前回の記事では、てんかん薬で発症する可能性のある難病である、SJSことスティーブンス・ジョンソン・シンドロームを紹介していましたが、てんかん薬の合併症として(てんかん薬には何気にかなりの数の合併症が挙げられていました。脳神経に直接作用する薬なので、副作用は仕方ないのかもしれませんね)、他にも1つ、以前見ていた別の記事でも何度か名前だけ登場したことのあった、Lupus(ループス)という指定難病もどんなものか気になったので、今回は関連ネタとしてこの怖い病気に脱線してみようかと思います。
Lupusはループスと表記されることもありますが、基本的には「(全身性)エリテマトーデス」という方が一般的のようで、erythemaというのが英語で「紅斑」を意味するものであり、一方lupusというのはラテン語で「狼」という意味だそうで、「狼に噛まれたような紅い斑点が全身に出てくる」というのが特徴の疾患ですね。
その意味で、(紅斑性)狼瘡と呼ばれることもあるようですが、今回はあえて書き分けが必要になる場面以外、基本的に「全身性エリテマトーデス」という表記でいこうかと思います。
早速参りましょう。
狼瘡(全身性エリテマトーデス)(Lupus (Systemic Lupus Erythematosus))
全身性エリテマトーデスは、免疫系が全身の臓器や組織にダメージを与えてしまう、自己免疫疾患です。皮膚、関節、血液、および腎臓、肺、心臓のような臓器に炎症を引き起こします。医療従事者が、症状を管理する、またフレア・アップの頻度を減らすための薬を見つける手助けをしてくれるでしょう。
概要
全身性エリテマトーデスとは何?
全身性エリテマトーデスは、全身に炎症を引き起こす症状です。これは自己免疫疾患であり、自己免疫疾患とは免疫系が体を守るのではなく傷つけてしまうことを意味しています。自己免疫系が組織にダメージを与える場所に応じて、全身にわたる以下の部位に症状が現れる可能性があります:
- 皮膚
- 血液
- 関節
- 腎臓
- 脳
- 心臓
- 肺
新しい痛み、発疹、または皮膚、髪、もしくは目の変化に気付いたら、医療機関を受診してください。
(※各症状は、以下の「症状と原因」の段落で触れられているので、日本語はそちらをご参照ください。)
狼瘡の種類
医療従事者は狼瘡を、全身性エリテマトーデス(SLE)と呼ぶことがあります。全身性エリテマトーデスは最も一般的なタイプの狼瘡で、全身に狼瘡があることを意味します。他のタイプには以下が含まれます:
- 皮膚紅斑性エリテマトーデス: 皮膚にのみ発症する狼瘡です。
- 薬剤誘発性エリテマトーデス: 一部の薬剤は、副作用として狼瘡の症状を引き起こします。通常は一時的なもので、原因となった薬の服用を中止すると治まることがあります。
- 新生児エリテマトーデス: 赤ちゃんが狼瘡を持って生まれることが時々あります。狼瘡を持つ生物学的な両親から生まれた赤ちゃんが狼瘡を持つとは限りませんが、リスクが高まる可能性はあります。
症状と原因
全身性エリテマトーデスの症状は何?
