放射性物質について知ってみよう

前回、DNAやRNAの検出方法として、放射能をもつリン(32P)が伝統的に使われてきた(他の優れた技法も発展してきたので、需要は大分減りましたが、今でもよく使われています)、という話をしていました。

そもそも話に聞いたことはある放射能放射性物質とは、一体何なのか?

今回はそれについて簡単に触れてみるとしましょう。

まず、この話になると専門家から必ず口を酸っぱくするほどいわれる点として、放射能って単語の使い方、おかしいから!!(憤怒)」ということがありますね。

しばしば「1945年8月6日、天から放射能が降り注いだ…」とか、「放射能に汚染された島」とかいった表現がなされるわけですけど、この辺の話をちゃんと学んだ人にとっては、「その使い方、ギルティー!」と指摘せずにはおれなくなる感じなんですね。

放射能というのは「放射線を出す能力」のことなので、例えばそうですね、蛍光灯は白い光を出す能力があるわけですが、例えば小学生が学校の廊下でボール遊びをしていて蛍光灯を割ってしまったときに、先生に「白い光を割ってしまいました…」って報告したとしたら、「は?」となるわけです。
(全然関係ないですけど、僕も小さい頃、学校の廊下で休み時間に紙くずを丸めたボールとほうきで何人かで野球して遊んでて、蛍光灯を割っちゃったことがあるんですけど(どんな悪ガキだよ(笑))、蛍光灯って割れたとき音がするんですよね。
 そういえば理科の授業で、ちょうど先生が「蛍光灯が割れるとどんな音が出るか分かる?」という問題を生徒に当てて、僕の1つ前の席に座ってた、勉強はあんまり得意じゃないけどスポーツ万能でちょっとお調子者っぽい感じで人気者だった杉山くん(ちびまる子ちゃんのキャラに似てるだけの、仮名ですが)が「…ガチャン?」と答えて笑いを取っていましたが、次に当たった僕は経験済みだったので答えられましたよ。
 そう、蛍光灯には希ガス(アルゴンガス)が含まれているので、割れたとき「ポンッ」って音がするんですよね。あれは印象的でした。
 まぁ、今回のネタとは全く関係ない話ですが…。)

話を戻すと、「いや白い光は割れねぇだろ。割れたのは蛍光灯でしょ」と思えるし、それと同じで、「放射能は能力のことなんだから、それが『降り注ぐ』とかはおかしいじゃろ」と思える話になっているわけです。

具体的には、放射線を出す能力のことを放射能(あくまで能力について言及した語で、この言葉自体は具体的な物質を指すわけではない!)、放射能をもつ物質を放射性物質放射性物質が出すものを放射線と呼ぶので(…ってこれもグルグルした説明になってますが、より詳しい意味は後ほど…)、先ほどの表現は、正確には「8月6日、天から放射線が降り注いだ」「放射性物質に汚染された島」と書いた方が正しいということになるわけですね。

…とはいえ、個人的には「いや言いたいことは分かるじゃん!…っていうか、確かに、『放射能』の方が何となく恐怖感をあおるし、音として耳障りが良いから、そっちの方が使いやすいのは何となく分かる」とも思えるので、例えば電気屋さんに「白い光ください」っていっても、普通に間違いなく蛍光灯を買えるわけですしね、「通じりゃえぇやん」の精神で、別にいいとも思える気もします。
(特に2つ目のは歌の歌詞ですし、多少おかしくても表現としてそっちの方が優れてるなんてことはいくらでもあるわけですしね。
 もちろん、正しくないのはやっぱり正しくないとしかいえないので、放射能警察の指摘が入ることも覚悟して使わねばいけないとも思いますが…。)


(…って、書いた後改めてよく考えたら、蛍光灯はあんまりいい例えじゃなかったですね。蛍光灯でいうと、白い光自体は放射線にあたるので、「白い光を割ってしまいました」は「放射線を割ってしまいました」といっているのと同じことになり、「放射能という単語を使うのはおかしい」ということを示す例としてはやや適切じゃなかった感じです。
 でも、「言葉の選び方がおかしい」例としてはまぁ当たってるので、何となくニュアンスは伝わっていることを期待したい限りです。)


…と、言葉はともかく、具体的にその放射能とか放射性物質って何なんだよ、って話ですが、これも、詳しく見てみようかと思ったんですけど、ぶっちゃけつまらんにもほどがあるので、ミクロレベルの細かい話はやめて、イメージだけ語るに留めるとしましょう。

