アルコールなのにアルコールじゃない、アルコール界の面汚しみたいなヤツら

これじゃアルコールじゃなくてナイコールじゃねぇか(笑)

…と酒飲みの読者諸兄の方は思われになるわけですが、前回も少し触れていた通り、逆に、人間が気持ちよく酔えるアルコールは、アルコール界広しといえどもエタノール(CH3-CH2-OH;C2H5OHとも書きます…というか、受験時代とかで紙に書いて覚えていたときなんかは、この表記が一番なじみ深いですね)のみなので、実は、アルコール界はエタノール唯一神バッカスとして君臨し、その他全員は雑魚という図式が成り立つんですね。

とはいえ、それは酔っ払い的視点に立ったときの話であり、現実世界ではエタノール以外のアルコールも、大いに人類の役に立っています。

今回はそういう、お酒以外のアルコールに着目してみましょう。

まず、アルコールじゃないけどアルコールっぽい性質はある(…って書くと意味不明ですが、「飲んでも酔えないけど、明らかにお酒っぽい」的な)ものとして、炭素に水素がくっついただけのシンプルな有機物「アルカン」の-Hを1つだけ-OHに置き換えたヤツらについては、既に名前を出して紹介していました。

C1つのメタンがメタノールCH3OH)、(C2つのエタンは唯一神エタノールC2H5OH)、C3つのプロパンからはバリエーションも生じますが…
(端っこのCにOHがつく1-プロパノールと、真ん中のCにつく2-プロパノール……この辺になると、1行表記もややこしくなってきますが、アルコールであることを分かりやすく示す形式(これを「示性式」と呼んでおり(上のメタノールエタノールで書いたのがこれ)、一方、各原子の数だけを表示した形式を化学式と呼んでいます(=エタノールなら、C2H6O)…が、そんな用語はどうでもいいでしょう)だと、1-プロパノールはC3H7OH(と書くとC3の部分に微妙にややこしさが残るので、 CH3(CH2)2OHの方が望ましいでしょうか)、2-プロパノールはCH3CH(OH)CH3と、いきなり括弧が絡んでくるので、分かりやすさと簡潔さを両立するはずの示性式のはずが、何だかんだ分かりにくいです)
…まぁまとめてプロパノール、そしてC4つのブタンにOHが1つついてブタノール(これもバリエーション多数)、以下同じように「アルカン+オール」という名前…といった具合でした。

では、-OH基が複数つくとどうなるのか?

これが、前回「いただいたご質問」として既にちょろっと触れていた点ですけど、まず最も簡単な、2つのOHがくっついたものが、ジオールや慣用名グリコールという名前で総称されるもので……こいつらの中には、あんまり名前自体が有名なものはない感じですね。

一番簡単なのは、当然、メタンのH2つがOH基に置き換わったものですが、前回最後に出したメタンテトラオールほどではないにしろ、この「メタンジオール」も立体配置的に自然界では存在しづらく、お目にかかることはないので、無視して構わないでしょう。

(ただし、ホルマリンの中では多量に存在することが知られています。
 覚える必要は一切ないので覚えていなくても問題ないのですが、一応話に出てきたことがあったのでおさらいしておくと、ホルマリンというのはホルムアルデヒドの水溶液で、ホルムアルデヒドというのはHCHOでした(メタノールが分解されてできる毒)。
 メタンジオールはCの4本腕に-Hが2つと-OHが2つ(分かりやすくないけど、あえて書くとCH2(OH)2)ですから、H-CHOとH2Oが共存している環境では、これらを足し合わせると何気にまさに数がぴったり合っていることからも、存在しやすそうなことがうかがえるかと思います(実際、メタンジオールは「ホルムアルデヒドの水和物」であるので、ホルムアルデヒドの水溶液そのものなのです)。)

でもまぁ、メタンジオールは(ホルムアルデヒドの中限定というマイナーさゆえ)日常生活でも生体反応や工業用途でもほとんど顔を出さないので、高校化学でもほぼ触れませんから、こんなのは忘れましょう。


しかし、その次に簡単な、C2つのエタンに-OH基が2個(つまり、エタノールにもう1つ-OH基を追加)したもの、こちらは、名前自体はあんまり親しみがないですが、意外に重要物質です。

その名もエチレングリコール
(またの名を、OHのついている炭素の番号を明記して、エタン-1,2-ジオール……でもこれも例によって、そう呼ぶ人はほぼおらず、慣用名のエチレングリコールと呼ばれることがほとんどです。)

ウィキペ師匠の構造図からは、とうとうCとそれにつながるHが省略された、簡略図が表示されるようになってしまいました。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/エチレングリコールより