全身性エリテマトーデスは、どの臓器やシステムに影響を及ぼすかに応じて、全身にわたって症状を引き起こします。症状の組み合わせや重症度は人それぞれです。
全身性エリテマトーデスの症状は通常、フレア・アップと呼ばれる波のような症状が寄せては返す形で襲ってきます。フレア・アップの間は、日常生活に影響が出るほど症状が重くなることもあります。また、症状が軽いか全く出ない、寛解期もあるかもしれません。
症状は通常ゆっくりと進行します。最初は1つか2つの全身性エリテマトーデスの徴候に気づくかもしれませんが、後にもっと多くの、あるいは異なる症状が現れるかもしれません。最も一般的な症状としては以下が含まれます:
- 関節痛(Joint pain)、筋肉痛、胸痛(特に深呼吸をした時)
- 頭痛(Headaches)
- 発疹(Rashes)(顔全体に発疹が出るのが一般的で、医療従事者は蝶形紅斑(バタフライ・ラッシュ)と呼ぶこともあります)
- 発熱(Fever)
- 脱毛(Hair loss)
- 口内炎(Mouth sores)
- 倦怠感(Fatigue)(常に疲労を感じる)
- 息切れ(呼吸困難)(Shortness of breath (dyspnea))
- 腺の腫れ(Swollen glands)
- 手足や顔の腫れ(Swelling in your arms, legs or on your face)
- 錯乱(Confusion)
- 血栓(Blood clots)
全身性エリテマトーデスは時に、以下のような他の健康状態や問題を引き起こす可能性があります:
全身性エリテマトーデスの原因は何?
狼瘡の原因については、専門家でもはっきりとは分かっていません。研究によると、健康状態や住んでいる場所に関する特定の要因が、全身性エリテマトーデスを誘発する可能性があることは分かっています:
- 遺伝的要因: 特定の遺伝子変異があると全身性エリテマトーデスになりやすいかもしれません。
- ホルモン: 体内の特定のホルモン(特にエストロゲン)に対する反応によって、全身性エリテマトーデスを発症しやすくなる可能性があります。
- 環境因子: 住んでいる場所や、汚染物質や日光を浴びる量などが全身性エリテマトーデスのリスクに影響する可能性があるかもしれません。
- 健康歴: 喫煙、ストレスレベル、およびその他特定の健康状態(他の自己免疫疾患など)が全身性エリテマトーデスを誘発する可能性もあり得るかもしれません。
危険因子
誰でも全身性エリテマトーデスを発症する可能性はありますが、一部のグループではよりリスクが高くなります:
- 出生時に女性に割り当てられた方(AFAB)、特に15~44歳のAFABの方々
- 黒人
- ヒスパニック系の人
- アジア人
- アメリカ先住民、アラスカ先住民、およびカナダ原住民族
- 太平洋諸島の方々
- 生物学的な親が全身性エリテマトーデスである方
診断と検査
全身性エリテマトーデスはどうやって診断されるの?
医療従事者が、健康診断といくつかの検査で全身性エリテマトーデスを診断します。ご自身の症状を診察し、どんな状態を経験されているかについての話を聞かれることでしょう。最初に症状や体の変化に気付いたのはいつだったかを、かかりつけの医療従事者に伝えてください。担当医が、現在患っている可能性のある疾患およびその治療法や管理法などを含む、病歴について尋ねてきます。
全身性エリテマトーデスはあまりに多くの身体の部分に影響を及ぼし、様々な症状を引き起こすため、診断が難しい場合があります。自分にとっていつもと違う気がするどんなに小さな変化や問題でも、それが鍵になることがあります。何か感じたことや気付いたことがあれば、遠慮なく担当医にお伝えください―自分の体のことは自分が一番よく知っているのですから。
医療従事者は、どんな検査を使って全身性エリテマトーデスを診断するの?
全身性エリテマトーデスの診断を確定する検査はひとつではありません。診断には通常、鑑別診断が必要となります。これはつまり、他の疾患を除外して全身性エリテマトーデスと診断する前に、ほぼ必ずいくつかの検査を用いて症状の原因を特定が行われるということです。以下のような検査が行われるかもしれません:
- 免疫系がどの程度働いているか、また感染症や貧血、血球数減少などの問題がないかを調べる血液検査。
- おしっこに感染症やその他の健康状態の徴候がないかを調べる尿検査。
- 抗体(体が感染症を撃退した履歴を示すタンパク質マーカー)を調べる抗核抗体(ANA)検査。全身性エリテマトーデスを発症している人は、通常、免疫系が過剰に活性化していることを示す特定の抗体を持っています。
- 免疫システムが皮膚や腎臓の組織にダメージを与えているかどうかを調べることが可能となる、そういった部位の生検。
管理と治療
全身性エリテマトーデスの治療法には何がある?
