DNAの見た目は?

前回の記事ではこれまた唐突に、分子生物学・遺伝学入門のニュ(いやそれは「基本のキ」でしか使わない言い方で、何かおかしいだろ(笑))的な話として、DNAの関連用語のおさらいをしていました。

 

長々と書いていた割に、ほぼ文字だけだったこともあり結局あんまりハッキリとは何のこっちゃよく分からなかった可能性が高かったかもしれません。

 

そんなわけで、DNA・染色体などについて改めてもうちょい補足説明を続けてみようと思うのですが、結局の所この辺の分子レベルの話は「(めちゃくちゃ小さすぎて)目に見えない」ってのが諸悪の根源であり、見えないものを想像しろだなんて言われてもそんなのは土台無理な話だといえましょう。

 

とはいえ前回も書いていた通り、DNAというのは形あるものとしてこの世にちゃんと存在する物質ですから、ちょうど「食塩=塩化ナトリウムが、ナトリウム原子1個+塩素原子1個からできる1粒(=塩1粒ではなく、純粋に1分子)だけでは決して目には見えないけれど、大量に集まることであの白い塩になる」のと同様、それなりの量が集まればDNAも目に見える物体を形成する感じにはなっています。

 

しかしこれも前回チラッと書いていた通り、大量に集まったDNAを目にする機会は日常生活だとほとんど存在しないので中々「これが純品のDNAね」と示すのも難しいわけですが……あぁでも、分子生物学系の実験では、ほぼ毎日レベルでDNAのカタマリを触っていることに、ふと気付きました。

 

以前何度か(この記事など(↓))触れたことがあった、分子生物学実験で一番基本的かつ汎用される手技、「エタノール沈殿エタ沈)」というテクニックにより、純粋なDNAは形となって我々の目に現れるのです。

 

con-cats.hatenablog.com

 

「せっかくなのでエタ沈の写真、ないかなぁ~」と思って検索してみたら、シカゴにある名門デポール大学の講義用公開資料の中に大変分かりやすいものが見つかりました、お借りさせていただきましょう。

https://condor.depaul.edu/jmaresh/341/Lab7/CHE341_7_DNA_Isolation2.htmlより

普通はもっと小さい、半透明のプラスチックチューブを使うことの方が多いんですけど、まぁむしろこういう透明な試験管の方が見やすいですね、こちら、左がビフォーでDNAが溶けている水溶液で、これにイーサノール(←エタノールの英語読み…まぁ’大分誇張してますけど(笑))を加えるとアラ不思議、DNAはエタノールには溶けにくいという性質から…

(実際は、高い塩濃度の水溶液にエタノールが加わることで水とDNAとの静電相互作用が失われて溶解しなくなるという、「塩析」という原理が働いているのですが、まぁそんなのどうでもいいでしょう)

…ズバリ、右側アフター画像にあるように、白いモヤモヤとした姿を見せる感じになるんですねぇ~。

 

実際の感触や形態はまさに見たまんまで、何て言うんでしょうね……牛乳を温めたらできる膜をギュッと丸めたような、ゴムほど強くはないけれど生クリームよりはきちんとした形を持った、ブヨブヨした感じの、まぁモヤっとしたやつですね。

 

親指の爪の大きさぐらいはありそうなこの沈殿(precipitation)でどのぐらいでしょうねぇ…まぁミリグラム以上はあると思いますが、まさに、A, C, G, Tの4文字が大量につながっためちゃくちゃ長い分子がいっぱい集まることで、こんな白いモヤブヨの形になるわけですけど、これこそが純品のDNAに他なりません。

 

ちなみに高分子は何でも基本的にそうなんですが、水に溶けるとドロドロな、ネバァ~っとした状態になります。

(塩が水に溶けたら無色透明になるように、DNAも水に溶けたら無色透明で見えなくなるわけですが(=左側のビフォー画像)、あまりに高濃度だと、めっちゃベトドローっとしたヘアジェルとかそういうのみたいに、中に泡が含まれたまま抜けていかないような感じで、かつ、あまりにも濃度が高すぎると白濁している感じ(限界を超えると、ちょうどエタ沈のように白いモヤとして析出する)ではありますけどね。)

 

なお、この白いカスのようなカタマリを見ても、そのまんまでは「何のDNAなのか?」という点については全く分かりません。

DNAは4種類の文字(ヌクレオチド)が延々と大量につながってできたものだという話だったわけですが、これを舐めて「ペロッ、これは酵母のDNA!」とかは絶対に分かりませんし…

 

(ちなみにDNAの味は、そういえば僕は食べたことがないので知らなかったですけど、まぁ当然というべきか、以下の遺伝学電子博物館によるキッズ向けページ(↓)によると……

www.nig.ac.jp

無味のようですね。

 アミノ酸や、4種のヌクレオチドが少し変換されてできるイノシン酸とかは、上記の記事にもある通り味がするわけですが、普通のDNAに味はないとのことです。)

 

…他にも、触ることで「これはあの人のDNAだ…!」とかも分かるわけないのは言うまでもなく、更には、これを顕微鏡とかで見て、

「このDNAの塩基配列は…CCTTCAGTTCTTAAAGCGCT…で始まっている……これはXist遺伝子だ!!」

…とかも、絶対に分かりません。

 

これ、僕が大学1年生の頃、実験系の実習講義中の雑談で、何かの漫画だかドラマだかで、現場に残された血痕だか体液だかの証拠物質を顕微鏡で覗いて、「この遺伝子は…!」みたいな場面があった作品について盛り上がってたんですけど(もしかしたら単にそういう空想の場面を想定した話なだけだったかもしれませんが)…

