引き続き性懲りもなく進めていく「神経伝達物質に親しもう」シリーズ、四大幸福物質のドーパミン、セロトニン、オキシトシン、エンドルフィン、闘争物質アドレナリン・ノルアドレナリンの兄弟分子、そしてアレルギーの主要因といえるヒスタミンを経て、前回は副交感神経系を司ると同時に実は興奮性の作用もあったアセチルコリンについて見ていました。
そろそろ神経伝達物質の有名所も少なくなってきましたが、まぁこれ関連の解説記事の「例」として大抵の場合一緒に挙げられる上、今まででむしろ一番健康系の話で聞いたことがあるかもしれないやつがまだいたので、今回はそちらさんを取り上げさせていただきましょう……その名も、GABA!
GABAと書いてギャバと読みますが、これは略称であり、正式には「γ-アミノ酪酸」の英語表記の頭文字を取ったものですね。
クリーブランド・クリニックの解説記事は医学的な話が中心で、パッと見ても生化学的な詳しい話はそこまでなさそうだったため(ちゃんと読んだら、そこそこありましたが(笑))簡単に触れておきますと、まぁ「アミノ酪酸」という名前で推測できる通り、これは実はアミノ酸の一種でして、とはいえ今まで何度も見ていたアミノ酸記事では登場した記憶がない気がするわけですけど、こちらさんがズバリ、「遺伝子DNAからタンパク質が合成される際に使われる、20種類のアミノ酸」に含まれない代表的なアミノ酸となっています。
要は、アミノ酸が大量につながったものがタンパク質なわけですけど、その「タンパク質の構成要素」としてのアミノ酸ではないということですね。
なので、ある意味重要性という意味では例の20種類のアミノ酸よりは低いわけですが、しかし、肉体そのものを構成しているわけではないものの、神経間の情報を伝達するという意味では様々な機能を持っていますから、決して脇役ではない、大切な生体分子のひとつには変わらない感じだといえましょう。
例によって構造式の画像をウィッキー先生からお借りしますと…
このように、アミノ基-NH2とカルボキシ基-COOHが存在するのでアミノ酸と呼ばれるわけですけど、両者が同じ炭素についているわけではなく、アミノ基はカルボキシ基から2つ離れた炭素にくっついているため、これを「アミノ基がガンマ位に結合している」と呼ぶことから「ガンマアミノ酪酸」と呼ばれている形になっています。
(なお、遺伝子タンパク質に含まれる20種類のアミノ酸は、アミノ基がカルボキシ基と同じ炭素=アルファ位に結合しているため、全てα-アミノ酸になります。)
とまぁアミノ酸に関する話では出てきたことがなかったものの、名前としては、結構前に見ていた自律神経記事で触れたことがある感じでした(↓)。
とはいえこれもそんなにしっかり見ていたわけではなかったので、今回クリ・クリのHEALTH LIBRARY記事の説明をまた翻訳引用させていただくといたしましょう。
こちらですね(↓)。
Gamma-Aminobutyric Acid(γ-アミノ酪酸) (GABA)
GABAは抑制性の神経伝達物質です。神経細胞が他の神経細胞に対して化学的な情報を受け取ったり、合成したり、あるいは送ったりする能力を低下させています。多くの病状が、GABAの濃度変化と関連付けられています。様々な薬が、GABAの受容体を標的としています。GABAサプリメントやGABA含有食品が病気の予防や治療に役立つかどうかについては、さらなる調査が必要です。
γ-アミノ酪酸(GABA)とは何か?
γ-アミノ酪酸(GABA)は神経伝達物質、つまり脳内の化学的な情報伝達物質です。中枢神経系(脳と脊髄)の特定のシグナルをブロックすることで、脳の働きをゆっくりしたものにさせます。
GABAは鎮静効果をもたらすことで知られています。不安やストレス、恐怖に伴う神経細胞の過活動を制御する上で、主要な役割を果たしていると考えられています。
研究者はGABAを、非タンパク質性アミノ酸神経伝達物質とも呼んでいます。
γ-アミノ酪酸(GABA)はどうやって機能しているの?
