誰しもがお世話になっている、アルコール界の神

雑魚といったり神といったり、忙しいやっちゃなお前は(笑)、って感じなんですけど、前回に引き続き、アルコール界の愉快な仲間たち、今回登場いたしますは必ず誰でも聞いたことがある&恐らく誰しもが必ず一度は使ったことのある、こちら!

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https://ja.wikipedia.org/wiki/グリセリンより

超絶有能物質、グリセリン

まず名前ですけど、慣用名はグリセリンですが、やはり歴史のある物質なので、これは有機化学が発展する前(最初期)に名付けられた名前であり、アルコールの仲間であることを明示するためか、その後、特に科学研究の分野では「グリセロール」と呼ばれるようになっています。

でも、まさにWikipediaにも記述されている通り、医薬品や日常生活では、今でもグリセリンと呼ばれることが多いですね。

有機物の命名ルールにのっとった正式名称は、これももうサクッと書き下せるのではないかと思いますが、炭素が3つで、それぞれの炭素に-OH基が3つくっついた形なので、プロパン-1,2,3-トリオールとも呼べるんですね。

しかし当然、普段の生活でいきなり「プロパン-1,2,3-トリオールがさぁ~」とかいっても、絶対に誰にも通用しないぐらい、圧倒的にグリセリン(グリセロール)という通称が浸透しています(いやそもそも「グリセリンがさぁ~」ってどういう会話だよ(笑))。

いずれにせよ、グリセリンは分子内にOHが3つある三価アルコールで、これは冷静に考えると、代表的なアルコール(でも有害なので飲めませんが)、イソプロにOHが2つ追加されただけの物質なんですね。

たったそれだけの違いなのに、この2つはもう、何もかも違うのです。

…と性質について触れる前に名前の話をもう少ししておくと、英語ではglycerolで「グセロゥル」ですが、これ、個人的には「何でや!」と、少々憤りを覚えます。

というのも、アミノ酸のglycineは「グライシン」だし、これも中学理科でおなじみグリコーゲン=glycogenは「グライコジェン」だし、アメリカ英語では、あいつら、基本的にyやiは「ァイ」と読むわけですよ。

(今までに出てきたものでも、ヌクレオチドの五角形部分・リボース=riboseは「ライボース」だし(あぁ、nucleotideも当然、「クレオターィド」ですね)、アルデヒド=aldehydeは「ルデハイド」だし、先ほど挙げたトリオール=triolも「トライオール」に、アメリカ人が読んだら必ずそうなります。
 あいさつの「Hi」を「ヒー」とは決していわず「ハイ!」というのと多分全く同じぐらいの感覚で、アメ公さん達が読んだら必ず「ァイ」読みになる感じですね。)

なので、glycerolも当然、グライセロゥルかと思いきや、これだけはなぜかグリセロールのまんまという、非英語話者ぶち切れ案件になっているのです。

最初、こちらへ来てすぐの頃、仲良くしていた学生に、ついつい癖で「グリセロール」といってしまった後、「いや、グライセロール?」と言い直したら、「グライセロールって(笑)」と笑われましたね。

「いやいやglycineはグライシンじゃん!なぜだ!」と返すと、「glycine…glycerol…」とつぶやいた後「本当だね。でも、グライセロールは変じゃん。変だからそうはいわない」という、何の説明にもなってない話が返ってきたのをよく覚えています。


まぁ名前(英語呼び)はともかくこのグリセリン、何がスゴいのでしょうか…?

何を隠そう……とにかく全てがスゴいんです!

解糖系と脂質代謝という、糖分と脂肪分の両方に絡んでくるという生体内で超重要なポジションにいるのはもちろん、その性質から化粧品医薬品の保湿剤・潤滑剤・増粘剤として使われているのみならず、グリセリンそのものも食べられる腐らない、しかも甘いときて、さらに、大量合成可能安い(地味に重要)という、「何やこいつ…神か?」というような万能物質なんですね。

グリセリンそのものは、無色透明無臭の粘っこい液体ですが、糸を引く粘りというより、何ていうんでしょうね、ドロッとした粘りであって、なじみのあるものでいうと、ハチミツがかなり感触は近いかな?
(100%グリセロールは、ハチミツよりはもうちょいゼリー感は強いかもしれないですね。でも、スライムほどの塊ではなく、確実に液体ですし、水を混ぜれば混ぜるほど、当然、ゆるく(液体に近く)なります。)

そんな感じで、液体とはいいつつ、非常に粘性に富んだ物質なので、日常生活でまず第一に浮かぶものとして、例えばハンドクリームとか、ヘアコンディショナーとか、あとは歯磨き粉とか、ああいうドロッとしたクリームっぽい物体、これらは、基本的にグリセリンが主に作り出しているものになります。

ハンドクリームで検索して人気No. 1だったユースキンの成分表示を見てみましょう。

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https://www.yuskin.co.jp/products/search/detail.html?pdid=y120より

ね?

