている薬を順に見ており、これまでは主に血圧を下げる意図で使われることの多いβブロッカー、カルシウムチャネル・ブロッカー、そして抗うつ剤であるSNRIと、その兄弟分子ともいえるSSRI(こちらは片頭痛予防効果が触れられてはいませんでしたが(むしろ副作用に頭痛があるかもしれないレベル)、調べたらSSRIにも普通に予防効果はあるといわれているようです)を前回見ていました。
引き続き片頭痛の予防薬グループを見ていく形ですが、今回は片頭痛記事の予防薬のリストで一番上に挙げられていました(まぁ順序は別に特に関係ないかもしれないものの)、てんかん薬になります。
まぁてんかん自体がハッキリした原因も不明で、完全な予防はまだできないものだと思いますが、同じく脳神経系の情報伝達が主要因と思われますし、てんかんを抑える薬が片頭痛を予防してくれるというのは、自然なことにも思えます。
早速参りましょう。
抗てんかん薬(旧・抗けいれん薬)(Antiseizure Medications (Formerly Known as Anticonvulsants))
抗てんかん薬(抗けいれん薬)は、てんかんやその他のてんかん発作の原因となるものへの治療に役立つものです。不安障害や神経障害性疼痛のような、他の症状も治療することができます。抗てんかん薬にはいくつかの種類があります。医療従事者と協力して、ご自身に最も適した抗てんかん薬を見つけましょう。
概要
抗てんかん薬(抗けいれん薬)とは何?
抗てんかん薬(以前はantiepileptic(※注:日本語だと同じ「抗てんかん薬」としか表せませんが、現在用いられている「antiseizure」の方が、より広い「てんかん様発作」全般を指す語になるようです)または抗けいれん薬(anticonvulsant)として知られていました)は、てんかん発作の治療や予防に役立つ処方薬です。医療従事者は、他の疾患の治療にもこの薬を処方することがあるかもしれません。
てんかん発作は、脳内の電気的な活動が一時的に止まらなくなることで起こります。これにより、脳の該当部に過剰な負荷がかかってしまうわけです。以下のような様々な症状が引き起こされ得ます:
- 異常な感覚
- 意識の喪失
- 転倒
- 制御できない筋肉の動き(けいれん)
発作というとてんかんを思い浮かべる方が多いと思いますが、てんかん様発作(しばしば症候性発作と呼ばれます)の原因は他にもいくつかあります。
抗けいれん薬と呼ばれなくなったのはなぜ?
この薬はてんかんの治療および予防に役立つため、医療従事者は現在、この薬を抗てんかん薬と呼んでいます。てんかん発作というと大抵けいれんを連想するものですが、すべてのてんかん発作がけいれん(ひきつけ)を起こすわけではありません。例えば、てんかん発作の中には一時的な錯乱や、凝視、かつ/または自覚や意識の喪失を起こすものもあります。
したがって、「抗けいれん薬」よりも「抗てんかん薬」の方が、この薬がどのような治療に役立つかを説明するのに、より正確な用語となっているのです。
抗てんかん薬(抗けいれん薬)のリスト
アメリカにおいては、医療従事者は数種類の抗けいれん薬を処方することが可能です。それには以下が含まれます:
- ブリバラセタム(ブリビアクト®)
- カンナビジオール(エピディオレックス®)
- カルバマゼピン(エピトール®、テグレトール®)
- セノバメート(エクスコプリ®)
- クロバザム(オンフィ®)
- クロナゼパム(セバークロン®、クロノピン®)
- エスリカルバゼピン(アプチオム®)
- エトスクシミド(ザロンチン®)
- フェルバメート(フェルバトール®)
- ホスフェニトイン(セレベックス®)
- ガバペンチン(ホリザント、グラリセ®、ニューロンチン®)
- ラコサミド(ビムパット®)
- レベチラセタム(ケプラ®、ロウェプラ®)
- オクスカルバゼピン(トリレプタル®)
- ペランパネル(フィコンパ®)
- フェノバルビタール(ソルフォトン®、ルミナル®)
- フェニトイン(ジランチン®、フェニテック®)
- プレガバリン(リリカ®)
- プリミドン(マイソリン®)
- ルフィナミド(バンゼル®)
- スティリペントール(ディアコミット®)
- チアガビン(ガビトリル®)
- トピラマート(トパマックス®、トピラゲン®)
- バルプロ酸塩製剤: バルプロ酸ナトリウム(デパコン®)、ジバルプロエクスナトリウム(デパコート®)、バルプロ酸(デパケン®、スタブゾール®)
- ビガバトリン(サブリル®)
- ゾニサミド(ゾネグラン®)
これらの薬は全て、以下のような特定の用途に使用されます:
- 焦点発作や欠神発作といった、発作の種類
- レノックス・ガストー症候群やドラベ症候群といった、発作を引き起こしている基礎疾患
- 年齢
医療従事者はまた、抗てんかん薬を2つの一般グループにも分類しています:
- 広域スペクトラム抗てんかん薬: この薬は幅広いタイプのてんかん発作を治療します。医療従事者は一般的に、患者さんの発作のタイプがはっきりしない場合、まずこの薬を処方します。広域スペクトラム抗てんかん薬には、レベチラセタム、ラモトリギン、ゾニサミド、トピラマートなどが含まれます。
- 狭域スペクトラム抗てんかん薬: この薬は主に焦点発作や部分発作を治療します。狭域スペクトラム抗てんかん薬には、エトスクシミド、プレガバリン、ガバペンチン、カルバマゼピンなどが含まれます。
抗てんかん薬は何に使用されるの?