かかりつけの医療従事者が、ご自身の症状を管理する全身性エリテマトーデスの治療法を提案してくれることでしょう。目標は、臓器へのダメージを最小限に抑え、全身性エリテマトーデスが日々の生活に与える影響を最小限に抑えることです。ほとんどの全身性エリテマトーデス患者さんは、フレア・アップを予防し、最中の症状の重篤度を軽減するために、複数の薬剤を併用する必要があります。以下の薬が必要になるかもしれません:
- ヒドロキシクロロキン:ヒドロキシクロロキンは全身性エリテマトーデスの症状を緩和し、症状の進行(変化や悪化)を遅らせることができる、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)です。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 市販(OTC)されているNSAIDsは痛みを和らげ、炎症を抑えます。どのタイプのNSAIDがご自身に最も効果的か、およびどれくらいの頻度で服用すべきかについては、かかりつけの医療従事者が教えてくれます。担当医に相談することなく、NSAIDsを10日以上続けて服用しないようにしましょう。
- 副腎皮質ステロイド: 副腎皮質(コルチコ)ステロイドは炎症を抑える処方薬です。プレドニゾンは、医療機関が全身性エリテマトーデスの対処に用いる一般的なコルチコステロイドです。かかりつけの医療機関が、口から飲む錠剤を処方したり、コルチコステロイドを関節に直接注射したりしてくれるかもしれません。
- 免疫抑制剤: 免疫抑制剤は、免疫系を抑え込み、免疫系の活動を止める薬です。組織の損傷や炎症を防ぐのに役立ち得ます。
全身性エリテマトーデスの特定の症状や、全身性エリテマトーデスが引き起こしているその他の健康状態を管理するために、他の薬や治療が必要になることがあるかもしれません。例えば、全身性エリテマトーデスが貧血、高血圧、または骨粗鬆症を引き起こしている場合、それらの治療が必要になる可能性があります。
予防
全身性エリテマトーデスは予防できる?
専門家でも原因がはっきり分かっていないため、全身性エリテマトーデスを予防することはできません。生物学的な両親のどちらかが全身性エリテマトーデスである場合は、ご自身のリスクについて医療従事者に相談してください。
全身性エリテマトーデスのフレア・アップはどう予防できる?
以下のような症状の引き金となる行動を避けることで、全身性エリテマトーデスのフレア・アップを予防および軽減できる可能性があります:
- 日光を避ける:日光を浴びすぎると、全身性エリテマトーデスの症状が誘発される可能性のある方がいらっしゃいます。日差しが最も強い時間帯(通常午前10時から午後4時)の外出は避けるようにしましょう。長袖、帽子、日焼け防止用の衣服を着用してください。少なくともSPF50以上の日焼け止めを使用しましょう。
- 活動的に過ごす: 関節痛があると、動くのが辛くなったり、痛くなったりするかもしれません。しかし、痛みやこわばりなどの症状を和らげるには、体を動かして関節を優しく使うことが一番だと言えるのです。ウォーキング、サイクリング、水泳、ヨガ、および太極拳はどれも、関節に負担をかけずに体を動かすのにうってつけの方法です。どんな運動がご自身にとって最も安全かは、かかりつけの医療従事者にお尋ねください。
- 十分な睡眠をとり、心の健康を守る: 全身性エリテマトーデスとの生活はイライラし得るものです。適切な睡眠時間(大人で7~9時間)をとり、ストレスを減らすことが、フレア・アップを防ぐのに役立つ方もいらっしゃいます。心理学者やその他の精神衛生の専門家が、健康的な対処法を開発する手助けをしてくれることでしょう。
見通し/予後
全身性エリテマトーデスに罹かったら何が考えられる?
