お医者さんがこっそりみんな飲んでいる、健康になれる素晴らしいブツ!

無駄に長くなっているので、興味深い芳香族化合物シリーズ、じゃんじゃん進めて参りましょう。

ベンゼン環にOH基だけがついたもの(とその誘導体)はある程度見尽くしたので、続いては、その次に単純でなじみのある官能基といえばこちら、おなじみCOOH基(カルボキシ基。OH基がお酒のもとでしたが、こちらは、お酢ですね)ですね。

まず、ベンゼンにこれが1つだけついたものは…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/安息香酸より

何とも大仰な名前の、安息香酸

これは個人的な勝手なイメージですけど、何となく安楽死を連想させるスゲェ名前だな、と初めて聞いたときは思ったものですが、別にそんなヤベェやつでもなく、食品・飲料の保存料なんかとして用いられていますね。

ジュースのラベルに、安息香酸ナトリウムとか安息香酸Naとか、何とな~く見た記憶のある方も多いのではないでしょうか。

これも「ヤバい食品添加物」として稀によく槍玉にあげられている気もしますが、まぁ多分、そんなのを気にするストレスの方が遥かにヤバいと思うので、気にせず図太く生きるのが最善手ではないか、なんて気が個人的にはしちゃいますね(あくまで添加物の専門家でもなんでもない、素人の勝手な意見ですけど)。


安息香酸はまぁそれなりに実社会でも使われているものの、名前のインパクト以外に大して語ることもない感じですが、こいつにさらにOH基をつけてやるとどうでしょう、話のネタとしても、実用性としても、いきなり究極にガチャポコ有能物質が爆誕します。

名前自体はそんなになじみがないものの、こっから人類の救世主物質が生まれる、その名もサリチル酸

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https://ja.wikipedia.org/wiki/サリチル酸より

OHとCOOHのつく場所は、もちろんオルト・メタ・パラがあり得るわけですけど、圧倒的に有名で有能なのは、3兄弟で唯一慣用名の存在している、このサリチル酸ですね。
(場所の違う兄弟分子は、m-ヒドロキシ安息香酸(または3-…)とか、4-ヒドロキシ安息香酸(またはp-…)と、普通の命名ルールにのっとった名前で呼ばれています。)

こちらは、人類が最も古くから愛用している薬の一種で、上記Wikipediaによるとネアンデルタール人すら使っていた痕跡もあるとのことですが、痛み止め熱を下げる炎症を和らげる角質を柔らかくする、等々といった作用があり、現在でも特に最後に挙げた皮膚を柔らかくすると同時に老廃物を溶かす・剥がすみたいな作用から、イボコロリなんかの主成分として用いられているようです。

ただ、こいつの弱点は、作用・反応性が強すぎて、飲んだ場合、胃に穴が空いてしまうぐらいの強烈な副作用がしばしば見受けられるということで、イボコロリみたいに塗るタイプ(外用薬)でしか用いられない、というのがありますね。

そこで、この強すぎる副作用を改善したさらに便利なものとして、サリチル酸からは2つの派生物質が製造&使用されています。

1つが、サリチル酸にメチル基(-CH3)をくっつけた、その名もサリチル酸メチル

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https://ja.wikipedia.org/wiki/サリチル酸メチルより

…と、メチル基をくっつけたといっても、ベンゼン環の炭素につなげた形ではないことにご注意かもしれません。

構造を見て何が起きたのかピンと来る方がもしかしたらいらっしゃるかもしれませんね、これは、COOHとメタノール(CH3OH)とを反応させて、H2Oが取れることでつながってる形……覚えてらっしゃるでしょうか、これはエステル結合(-COO-)と呼ばれる形であり、このサリチル酸メチルは、いわば、メタノールサリチル酸エステルなんですね。

でもまぁ、そんなことは細かすぎてマジでどうでもいい点なので、覚える必要も理解する必要も皆無でしょう。

こちらサリチル酸メチル、正直ほとんど耳なじみはありませんが、微妙に似ている名前でこの世に存在しており、その名も、商標名サロメチール

これなら何となくどこかで聞いたことありますよね。

これは、湿布の主成分として使われる、鎮痛・消炎・筋肉疲労改善薬です。

サロメチールは、湿布一般を指す言葉かと思ったら、佐藤製薬の商品名だったんですね。

salomethyl.jp

なお、サロメチールより遥かに有名な気がするサロンパス(…って、佐藤製薬の方にぶち切れられるかもしれませんが)、これも、名前が微妙に似てるだけあって、サリチル酸メチルが配合されている商品になります。

サリチル酸は無臭の物質ですが、サロメチールエステルだけあって甘く、爽やかな香りがあり、まぁそう書くとどんなニオイだ?と期待されるかもしれませんが、いわゆるシップのニオイ、って感じですね。