1グラム中、0.4グラムグリセリンですから、こんなのもうほぼグリセリンを塗りたくってるみたいなもんなのです(いやもちろん、その他の有効成分も大事なんですけど)。

まぁハンドクリームは特に男性とかだと使ったことねぇわ、って方もいらっしゃるかもしれませんが、それ以外でも、ハンドソープやボディーソープ、あるいはシャンプー(…はそんなにドロッとしてない液体っぽいことも多いので、グリセリンなしのものもありそうですね)やリンス、歯磨き粉なんかを使ったことがない方はいないと思うので、「グリセリンのお世話になったことない人、この世に0人説」は恐らく正しいといえましょう。

また、グリセリンは粘り気を生み出すのみならず、保湿剤としても機能するのが優れものなんですね。

しかも水と混ざると熱を生みますから、ハンドクリームの類を塗ると、乾燥を防ぐのみならず、うっすらポカポカ温かいわけです。冬の味方ですね。

ただ、グリセリン自体に結構な吸湿性もあるので、あまり濃いグリセリンを直接肌につけると、グリセリン自体が肌から水分を奪ってしまい、逆に却って肌に悪影響、ということもあり得ますが、市販されている薬などに含まれる程度の濃度であれば心配無用でしょう。

そして、グリセリンは上述の通り、食品としての利用でも有能であるという万能選手なのです。

実際ほんのり甘くて感触もまろやかで素晴らしいものなのに、菌類細菌類はこいつを上手く使えず、微生物が繁殖しませんから、甘味料としてや粘り気を出すためのみならず、保存料としても使われることがあるぐらいです。

人間には美味しいのに菌カスには使えないとか、都合良すぎぃ!

ただ、現代人にとってのデメリットでいえば、砂糖より甘くないのにカロリーは高いという点はあるかもしれませんね。

でもまぁ歴史的に人類は飢餓と戦ってきたわけですから、カロリーが高いというのはある意味メリットともいえましょう。


一方、スゴい点の最初にあげた生体内での利用・代謝ですが、まぁ細かいこと(代謝経路や各種中間産物)は全く面白くないし重要でもないのでもう触れませんけど、実は、中学理科でグリセリンというのは出てきたんですよね。

恐らく覚えてらっしゃる方もいることでしょう、「脂肪は、脂肪酸グリセリンに分解される」という話で出てきたあれですね。

さらに詳しく覚えている方であれば、「脂肪酸3つグリセリンにつながっている」ということを記憶されているかと思いますが、これはズバリ、グリセリンの3つのOHに、脂肪酸がつながったもの、という話だったのです。

ちなみに脂肪酸というのは何かというと、またいずれ別の機会に触れる予定でしたが極めて簡単にまとめると、「炭化水素にカルボキシ基(-COOH)がつながったもの」となります。

実はこいつはもう以前の記事に出てきたことがあったのですが、覚えてらっしゃるでしょうか?

アルコールの代謝で出てきたあれ、HCOOHがギ酸、CH3COOHが酢酸という、あれです!

つまり、ギ酸も酢酸も、実は脂肪酸」の一種だったんですね!

しかし、基本的にはここまで炭素数の少ない(炭素鎖の短い)ものは、いわゆる「脂肪的な性質」も一切ないので、あまり脂肪酸とみなされることすらない(単に「カルボン酸」といわれる)ですが、でも、定義的には、こいつらも立派な短鎖脂肪酸なのです。

ということで、「炭化水素に-OHがつながったものをアルコールと呼ぶ」のに続き、「炭化水素に-COOHがつながったものを脂肪酸と呼ぶ」というのも、いきなり出てきた超絶重要な知識といえましょう。

ただ、アルコールは主役がC2つのエタノールで、その他はほぼクソザコだった(少なくとも、いわゆるアルコール=お酒という視点からは)んですが、脂肪酸は全く逆で、Cが2つの酢酸を脂肪と捉える人など一切存在しないように、短いものはあまり実生活で「脂肪」としてお目にかかることはなく、逆に炭素鎖が長くなればなるほど「いかにも油」な物質になります。

まぁ脂肪の話はまた今度にしましょう。

今回は脂肪酸ではなくグリセリンですが、これもまだ触れていない知識なんですけど、-OHと-COOHはお互いに反応して手をつなぎやすいことが知られており、グリセリンのOHと脂肪酸のCOOH(ちなみに一応、グリセリンは固有名詞ですが、脂肪酸はグループ名ですね)とがつながったものを、脂肪と呼んでいる、という話だったわけです。

しかし、実をいうと、僕も知りませんでしたが、いつの頃からか、この中学理科知識は改訂されてしまっていたようです。

www.kyoiku-shuppan.co.jp
上記教育出版のQ&Aページにある通り、今の中学生は、脂肪が分解すると「脂肪酸グリセリン」ではなく、脂肪酸とモノグリセリド」に分解される、と習うらしいですね!

その理由は、現実的に生体内では脂肪がグリセリンにまで分解されることはなく、3つある脂肪酸のうち1つがつながったままのモノグリセリドの形で存在していることが最近の研究で分かってきたためらしいですけど、う~ん、まあ実際そうといわれたら反論しようもないですが、「脂肪酸グリセリン」という音の響きのよさが、個人的には好きでしたけどねぇ…。

まぁそんなわけで、平成24年=2012年以降中2だった子たちには……って、もう10年近く経ってるので最早子供たちだけではない感もありますが、グリセリンを知らない子もいるかもしれない……逆にいうと、グリセリンを「中学で習ったね」という人は、おっちゃんおばちゃんである可能性が高い…といえちゃうのかもしれませんね。

でもまぁ仮に中学理科から消えたとしても、グリセリンはとにかく重要物質ですし、現実世界でお世話になったことのない人はいないレベルの、お酒以上に人類にとって欠かせない素晴らしい物質なのだ、という話でした。

実はもう1つ些細なネタに触れようと思ってたのですが、大分長くなったので、グリセリンネタ、次回持ち越しにしようかと思います。

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