閉所恐怖症、先端恐怖症、そして前回の8の字恐怖症と、他にもまだまだ非常に興味深い恐怖症はごまんと目に付きましたが、恐らくどれも、
「原因は専門家にも分かっていません、根治は不可能ですが、暴露療法で治療を試みることは可能で、多くの方に効果があります」
…って話でしかなさそうですし、別のネタに目を向けてみようかなと思います。
今回は、一連の恐怖症記事で何度か出て来ていたDSM-5、こちらについても独立のHEALTH LIBRARY記事があり(↓)、ぱっと見では長そうな記事だったのですが(スクロールバーの長さで判断してるんですけど、バーが小さめ=記事が縦に長め)、よく見てみたら箇条書きが大量に並んでいる部分が多く、見た目の割に短そうだなしめしめ…と、例によって「簡単に終わりそうだから採用」というしょうもない理由でのピックアップなのですが(笑)…
…とはいえこのDSM-5は、精神医学・心理学を履修した人なら100%必ず確実に目にしたことがある名前と言える、メンタルヘルスの診断における世界共通のバイブルとされているものですね。
僕も、当然名前は聞いたことがあるものの、名前だけで中身はほとんど知らないため(ごく一部、講義とかで見たことはありますが……ただ、僕が学生の頃は、まだ前身のDSM-IVだった気がしますけどね)、今回クリーブランド・クリニックによるまとめ記事でもうちょいよく知ってみようかなと思った次第です。
(まぁ、この記事も別に中身なんかには触れられておらず、「どのようなものか、どう使われているか」が記載されてるだけだと思いますが…。)
それでは今回も早速参りましょう。
DSM-5
精神疾患の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Illnesses)は、アメリカ精神医学会が発行する、メンタルヘルスと脳関連疾患に関する専門的な参考書の最新版です。DSM-5としても知られ、アメリカにおけるメンタルヘルス医療従事者の主要な手引書となっています。最新版であるDSM-5-TRは、2022年に刊行されています。
DSM-5とは何?
精神障害の診断と統計マニュアル(The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)は、しばしば「DSM」として知られ、メンタルヘルスおよび脳に関連する状態や障害に関する参考書籍です。アメリカ精神医学会(APA)がこの本の執筆、編集、審査、および出版を担当しています。
DSMの名前についている「5」という数字は、この本の第5版―そして最新版―を意味します。DSM-5®の最初の発売日は2013年5月でした。APAは2022年3月に第5版の改訂版を公開しました。この改訂版はDSM-5-TR™と呼ばれるもので、TRは「文書改訂版 (text revision)」を意味しています。
重要: DSM-5とDSM-5-TRは、専門家や研究者向けの医学参考書籍です。この本に書かれている内容は非常に専門的ですが、医療専門家でない方が読んでも興味深く、勉強になるかもしれません。しかし、この本を、訓練を受けた有資格のメンタルヘルス専門家または医療従事者による診察を受ける代わりとして使うべきではありません。
さらに、APAはDSM-5-TRの内容を補足する書籍も出版しています。その例としては、DSM-5鑑別診断ハンドブック(DSM-5 Handbook of Differential Diagnosis)やDSM-5臨床症例集(DSM-5 Clinical Cases)が含まれます。
DSM-5の目的は何?
どのような健康状態を治療するにしても、その状態―身体的なものであれ、精神的なものであれ―を正確に診断することが最初のステップとなります。そこでDSM-5の登場です。DSM-5では、精神疾患と脳関連疾患の定義が明確かつ詳細に示されています。また、そういった病態の徴候や症状の詳細および例も示されています。
病態の定義と説明に加えて、DSM-5はその病態をグループごとに整理しています。これにより、医療従事者が病態を正確に診断しやすくなり、似たような徴候や症状を持つ病態と区別しやすくなっているのです。
DSM-5の内容はどう作られたの?
