マイナーミネラルも順に見ていこう

前回前々回で、日本人の食事摂取基準(2020年版)で挙げられているミネラルの内、メジャー5種(Na、K、Ca、Mg、P)まで触れ終えていました。 

(1点、上記資料を改めて読んでいて気付いたんですが、前回、リンは「摂取の推奨量が掲げられていません」と書いたものの、一応「目安量」として、具体的な数値は掲載されていました(310ページに)。
 当たり前ですが、一切全く摂取量を気にしなくても良い、というわけではないようですね(ただ繰り返しですが、通常の食事で不足することはまずないため、気にかける必要もほぼないという感じでしょう)。

 また、リンのみならず、よく読んだらマグネシウムなんかも同じように「通常不足することはあり得ない」という記述がありました。
 マグネシウムは「カル2マグ1」のように、摂取量を気にした方がいい栄養素かと思っていましたが、厚労省的には、まぁ意識せんでもえんちゃう?ぐらいの感じだったということで、意外です。)

というわけで、続いては微量すなわちマイナーミネラル、しかしマイナーとはいえ、ここに挙げられている時点でメジャーといえばメジャーなので、メジャーマイナーという感じかもしれませんね。

マイナーということで正直触れることもあんまりなさそうな予感がしますが、数だけは多いので、サクサク参りましょう。

6. 鉄(Fe)

金属の代表面をしている鉄ですが、 体の中では酸素を運び、体の外では鉄器を作りと、まぁ名実ともに人類にとって最もなじみの深い、一番の友達な金属といえることができましょう。

…って、どこがマイナーだ、めちゃんこメジャー物質じゃねーか!(笑)

まぁ一応、生体内に存在するミネラルとしては、五車星のあいつらよりは幾分マイナー感は否めないのかもしれません。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/鉄より

鉄、英語ではiron(もちろん読みはアイアンですが、洋服のしわ伸ばしに使うアレは、アイロンという誤読のまま定着してしまったのは面白いですね……と思いきや、検索して出てきたこの英語学習者のQ&A掲示板によると、Rをあえて発音する場面もあるみたいですね。具体的には、まさかの科学コミュニティで、ion(アメリカ英語読みで、「アイオン」)と区別がつきにくい場合に、あえてRを強調して読む…みたいな感じのようです)という名前からはあまりにも意味不明な元素記号Feですが、これは、ラテン語で鉄を意味するferrumに由来するそうです。

あまりにもかけ離れすぎてて、もうちょい何とかならんかったのか、って気もしますが、英語圏の人にとっては「SodiumがなぜNaなの?」と思うのと同じかもしれませんし(よく考えたら、我々にとって水素がH、リンがP、塩素がClとかも、パッと見で日本語的には意味不明なわけですしね)、むしろ慣れればFeが鉄に見えてくるってなもんですから、面白いものです。

ちなみにWikipediaにも載っていましたが、鉄という漢字は「金を失う」と書くので企業にとってはあまりにも縁起が悪く、鉄道会社のロゴなんかでは金偏に矢にして、「鉃」と表記する場面も多いようですね。

(初めてそれを見たのは、大学入ってすぐ、鉄道研究会が新歓の立て札の自作ポスターでデカデカと「鉃道研究会」と書いてあるのを目にしたときでしたが、「え?間違えてる?」と思ったら、横にいた鉄道好きの友人が「縁起が悪いから、こう書くこともあるよ。金が矢のように入ってくるようにという験担ぎの意味を込めてということだね」と早口でまくし立ててきたので、「え、キモ…」と思った……というのは冗談で(笑)、「へぇ~」と思ったことを覚えています。場所もはっきり覚えていて、懐かしい限りです。一号館裏手の、人目によくつく、凄くいい場所でした。)


まぁ鉄は栄養区分的にはマイナーミネラルとはいえ、それは量がマイナーなだけで、機能としてはもう繰り返し書いている通り、生命活動の最重要パートといえる、呼吸における酸素の運搬に関わっているのですから、超重要・ドメジャーなことには違いありません。

