乳酸は悪者ではなかった…

前回の記事では、通常の呼吸とは異なる経路の有機物分解、いわゆる嫌気呼吸として、アルコール発酵と乳酸発酵の2つを話に挙げていました。

 

最近は毎度中々時間も取れず、だいぶ駆け足の説明になって色々不足していた感じで恐縮ですが、アルコール発酵は、人間がお酒を分解するのとちょうど真逆の反応になっており、しかも反応に関与する酵素まで全く同じなのです……なんてこともチラッと書いていたわけですけれども……

 

…そうすると、「え?じゃあ、人はそのアルコール分解酵素を持ってて、しかも実はこの酵素はアルコール合成にも使えるってことなら、人間も酸素が足りない状況なら、アルコールを自分で合成できるってこと?息止めるだけでお酒を飲んだのと同じになれるとかお得じゃん、ヒュ~」とか思われる方もいらっしゃるかもしれませんが(いないと思いますけど(笑))、これは残念ながらそうはならないんですね。

 

もちろん、グルコースがピルビン酸にまで分解されて、それが仮にアルコール発酵経路に乗ることがあっても、

「酔うのに十分な量のエタノールが得られるまで、どんぐらい時間かかると思っとんねん!酔いが回る前に、窒息して死んでまうわ!!(笑)」

…って点も当然ありますけど……


(なお、アルコール発酵の第1ステップで働く、ピルビン酸をアセトアルデヒドに変換するピルビン酸デカルボキシラーゼ(脱炭酸酵素)は、遺伝子データベースで検索してもどうやらヒトは持っていないようなので…

(参考:「パイルヴェイト・ディーカーボクシレイス ヒューマン(ピルビン酸脱炭酸酵素 ヒト)」で検索した結果がこんな感じですね(↓))

www.ncbi.nlm.nih.gov


…ちょうどパパイヤの持つタンパク質分解酵素パパインをヒトは持っていないように、そのステップを触媒できる酵素は、一部の選ばれし微生物のみが持つ、専売特許アイテムという感じだといえましょう。)


…まぁそれも非常に大きな理由ではありますけど、人間の場合は嫌気的な反応として、実は乳酸が生成される反応が進むため、お酒=エタノールを体内で合成できることには決してならない形になっています。

 

(仮にピルビン酸をアセトアルデヒドに合成できたとしても、もちろん各酵素の量や反応速度に応じたバランスになるとは思いますが、普通に乳酸ルートが一番取りやすそうに思えます。)

 

……と思ったものの、実は世の中は広く、体内でアルコールを合成できる稀有な例も存在しているようです。

 

…以下のCNN記事(↓)はアメリカでの報告例ですけど……

 

www.cnn.co.jp

 

…どうやらこの「体内で勝手にアルコールが…!」という件、日本での症例報告はより早く、1970年代には既に結構な数の報告例があったとのことですが、これも実は人間が自分でお酒を作っているわけではなく、上手いこと腸内に酵母が住み着いているのがこの症例の特徴のようで、「腸の中で酵母がアルコール発酵をした」と、単純にそういう形のようですね。

 

大変面白い症例ですし、お酒好きの方からしたら「毎日食後、勝手に酔っぱらえるとか、羨ましい!」と思えるかもしれませんが、まぁ実際そんなの不便極まりないですし、体にもめちゃくちゃ良くないですから、このアメリカ人男性は腸内細菌を正常化すべく治療を受け、1年半後には正常な腸内環境に戻ったとのことでした。


(そもそもの原因は、抗生物質を飲んで腸内の細菌バランスが崩れ、通常人間の体内では定着しない酵母酵母は細菌ではなく菌類、いわばカビですから、「腸の中がカビてしまった」と考えれば異常さも分かるかと思います)が住み着いてしまった…という感じだったみたいですね。

 やはり、腸内細菌の状態は、睡眠と同じぐらい極めて大事な健康バロメーターだと思えてなりません。)

 

…と、話を戻すと、人間の場合、何気に酸素不足の状態で運動を続けると、どんどん乳酸が蓄積していく……というのは有名な話ではないかと思います。

 

