前回、不飽和脂肪酸にはいいヤツと悪いヤツがいるということで、悪い方として、恐らく誰でもどこかで耳にしたことがあるトランス脂肪酸というグループ名を挙げていました。
今回はいい脂肪に着目する記事の予定ですが、まずはトランス脂肪酸の方から改めて話を進めてみましょう。
悪名高いトランス脂肪酸ですが、これは基本的に、自然界にはほとんど存在しません。
自然界、つまり生物が作り出す脂肪酸は、基本的に全てシス型になります。
（一部、微生物の作用で、牛の胃の中の反芻作用で生まれるトランス型の脂肪酸なんかもあるようですが、これらはごく微量といえましょう。）
つまり、トランス脂肪酸は、人工的に油を食べやすく・美味しく・長持ちするように、加工・精製・調理などをするときに発生するものが大部分だといえるわけなんですね。
疫学的に、健康被害は統計的にもきちんと報告されていますが、とにかく槍玉に挙げて敵視されているのは、そういう「人間が生み出したもの！不自然！毒！！」という、そういう背景も後押ししているのかな、なんて気がします。
天然志向は、やっぱり国を問わず根強いですからね。
まぁ本当にトランス脂肪酸はゴミクズなのか、絶対にそれを含む食品は一欠片も口にしない方がいいのか？…といったことは、未だ議論の最中にある課題で、決定的な結論は存在しないと思いますが、
（これに限らず、基本的に栄養学の話は、複雑すぎて確実な結論は出せない…というか万人に対する絶対解などまず存在しないでしょう。役に立つ薬も、過剰摂取したら毒になるように、何事も個人差だってあるわけですしね）
…少なくともFDA（アメリカの厚労省的な機関）は、「トランス脂肪酸に安全な基準値はない」とし、「摂取量はゼロであることが望ましく、摂れば摂るほど心臓病のリスクが上昇する」というガイドラインを報告しています。
（最新の報告含め、FDAのトランス脂肪酸に関するガイドライン・規制・その他あらゆる情報（英語ですが）はこちら↓）
www.fda.gov
まぁこれはアブラぬるぬる国家アメリカでの話で、日本だとまた話は全然違うという議論もよく目にしますが、個人的には、検索したら出てきた村中璃子さんという医師兼ジャーナリストの方の記事で書かれているスタンスがとてもいい考え方だな、と思えたので、リンクを紹介しておきましょう。
wedge.ismedia.jp
全記事とても公平な視点で書かれた素晴らしい内容だと思うのでぜひ直接読んでみていただきたいですが、適当にまとめると、『トランス脂肪酸を完全に避けることは難しいし、そこまで神経質になることはなくとも、少なくとも私は、摂るのであればできるだけ「黒」が確定しているトランス脂肪酸以外の脂質を摂っていきたい』みたいな感じでしょうか（勝手に要約しているので、完全にそうおっしゃられてるわけではありませんが）。
でも、医師の方や僕のような研究者なんかは、一応専門に近い知識はあるとはいえど、別に全知全能の神ってわけでは全くもってありませんから、その意見が絶対的に正しいなんてことは全くないとも思うんですけどね。
個人的にはぶっちゃけ、特にこういう食事のような生活や嗜好に密着した話の場合、一般化なんて決してできず、それぞれ各人自分自身が思うようにするのが一番なんじゃないかな、なんて思います。
トランス脂肪酸が多く含まれるのは、前回も貼ったずっと前ちょっと触れていた記事でも見ていましたが、パイ、菓子パン惣菜パン、ケーキやドーナツ、揚げ物といった、まぁ美味しそうなものが沢山あるわけですけど、このときの記事や他のお酒の記事なんかでも書いていた通り、好きなものを美味しく食べることで得られる満足感というのは、無理して我慢することで感じるストレスなんかと比較すると、よっぽどメリットの方が大きいんじゃないかな、などとも思えます。
幸い日本人はアメリカ人ほど大量の脂質を摂取する国民性でもないですし、そんなことを気にしすぎてイライラカリカリするぐらいなら、食べましょうよ（気にせずいきましょうよ）、ってのが、個人的なトランス脂肪酸に対する考え・立場に近い感じでしょうか。
まぁ無責任意見かもしれないですけどね。
僕自身は、幸い油ものをほぼ全く食べないので（無理してるわけじゃなく、好きなものを食べるスタイルでたまたまそうなっているというラッキーなパターン）、気にしてもしなくても摂取することがほぼありませんから、ぶっちゃけどうでもいいです、っていうまさに自己中クズの発想の極みかもしれませんが(笑)、まぁそれ抜きにしても、トランス脂肪酸が悪者ということはメーカーの方たちにも周知の事実になっていますから、世の中に流通している製品・食品からは確実に含有量が減っていってくれているはずですし、あんまりピリピリ意識せずとも、普通に生活するのがストレスとかを総合して考えると一番いいでしょう……という、ある意味合理的な判断に基づく意見、って感じですね。
