前回はまた目に付いたHEALTH LIBRARYネタから、片頭痛の治療薬として歴史を変えるものであったトリプタン系の薬剤について見ていましたが、以前見ていた片頭痛記事では他にもいくつか目ぼしいお薬が挙げられていました。
特に、トリプたんにはその性質がなかった予防薬について、まぁ既に何度も話に出しているオードリー若林さん激推しのエムガルティ(一般名ガルカネズマブ)が極めて効果的で、これ(モノクローナル抗体製剤というグループの薬でした)が現在最強なのかな、と思えるものの、上述の通り、他にも片頭痛予防薬というものは色々あるようで、価格や、気軽に摂取できるという点で若林注射よりももしかしたら優れているものもあるかもしれませんし、今回は片頭痛予防薬として挙げられていたその他のグループを見ていこうかなと思います。
まずは、よく目にする気がするし、用語だけでは何のことか全く分からない謎のグループ、ベータ・ブロッカーことβ遮断薬を取り上げてみるといたしましょう。
まぁ、物質が抗体か低分子かで違うだけで、仕組みとしてはほとんど若林注射と同じなんですけどね(=神経シグナルを伝える、受容体をブロックする)。
その辺含め、今回もクリーブランド・クリニックの記事を参考にさせていただこうと思います。
β遮断薬(Beta-blockers)
β遮断薬は、最も一般的には心臓や循環器系が関わる問題に対して使用される薬の一種です。それ以外にも、脳や神経系に関連する疾患の治療に使用されることもあります。β遮断薬は、特定の細胞の活動を遅らせることで作用し、これは血圧や心拍数などをコントロールするのに役立ちます。
概要
β遮断薬とは何?
β遮断薬は、一般的に心臓や循環器系に関わる様々な問題を治療するために使用される薬の一種です。また、脳や神経系に関連する疾患の治療にも使用されることがあります。
どうやって作用するの?
人間の身体は、特定のプロセスや機能を制御するために、化学的なシグナル伝達システムを使用しています。これは、レセプター(受容体)と呼ばれる細胞表面の特定の部位を用いるもので、そこに特定の化学物質―神経伝達物質と呼ばれます―がくっつくことができるようになっています。
受容体は鍵穴と同じような働きをします。適切な構造を持つ化学物質が受容体に引っかかると、それが鍵のように働き、細胞を活性化して特定の反応を起こさせるのです。細胞がどのように反応するかは、それがどこにあって、 何をするかによって決まります。もし自分の身体がある特定の細胞の働きを必要としている場合、その細胞の受容体を活性化する化学物質をより多く合成することが体内で行われることでしょう。
多くの薬は、その化学的なシグナル伝達プロセスに人為的に影響を与えることで効果を発揮しています。このように作用する薬は、以下の2つのカテゴリーに分類されます:
- このタイプの薬は受容体部位に結合して、更に活性化させます。事実上、このタイプの薬は正しい種類の化学化合物のふりをし、細胞はそのごまかしに引っかかってしまうといえるわけです。これにより、そうしないと活性化されない細胞を刺激することが可能になっています。
- このタイプの薬は受容体部位に付着しますが、それ以外には何もしません。この効果は、鍵を鍵穴に差し込んだ後に壊してしまうのに似ています。鍵の壊れた部分はその場に留まり、別の鍵が入るのをブロックします。拮抗薬というのは、このように活性化に利用できる受容体の数を減らし、細胞の活動を鈍らせているわけです。
β受容体
アドレナリン作動性受容体(adrenoceptorsと呼ばれることもあります(※注:日本語だとどちらも単に「アドレナリン受容体」と呼ばれるだけかなと思いますが))は、全身どの細胞にも見られる重要なタイプの受容体です。アドレナリン(エピネフリンとも呼ばれます)からその名が取られたものですが、これは体内で自然に生合成される神経伝達物質です。アドレナリンは全てのアドレナリン作動性受容体を活性化させることができますが、これは建物のマスターキーがその構造物の中の全ての鍵を開けることができるのと同じです。
β遮断薬はβ受容体拮抗薬であり、これはβアドレナリン受容体をブロックし、特定の細胞の活動を鈍らせるものになっています。
β受容体は何を制御するの?