酸素がいかに大切なものなのか、ご存知ない方のために(いるのか?)、この図をご用意しました。

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https://axel.as-1.co.jp/contents/oxygen_deficiencyより

6%以下しか酸素が含まれない気体を吸うと、まさかの、一呼吸しただけで即死します。

一酸化炭素中毒とかでも有名な話かもしれませんが、息を止めることと、酸素が少ない気体を吸うこととの間には、極めて大きな違いがあることにご注意ください。

肺というのは酸素分圧をモニターすることで、大気と血液中との酸素濃度のバランスを瞬時に取り続けている高機能な器官なのですが、本当にリアルタイムで常時酸素を取り入れて(交換して)いるために、いきなり酸素の少ない空気に晒されると、全身の酸素濃度が一瞬にして完全に狂わされて、お陀仏なわけです。

僕も、実験用のドライアイスを保管している金庫みたいなものがあるのですが、ドライアイスを取ろうと、割と金庫の内部にまで首を突っ込んでガサゴソしていたときに、ドライアイスから発せられる二酸化炭素ドライアイス二酸化炭素の固体です)が溜まっている空気をほんの少し吸っただけで、一瞬「あっ、これは危ない!」と思える感じで気が遠くなりかけたことがあるので、冗談ぽく始めましたが、マジで酸欠というのにはご注意ください

「息止めて1分とか我慢できるんだから、ちょっとぐらい酸素が少なくても余裕っしょ」とかついつい思いがちですが、酸素以外の気体を吸う(正確には、そもそも大気のほとんどは窒素なのでそうではなく、「酸素の割合が普通の大気より少ない気体」ですが)というのは、想像しているより遥かに危険なので、火事の現場でなるべく酸素が残っている可能性の高い床付近の空気を吸うとか、もっと日常的には冬場のガスストーブの換気とか、あと以前事故があってニュースにもなっていましたが、ヘリウムガスを吸って声を変えるみたいな遊びをする際は細心の注意を払うこと(あれ、マジで案外危険だと思います)なんかは、本当に大切だということですね。

全然鉄と関係ない話すぎてワロタ状態ですが、まぁ鉄に関しては、貧血で悩まれている方も多いのではないかと思われますし、栄養素としての重要性について改めて述べる必要もないぐらいといえましょう。

貧血というと「血が少ないの?」と思われるかもしれませんが、そうではなく、また、「血圧が低いこと?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんがこれもそうではなく、血液中の酸素の運搬量が減少している、つまりヘモグロビンとそれに結合して働くの量が減少しているということ、要は血液の質が悪くなっているということなんですね。
(まぁこれは言い換えると赤血球が減少しているということなので、「血が少ない」は必ずしも外れてはいないかもしれませんが、液体としての血液(血漿)のボリュームが減ってるわけではない、ということですね。)

なので、貧血に悩む方は、ヘモグロビンを作るためのタンパク質と、それから鉄分を摂取することがとても重要になるわけです。


鉄を多く含む食品といえば……まぁ圧倒的に断トツで含まれているのは、もうイメージからも血が滴ってそうで、ぶっちゃけ味も何か鉄くさい気がする、レバーでしょう。

まぁ他にも、ほうれん草なんかも鉄を多く含む食品として知られていますが、しかし、ほうれん草の鉄分含有量といえば、面白い逸話が思い起こされます。

ズバリ、「ほうれん草が鉄を多く含むというのはガセだった?」 的な話で、まさかの、「調理に使う鉄鍋からの鉄分の溶け込みで、実際の含有量より圧倒的に多く見積もられてしまっていた」という、笑い話に近いあれですね。