DSM-5を作成するために、APAは精神科医、心理学者、およびその他多くの専門分野の研究者を含む、160名以上におよぶ精神医学の専門家を世界中から集めました。その他にも何百人もの専門家が特定のトピックについてアドバイザーとして貢献し、支援しています。DSM-5の作成には、実地試験やテストも行われました。
DSM-5-TRでは、APAはDSM-5の初版刊行に関わった多くの方々に協力を求めました。全部で200名以上の専門家がDSM-5-TRに直接貢献した形です。
DSM-5はどんなトピックを扱っているの?
DSM-5は主に精神疾患に焦点を当てています。しかし、メンタルヘルスと脳の働きは切っても切れない関係にあるため、DSM-5では脳の働きに関連する症状や懸念事項も取り上げています。また、医療従事者が世界保健機関(WHO)による、疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版(International Classification of Diseases and Related Health Problems, 10th Edition)(ICD-10)と病態を照合しやすくするための診断コードも掲載されています。
DSM-5には3つのセクションがあります:
- セクションI: DSM-5の基本。このセクションでは、医療従事者がこの本を業務でどのように使用すべきかが取り上げられています。また、メンタルヘルス上の問題が法律専門家や裁判事例などに関わる場合にDSM-5を使用する際の指針も含まれています。
- セクション II: 診断基準とコード。このセクションが、この本の中で最もページ数の多いパートです。各章では病態の種類を取り上げ、その中で具体的な病態が定義され、説明されています(このセクションの詳細については、下の表をご参照ください)。
- セクションIII: 新しい尺度とモデル。このセクションには、医療従事者がいくつかの病態を診断するためのガイドラインとして使用する、特定の評価ツールに関する情報が含まれています。また、文化的な違いが診断にどのような影響を与え得るかについての情報や、DSMの後期版に最終的に掲載される可能性はあるけれど、その前にさらなる研究が必要な病態についての章もあります。
セクションIIの詳細と、取り上げられている疾患の種類
神経発達症
統合失調スペクトラム症およびその他の精神病性症群
- 統合失調症
- 統合失調感情障害
- 妄想性障害
- 双極性障害および関連障害
- 双極Ⅰ型障害および双極Ⅱ型障害
- 気分循環性障害
- 抑鬱障害
- 大鬱病性障害
- 持続性鬱病性障害
- 不安障害
- 全般性不安障害
- 社交不安障害
- 分離不安障害
- パニック障害
- 恐怖症
強迫症および関連症群
- 強迫性障害(OCD)
- ため込み症
- 身体醜形障害
- 皮膚むしり症および毛抜き症
心的外傷およびストレッサー関連症
解離症
- 解離性同一性障害
- 解離性健忘
- 非人格化/脱現実化障害
身体症状症および関連症群
食行動症および摂食症
- 神経性無食欲症
- 神経性過食症
- むちゃ食い障害
- 異食症
排泄症
性機能不全
性別違和関連症
秩序破壊的、衝動制御および素行症
- 反抗挑発症
- 反社会性人格障害
- 窃盗癖
- 放火癖
物質関連および嗜癖症
- アルコール使用障害
- 吸入剤使用障害
- オピオイド使用障害
- 離脱関連症状
神経認知障害
パーソナリティ症
- 境界性パーソナリティ障害(BPD; Borderline personality disorder)
- 自己愛性パーソナリティ障害
性行動症群
その他の精神疾患と追加コード
- 他の疾患の定義には合致しないが、それでもなお個人の生活に重大な影響を及ぼす疾患
医薬品誘発性運動症およびその他の医薬品有害作用
- 遅発性ジスキネジア
- 神経遮断薬悪性症候群
臨床的関与の対象となることのあるその他の状態
- ここには、病態ではないが、診断可能な病態に影響したり、関連して起こる可能性のある状況や行動が含まれる。例えば、自傷行為や自殺行為、何らかの虐待歴、失業など。
APAがDSMの次の版を発行するのはいつ?
APAは定期的なスケジュールに則ってDSMの改訂版を発行しているわけではありません。そうではなく、必要に応じてDSMを更新している形です。APAはDSMの過去の版(第5版以前はローマ数字が使用されていました)を以下の年に出版しています:
- DSM-I®: 1952年
- DSM-II®: 1968年
- DSM-III®: 1980年。APAは1987年に改訂版DSM-III-R®を刊行しました。
- DSM-IV®: 1994年。APAは2000年に文書改訂版DSM-IV-TR®を刊行しました。
- DSM-5:2013年。APAは2022年に文書改訂版DSM-5-TRを刊行しました。
DSM-5は一般に販売されているの?