サリチル酸より圧倒的に安全に高濃度で処方でき、ニオイも何だかんだ気分が落ち着く感じがありますから、湿布や筋肉痛を和らげる薬として有能といえましょう。


しかし、こちらも内用薬には向いていないので(結局、ベンゼンにOH基が直接ついた、フェノールの痕跡がそのまま残ってる物質は、反応性が強すぎて飲めないんですね)、「飲むサリチル酸」は別に存在します。

それが、サリチル酸に、さらに酢酸分子をつなげた物質、アセチルサリチル酸

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https://ja.wikipedia.org/wiki/アセチルサリチル酸より

酢酸というのはおなじみCH3COOHですが、こいつも末端のOHが外れて腕1本がフリーの状態を官能基としてみなすこともあり(CH3CO-)、Acetic acidという酢酸の英語呼びを知っていれば分かりやすい、アセチル基という名前になっています。

このアセチル基が反応するのは、サリチル酸の2つの官能基の内、COOHではなくOHの方であり(基本的に、反応が起こりやすいものは、「COOH(カルボン酸)とOH(アルコール)」のペアってことですね。まさに、エステル結合が生まれるエステル化反応です)、こちらはフェノール(に由来する部分)のOHと酢酸のCOOHが反応し、上記の物質に落ち着くという感じになるわけですね。

(おさらいですが、最初に触れたサリチル酸メチルは、「安息香酸(に由来する部分)のCOOHとメタノールのOH」が反応してできるものでした。)

まぁ、くどくど書いたものの、例によって、こんな細かい話は、原子レベルの反応についてどころか、完成品の構造すら、マジでどうでもいいので気にする必要はないでしょう(もちろん受験生なら確実に覚える必要がありますが…)。


先ほどはサリチル酸メチル→サロメチールでしたが、このアセチルサリチル酸は、ドイツの巨大化学・製薬会社バイエルのつけた、商標名アスピリンとして知られているものになります。

この名前なら、誰でも絶っ対に聞いたことがある物質といえましょう。

様々な痛み(主に頭痛に使われていると思いますが、頭痛に限らず、総合的な鎮痛薬として用いられますね)を和らげ、熱も下げる効果のある、極めてポピュラーな薬の一種ですね。

このアスピリン、大学の生命科学の講義で聴いた話がとても強く印象に残っているのですが、実は鎮痛解熱薬として以外にも、抗血小板薬として、血栓形成の予防に効くことも知られているそうです。

つまり、血液をサラサラにする効果があるんですね。

で、その先生(生命科学の選択講義で、大教室が満員になるぐらいの人気の教授でした)いわく…

アスピリンによる血液をサラサラにする効果、つまり血管が詰まることで発生する脳梗塞とか心筋梗塞の予防効果は本当に凄まじくて、アメリカのお医者さんとかは、みんなこっそりアスピリンの錠剤を毎日飲んでますよ。
 私も、アスピリン摂取の目的で、定期的にバファリンを飲んでいます。みなさんにも、頭痛などなくても、脳梗塞予防のためにバファリンを飲むことを、強くオススメしますよ」

とのことでした。

まぁ、何でお前がアメリカのお医者さん全員のこと知っとんねん、って気もちょっとしましたが、実際、Wikipediaにもアメリカでは大量に消費されている旨が記述されていますね。

以下引用…

特にアメリカ合衆国では疾患を持っていなくても日常的にアセチルサリチル酸を飲む人が多く、現在でもアメリカ合衆国はアセチルサリチル酸の大量消費国であり年間に16,000トン、200億錠が消費されている。

まぁでもこれはやっぱり、オイリーなものを食べまくって、その結果として非常に血管が詰まりやすいアメリカ人に向いてる話であって、あんまり日本人にはメリットが薄いんじゃないかなぁ、なんて個人的には思いますし(トランス脂肪酸にも近い話ですね)、自分自身、「血液がドロドロでは絶対にない気がする…」という謎の自信のもと、強くオススメされたにもかかわらず、僕は別にバファリンを飲むようにはなりませんでしたね。

ただ、脂っこいものが大好きな方や、コレステロール値が高めの方なんかですと、恐らく冗談抜きに、脳梗塞でぶっ倒れるリスクが著しく下がると思うので、その辺の自覚がある方の場合、頭痛などなくとも、バファリンを定期的にパリポリ食べるのがとても効果的なのは、多分間違いないんじゃないかな、と思います。

バファリンももちろん(親分子であるサリチル酸より遥かにマイルドとはいえ)、胃に結構なダメージを与えますから、飲みすぎもあんまり良くないかもしれませんけどね。

でも、用量を守れば、恐らく断然ポジティブな効果が得られるのではないかと思います。

まぁ、僕は血がサラサラなことに自信があるので、僕自身はわざわざ飲みませんが…。

…ということで今回はサリチル酸ファミリーでしたが、全ておなじみの官能基のみで完結している&反応自体も簡単&超絶有能物質が得られる(そして結構ややこしいので、適当な理解だと間違えやすい)ということで、高校有機化学で取り扱われる花形物質の1つといえましょう。

次回も、まだもう少しだけ有能芳香族物質について見てみる予定です。

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