医療従事者は、てんかんや症候性発作を治療するために抗てんかん薬を処方します。また、脳の手術中や手術後に起こるてんかん発作の予防かつ/または治療のためにも、この薬を処方しています。
医療従事者は、非てんかん発作関連のその他の疾患に対しても抗てんかん薬を処方することがあるかもしれません。抗てんかん薬の中には、他の疾患に対してアメリカ食品医薬品局(FDA)が承認しているものもあります。また、FDAが承認していない疾患であっても、医療従事者が抗てんかん薬を処方することもあります。これは薬の適応外使用とみなされます。特定の抗けいれん薬は、以下の治療に役立つかもしれません:
医療従事者の中には、減量を補助するためにゾニサミドまたはトピラマートを処方する人もいます。
リスク/メリット
抗てんかん薬の副作用は何?
抗けいれん薬の各タイプや各ブランドによって、起こり得る副作用は異なります。服用している特定の薬の副作用の可能性について、かかりつけの医療従事者や薬剤師に相談することが大切です。
一般的に、抗てんかん薬のよくある副作用は以下の通りです:
- 頭痛
- 疲労感
- めまい
- 目のかすみ
- 吐き気
- 体重増加または減少
- 情緒の変化
一部の抗てんかん薬を長期間使用すると、骨粗しょう症になる可能性があります。このため、医療従事者は通常、カルシウムとビタミンDを食事に添加することを勧めています。
抗てんかん薬は効果的なの?
抗てんかん薬は、発作を経験する10人の内、約7人の発作を予防することが可能です。しかし、人によって状態はそれぞれ異なるため、ご自身に最も合うタイプの薬を見つけるには時間がかかるかもしれません。
薬が効かない場合は、以下のような他の治療法で発作を抑えることが可能です:
抗てんかん薬のリスクや合併症は何?
抗けいれん薬の、稀ではありますが重篤な合併症には以下が含まれます:
- スティーブンス・ジョンソン症候群
- 無顆粒球症
- 再生不良性貧血
- 肝不全
- 汎血球減少症(血液の3つの細胞成分―赤血球、白血球、血小板―全ての欠乏)
- 薬物誘発性遅発性多臓器過敏症候群(皮膚、肝臓、リンパ系およびその他の身体系に影響を及ぼすアレルギー反応)
- 精神病
- (全身性)紅斑性狼瘡
その他の合併症の可能性としては以下を含みます:
- 薬物相互作用
- 中毒症
- 自殺念慮または自殺行動のリスク
薬物相互作用
有害な薬物相互作用は、旧世代の抗けいれん薬で最も一般的に起こるものです。これは、抗てんかん薬が肝酵素に影響を与え得るからです―肝酵素を作りすぎるか、生合成を阻害してしまうのです。これは、自分の体が、自分が服用している他の薬を代謝(使用)する方法に影響を与えてしまう可能性があるということになるわけです。
抗けいれん薬の服用を開始する前に、処方薬、市販薬、サプリメントを含め、服用している全ての薬について、必ずかかりつけの医療従事者に伝えてください。更に、既に抗けいれん薬を服用している場合は、新しい薬を始める前に必ず医療従事者に伝えるようにしてください。
中毒症
抗けいれん薬の中毒症は、一度に過剰量の薬を服用した場合―誤って、あるいは故意に―に起こります。
その症状には以下が含まれます:
- 錯乱
- 眼振
- 運動失調
- 遅く浅い呼吸(呼吸抑制)
特定の抗けいれん薬は、不整脈(心拍が不規則になる状態)を引き起こすこともあります。
抗けいれん薬中毒は、医学的な緊急事態です。ご自身や周りの愛する方にこのような症状が現れたら、911に電話するか、最寄りの救急病院にかけつけてください。治療しなければ、昏睡や死に至ることもあり得ます。
中毒を避けるためには、担当の医療従事者が処方した通りに薬を服用することが重要です。薬は必ず子供やペットの手の届かない安全な場所に保管してください。
自殺念慮または自殺行動
2008年、FDAは全ての抗てんかん薬が自殺念慮や自殺行動のリスクを高める可能性があるという警告を発表しました。しかし、このリスクは低いことが研究で示されています。
ご自身やお子様が自殺念慮や自殺行動を起こした場合は、直ちに薬を処方した医療従事者に連絡してください。電話で988をダイヤルすれば、自殺・危機管理ライフラインにつながります。年中無休で対応可能です。
(※注:もちろんこれはアメリカの場合で、日本だと厚労省協賛の「#いのちSOS」0120-061-338などがあるようです。)
いつ医師に連絡するか
いつ医療機関に連絡すべき?