はい。DSM-5は多くの書店やオンラインストアで購入可能です。また、多くの公共図書館にも所蔵されています(お近くの図書館が、この本の利用を館内のみに制限していること、つまり、貸し出しができない可能性はあります。)
DSM-5とDSM-5-TRは様々な方法で一般に入手可能ですが、本書の想定ユーザーは医療のプロフェッショナルであることを忘れてはなりません。そのため、本書の内容は極めて専門的です。つまり、一般の方には理解しにくい本でしょう。
DSM-5やDSM-5-TRを、医療やメンタルヘルスの専門家に診察してもらう代わりに使うべきではありません。DSM-5とDSM-5-TRは、飛行機の操縦法の本を見るものだと考えるのが一番です。この本を読むのは面白いかもしれませんが、パイロットになるために必要な正式な教育や訓練に代わるものではありません。
DSM-5はまだ使われているの?
はい、しかしこの本には2つのバリエーションがあります。APAは2013年にDSM-5を出版しました。2022年、APAは文書改訂版であるDSM-5-TRを刊行しました。この文書改訂版には、2013年以降のメンタルヘルス診療の変化や更新を反映した、DSM-5の更新や変更が含まれています。そのため、DSM-5-TRがこの資料の最新かつ最も正確なものとなりますから、そちらがより好ましいバージョンとなっています。
メンタルヘルスの医療従事者、特に精神科医や心理士の間では、DSM-5-TRはメンタルヘルスや脳に関連する疾患を診断するための最も重要な資料となっています。DSM-5はアメリカを拠点とする組織の出版物ですが、18か国語以上に翻訳されており、世界中の医療従事者にとって不可欠な資料でもあります。
クリーブランド・クリニックからのメモ
DSM-5とその改訂版であるDSM-5-TRは、メンタルヘルスの専門家にとってキーとなる参照書籍です。この本は広く購入可能であり、多くの図書館でも利用者に公開しています。本書は医療やメンタルヘルスのプロ向けであり、そのため極めて詳細で専門的です。
一般の方には興味深く、参考になる内容もあるかもしれませんが、気軽な利用や自己診断のためのものではありません。ご自身や大切な方が、DSM-5やDSM-5-TRに定義されている病態に当てはまるかもしれないと思ったら、医療機関や精神クリニックを受診してください。自分で手術をすることはないのと同じように、訓練を受けた有資格のメンタルヘルス医療機関に診てもらうのが一番です。
箇条書きの取り扱いテーマ一覧だけでも無駄に長かったですが、記事内にあった通り、本書は誰でも購入可能なもので、我らがAmazonにも当然、日本語版のDMS-5-TRがありましたね。
まぁ、1000ページを超える大型専門書、かつ翻訳版となると2万円超えも当たり前なわけですが、記事内でも執拗に書かれていた通り、興味本位で買っても本棚の肥やしになるだけなので(笑)、中身が気になる場合は図書館で見てみるとかがベストかもしれませんね。
ちなみにAmazonに目次だけは公開されていましたが、箇条書きで一部紹介されていたセクションIIの各種章題、「~障害」は、ほぼ全て日本語版目次だと「~症」となっていたため(「神経認知障害」だけは「障害」でしたが)、当初僕の書いた文では「~障害」としていたんですけど、章題の部分は日本精神神経学会の方針に則り、「~症」に変更しておきました。
(ただし、具体的な疾患名は目次になかったので、当初書いたまんまの、ほとんど「~障害」のままになっています(一応、全部検索して、各医療機関が最もよく使っている表記を採用したので、一部は「~症」のものもありますが)。)
メンタルヘルス関連、興味深いものが多いですけど、かなり長い記事も多いですし、ぱっと眺めてみてまとめやすそうなもの(=短いもの(笑))があったら見てみようかなと画策しています。