放射性物質というのは、リン原子Pとかセシウム原子Csとかいった特定の原子で、「中性子(原子の構成要素の1つです)と呼ばれる微粒子が、普通より増えたり減ったりして、バランスを欠いた状態の原子」を含む物質のことを指します。

…って、結局何のイメージにもつながらないただの無味乾燥な説明だったかもしれませんが、各種原子(放射性物質にならない原子もあり、なるのは一部の原子のみです)が、もっている微粒子の数のちょっとした違いで凄まじいパワーを持つようになったものと考えればOKでしょう。

詳しく知りたい方は、まぁ放射性物質の説明なんて腐るほどありますけど、やはり我らが親方日の丸・環境省の解説記事とかが、検索して出てきたのをパッと見で眺めた限り、割とよくまとまっていた(かつやはりお役所仕事なので最も信用できる)印象がありますね。

www.env.go.jp
例えば前回話に出していた32Pは、「リンが(普通のリンより中性子が1つ多くなった結果)放射能をもった原子」といえるわけですね。
(ちなみに普通のリンは31Pと表記される、中性子の数が16個の原子です。一方32Pは、中性子が1つ多い、17個になっているわけですね。)

32Pは、原子の性質自体はリンであり、DNAの連結とかリン酸化とかにも普通のリンと全く同じように使えるんですけど、中性子が多い結果、放射線を発射する能力を持ったリン」になっているということです。
(「放射能をもつ」というただ1点以外は、見た目も、性質も、その他何もかも普通のリンと同じです(めっちゃ正確にいえば、中性子が1つ多いのでクッソ微妙~に普通のリンよりは重いんですけど、微粒子すぎて体感できる違いの差はありません。もちろん、確実に重さ・比重は違いますけどね)。)

こういった放射能もちの原子は、(性質はノーマル原子と同じだけど)原子全体の構造としては不安定で、放射線といういわばレーザービームみたいなもの(分かりやすく書いただけで、実際は目には見えない、無味無臭の、サイレントビームですが)を発射して、放射能なしの安定した原子に戻ります

まぁ「ビームって何だよ?」って話かもしれませんが、これは普通に電子だったり電磁波だったり、正確に理解するにはやっぱり物理学の知識が必要になるので漠然としか説明できませんけど、漠然とでいいならば、めちゃくちゃ小さい微粒子の弾丸というイメージをもっておけばそこまで間違ってはいないので、ひとまずはそういうイメージをもっておけばいいかもしれないですね。
(より正確に知りたい方は、先ほどの環境省の資料などが参考になると思います。)


なぜ人間が放射線を恐れているかというと、このときに発射されるビームが、我々生物が生命活動を送る上で必須な遺伝子の設計図・DNAに対し、ズタボロにぶち壊すダメージを与えるぐらいに強力な力をもち得るからなんですね。

先ほどの環境省の資料から、関連する図を抜粋してみましょう。

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https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-03-02-03.htmlより

放射線ビームは、直接DNAを破壊(鎖を切る、あるいは化学構造を変えて文字を書き換えるなど)することもあれば、水やその他の分子をアタックして、電子の作用がうんちゃらでそいつらがDNAを攻撃してしまう間接作用と呼ばれる形でダメージを与えることもあるわけですが、いずれにせよ、基本的には、多少攻撃を受けても、我々はその傷を修復する力をもっています(画像にある通り、修復酵素などで)。

ただ、あまりにも大量の攻撃を一気に受けたり、長い時間何度もダメージを受けたりして、たまたま回復せぬままになってしまうことももちろんあって、そういうのが遺伝子の突然変異だったり、細胞のガン化なりにつながってしまうということなんですね。

なので、やっぱりできれば放射線はなるべくなら浴びない方がいいわけですが、そうはいっても、別に実験で放射性物質を使わなくとも、はたまた原子力発電所とかそういうのとは無関係な所でも、実は世界には天然の放射線が飛び交っています。 

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放射線医学総合研究所の画像を引用していたhttp://www.kenzou.org/mobi/100.htmlより

具体的には、宇宙は真空状態なので、放射性物質を遮るものやブロックするものがないため放射線が飛びまくっており(宇宙線)、これが地球上にも届くものがやはり結構大きく、他にもラドンといった天然で発生する放射性物質なんかも場所によっては大きいし、そういう天然由来のものが含まれた食品なんかを口にすることで(外から浴びるのより、体内に取り込むものの方が影響は大きいですね)、我々は常日頃から(極微量ではありますけど)放射性物質を浴びたり、口に入れたりしています。

