ここ何回かいただいたご質問に補足回答をしている感じですが、そこで触れていたことに関しても改めていくつか、非専門家の立場から見出されていたとても鋭いコメントとして、アンさんから拝受していました。
補足の補足という感じで、今回も続きへ行く前にそちらに触れさせていただくといたしましょう。
まず、こないだ触れていた、「T7プロモーターは、ちょっとぐらい配列が変わっても大丈夫(でも19塩基の内、5塩基以上変わってしまうとほぼアウト)。ただ、真ん中ぐらいにある3塩基が特に重要っぽくて、端っこの方はそうでもなさそうというのも面白いね」的な話(補足から脱線:DNAが似てたらどーなる?!)について、
『DNAはレシピ、設計図、みたいなカチッとしたイメージなのかと思ってたから、意外と適当?みたいな感じで驚いた。「ここは重要で、ここはそうでもない」とか、そんなことあるん?!同じように4つのアルファベットで示されてる塩基配列なのに??』
という感想というか疑問点・不思議に感じる点を送っていただいていました。
これはまさにそうで、意外かもしれませんが、同じように4つのアルファベットが並んでるだけの塩基配列でしかないのに、DNAは地味に色々な役割をもてる(もってる)ってことですね。
単純に3つ1組でコドンとなって、アミノ酸を指定するという最重要といえる役割(いわゆる遺伝情報の保存)、それから、そのアミノ酸を指定する役割とは一切全く関係がないけれど、一連のタンパク質合成反応で同じぐらいに重要な意義をもっているといえる、調節領域としての役割……例えばポリメラーゼが結合してDNA→RNAへとステップを進める第一歩といえるプロモーター領域を形成するとか、そのステップを妨害する部位であるオペレーター領域を形成するとか、配列によっては全然違う機能があるわけです。
ただ、一見違いますが、どれも結局は「他の生体分子に認識&結合される対象となっている」という点は近いかもしれませんね。
オペレーター領域はリプレッサータンパク質に認識されて結合されるわけですし、コドンの方も、結局はタンパク質合成装置(これ自体は、タンパク質とRNAが一緒になってできている巨大分子)に3塩基ずつ読まれて、そのコドンで指定されるアミノ酸を運んでくる分子がコドンの順番通りにアミノ酸をつないでいく…って感じなので、ある意味DNAは「他の生体分子に読まれて、その情報通りの機能が実施される司令塔」と総合できる存在だ、ともまとめられそうです。
さらにそれをいうなら、やっぱりタンパク質の方が意外で、こいつは20個のアルファベット(アミノ酸)の組み合わせでしかないのに、ポリメラーゼになったりリプレッサーになったりお酒分解酵素になったり、もっとマクロなレベルだと髪になったり肌になったり筋肉になったりと、DNA以上に無限の機能(かつ、「何かに認識される」みたいな受身の機能のみならず、自ら積極的に能力をもつ有能っぷり)を発揮できますから、いわばDNAの意外さも、それに近いものがあるといえるのかもしれません。
結局、生体分子スゲェ、といいますか、「じゃあお前5億年ぐらいあげるから、生体分子をゼロから作って人間を再現してみてね」といわれたら、多分絶対できないレベルの、奇跡のような物体が揃いすぎててヤバい、って感じですね。
(いや、5億年をなめすぎ…?まぁでも、生物なんて身の回りにありふれていて今更感もありますけど、改めて考えると、知恵ある者が意図的に作ったとしか到底思えない、本当にちょっと出来すぎてるきらいのある存在ですよね、生き物って。
くどいですが、「5000兆円あげるから、無から人間を作ろうプロジェクト」とか、仮に実施されて、たとえこの世の天才が全員集結したとしても、少なくとも今の科学技術レベルでは、今いる人類が目にすることができる範囲(今日産まれた赤ちゃんが年老いて死ぬぐらいまでの期間)では絶対に不可能と断言できます。
もちろん、遠い将来は分かりませんけどね。でも何となくの個人的予想では、それぐらいの技術が発展するより、人類または地球が滅びる方が先なんじゃないかな、って気がします。まぁ当たっても外れても、僕もこれを読んでいる方ももう誰も存在しないぐらい先の話なので、適当極まりない意見ですけど(笑)。)
…と、何か関係ない話に飛んでしまいました。
せめて、記事タイトルにしていた、いただいていたご質問の本題というか興味深いポイントにだけは進んでおきましょう。
もう1点、本題に入る前に簡単な疑問点ですが、
『前回の3秒で描かれたとされる図、個人的にはWikipediaの3分で描かれた図の方がわかりやすかったかなぁ。っていうか、前回の図、RNAポリメラーゼがなくね?(読解できてないだけかもだけど、応用は利かんから許してちょんまげ笑)』
