アミノ酸にも違うパターンが!

有機化合物の立体構造について、特に鏡像異性体に着目して、「L-グルコースやL-サリドマイドは、太らない糖・胎児に奇形をもたらすなど、ちょっと配置が違うだけでD体とは全く異なる性質をもつのです…」などということをここ最近の記事でチラッと紹介していました。

 

そう書くと、L体の方が特殊っぽい印象があるわけですが、それはもう完全に分子次第の話で、例えばアミノ酸は生体内でタンパク質合成に使われる20種類全て(※)が、実はL体となっているなので、糖とは全く違い、アミノ酸は左手タイプだといえるわけですけれども、「なぜアミノ酸は全てそうなのか?なぜ糖と違うのか?」といったことは完全に謎といえましょう。

 

(※ちなみに、アミノ酸の内、一番簡単な分子、こないだ20種類を見たときにサクッと触れていた構造を思い出すと(↓)…

con-cats.hatenablog.com


…一番簡単なアミノ酸は「グリシン」だったわけですが、そもそも全てのアミノ酸は、1つの炭素原子を中心に据えたときに、

  1. 水素原子 -H
  2. アミノ基 -NH2
  3. カルボキシ基 -COOH
  4. 側鎖(すべてのアミノ酸は、この「側鎖」に何がついているかが違うだけ)

…の4種類のカタマリが4本の腕にくっついているもので、「4つが全て異なる」場合、それは不斉炭素原子となり、鏡に映さない限り決して重なり合わない鏡像異性体が基本的に発生する…なんて話をまさにここ最近していたわけですけど、一番簡単なグリシンの側鎖は、実は水素原子 -Hなので、4本腕の内2本に同じHがつながっていることになりますから、こいつだけが唯一の例外として、鏡像異性体の存在しない、すなわちL/D体の区別がない分子になってるんですね。

 

なので、アミノ酸を正式に呼ぶ際は、必ず「L-ロイシン」「L-グルタミン酸」などとL/D表記も添えて示されるわけですけど(そして、基本的に普通の場面で登場するのはL体のみ)、グリシンのみは「グリシン」になっている感じです。

 

そういえばD-アミノ酸の方は、「L体の糖」と比べて特に目立った話を聞いたことがなかった気がするんですけれども、軽く検索したら、我らが資生堂ニュースリリース記事(PDF)がヒットしてきまして……

 

資生堂、D-アミノ酸を豊富にバランスよく含む食材を発見、美容健康食品に応用へ

https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000001185/1185_n5m16_jp.pdf

 

…基本的にこの世の生物はどれもタンパク質合成にL-アミノ酸のみを使ってるわけですが、例外的にエビ・カニの類が、ちょうどサリドマイドが人間の体内でDからLに変換されていたのと同じように、そいつらは特殊な酵素の力で、体内でアミノ酸をD体に変換する能力を持っている…という面白い情報が目に付きました。

 

そして、D-アミノ酸は通常のアミノ酸よりも分解されにくく肌まで届きやすいといった性質があるんだそうで、記事タイトルにある通り、資生堂では美容健康食品への応用が盛んに研究されているそうです。

 

(また、味という観点でいうと、D体は普通のL体アミノ酸よりもかなり甘くなることが多いそうで、エビ・カニなどの海産物に感じる特有の「甘み」は、糖ではなくアミノ酸によるものなのです、という面白い記述もありました。

…まぁ、正直「海産物に言うほど特有の甘みなんてあるっけ?」と思えたものの、そういうのは個人の好みもありますし、あるということにしておきましょう(笑))

 

これは中々興味深いですねぇ~。

 

今回は呼吸反応の方に話を進める予定でしたが、またまた極めて時間がないこともあり、面白そうな話に思えたため、予定を変更してD-アミノ酸の最新の研究状況をほんのちょろっとだけ垣間見てみることでお茶を濁してみようかと思います。

 

早速、生命科学系の論文は全てこのデータベースに登録されるという便利なサイト・既に何度かリンクを貼ったことがある我らがNIHのPubMed(パブメド)で「D-amino acids」で検索してみたところ(↓)…

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=D-amino+acidsより

 

…3267件もの論文がヒットしてきて、左上にある年次グラフを見ると、年を経るごとに論文の数が右肩上がりに伸びていることが窺えますから、何気にD-アミノ酸ってのは今大変注目されている栄養素なんだといえましょう。

 

この手の研究は何となく日本が強い印象もありますけど(古くは、旨味(うまみ)がアミノ酸の1つ・グルタミン酸ナトリウムにあることを解明した池田菊苗さんの例もありますしね)、見事に検索結果ベストマッチのトップには、筆頭著者がTaniguchiさんと、日本人と思しき方……実際に論文にアクセスして著者情報を見てみますと、奈良女子大の松田さんのグループの論文がヒットしてきている感じですね!

 

今どきの多くの論文はPubMed Centralで全文が無料公開されているので、興味ある方は大学図書館から以外でも全文読むことができる形ですが……

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

…Figure 2の画像だけお借りさせていただきましょう。

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35225861/より

…ズバリ、タイトルは「統合失調症のバイオマーカー(=診断用に使える分子)として、D-アミノ酸が使える」というもので、その辺の話に関するレビュー記事(研究まとめ記事)になっていますけど、脳神経系の疾患を持つ患者からD-アミノ酸が検出されているそうで、美容や味としてはD-アミノ酸は優れているかもしれないけれど、そういうちょっと怖い話もあるということですから、何事も一長一短あるかもしれない、という感じでしょうか。


(とはいえ、それはあくまで仮説によるもので、D-アミノ酸を含む化粧品や食品を使う・食べるとすぐに必ず頭がおかしくなるということでは決してないことに注意すべきですね。

 こないだ見ていた、「長年人類は乳酸を悪者にしていたけれど、実はいいヤツだった…」みたいな例など、短絡的に因果関係を決めつけてしまうのは危険だといえましょう。)


実際、図にある通り、どうやらエビ・カニよりもむしろ発酵食品(Fermented foods)にD-アミノ酸は多く含まれるという報告があるようですけど、ヨーグルトや納豆を食べまくっている僕的には「マジかよ」と思える話であるものの、流石にたとえ少量のD-アミノ酸が含まれていたとして健康効果の方が大きいと思いますし、それを見ても食べることをやめないばかりか、「でも、資生堂によると、肌にはいいらしいし…」と、何事もポジティブにとらえるのが一番健康的ではないかと思います(笑)。

 

…と、意外とネガティブな研究報告があったこともあり、何とも中途半端な話になってしまいましたが、もうちょい論文の方もじっくり見てみたかったものの(検索結果2番目にあった、「食事の中のD-アミノ酸」ってのも面白そうです)、またしても時間切れとなってしまいました。

 

また次回、もう少し見てみるか、特にそこまで深入りする話がなかったら、そのまま呼吸の方に戻ろうかな、と思います。

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