β受容体には3つの異なるサブタイプがあり、その存在場所によって異なる機能を有しています。
ベータ1(B1)
β1受容体は主に心臓と腎臓に存在します。活性化されると以下のような働きをします:
- 心拍数を増加させる。
- 心臓のポンプ機能を高める。
- 腎臓にある酵素、レニンの放出を活性化する。
ベータ2(B2)
β2受容体は主に平滑筋組織に存在します。この組織は呼吸器系(特に気管と気管支)、血管、および神経系にあります。活性化されると、この受容体は様々な身体システムに以下のような影響を及ぼします:
- 呼吸器: 平滑筋を弛緩させ、これにより呼吸がしやすくなる。
- 血管: 平滑筋を弛緩させ、血圧を下げる。
- 肝臓: 肝臓でグリコーゲンをグルコース(体がエネルギーとして使うもの)に変換する働きを活発にする。
- 心臓: ポンプ機能と心拍数を増加させる。
- 神経系: 筋肉の震えを引き起こす。
ベータ3(B3)
β3受容体は主に脂肪細胞と膀胱に存在します。活性化されると以下のような働きをします:
- 脂肪細胞を分解する。
- 膀胱を弛緩させ、尿を溜める容量を増加させる。
- 震えを引き起こす。これにより、B3受容体を標的とした薬剤の医療応用の可能性が制限されています。
この薬はどんな症状を治療するの?
β受容体は全身の種々の場所に存在するため、β遮断薬は広範囲の問題や症状を治療することが可能です。
β遮断薬は主に、以下のような心臓や循環器系の疾患の治療に用いられています:
心臓や循環器系以外でも、いくつかの疾患を治療することが可能です:
β遮断薬の種類
β遮断薬の中には、特定のβ受容体にのみ効果を示すものがあり、この性質は 「選択性」として知られています。医療従事者がどのβ遮断薬を処方するかを選択する際に重要な考慮点となります。
β遮断薬は一般的に、心臓に主に存在するB1受容体だけを遮断する、心臓選択性があるかどうかで2つに大別されます。
心臓選択性(B1受容体) 非選択性 アセブトロール* カルベジロール* アテノロール ラベタロール* ベタキソロール ナドロール ビソプロロール ペンブトロール エスモロール ピンドロール* メトプロロール プロパノロール ネビボロール* ソタロール チモロール
*これらの薬には、特徴的または独特な性質があります。その特性の例には、以下が含まれます:
- カルベジロールとラベタロール: どちらもα受容体の一部を遮断することが可能です。これにより、心拍数と血圧を更に下げることができ、これらの薬がより効果的なものになっています。
- エスモロール: この薬は静注でしか利用できないため、病院やそれと同様の医療現場での使用に限定されます。
- ネビボロール: この薬は血管を拡げることで(専門用語で血管拡張 (vasodilation)と言います)、血圧をさらに下げる効果があります。
β遮断薬の適応外処方
β遮断薬は時に「適応外」の目的で使用されることがあります。これは、特定の治療薬として承認されている以外の症状に対して処方されることを意味しています。
- 例えば、承認されている薬ではなく、似ているけれど未承認の薬を選択するような場合です。これは、承認薬にはその患者さんが避けるべき副作用があり、代替薬は安全で効果が期待できる場合に起こり得ます。
適応外処方は合法的な行為であり、薬剤が有害な副作用を引き起こすリスクが低く、適応外使用に有効であることを示す証拠があれば、医学的に受け入れられ、正当化されているものです。
β遮断薬の一般的な適応外利用される治療には、以下が含まれます:
- 片頭痛(あるβ遮断薬を別のβ遮断薬に置き換える)
- 不安障害(舞台恐怖症やパフォーマンス不安など)
- 振戦(ふるえ)の軽減(β遮断薬はパフォーマンス向上作用があるため、特定のスポーツでは禁止されています)
β遮断薬は一般的に処方されているの?
β遮断薬はアメリカで最もよく処方される薬の一つで、約3000万人の成人がβ遮断薬を使用しています。
リスク/メリット
β遮断薬のメリットは何?
β遮断薬はいくつかの理由で一般的に使用されています:
- 幅広い医学的問題に有効。とても多くの心臓や循環器系の問題に関連しているため、β遮断薬を使って1つの問題を治療すれば、関連する複数の問題に効果があることが多いです。
- 極めて広範囲に研究されている。β遮断薬は1960年代に最初の臨床試験が行われるなど、数十年にわたって使用されてきています。そのため、β遮断薬の作用はよく解明されており、安全に使用し、悪影響を避けることが容易になっています。
- 大部分(特にジェネリック(後発医薬品))は安価である。β遮断薬は一般的に非常に安価であるため、患者さんが費用を払えないという理由で薬を飲まずにいることがないようにするのが容易となっています。
考えられる副作用は何?
β遮断薬は心臓や循環器系に作用するため、様々な副作用があり得ます。そのため、医療従事者はこれらの副作用を抑える、あるいは避けるために、特異的なβ遮断薬を処方することがよくあります。
全てのβ遮断薬に共通する副作用には以下が含まれます:
稀な副作用には以下が含まれます:
- 性機能障害および勃起不全
この薬を服用すべきではない理由は何?