全身性エリテマトーデスは生涯(慢性)疾患です。全身性エリテマトーデスの症状とは一生付き合っていくと考える必要があるでしょう。
全身性エリテマトーデスは予測できないことがあり得るもので、その影響は時間とともに変化し得るものです。定期的にかかりつけの医療機関を受診し、症状の変化を把握する必要があります。
全身性エリテマトーデスとの付き合い方を学ぶために、ほぼ間違いなく複数の医療従事者チームと協力することになるでしょう。かかりつけの家庭医が、特定の問題や症状に対応できる専門医を紹介してくれます。まず間違いなく、リウマチ専門医を受診する必要があるでしょう―リウマチ専門医は、自己免疫疾患の診断と治療を専門とする医療従事者です。どの専門医を訪れる必要があるかは、どのような症状を有しているか、そしてそれが身体にどのような影響を及ぼしているかによって異なります。
全身性エリテマトーデスは治せるの?
現在のところ、全身性エリテマトーデスを根治する方法はありません。かかりつけの医療従事者が、ご自身の症状を管理し、上手くいけば全身性エリテマトーデスを寛解(症状やフレア・アップのない長い期間)に導くための治療法の組み合わせを見つける手助けをしてくれることでしょう。
受け入れる
いつ医療機関を受診すべき?
新しい症状や変化に気付いたら、すぐに医療機関を受診するようにしてください。感じたことや経験していることのどんな小さな変化でさえも、重要になる場合があります。
治療が以前ほど上手くいっていないと感じたら、かかりつけの医療従事者に相談してください。フレア・アップが頻繁に起こるようになった場合―あるいはフレア・アップがより重篤な症状を引き起こすようになった場合は、かかりつけの医療従事者に伝えてください。必要に応じて治療を調整してくれるでしょう。
以下のような症状が出た場合は、救急外来を受診するか、911番(または最寄りの救急電話番号)に連絡してください:
- 呼吸ができない。
- 激しい痛みがある。
- 心臓発作の症状があると思われる。
かかりつけの医療従事者に、どういった質問をすべき?
- 私は全身性エリテマトーデスか、他の自己免疫疾患ですか?
- どの薬が必要ですか?
- 経過観察のために、どれくらいの頻度で受診すればいいですか?
- 他の専門医を受診する必要はありますか?
- サポートグループやその他メンタルヘルスに役立つ相談先はありますか?
クリーブランド・クリニックからのメモ
全身性エリテマトーデスは、イライラさせられて、疲れてしまう症状です。全身の痛み、炎症、刺激を受け続けることは、本当に疲れ果ててしまいかねないものです。しかし、自分自身を労わってあげることを忘れないでください。慢性疾患と共存することは大変なことであり、毎日症状に対処している方々は称賛に値します。自分の気持ちを誰かに話すことが助けになると思うのであれば、メンタルヘルス関連の相談所やサポートグループについて、かかりつけの医療機関に尋ねてみてください。
担当医に話したり質問したりすることを決して恐れないでください。症状や健康状態のごく小さな変化でも、全身性エリテマトーデスがご自身の身体に異なる影響を与えているサインである可能性があります。自分の体に何か異常があるとき、それを判断するのは自分自身であることをどうか忘れないでください。
抗てんかん薬やその他の脳神経系のお薬を摂ることで、突然副作用的に発症してしまう可能性もあるこのループス(薬が原因の場合は、摂取を中止すれば治まることが多いとはなっていましたが)、特に女性に多いということで、見た目が大変になってしまうこの疾患は本当にきついものだと思います。
治療法もなく、発症原因も謎のままということで、これもどうかなるべく誰も罹らないで済むことを願ってやみません。
ウィキペディアには、特徴的な蝶形紅斑を発症している女性の写真も紹介されていました。
治療薬・特効薬が発見されることを期待したい限りですね。