膜の消失

元はアミノ酸飲料の話から唐突に分子生物学入門的な話へ移行し、楽しい有機化学講座とかを経て、分生入門のゴールといえるタンパク質合成の話まで戻ってきていた感じでしたが、またちょっと触れていなかった部分、細胞やその中にある各種特別な機能をもつブツ(オルガネラ)の話に立ち戻っていました。

前回は核の話(といいつつ、最後はどうでもいいゲームの話とか(笑))をしていましたけど、まぁせっかくなのでもうちょい核の話を続けていきましょう。


まぁ核そのものというより、多くの人が疑問に思うというか謎のまま残っているのではないかと思われるのは、やはり細胞分裂時の挙動なんかではないでしょうか。

学校の理科で、下図の真ん中にある、染色体が引っ張られている紡錘体の図なんかを覚えさせられたことを記憶している方も多いと思いますが……

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https://ja.wikipedia.org/wiki/細胞分裂より

まぁこれは既に核が消えた状態というか核は描かれていませんけど、やれ間期だのS期(DNA合成期)だの、M期こと分裂期は前期・前中期・中期・後期・終期に分けられてぇ…だの、「こんなの覚えさせられて何になんねん」筆頭の話かもしれませんね。

(ちなみに、図の左側は染色体をもたない大腸菌などの原核生物(プロカリョーテ(笑))の分裂、そして右側は減数分裂の様子ですけど、減数分裂って中学理科でも習いましたっけ…?まぁ生殖細胞が作られるときの分裂のことですけど、DNA量が2nからnになるタイミングとか、何気にこの辺はめちゃんこややこしい話といえましょう。
 なお、英語の体細胞分裂Mitosisと減数分裂Meiosis、正直ややこしすぎて、これまた「この名前付けたやつ、フザケすぎぃ!」と思えちゃうポイントですね(笑)。こればっかりは、確実に日本語の方が優れている用語に思います。)


まぁ既にこの図の時点でイミフポイントが多すぎるわけですけど…
(例:染色体の中心部が引っ張られる?誰が引っ張るの?そいつはどうやって中心部を認識して、どういうメカニズムで引っ張るわけ?そもそもそいつはどうやって端っこに集まるんだよ?普段そいつは何してんのさ?…などなど、冷静に考えると無限に分からないことだらけ)
…結局そういう細胞内の時空間制御というのは、突き詰めれば多くの場合それ用の特別な機能をもったタンパク質が行っているもので、そのタンパク質マシーンたちはもちろん、細胞周辺や細胞内の様々な刺激に応じてスイッチが入ったり切れたりする遺伝子DNAやRNAの発現コントロールで上手く量が調整されているし、濃度差や分子同士の相互作用によって一方向への移動とかを可能にしている、という感じなわけですね。

もちろんまだまだ分からないことだらけではありますが、少しずつ、色んな生体反応の分子レベルでのメカニズムが多くの人の研究で分かってきた、ってのがまぁ分子細胞生物学と呼ばれる学問分野だといえましょう。


正直細かいことを見すぎるのも入門編から逸脱している気もするのですが、まぁせっかくなので、核の話ついでに、

「核は二重膜を形成→細胞分裂時は(先ほどの図にもあるように)核膜は消失する→分裂後は当然、また核膜が形成される」

……という流れで誰しもが思うであろう、

「消失ってなんだよ!消えるって、いきなりこの世からいなくなるわけ?そんなことある?そんな消えていいもんなら、元々要らなくね?」

…といった点について、今回もちょっと分子レベルの話を垣間見てみようかと思います。


この辺の話について、僕は膜分子の専門家ではなくそこまで詳しいわけでもないので改めて論文を調べてみた所、ちょうど、トップ雑誌Natureには掲載された論文に編集者や関連研究者がコメントを寄せるコメンタリー・ダイジェスト記事があるのですが、2015年公開のその手の記事が目についたので、こちらを見させてもらいましょう。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事で、ちょうど核膜の消失(Disassembly)と再形成(Reassembly)の簡単な概略図が掲載されていました。

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https://www.nature.com/articles/nature14527より

まぁこの記事は消失よりむしろ再形成に関する論文(2つの研究グループから、同時期に、新分子に関する似た報告がされたこともあり、コメンタリーで取り上げられていた感じですね)なんですが、図にある通り、核というのはそもそも内膜と外膜(inner and outer nuclear membranes で、INMとONMと略記)の二重膜でできているわけですけど(そして、外膜は一部がビヨーンと伸びて、小胞体・ERを形成)、核膜の穴ぼこには核膜孔複合体(nuclear pore complexesでNPC、前回話に出していたヌクレオポリンは、NPCの構成成分ですね)というものが存在しており、膜の消失というのは何てことはない、このNPCが穴から外れて、核膜がバラバラになって拡散していく、という簡単に言ってしまえばそれだけの話なのでした。