…と、検索してもなぜかあまり出てこなかったんですが、「spinach iron wrong data」なんかで検索したら、マギル大学の記事がヒットしてきましたよ。

www.mcgill.ca
そう、この記事にある通り……ほうれん草が鉄を多く含むというのは、1870年に測定された最初期のデータが小数点を打つ場所を間違えて1桁多く見積もられていたということ、そしてほうれん草を食べると体が強くなるというのは、ポパイを使って洗脳じみた感じで子供たちに売りつけようとしたほうれん草業界の陰謀であること……などなどが書かれていますが、更によく読むと、その説を広めた、1981年報告の「あのデータは小数点の打ち間違い」ということが書かれた論文は、それこそそう結論付ける客観的なデータはなく、ポパイに関しても「ほうれん草の鉄分はずっと信じられてきたのより1桁も少ないから、ポパイは草の入った缶詰でも噛んでた方がマシだな、HAHAHA!」みたいな記述が一人歩きした結果広まってしまった噂・ゴシップ話みたいな感じだっただけで、ポパイのおかげでほうれん草の売り上げが飛躍的に伸びたという事実も、そもそもポパイの強さはほうれん草の鉄分のおかげだという宣伝がなされたということも、実は全くなかったのである……という面白い内容なんですけど……

…あれ?鉄鍋うんぬんは、一応、1981年レポートへの反論として、「1870年のデータは、生ほうれん草と乾燥ほうれん草の違いや、実験器具からの少量の混入はあったかもしれないが、小数点のズレによる桁の違いなどは存在しなかった」というそれっぽい記述はあるものの、どうも「巷で信じられているような、『ほうれん草の鉄分は、単なる小数点の打ち間違い。本当はザコ』というほどの差はなかった。偉い人が提唱して広く受け入れられている定説も、きちんとデータを検証して、疑ってかかることも大切だね」という論調の記事で、自分が思ってたのとちょっと違うような……。

…って、あぁーっと!!

鉄のフライパンの話は、ほうれん草じゃなくて、ひじきでしたね!

いやぁ~、勘違いしてしまっていました。

フライパンうんぬんの話は、日本でしか食べられていないひじきの話で(関係ないですが、海外の人は、真っ黒なひじきはあまりにもグロくて受け入れられない、って聞いたことがありますね…。何でや、ひじき、あんなに美味しいやんけ…!!)、↓の日経の記事にもある通り2015年クリスマスに報告されていた話ですが、結構ニュースになってましたよね。

www.nikkei.com
どうりでほうれん草やspinachではヒットしなかったわけです。

こちらひじきパイセンはマジでザコだったようで、記事にもある通り、100グラムあたり55ミリグラムあった鉄分が、改定後はいきなり6.2ミリグラムと、まさに桁違いの暴落!ひじき業界(あるのか?)にとってはとんでもなく残念なニュースだったのかもしれません。

でもまぁ鉄が思ってたより含まれなくても、その他の栄養は優れていると思いますしね、僕はこれからもひじきを応援しますよ(まぁアメリカでは売ってないので、もう長年食べてませんが…)。

ついでに全く関係ありませんが、先ほどフライパンについて触れて、こないだガイガーカウンターについて触れた記事で書こうと思っていて書くのを忘れていた点を、また1つ思い出しました。

ガイガーカウンターは「パンケーキ型」といわれる形がよく使われるんですけど、このパンケーキという単語、恐らく半数以上、いや甘く見積もったら多分8-9割の人が勘違いされてるんじゃないかと思うんですが(特に初めて聞いた子供たちなら確実に)、これは、パン+ケーキっていう意味では全くないんですよね。

いやまぁパン+ケーキではあるんですけど、誰しもが頭に思い浮かべるであろう菓子パンとケーキが合わさった言葉(パンみたいなケーキ?)ではなく、まさかの、フライパンのパン+ケーキで、日本語にするなら鍋焼きケーキという意味でしかなく、いわゆるご飯パンのパン要素は皆無、全くパンとは無関係なのです。

