そして酸素が使われる…

前回は、呼吸の真骨頂・電子伝達の4ステップの内、3番目の複合体「ユビキノール-シトクロムcレダクターゼ」なるイオンポンプ酵素をごく簡単に見ていました。

 

ついに、大変複雑な電子伝達系(でもよく考えたら、反応自体は難解でも、主役となる複合体は4-5つですし、クエン酸回路よりは案外単純だと言えるのかもしれませんね)も、準備ステップ(水素イオンの汲み出し)はラストとなりました、複合体ナンバー4のご登場ですね!

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/電子伝達系より

前回は「複合体 III」が、ユビキノンことコエンザイムQ10を酸化していましたが、「何かが酸化される」ということは「何かが還元される」ということなので、Qの酸化と同時に何かが還元されたわけですけど、「ユビキノール-シトクロムcレダクターゼ」という名前の通り、「シトクロムc」という小分子が還元されていたのでした。

 

そして、その「シトクロムc(還元型)」が次の「複合体 IV」に伝わって……という話だったので、当然今回はその「Cyt c」が絡んでくるものになっています。


そう、複合体 IVというのはズバリ、「シトクロムcオキシダーゼ」という名のイオンポンプ機能をもった巨大酵素が、その本体だったという感じなんですね。

 

ja.wikipedia.org

 

今回もまず名前から見ておくと、「オキシダーゼ」ってのは、何かカッコつけて横文字使ってますけど、これは「酸化酵素」ってだけですね。

 

前回の「レダクターゼ」の真逆で、単純に「酸化」という英単語「oxidation」に酵素を意味する「-ase」という語尾が組み合わさっただけですけど、こちらはreductionよりも、「酸素」は「オキシなんとか」というイメージは何となくどなたも持っているのではないかと思うので、より想像しやすい語でしょうか。

(「酸素」は「oxygen」で、yとiの変換がややこしいですけど、まぁ「オキシジェン」ですね。動詞の「酸化する」ならoxidizeです。)

 

…馬鹿の一つ覚え的に全く同じネタをこすらせていただきますと(笑)、「オキシダーゼ」という語は、日本語で読む場合誰がどう考えても「オキシーゼ」と「ダ」にアクセントをつけて読んでしまうと思いますけど、英語のoxidaseは、そのパターンで英語っぽく「オキシダ~ゼ」とか無理やり読んでも完全に日本人英語になってしまうので、この場合、「クシデェス」のように読むと、(実際に声に出して読んでみるとお分かりいただけると思いますが)結構いい感じに英語っぽくなる形ですね。

 

(例によってGoogle検索で「oxidase pronunciation」と検索すれば、トップに実際の音声も紹介される形です。

www.google.com

…前回も書いた通り、リンクカードには残念ながら音声ボタンは出てきませんが、リンク先のトップ、スピーカーアイコンをクリックなりタップなりすればネイティブ発音を聴ける感じですね。)

 

と、基本的に毎回「前回の記事をコピー」して記事作成を始めるんですけど、今回はまさに前回の記述をそのまんま使ってちょろっと単語を書き換えるだけという省エネモードで、大変助かりました(笑)。

 

名前に関しては、前半の「シトクロム」に関して、こちらさんは前回も登場したものの今回見ればいいかなと思って放置していたため、今回はこいつにももうちょい注目させていただきましょう。

 

ちょうど例のタンパク質リボンモデルがリンクカードのサムネイルに表示されていますが……

 

ja.wikipedia.org

 

…低分子とはいえ一応こいつもタンパク質で、小さすぎて見えないかもしれないけれど、ちょっと見た目の違うボールスティックモデルで描かれた分子が真ん中にいるのもお分かりいただけるかと思いますが、こちらはこないだも出てきたヘム鉄であり、シトクロムはヘム鉄とくっついている感じなんですね。

 

ヘム同様、シトクロムにも「シトクロムa」から「シトクロムd」まで異なる呼び名で呼ばれるものがありますけど、「ヘム同様」と書いた通り、これはなんてことはない、「シトクロムb」には「ヘムb」が共存しており、「シトクロムc」には「ヘムc」がくっついていると、概ねそういう違いになっています。

 

こいつの名前は、アルファベット表記だと「cytochrome」ですが、「cyto」は「細胞の」という意味で…

(何か一般的にも使われる単語はなかったかなと思いましたが、全部生命科学用語なので、特に分かりやすい「cyto」という接頭辞を使ったおなじみ用語はなかったですね。

 ちなみに英語では「シト」ではなく「サイト」読みが普通なので、このシトクロムも「サイトクロォム」という感じで呼ばれています。)

…一方の「chrome」、これは何度か出てきた気もしますしもうおなじみでしょうか、「モノクローム」が一番分かりやすいですが、「mono=単一の」で「モノクロ(白黒)」ですから、「chrome」ってのは「色」を意味する言葉ですね。

 

そんなわけで、「細胞にある色」的な名前からも、色がついていることが有名な分子といえますけど、これは、確か中学理科でも出てきたから、もしかしたらどなたも耳覚えのある分子でしょうか…?