効果がどの程度あるのかを評価するために抗けいれん薬を服用している間は、かかりつけの医療従事者と定期的な面談をする必要があります。
それ以外の場合は、以下のようなことが見られた際に、かかりつけの医師に相談してください:
- 煩わしい副作用が現れた場合
- 症状が改善しない、または悪化した場合
- 服薬の中止を考えている場合
更に、血液中の薬剤濃度をチェックするために、以下に加えて定期的な血液検査を受ける必要があります:
- 全血球計算
- 総合代謝パネル
- 肝機能検査
その他のよくある質問
抗けいれん薬は妊娠中でも安全?
医療ガイドラインでは、抗けいれん薬を服用する利点が胎児に及ぼす潜在的なリスクを上回るため、妊娠中も現在服用している抗けいれん薬を継続することを推奨しています。抗てんかん薬の服用を中止すると、破瓜発作やてんかん重積状態を引き起こす可能性があり、ご自身や発育中の胎児に害を及ぼす可能性があります。
どの抗てんかん薬が妊娠中に最も安全であるかについての研究はまだ不足しています。妊娠中における特定の抗てんかん薬(バルプロ酸のような)は、重大な先天奇形やある種の認知障害のリスクを高める可能性があります。妊娠する前に、ご自身に最適な抗てんかん薬について医療従事者と相談することが重要です。
妊娠中の抗てんかん薬の服用について疑問や不安がある場合は、必ず医療従事者に相談するようにしましょう。
クリーブランド・クリニックからのメモ
抗てんかん薬は、てんかんや症候性発作の治療において重要な役割を果たしています。ご自身に最も合う抗てんかん薬を見つけるには、時間がかかることもあります。不安や疑問があれば、かかりつけの医療従事者に相談してください。必ず手助けしてくれますよ。
「妊娠中にこの薬を飲んでもいいの?」という質問は、大抵「妊娠中は控えろ」という決まり文句が関の山なのに、この場合は「リスクもあるけど、飲むメリットの方が大きい」という感じで、それだけてんかんというのは大変なものだということが窺えますね。
また、こないだのSNRIやSSRIでも同じ注意書きがありましたが、「自殺念慮が引き起こされることに注意」というのはやや怖い副作用に思えます。
てんかんはある意味興奮抑制作用といえるので分からなくもないものの、逆にSNRI・SSRIというのは鬱を抑える作用がある薬なのに「自殺念慮を引き起こすことがある」というのは非常に不思議に思えました。
セロトニンやノルアドレナリンの実効濃度がより増えて幸せに、または元気になるかと思いきや、脳は「何かこの幸福感は偽りに感じるぞ、死のう…」と思えてしまう、繊細なメカニズムを備えているのかもしれませんね。
人間の脳神経・情緒は複雑すぎてとても不思議ですが、この手の薬を使う際は細心の注意する必要があるといえましょう。
最後、アイキャッチ画像用に、また分子構造をお借りしてお茶を濁そうかと思います。
ウィキペディア「抗てんかん薬」記事でトップに挙げられていた、フェノバルビタールをお借りしてみました。
ウィ記事内にあった通り、こちらは神経伝達物質のひとつ・GABAの受容体に作用することで効果を示すもののようです。
片頭痛の予防効果はやはりおまけ程度に思えましたが、気持ちが落ち着く作用があるということで、軽い頭痛に悩む方には良い薬といえるのかもしれませんね。