もちろん、「どうでもいい、無視しろ」といってるわけではなく、気にされるタイプの方であれば自分のできる範囲で気にされるのが一番いいと思うし、実際どちらかといえば摂らない方がいいのはそうだろうなとは思いますが、それに振り回されたりストレスを感じたりするぐらいなら、将来の健康リスクうんぬんより、そういう具体的で目に見える悪影響の方がよっぽど大きいんじゃないかな、みたいな話ですね。
結局、ストレスがマジで一番良くないと思う、というのは、一応一貫しているつもりです。やっぱり、何につけ現代はストレスの多い世の中といえますから…。
…といった所で、やはり本題に入る前の前段で長くなりすぎてしまいましたが、続いては本題の「いい脂肪」！
先述の通り、トランス型ではない、二重結合をシス型でもつ脂肪酸は、「いいヤツ」とみなされているのですが、特に重要視されているのが、二重結合を複数含むヤツらなのです。
二重結合が1つのみのものは、一価の不飽和脂肪酸と呼ばれますが、2つ以上もつものはまとめて多価（まぁ2つなら二価、3つなら三価…なんですけど、あんまりそう呼ばれず、一緒くたにして多価といわれてる気がしますね）の不飽和脂肪酸と呼ばれており、まさにこの中に必須脂肪酸と呼ばれるグループがあって、文字通り必ず食べ物から摂取する必要があるヤツらが存在しているんですね。
なぜ必須かというと、当たり前ですが、人間が自分で合成することができないからです。
二重結合そのものは、（前回もチラッと書いた通り）そういう機能をもつ酵素の力で、人間は自力で導入することができるわけですけど（飽和脂肪酸の、真ん中あたりのC-C結合を二重結合にする）、それができるのは場所も決まっている最初の1つ目だけで、僕たち人間は、2つ目の二重結合を入れることができません。
脂肪酸は二重結合があればあるほど融点が下がり、サラサラで液体として存在しやすい、いわば柔軟性に富む物質になりますから、そういうアブラも生命活動では重要なのです。
だから、人間以外が作ってくれた、2つ目の二重結合が既に入っている脂肪酸を、僕たちは食べて摂取することで使わせてもらう必要があるんですね。
（そういうアブラは魚の油や植物油に多く含まれていることが知られているわけですけど、例えば魚なんかは、冷たい海を泳ぎ続けなければいけないので、そういった柔軟性のある脂肪酸を自力で合成できないと、ベトベトドロドロのアブラだけでは冷えて固まって死んじゃう、という事情があって、二重結合を沢山含んだ油の産生に長けている、って面も恐らくあるのでしょう。）
とはいっても、脂肪酸の炭素鎖の長さ（炭素の数）を伸ばすことは我々人間も自分でできますから、基本的に必須脂肪酸として知られているのは、一番メジャーな長さである炭素数18に二重結合が2つ入ったリノール酸と、3つ入ったリノレン酸の2つが挙げられるだけな感じですね。
その他の多価不飽和脂肪酸は、こいつらから合成可能ということが知られています。
ただし、これらは必須脂肪酸ではあるものの、基本的に普通の食生活をしていれば、欠乏するなんてことはほぼあり得ないとされています。
なので、別に何も気にしなくても十分量摂取できますから、「脂肪を積極的に摂りましょう」なんて話はほぼ聞いたことがないわけですね。
一応、本当に欠乏してしまうと、最も分かりやすく発症しやすい症例が皮膚炎（うろこ状の皮膚になるなど）で、他にも脱毛、不妊、血液異常、（特に子供の場合）成長の遅れ、知的障害など、かなり深刻な状態につながりはしますが、くどいですけど普通に食事をしていれば、たとえ油控え目さっぱり中心の食生活であっても、欠乏することはまずないといえましょう。
逆に、先ほどの村中さんの記事にもありましたが、「生きるのに必須」「体にいい」とされる油も、それは薬ではないわけで、食べれば食べるほど健康になる、なんてことはないと思います。
これは確かにそう思うな、という一文を丸々引用させていただくと…
やりがちなのは、普段油を使わなかったような食べ物にまで何でもかんでもココナッツ油を塗りつけることや、ドレッシングに使っていたオリーブ油をエゴマ油に変えて頻繁にサラダを食べるようになることで、かえって脂質の総摂取量が増えること。
…という医師ならではの視点からのご指摘ももっともで、やはり現代の食生活においては、基本的に脂質は控えてナンボ、って気が個人的にはしちゃいますね。
でももちろん、必須の栄養素であることは疑いようもありませんし、何度もしつこいですが、控えるのも大切だけど、無理に我慢するぐらい好きなものだったら、楽しく食べようよ、一度きりの人生だし、っていうのが、一番感じる正直な意見ですね。
…という所で、例によっていい分量になってしまったので、「タイトルに挙げた内容は、ほぼ次回予告のみ」というよくあるパターンになってしまいますが、この辺の必須脂肪酸の話から、また次回スタートしようと思います。