…同級生たちは「いやDNAの配列って、顕微鏡とか覗いて分かるもんじゃねぇから(笑)」と笑いあって盛り上がってたんですけど、前回も書いた通り大学に入っても正直その辺の「分子レベルの物質と、現実的なイメージ」が全然把握できてなかった僕は、一緒になって笑いながらも、内心「(そうなの…?凄い顕微鏡なら、分子の違い判別できたりしないの?)」と、こっそり実はその場面をバカにする程の知識は正直持ち合わせていなかったこともありました(笑)。

 

…って、その顕微鏡の話、書いたことあったっけ…?と思ったら、何気にずっと前の分子生物学入門シリーズのご質問にお答えする回で、同様のネタに触れたことがありましたね。

con-cats.hatenablog.com

 

改めて、どんなに凄い虫メガネで拡大しても、人間の目にDNAを構成する各塩基・A, C, G, Tの微妙な違いは分からないでしょう。

(いや、1塩基は1 nm(ナノメートル)ぐらいの大きさなので、本当に10億倍ぐらいに拡大できるレンズがもしあったとしたら、1塩基が1メートルぐらいというあり得ないサイズで観察できることになりますから、原子に当たる光の屈折の仕方の違いとかで、もしかしたら4種類の違いを判別することができるかも……ってまぁ現実的にそんなレンズは存在しないし、あり得ませんけどね(笑)。)

 

「じゃあよくやられてる、DNA鑑定って何なの?DNAの遺伝子配列みたいなのを読んでるんとちゃうんけ??」と思われるかもしれませんけれども、これは当然、もっと違うテクニック・人類の叡智を使って読んでいる形になっています。

 

そちらも以前、既に複数記事にわたって触れたことがありました…(以下の2記事が、具体的な技術に触れていたものですね(↓))

 

con-cats.hatenablog.com

 

con-cats.hatenablog.com

 

…特に2記事目で触れていたように、いわゆる「シーケンサー」(=配列解析装置)と呼ばれるもので、具体的にはA, C, G, Tそれぞれに蛍光分子をくっつけて、上手いことDNAをサイズごとに分けて、1塩基の長さの違いごとに「蛍光の色で読んでいく」というのが、現在でも非常に盛んに行われているDNA塩基配列解読の基本手法なわけですけど、まぁ詳しい仕組みは↑で見ていたのでともかく……

残念ながら目視とか、DNAを機械にそのまま入れるだけで凄い装置が自動的に「ピピピ…このDNAの配列は、CCTTCAG…です」のように読めるわけではなく、

「蛍光分子をくっつけるために、一部の配列は事前に知っているものでなくてはいけない」

みたいな制限があったり、その既知配列にくっつく別の短いDNA(+蛍光分子付きのヌクレオチド)を別途用意する必要があるなど、手間もかかったりするわけですけどね。

(とはいえ、実は「次世代シーケンサー」的なものだと、もう本当にDNAを機械に入れるだけで自動的に読めるぐらいの技術も出てきてはいます。

 複雑すぎるので触れることもないと思いますが、いつかあまりにもネタが無くなったらそのへんにも触れてみたい限りですね。)

 

ちなみにその「DNA鑑定」も、現場に残されたDNAの配列を読んだら、

「むむ、犯人は男で(まぁここまでは、Y染色体の有無で分かるとはいえ)、XX歳、遺伝子から読み取れるプロファイリングとしては、身長〇 cmの太ったハゲで、〇〇市△△町に住んでいるようだ……おっ!遺伝子に名前も刻まれていたぞ!!」

…みたいなことが分かるわけでは決してなく(笑)、DNAを読んでも、絶対に個人までは特定できません。


ではどうしているのかというと、遺伝子によっては「配列に個人差がある」(=『繰り返し配列の数の違い』みたいな、生きる上では特に何の影響もない領域なんかに、人によって違いが存在する)部分が知られており、複数の遺伝子でその「個人差のある領域」の配列を調べて、

「この人のDNAは、現場に残されたDNAと、〇〇遺伝子・△△遺伝子・××遺伝子にある繰り返し配列の数と並びが完全に一致した。これら全てが一致する確率は1兆分の1以下なので、同一人物のDNAと断言して構わないでしょう」

…みたいになっているわけです。

 

なので、仮に現場に体液を残してしまっても、もう一度警察にDNAを採取されて「比較」されない限り、絶っっ対に個人の特定には至らない形になってるんですね。

 

…ってまぁ、そんなこと言ったら、「容疑者としてリストアップされない限り、知らない街で通り魔的な犯行をして逃げたら、絶対に捕まらない」のとほぼ同義になっており、何とも意味のない話というか、容疑者として疑われた場合は、証拠としてDNAを採取されて完全一致で詰みなわけですけれども(笑)…

(というか一応その点も、あくまで「100%断定」はできず、「複数の遺伝子のパターンが一致した、そうなる確率は〇分の1以下」とまでしか言えないんですけど、まぁ「他人の間違い・たまたま一致してしまった」である確率は地球上の人類全員探しても他に当たらないレベルのはずなので、言い逃れが通用しないのには違いない感じですね)

……「比較されなければどうということはない」「100%断定は絶対にできない」とか実際何の逃げ道にもならないので、「犯罪はしないようにしましょう」って話に尽きる形でしょうか(笑)。

 

ということで、本当はもうちょい別の脱線ネタにも広げていこうかと思っていたのですが、結構いい分量になったので、今回はこの辺で一区切りとさせていただきましょう。

その脱線から、染色体の話へのおさらいなどで、「アミノ酸代謝」の話に戻るのはもうちょい先になりそうですが、正直もう戻らなくてもいいぐらいどうでもいい話でしかないので、気にせず思いついたネタに触れていく形で……と開き直ろうかと思います(笑)。

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