でももうこの図でもご理解いただけるでしょう。

線の端っこに何もない(Oがない)部分はCであり、今回の例だとどちらのCもこの図では腕が2本しか伸びていないので、残り2本にはそれぞれHがつながってるわけですね。

こちら、まぁWikipediaにほぼあらゆる情報が網羅されてるのでいちいち書くこともないのですが、日常用途では、エンジンの不凍液として用いられていることが有名です。

エチレングリコール自体は粘っこい液体で、メタノールエタノールといった「いわゆるアルコール」と違ってこちらは完全に無臭(なぜかWikipediaにはその情報が欠けていますが)、そして、メタノールと同様、これ自体に毒性はないのですが体内で分解されると有害物質(シュウ酸;結石のもと)を生じるので僕は実際になめたことはないですけど、なめるとほのかな甘みがあるとされています。

なので、例えば車1つで遭難してしまって手持ちに一切何の飲料も食料もないような場合でも、不凍液を飲むのはやめましょう

…まぁ、水分不足で死ぬよりはマシかもしれませんが、そんな極限状況でエチレングリコールを飲んだら、腎障害になって即お陀仏コースといえましょう。
(ただ、ほのかに甘いので、限界まで渇ききった状況で飲んだら、多分天国に昇るほど超絶美味しいと感じるでしょうね。しかし、比喩ではなくそのまま速やかに昇天されることになりそうですが…。)

なお、エチレングリコールのOHは別々の炭素にくっついているわけですが、同じ炭素につくこと(つまり、エタン-1,1-ジオール)はないのか?…と思われるかもしれませんが、これも、例によって分子内の電子密度勾配がうんたらで、そんなにOHが偏った物質は合成が極めて難しく、恐らく自然界には存在しておらず、生体内でも使われていませんし、実際に試薬会社を調べても当然取り扱いはありませんでした。

こういう-OH基が複数付いたものを多価アルコールと呼んでいますが、やはり好き放題OHをつけられるなんてことはなく、それなりのバランスをもった形でしか存在しない(安定して存在できない)んですね。


エチレングリコールは最も有名な二価アルコールですが、その他の有名な多価アルコールもいくつか取り上げてみましょう。

恐らく一番名前が広く知られていて、日常生活レベルで普及しているのは、キシリトールでしょう!

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https://ja.wikipedia.org/wiki/キシリトールより

キシリトールは、C5個のペンタンにOHが5つもついた、五価アルコールだったんですね!

ただし、こちらは区分として「糖」にも分類される物質なので、純粋なアルコールではなく、糖アルコールと呼ばれています(でもやっぱり、アルコールの一種ではある)。

知らない人はいないでしょう、キシリトールは、甘くて清涼感がある&口の中の細菌が上手く使えない(分解できない)ので歯の健康にも良いということで、ガムに含まれているやつですね。

キシリトールがアルコールの一種だというのも驚きですが、まぁ上述の通り糖としての性質の方が強いので、まさにアルコール界の面汚しといいますか、ここまでくるとお酒的な側面は一切なしですね(もちろん、キシリトールガムをどれだけ食べても、警察のアルコール検出器にかかることはありません)。

キシリトール」は例によって慣用名ですが、化合物の命名ルールにのっとった正式名は……、ここまでご覧になった方ならもう自力で書き下せるかもしれませんね。

そう、炭素骨格自体はペンタンで、場所込みで、OH「オール」も5つですから、ギリシャ語の5の接頭辞「ペント」が2回も登場して、ペンタン-1,2,3,4,5-ペントールというのが、キシリトールの別名というか正式名になるわけです。
(ただ、糖などの複雑な物質は、炭素と水素のみの単純なアルカンとは違い、回転させても完全一致しない物質が生じえますから、より正確には立体配置を明示する記号も書く必要があるのですが、どうでもいいので今回は触れないでおきましょう。)


豆知識としては、まぁこれもWikipediaに載ってる範囲の情報ですが、糖アルコールは、通常の糖と比較して、全般的に「下剤」としての側面があることで知られているので、キシリトールガムを食べ過ぎたらお腹が緩んだ、というのはよく聞く話かと思います。

まあ、僕は経験ないんですけどね。

大学生の頃は、大学で歯を磨くのもなんだし、よくガムを噛んでいましたが、結構な量を食べてもキシリトールのせいでお腹を下すなんて一度もなかったと思います。

でも、生体反応的には、糖アルコールでお腹が下るのは理に適っている話だし、実際周りでも聞いた記憶がありますね、「キシリトールガムは下痢になっちゃうから苦手」という声も。


もう1つ、知名度的にはキシリトールに劣るものの、化学・生物・生活の全ての側面で超絶重要物質について触れてみようと思いましたが、スペースも結構埋まったので、次回持ち越しにしようかと思います。

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