 

…と思ったものの、よ~く思い出してみたら、色付きでおなじみの中学理科で出てくる分子は、シトクロムではなく、クロロフィル葉緑素)でしたね(笑)。

 

シトクロムは、呼吸の分子レベルでの反応も酸化還元も学ばない中学理科では流石に、まだ出番ではなかったようです。

 

いずれにせよ、名前としては「色」を前面に押し出しているものの、まぁ生物にとって最重要ともいえる呼吸、それも最終ステップで酸素を消費する極めてキーとなる反応を司るということで生体内に多く存在する分子ですから、発見されたのも結構古い時代と歴史があるものであり、まだ詳しいことが分かっていない昔は「色があること」が特徴的だったとは思えるものの、やはりこちらは「鉄を含有」「酸化還元に大いに関わる」ってのがその最大の特徴だといえましょう。

 

(実際、↑のウィ記事にも、色についての記述は全くありませんでした。そんなわけで、僕自身、こいつらの色のイメージは全くなかったですけど、調べたらズバリ写真付きで載っていました…

https://marycbedard.wordpress.com/2012/02/09/day33/より

…水中では、酸化型(写真左)がオレンジ、還元型(写真右)が赤い色を呈するんですね。)

 

とはいえやっぱり実際あんまり色は関係なく、具体的な複合体における反応としては……

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/電子伝達系#複合体IVより


…還元型のシトcは電子を失うことで酸化型になり、電子を受け取るのは酸化酵素であるオキシダーゼですが、この電子は画像にもある通り、具体的には酵素に含まれる銅と鉄(これもヘムとして酵素と共存しているものです)に伝わっていき、最終的に水素を酸化する…

(というか、「電子の伝達」に着目すると、「電子を受け取るものは還元されるもの」ですから、より分かりやすく書けば「酸素を還元する」という方が正確といえるかもしれませんね。この辺の話に慣れないと「酸化の本丸である酸素が還元される」ってのも変に感じるかもしれませんが…)

…ということで仕切り直すと、電子が酸素に伝わり、酸素分子が水分子に変換され、それと同時に別の4つの水素イオンが膜の外に汲み出される形になっている……と、ごく簡単にまとめればそういう反応が起きているのでした。

 

もっと詳しい電子の動きは最初にリンクカードを貼った酵素の記事に記述されていますけど、とはいってもやっぱり金属イオン中の電子の移動とかラジカルの生成とかごちゃごちゃ難解にも程があるので、特に気にしない方向で問題ない気がします。

(詳しく説明するほどの知識もないので、ただの逃げですが(笑))

 

ポイントとしてはやっぱり、まさかの、呼吸のほぼ最後の最後であるこのステップでようやく酸素が使われるということで、実はめっちゃ長々と見てきた解糖系からクエン酸回路を経て複合体 IIIでの水素イオン汲み出しに至るこれまでの全ての反応では、呼吸なのに一切酸素を使っておらず、ここでのみ酸素が消費されるということが挙げられましょう。

 

まぁここの反応が進むことで複合体I~IIIの反応も進み続けるので、電子伝達系と酸素の関係は一蓮托生とはいえるものの、ここで複合体 IVを動かすことがどれだけ重要なことなのかは、息を止めて酸素の供給を断ったらソッコーで苦しくなってホンの数分もすれば冗談抜きにコロリと死んでしまうということからも明らかといえる感じですね。


直接的には違うわけですが(概略図にある通り、反応自体は少し離れているので)、全体で見れば、酸素を使ってシトクロムを酸化する(また、酸素自身は還元されて水になる)というのが、呼吸最終ステップのキモという話(もちろん、実際により重要なのは、水素イオンが外に汲み出されることではありますが)でした。

 

(なので、今さらな話すぎますが、「酸素を吸って二酸化炭素を出す」と聞くと、酸素O2に炭素Cがくっついて二酸化炭素CO2になっていそうな気がすると思うんですけど、実際は酸素と二酸化炭素は完全に別々の反応に関わってくるものであり、両者は全く直接的な接触がない(=酸素が直接二酸化炭素に生まれ変わるわけではない)という関係性になっている点は、教養として知っておきたい豆知識かもしれませんね。

 具体的には、二酸化炭素クエン酸回路で、有機物が分解する過程で生まれるもの(C6→C5になるときなど)で、酸素は今見ていた通り、電子伝達ステップの最後に、シトクロムを酸化することで水に変わるというものでした。

 つまり、放射能とかを使って何とか上手いこと酸素原子にマークをつけたとすると、呼吸で吸われたマーク付きの酸素原子は、二酸化炭素からは決して検出されず、水分子の中にのみ見られる、という形になっているわけです。

…まぁ実際、酸素の放射性同位体は不安定すぎて使えないためそんな実験はほぼ不可能ですし、水になった後、その水分子が代謝有機物に取り込まれていく可能性はあるっちゃあるので、長い目で見たら二酸化炭素に空気の酸素分子由来の酸素が混じり込む可能性も、十分あるとは思いますが…)

 

そんな所で、全く浅めの、ほぼ概略画像をなぞっただけの記述でしたが、電子伝達系・酸化的リン酸化については一通り見終えた形ですね。

 

次回は呼吸のまとめをして、また少しずつ途中状態だった話に戻っていこうと思います。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村