そもそもパンは英語でpanではなくbread、パン屋はbakeryなので(英語でpanという場合、鍋・皿的な意味しかなく、食べるパンの意味には100%絶対になりません)、海外で「パンショップに行きたい!」といったら金物屋に連れていかれるだろうし、「パンが食べたい!」とでもいおうものなら、鉄鍋をカジカジしているイメージを思い浮かべられて、「ついに頭がいかれたか…」と病院に連れていかれること必至なので、注意したい所ですね。
(…って、パンをpanといってしまう英語初心者の場合、どう考えても発音もクソなのは避けられないので、「多分全然違うことをいいたいんだろうな…」と何か別のことを推測&察してくれるか、単に「ちょっと何いってるか分かんないっすね…」となることがほとんどだと思いますが…。)


すっかり鉄とはあまり関係ない、ほぼ無駄話だけで長くなってしまいましたが、あとせっかくなので栄養素ミネラルとしての鉄について、もう1つ知っておくと良いかもしれない豆知識に最後触れておきましょう。

先ほどのポパイの記事でも触れられていましたが、鉄分には、栄養学的観点から、ヘム鉄非ヘム鉄の2種類が存在することが知られています。

ヘムというのはhemeやhaemという異なるスペルをもつ言葉ですが、これはギリシャ語で血を意味するhaimaに由来する語で、まさにという意味ですね。

ヘモグロビンもまさにこの語からできた言葉で、あとは「血液学」を意味する英語も、ヘマトロジーになります。

ということで、ヘム鉄というのはまさに血と一緒に摂れるような形で、動物から摂取できる鉄分(赤身肉・魚)、そして非ヘム鉄は、血が混じっていなさそうな部分や植物などから摂取できる鉄分、ってイメージをもっておけば間違いないでしょう。

分かりやすい図があったので、みぞぐちクリニックのブログ記事から引用紹介させていただきます。 

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https://mizoguchi-clinic-mega.jp/blog/clinic/421より

図にある通り、ヘム鉄は非ヘム鉄より圧倒的に吸収されやすい(=自分の体で使いやすい)ことが知られており、鉄をしっかり吸収したいなら、断然ヘム鉄を摂取することが推奨されています。

ほうれん草は、鉄を多く含む代表的な野菜ですけど、こちらはまさしく非ヘム鉄が含まれているので、その意味で「鉄分摂取でほうれん草を摂るのは、そこまでベストな選択肢ではないのはそうかもね」的なこと(しかし、「魚には大量のヘム鉄が含まれるので、船乗りであるポパイが鉄分不足に悩まされることはないだろう」とも(笑))が、先ほどのポパイの記事にも触れられていました。

なお、同じくポパイの記事でも書いてあったことですが、ほうれん草はシュウ酸を多く含むことでも有名で、そのシュウ酸はなんと鉄分の吸収を邪魔することも知られているため、二重の意味で、実はほうれん草は優れた鉄分供給源とはいいがたい、ともいえてしまうようですね。

ちなみにシュウ酸は、メジャーミネラル様であらせられるカルシウムと化合物を形成することで難溶性のシュウ酸カルシウムとなり、これが凝集すると何になるかといいますと、まさかの、あの、恐怖の尿路結石爆誕してしまうことになるため、栄養的に素晴らしい点はもちろんあるんだけれども、実はほうれん草というのは意外とちょっと怖い野菜でもあることを覚えておいてもいいかもしれません(シュウ酸の含有量が、何気に断トツ圧倒的に多いので)。

でもまぁ、そんなに3食ほうれん草・ポパイさながら缶詰から放物線を描いて丸飲み(上のリンクカードの画像もまさにそうでしたが、あれ、一体どうなってんだよ(笑))とかしない限り、やっぱり豊富な栄養が含まれるのも間違いないですから、メリットの方が大きい野菜なんじゃないかな、って思いますけどね。

一応、鉄が豊富とはいわれているけれど、鉄のためにほうれん草をジャンジャン食べるというのはあまり理に適っていないし、尿結石が不安な方は、避けた方が無難かもしれない野菜かもしれませんね、という話でした。


まさかの鉄のみで終わってしまいましたが、出てくるミネラルも段々マイナーになっていくと思うので、次回以降、順番に終わらせていきましょう。

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