ちなみにこのコメンタリー記事で取り上げている論文は(さっきも書きましたが)消失よりむしろ核膜の再形成を研究したものであり、膜の穴ぼこのちょうど端っこに、ESCRT-IIIという膜形成に働くことが知られている複合体(ESCRTに関しては、意外にも日本語のWikipedia記事もありました→ESCRT - Wikipedia)が集まっていることが判明し、こいつがスピンドル(紡錘糸とか、微小管とか呼ばれる、染色体を引っ張るやつですね)を切断する手助けをしたり、膜の隙間をシールしたりなど、核膜再形成に重要な役割をもっていることが示唆された、という感じの研究ですね。


結局、分裂時に消失してもすぐに再形成されるのが核膜ですから、DNAの保護や、転写・翻訳を適切な場で行うのに核という構造や小胞体などの存在は重要なので、やはり細胞になくてはならないのがしっかり膜で囲まれた核である、といえましょう。


(そういえば、Natureのコメンタリー記事って、昔は日本語版もあったような…でも確かいつの頃か廃止されたんだっけ…?と思ったら、今でもありました!
 図は極小ですが、まさに上記記事の全文訳が公開されていますね。多分、大学とかの学術機関以外からでも、誰でも無料で閲覧可能だと思います↓。)

www.natureasia.com


しかしまぁ、膜の消失について、落ち着いて考えると、「『NPCとやらが離れる』って、何でよ?!何がどうなっていきなり離れるん?」と思えるわけですけど、その辺ももちろん大まかなメカニズムについては明らかになっており、膜消失の詳しい研究報告の1つは、もう20年近く前、同じくトップ雑誌Cellに報告されていました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
まぁこの論文も、本題はNPCが外れることよりも、さらにその先の、核膜がもっと細かくズタズタになるメカニズムについて調べられたものでしたけど、本文に記述されていたように、NPCが外れるのは、キナーゼ(リン酸化酵素)によりNPCがリン酸化されることがその直接の要因というか原理のようです。

タンパク質がリン酸化などの修飾を受けると当然性質も変わりますから、NPCはリン酸化されると、もはや穴ぼこにいることができなくなりあえなく外れる…という仕組みですね。


同じ論文から、こちら(↓)は核膜(の内膜にある核ラミナという構造を構成するラミンタンパク質と結合することが知られているタンパク質……複雑すぎですが、まぁ核膜と考えればOKでしょう)に蛍光物質をつけて蛍光顕微鏡で観察した像ですが、特に(B)が、経時変化で膜が消失していく様子が分かりやすいですね。

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https://www.cell.com/fulltext/S0092-8674(01)00627-4より

この論文では、様々な実験を行った結果のまとめとして、この核膜をズタズタに引き裂く因子として、微小管を構成するモーター分子の駆動というものが一役買っていることを突き止め、それが膜を物理的に引き裂く様子を分子レベルで記述したモデル図なんかも提唱されていますが……

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同論文、研究結果をまとめた核膜消失のモデル図

まぁ、ちょっと細かすぎて、詳しく説明する気も失せる感じの、「そうなんだ、凄いね」としかいえないぐらいの話かもしれませんね。
(実際ちょっと時間不足で、詳しい説明断念…。めちゃくちゃ簡単にいえば、矢印の向きにモーター分子(紫の小さい丸)が動いて緑の核膜ラミナを引き裂く、ってのがポイントですね。
 一応、検索したらトップで出てきた論文ですし、今でも正しいモデルとみなされているのではないかな、と思います。)

結局、この手の話はちょっと何というか各論すぎてなんか全体像が見えてこない・細かすぎてつまらない・あくまでモデル図の提唱とか、どうせ時間が経ったらまたいつか全然別のモデルとかが出てくるんちゃいますのん?とかみたいな、そういう何か「う~ん…」と思えるのが正直な所といえちゃう気もしてしまいます。

この手の研究を生業にしている僕ですらそう思うわけですから、別に仕事にしているわけでもない方が教養として学ぼうと思った際は、特にこんな感じの細かい話ばかりが続くせいでやる気をなくすというか挫折してしまいがちな点に思えてならないわけですが、もしこの辺を面白いと思う方がいらしたら、生命科学研究はいくらでも新しいことが報告され続けているので、仮に英語がちょっと苦手でも、各種研究をまとめたレビュー記事の図を見るだけでも楽しめるかもしれませんね(あるいは、先ほどの日本語版Natureダイジェスト記事とかを読んでみるのもいいかもしれないですね)。

ただ、ブログとしてまとめるのは、やっぱり、正直ちょっと細かすぎて面白くないかな、ってのが、今回改めてまとめてみた感想かもですね。

まぁとりあえずあんまり細かい点に深入りはせず、次回もまた他のオルガネラをもうちょい見ていこうかと思います。

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