「マジか!そんなの嫌なんですけど!!どうにかして、完全にゼロにできないの?」と思われるかもしれませんが、これは地球上で暮らす以上、絶対に無理なので諦めましょう。

現実的には、この程度の放射線の影響なら人体の修復機構が余裕で治せる範囲のものなので、毎度似たようなこといってますけど、そんなことを心配しすぎて感じるストレスの方がよっぽど健康に悪影響を及ぼすと思えますし、どんなに頑張って避けようとしても無理なものは無理ですから、気にしない方がいいでしょう。


ただ、宇宙には放射線が飛びまくっていると書いた通り、宇宙に近づくほど、放射線が強くなるのは事実です。

なので、ちょうど図にもありますが、飛行機に乗ると、実は結構放射線を浴びてしまうことが知られています。

ちょうど、この図だと東京⇔ニューヨークの往復で約0.1 mSv(ミリシーベルト、靭帯が浴びる放射線の単位)程度となっており、「『宇宙から0.3 mSv』ってあるから、それに比べたらヨユーヨユー」と一瞬思うものの、それは年間の放射線量なので、1年間で宇宙から浴びる放射線の1/3程度を、わずか数日の往復で浴びるということですから、まぁそれなりの量かな、とはいえるかもしれませんね。

でも繰り返しですが、そもそもそんなものは誤差範囲、ゼロではないけど、無視してOKといえる量でしかないので、怖がる必要は個人的にはないと思います。

実際、パイロットやCAの方は職業として飛行機に乗りまくってるわけですけど、航空系業務の方がみんなガンになってるかというと、一切全く、金輪際そんなことはありませんしね。

もちろん、完全にゼロではない、極微量であっても、極小さい確率だけ、確実にガン化の確率が上がっている…というのももしかしたら否定できない点かもしれませんが、あくまで個人的な感覚で客観的な数字データはないですけど、そんなのより睡眠不足とか栄養不足とかの方がよっぽどあらゆる病気のリスクを上げるので、「考慮するに及ばない話」と言い切って構わないように思います。
(ただし、宇宙飛行士の方とかは、長期間宇宙空間で宇宙線を浴びまくると、ガンや白血病にかかるリスクが有意に上昇するとはいわれています。それだけ、地球の大気は宇宙からくる放射線をブロックして、我々を守ってくれているんですね。)


という所で、日常生活と放射線の話について簡単に言及してみましたが、実際僕は32Pを使った実験を今でも時々やってるんですけど、関連した話をもう少しだけしておしまいにしようかと思います。

まず、今さらですが、32Pなどの放射能をもつ原子は、中性子数の差で微妙に重さが違う原子ということで、これを同位体と呼ぶのですが、その名を使って放射性同位体とも呼ばれます。

英語でRadio Isotope(ラジオ・アイソトープ)なので、日本の研究者はほぼ全員、放射性物質のことをRI(アールアイ)と呼んでいますが、不思議なことに、別に日本式英語ではない表現のはずなのに、アメリカではなぜかRIとは一切いわれません。

アメリカでは、放射性物質を意味するRadioactive materialsで、RAMという略称の方が確実に使われているように思います。
(でもそれは紙面上のみで、口頭だと、Radiationとか、それこそ具体的に32P(ピーサーティーツー)とか呼ぶことが多いですかね。)


まぁ名前はともかく、日米の違いで面白い点として、日本では恐らく法令で、RI(やっぱりなじみがあるので、放射性物質は以下RIと略しましょう)を使う施設は、基本的に独立した建物になっている(建物内全部がRI施設ではないにせよ、入り口は一箇所で、完全に一まとめになっており、そのRI施設以外でRIを使うことは完全ご法度)んですけど、アメリカの研究室では、普っ通~に普段使いの研究室でRIを使いまくってます。
(もちろん、RI使用許可を得た部屋のみですが、普段の実験スペースと全く同じ部屋です(日本では考えられません)。
 一応、自分たちで、「RIを使うスペースはここのみ」として、放射線ビームを遮るシールドを置いてますけどね。)

もちろん、週1回の放射線チェック(床や実験台に、放射性物質が間違ってこぼれていないかなどのチェック)もしていますが、下手したら同じ部屋でものを飲み食いしてる人もいますし(本当は禁止ですが、オフィスとつながった実験室とかですと、ドアを開けてると「一つながりの部屋」になってる感じともいえますしね)、まぁ大分ゆるい感じといえましょう。