これに関して、長年科学の定説として人々に知れ渡っていた話が、実はその後そうではなかったと知られることとなったネタがあるので、今回紹介しようと思ったのですが……


…それについて触れられている英語記事でも参考にして、翻訳引用をすることでスペースを埋めようかと思っていたものの、検索したら日本語のより面白い記事が見つかったので、そのリンクをペタリと貼って「大変含蓄のある、面白いストーリーですね」という小学生並みの感想を貼って終わるので十分かな、という結論に至りました。

 

そのナイス記事がこちら、近年の企業買収ブームで今ではCytiva(サイティバ)と名前を変えてしまいましたが、僕が学生の頃は天下のエジソンさんが設立したGE(ゼネラル・エレクトリック)グループの傘下企業、GE・ヘルスケアという名前で、正直今でもCytivaとかいう全く身近に感じない社名より「GE」の方が遥かに馴染みがありますけど、まぁ社名はともかく、そのGEの日本語ローカルページで、生命科学・生化学に関する非常に面白い豆知識記事(「生化夜話」というタイトルもナイスでした)が毎月メールマガジンだかで配信されていまして、まぁ↓にもある通り普通にウェブサイトにも公開されていたので僕は日々の実験の合間に、お約束のネットサーフィンをしながら暇をつぶしていた際、せめてサイエンスっぽい記事を見ることでネットさぼりの罪悪感を減らそうと(まぁ別にそんなこと考えてはおらず、Yahooとか見る合間に見てただけですけど(笑))、いつも楽しみに読んでいたわけですが……クッソどうでもいい前置きはともかく、こちらがその、乳酸に関する面白エピソード回ですね!

www.cytivalifesciences.co.jp

 

この回に限らず、生化夜話には本当に面白い生命科学こぼれ話がいっぱいで、この辺の話に興味を持たれた方はぜひご覧いただくことをお勧めしたいところですが、乳酸と筋肉の関係について……

…そう、特に筋トレとかをしている方にはおなじみ…というか、まぁ間違ってる情報なので今ではあんまり知られていないかもしれないものの、案外今でも誤解されている方が結構いる気もする話として、「筋肉の疲労・痛みは、乳酸の蓄積が原因である」というもの……

…これは上記生化夜話の記述を参考にすると、19世紀か20世紀初頭頃に提唱されて以降運動好きな人たちの間での定説となっていたわけですけれども、21世紀に入り、どうやら乳酸と筋肉のダメージとは関係がない……どころかむしろ、「乳酸は栄養源として、筋肉修復に役立っている!」という真逆の知見が得られて、今はもうそちらの方がどうやら正しいようだと、新しい定説になっているという話なのでした。

 

ちなみに実際の「筋肉に悪さをする物質」としては、この記事だと「カリウムイオン」とされているものの、Wikipedia先生にも同様の記述は当然あり、こちら(↓)を見てみると…

 

ja.wikipedia.org

 

…まぁカリウムイオンが原因であることも記述があるので否定はされていないものの、それに加えて、ここ最近の記事で「エネルギー合成で一番重要といえるキー物質」と脚光を与えていた、まさかの「リン酸」の蓄積なんかも、筋肉疲労の原因であると考えられているようですねぇ~。

 

結局、その辺の生理学的な知見ってのは案外特定が難しく、ハッキリ「これ」と中々言えないことが多く、この例もその通りといえるわけですけれども……

まぁ乳酸の場合「乳酸アシドーシス」という形で、「細胞が酸性に傾くことで、筋肉の破壊が起きる」(アシドーシス=「酸」のacidと、「変化・病態」を意味する接尾辞-osisの合成語ですね)という説が大変説得力があって長い間広く受け入れられていたことからも、同じ酸性物質であるリン酸の蓄積が実は細胞を酸性側に傾け……ってのは説得力がありますね。

 

…と、今回もその辺の話で時間切れとなってしまいました。

乳酸について、次回もうちょっと脱線してみようかなと思います。

 

アイキャッチ画像を考える時間ももう1秒もなかったため、苦し紛れに、今回は「乳酸」記事からお借りしました(前回の構造式のみとはちょっと違うけれど、結局やっぱり情報量ゼロ(笑))。

https://ja.wikipedia.org/wiki/乳酸より

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