β遮断薬は、いくつかの病気、状態、健康問題に悪影響を及ぼす可能性があります。これらは禁忌薬として知られており、以下が含まれます:
- 中等度から重度の喘息。非選択的β遮断薬は、喘息発作や呼吸困難を悪化させたり引き起こしたりする可能性があります。医療従事者は、呼吸器疾患が軽度の患者にはこれを最小限に抑えるためにB1選択的β遮断薬を処方することが多いですが、中等度から重度の患者にはβ遮断薬の使用を完全に避けることになるでしょう。
- 特定のタイプの不整脈。β遮断薬は一部の不整脈を悪化させることがあります。
- 心拍数が遅い、または血圧が低い。ほとんどのβ遮断薬は、心拍数や血圧を更に低下させることで、これらの状態を悪化させます。
- レイノー現象。この症状は、手足(特に手指とつま先)、時には顔の一部の血行を悪くします。β遮断薬はこの症状を悪化させることがあります。レイノー現象は、それ単独で発症することもあれば(一次性レイノー現象で、レイノー症候群またはレイノー病とも呼ばれます)、他の病気が原因で起こることもあります(二次性レイノー現象)。
- 低血糖症。β遮断薬はほとんどの低血糖による影響が感じられるのを遅らせ得ます。糖尿病(特に1型糖尿病)のように低血糖を引き起こす疾患を持つ方は、血糖値を安定させるための行動を取るのが遅れてしまう可能性があります。血糖値が下がりすぎると、錯乱したり、気を失ったり、発作を起こしたりすることがあり得ます。β遮断薬では隠されない低血糖の主な症状は発汗です。突然の発汗を認識することは、β遮断薬を服用し、低血糖を起こす危険性のある人にとって重要な警告サインとなり得ます。
β遮断薬は他の薬と相互作用する?
β遮断薬は様々な薬、特に上記の副作用や禁忌に関連する薬と相互作用する可能性があります。かかりつけの医療従事者が、ご自身にとって最も懸念される副作用について、最善の情報をお伝えすることが可能です。
回復と見通し
β遮断薬はどのくらい服用できるの?
β遮断薬は長期間継続して使用することができます。場合によっては、特に65歳以上の成人の場合、何年も、あるいは無期限に使用することが可能です。
いつ医師に連絡するか
いつ医療従事者に連絡すべき?
β遮断薬の服用に関して、いつ電話や来院予約を取るべきかについては、かかりつけの医療提供者がアドバイスしてくれます。一般的には、特に心臓や循環器系に関連した症状に急な変化があった場合は、電話するか来院予約を取る必要があります。それには以下が含まれます:
- 息切れ
- 胸の痛み
- 動悸(心臓の鼓動が高鳴ったり、ドキドキしたり、拍動が飛ぶのを感じる状態)
- 不意に失神したり、めまいやふらつきを伴う発作が何度もある
その他の注意が必要で、かかりつけの医師への相談も必要な症状としては、以下が含まれます:
- 心拍数が遅い、血圧が低い、および錯乱や行動の変化が。このような症状の組み合わせは、β遮断薬の過剰摂取を示唆していることがあり得ます。
- 低血糖の再発。治療しない場合、長期にわたる低血糖は脳障害を引き起こす可能性があります。
クリーブランド・クリニックからのメモ
β遮断薬は、広く使用され、一般的に処方される薬の一種です。高血圧や心臓の問題から、偏頭痛や不安発作の予防まで、幅広い問題に対処することが可能です。何十年も使用されている薬ですが、それでも最良の選択でない場合もあります。不安や疑問があれば、かかりつけの医療従事者に相談するのが良いでしょう。質問に答え、可能な限り最良の方法でこれらの薬を使用するのにお手伝いをしてくれますよ。
これまた素晴らしい人類の叡智で、非常に幅広く利用されている、極めて有用な薬だということですね。
大変広く作用するため、どうしても副作用が懸念となってしまうのは、前回のトリプタンにも近いのかもしれません。
画像がなかったので、アイキャッチ用に、またかなりどうでもいい話ですが分子構造を見てみるとしましょう。
上記解説にもあった通り、一口にベータ・ブロッカーと言っても大量の種類があるのですが、例として、我らが田辺製薬の開発した、日本生まれのベータ・ブロッカー、商品名メインテートという、ビソプロロールをお借りしてみました。
他のベータ・ブロッカーも、まぁ同じ受容体にくっついて作用するので当然ですが、基本的に似たような分子構造ですね(真ん中にベンゼン環があって、両端に腕が伸びている感じ)。
片頭痛の予防のみならず、高血圧で悩む方にも良い薬ということで、誰しもいつかお世話になるかもしれない、偉大なβ遮断薬でした。