ただ、以前、隣の研究室で、妊娠している女性研究者がRI実験をしていたんですけど、どうしても被曝が気になるからと、その方は有償でガラスバッジという放射線を浴びた量をチェックできる特殊な検出器をRI管理オフィス(英語名だと、Radiation Safety)に頼んでつけていたんですが…

(ちなみに、ガラスバッジは、男性は胸部、女性は子宮に近い腹部につけるように定められています(↓参考)。

radiation-protection.jp
…日本にいた頃は、ガラスバッジは全員に支給されていましたが、こちらは希望者のみ有償で配られる感じで、やや不親切にも感じましたが…)

…めっっちゃくちゃ強いRIを使う実験をしており(実際、共通の低温室で、超強いRIを使ってる実験をしているのをたまたま見て、正直「うわぁ、大丈夫か…?」と他人事ながら不安になりました)、その方は正直かなり不安がっていたんですけど、1ヶ月後、ガラスバッジを提出して検査結果を見てビックリ、合計の被曝量は、まさかのゼロ(といってもRI実験をしていたのに完全ゼロはありえないわけですが、それでも検出限界以下ということ)、ほぼ全く何も検出されなかったということで、あれだけ強烈なRI実験をして検出限界以下って、これもうどんな適当に扱ってても絶対ノーダメだろ、と、何となく安心感を覚えたという記憶がありますね。
(その方はその後、元気な女の子を産んでいました。)

ちなみにその方が「超強いRIを使っていた」というのは、RI利用時には必ずガイガーカウンターと呼ばれる計測器を使ってモニターすることが義務付けられているので、それの音で分かる感じですね。

(日本でも、アメリカでも、まさにこの「パンケーキ型」と呼ばれる(どこが?)タイプのガイガーカウンターを使っています。 

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https://en.wikipedia.org/wiki/Geiger_counterより

「ピッ!ピピッ!ピピピピッ!!」と、音と数字の針で放射線の強さが分かるわけですが、スイッチをオフにすると、「ピピピ…キュイーン」と最後必ず可愛い音で止まるのが面白いです。)


実際、実はRIを頻繁に使いまくっていた時代の方、ちょうど僕が学生だった頃の教授世代の方たちは、僕の観測範囲内で、ほぼ例外なく全員娘さんをもっている方しかいなかったので「生命系研究者の子供、娘しかおらんやん…。もしやRIで、Y染色体が攻撃を受けて、娘しかできない可能性が微粒子レベルで存在??」とか思ってたんですが、アメリカへ来て、先ほどのガラスバッジで全く検出されなかったという例もそうですし、実際息子がいらっしゃる先生もたくさんいたので(しかも、その教授の中の1人から、「昔はRIを、ピペットで口を使って吸ってたことすらあったよ」というエピソードを聞いて、そんなバカな(笑)って笑えましたね。)、RIが配偶子形成に与える影響というのは、単なる思い込みというか誤解でした。

いずれにせよ、実験室で使うRI程度なら、ガイガーカウンターが「ピピピピーッ!!」と全力で反応していても案外大したことはないようで、個人的には多少安心しています、という話でした。
(もちろん、自然界で浴びる放射線はそれより遥かに小さいですから、こういう経験を含め、「不安がる必要はないでしょう」と個人的には言い切れる感じですね。)

あとは半減期(RI原子は放射線を発射してノーマル原子に戻ると書きましたが、それが続くことで、「どのぐらいの時間で放射能が半分になるか?」は原子ごとに定まっています)とか、実際の放射線ビームの違い(α線β線γ線など)についても触れてみたかったですけど、まぁ細かすぎるのでこれはいいでしょう。

一応、僕の使っている32Pは、半減期が14日=2週間なので、仮に気付かぬ内に多少体についてしまっていても、2週間で強さが半分→1ヶ月で1/4…と、ガンガン減衰していくので、まぁ安全ではあります。

(これが、14Cとかですと、半減期が5730年というギャグみたいな遅さなので、気付かずに体内に大量に取り込んでしまったら、永久に攻撃を受け続ける感じでヤベぇですが、まぁ実験室で使うのは半減期の短い32Pや35S(こちらは半減期87日)とかがほとんどなので、心配は無用ですね。)


…ってことで、余談として簡単にRIについて見てみました。

次回は配列解析の話にまた戻ってみる予定です。

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