GABAは中枢神経系で最も一般的な抑制性神経伝達物質です。抑制性神経伝達物質は、化学的なメッセージを防いだりブロックしたりして、脳内の神経細胞の刺激を減少させます。
神経伝達物質は一般的に、全て同じように働きます。これらは皆、脳内の神経細胞から次の神経細胞へと情報を伝える化学伝達物質です。それぞれの神経細胞の間には、シナプスと呼ばれる微量の液体で満たされた空間があります。神経伝達物質はこのシナプスを横切って情報を運び、次の神経細胞の特定の受容体に着地して結合しなければなりません(ちょうど、ペアとなる鍵穴にしかはまらない鍵のように)。
神経細胞上には、2種類のGABA受容体が存在します―GABA-AとGABA-Bです。両者は違う方法で作用していますが、GABAがこれらの受容体に結合した際は、結果として両方とも神経細胞の反応性を低下させます。つまり、抑制性神経伝達物質であるGABAは、神経細胞が他の神経細胞に対して化学的な情報を受け取ったり、合成したり、あるいは送ったりする能力を低下させるということです。
GABAの健康効果は何?
GABAは特定の脳機能をゆっくりとさせることで、以下のような効果があると考えられています:
- ストレスを軽減する。
- 不安を和らげる。
- 睡眠を改善する。
GABAとグルタミン酸の関係は?
GABAとグルタミン酸は「オン」と「オフ」のスイッチのような働きをしています。両者は正反対の働きをするのです。GABAは脳内の主要な抑制性神経伝達物質で、神経細胞から神経細胞へと化学的な情報が伝わるのを止めています。一方、グルタミン酸は、脳内の主な興奮性神経伝達物質で、化学的な情報が神経細胞から神経細胞へと伝達されることを可能にしています。
脳が正常に機能するためには、GABAの抑制作用とグルタミン酸の興奮作用の繊細なバランスが保たれていなければなりません。GABAはまた、別の神経伝達物質であるセロトニンとも一緒に働きます。実際、多くの神経伝達物質が互いに協力したり反発したりしながら働いており、身体や脳が適切に機能するためには、一定の関係を維持しなければならないのです。
GABAは、実際にはグルタミン酸からグルタミン酸デカルボキシラーゼという酵素の反応によって作られています。
GABAのレベルの変化と関連した病状は何?
ある種の神経疾患や精神疾患では、GABAの情報伝達活動(「シグナル伝達」)のバランスが崩れ、本来の働きができなくなる時期が関係していると考えられています。GABA活性の減少は、以下のような症状に寄与している可能性があります:
- 不安障害および情緒障害
- 統合失調症
- 自閉症スペクトラム障害
- うつ病
- てんかん、発作
GABAの不均衡状態に関連するその他の医学的状態には、以下のようなものがあります:
- ピリドキシン欠乏症。これは、GABAを作るのに必要なビタミンが欠乏する、稀な疾患です。通常、乳幼児期に頻繁な発作が起こります。この発作は、抗痙攣薬ではうまく治療できませんが、ビタミンの補充には反応を示してくれます。
- 肝性脳障害
- ハンチントン病
- ジストニアおよび痙縮
- 過眠症(日中の過剰な眠気または睡眠時間の過剰化)
GABAレベルの上昇は、健康にメリットをもたらす?
GABAのレベルを上げることによる効果は、研究者によってまだ研究されている段階です。明確な証拠はありませんが、GABAは以下のような健康状態の治療や予防に役立つと考えられています:
- 高血圧
- 不眠症
- 糖尿病
GABAを標的とする薬には何がある?
GABA受容体に作用する多くの薬が開発されています。これには以下のようなものが含まれます:
- ベンゾジアゼピン系薬剤。ジアゼパム(商品名ヴァリウム®)やアルプラゾラム(商品名ザナックス®)を含むこのクラスの薬は、GABA-A受容体に作用します。ベンゾジアゼピン系薬剤は、外科麻酔や、てんかん、レム睡眠障害、アルコール離脱、不安・焦燥感、本態性振戦、筋痙縮の各治療に用いられています。
- バルビツール酸塩。鎮静薬です。
- ビガバトリン(商品名サブリール®)。乳児の発作・痙攣の治療に使用される薬です。
- フルマゼニル(商品名ロマジコン®)。ベンゾジアゼピンの過剰摂取の治療に使用されます。また、肝性脳症患者の精神状態を改善するためにも使用されます。
- バルプロ酸。情緒安定薬および抗痙攣薬です。
- ゾルピデム(商品名アンビエン®、エドルアー®)。鎮静催眠薬です。不眠症の治療に用いられます。
- プロポフォール(商品名ディプリバン®)。全身麻酔に使用される鎮静薬です。
- バクロフェン(商品名リオレザル®、ガブロフェン®)。筋弛緩薬です。
GABAのサプリメントはある?
GABAは栄養補助食品として入手可能です。しかし、そのほとんどは、脳の中には入ってこないかもしれません。(専門的には、これを 「血液脳関門を通過する 」と呼んでいます。血液脳関門とは、特定の分子だけが脳の間を行き来できるようにする特定の膜です)。そのため、GABAサプリメントを摂取することで脳にどのような影響があるのか―もしあるとしても―は、分かっていません。これまでの所、GABAサプリメントを病状の治療に用いることを支持する強力な科学的証拠はありません。より多くの人を対象とした、より多くの研究が必要です。
GABAは食品に存在する?
GABAはキムチ、味噌、テンペ(インドネシア発症の、納豆類似食品)などの発酵食品に含まれています。また、緑茶、紅茶、ウーロン茶にも見出されます。その他のGABAが含まれていたり、あるいは体内での合成を促進したりする食品には、玄米、大豆や小豆、クリ、キノコ類、トマト、ほうれん草、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、芽キャベツ、発芽穀物、サツマイモなどがあります。
サプリメントと同様、GABAを含む食品を食べることでGABAが脳に届くかどうかは、完全には明らかになっていません。多くの人を対象とした、より多くの研究を実施する必要があります。
クリーブランド・クリニックからのメモ
γ-アミノ酪酸(GABA)は、中枢神経系で最も一般的な抑制性神経伝達物質です。GABAは、神経細胞が他の神経細胞に対して化学的な情報を受け取ったり、合成したり、あるいは送ったりする能力を低下させます。GABAは鎮静効果をもたらすことで知られています。不安、ストレス、恐怖の制御に主要な役割を果たしていると考えられている物質です。GABAレベルの低下は、種々の神経症状や精神疾患、またその他の病状とも関連しています。GABAレベルを上昇させることは、高血圧、糖尿病、不眠症の治療に役立つかもしれません。脳内にはGABAが豊富に存在するため、GABA受容体は製薬企業による医薬品開発の主要な標的となっています。GABAサプリメントやGABA含有食品による病状の予防や治療への有効性については、より多くの人を対象に研究する必要があります。GABAサプリメントを購入したり、特定のGABA含有食品を食べたりする前に、自分の健康状態を良くするベストな方法について、かかりつけの医師に相談してください。
…こちらはセロトニンと同様、「穏やかで落ち着いてリラックスした状態」を得るために重要とされる神経伝達物質なわけですね。
メンタルの安定を望む現代人には大変魅力的で、だからこそ「GABAを含むものを食べましょう」と盛んに謳われたり、それを宣伝文句にしている食品がしばしば売られたりしているわけですけど、まぁ上記記事にもあった通り、(単純なアミノ酸なのでそこまで物質として不安定ではないと思うものの)食べたものがそのまま上手く脳にまで届くかは、個人的な経験からも正直、やや疑問符がつくものかもしれません。
とはいえ身体を作るモトといえるアミノ酸ですから(まぁこれも、直接身体になる20種類のアミノ酸ではないものの)、摂取して悪いことは(よっぽど極端に信じられない量を摂るとかしない限り)ないと思うので、含まれる食品も健康的なものが目立ちますし、何事も「病・健康は気から」的なプラシーボ効果もバカにできないので、GABAを含むお菓子とかを食べたら「あぁ~リラックスみを感じる~」と、ガバガバな考えでもいいのでポジティブにいるのが何よりといえるかもしれませんね(笑)。
次回は……ちょうど話に出てきた、「神経伝達物質としてのグルタミン酸」の話が、もしいい感じにまとまっていたらそちらを見てみようかな、などと考えています。