…というご指摘をいただいていたんですけど、いわれてみたら確かに前回の図のRNAポリメラーゼ、まぁ3秒で描かれただけあって、そういえばただの矢印だけに省略されてましたね。
割と重要な役割なのに、姿さえ見せない感じに格下げされた哀れポリメラーゼ(笑)…って感じで笑えますが、まぁこいつは別に一連の流れで姿が変わるとかいうわけではないので、矢印で十分ってことなんでしょう。
実際、この手の分子生物学・遺伝学系の論文では、ああいう感じのバーが並んだ形で遺伝子を表記することがめちゃくちゃ多いですが、プロモーター部には矢印がちょちょいっとつけられて、「ここから転写」みたいな合図程度の図になっていることがほとんどです。
ポリメラーゼが転写を行うのはもう常識で、特に何か特別なことでもない限り、あえて描く意味もない、むしろ空気のような当たり前すぎる存在なのです(大切だけど意識すらされないという点で似ている)、って感じといえましょう。
そして続いてのご質問が、また1つ話を膨らませられるというか1つネタとして触れられそうな内容を含む本題でした。
『オペロンは自動的にスイッチをOFFにしたりONにしたりするシステムって感じだったよね?それが、今回のプラスミドにも敢えて入れてあるってこと?(ソーマチンがポコポコ爆誕すると大腸菌的に困るかもしれないから)
これ、ラクトース以外にもいろいろあるのかい?もう大腸菌でしか使われないオペロン制御だから(曖昧)、種類がたくさんあるってこともないのかな?
ラクトースじゃなくてもよかったり、ラクトースでないといけない理由なんかもあるんかえ?いや、これを聞いてどうってことは全くないんだけど、リプレッサーやオペレーターは同じもので、ラクトースは変わることもあるのかと思って…(小分子って書かれ方だったから)』
…この辺も大して触れずに適当に流してしまっていた所でしたが、いいご質問ですねぇ~。
まず、ちょっと気になったポイントとして、オペロンは、まぁラクトースが周りにふんだんにあるような自然界なら自動的にスイッチON/OFFが切り替わるとはいえますけど(大腸菌がエサとして取り込むなりして、減ったラクトースはその内また増えていくともいえるから)、一応、栄養が管理されたチューブの中とかだと、このオペロン制御は人間の手でコントロールできる(=自動で勝手に切り替わったりはしない)、って感じですね。
(まぁ、こないだの記事では結構「自動で」ってポイントを強調していたくせに何ですが…。
一応、我々が実験室で使う上では、自動うんぬんより、自分の手でコントロールできる点が重要、ってことです)。
自動うんぬんはともかく、いずれにせよまさに、遺伝子のON/OFFを我々が思い通りに制御するために、プラスミドにも敢えてその「オペレーター配列」ってのを入れてあるってことですね。
まぁその理由としては、ソーマチンがポコポコ爆誕しても多分大腸菌的にはなんてこともなさそうな気がしますが(むしろ「甘ぁ~い!」って喜ぶ?まぁ大腸菌に味覚はないと思うので、そうはならないと思いますけどね(笑))、このpETシステムは別にソーマチンのためだけにあるわけではなく、世界中の研究者が様々な遺伝子を導入するために作られたものなので、毒性の強いタンパク質を作るときのための設計でこうしてある、って感じといえましょう。
…で、最後の点、その他のオペロン!
あえて触れてませんでしたし、聞かれなければ危うく触れないまま終わるところでしたが、いいネタですね。
これは、実際に他にも知られているのがいくつかあります。
二大オペロンとしてラクトースオペロン以外によく知られているものに、トリプトファンオペロンというものが挙げられます!
Wikipediaはなぜか日本語版は記事がなかったので英語版からの拝借ですが、4分ぐらいかけて描かれてそうな図(笑)、拝借させていただきましょう。
また哀れポリメラーゼは図から省略されていますが(笑)、概ね似た仕組みで、リプレッサーがDNAのオペレーター領域に結合すると、RNA合成(転写)がブロックされる形です。
ただ、lacオペロンに比べて、このtrpオペロンには極めて大きな違いがありまして、それは、lacオペロンでは小分子であるラクトースが結合することでリプレッサーがDNAから離れましたが、trpオペロンではその逆で、小分子であるトリプトファン(trp)がリプレッサーに結合すると、形が変わってリプレッサーがDNAに結合&転写妨害ができるようになるんですね!
その肝は、lacオペロンで作られるのはラクトース分解酵素でしたが、こちらで作られるのはトリプトファン合成酵素なので、トリプトファンが増えるとOFFスイッチであるリプレッサーがONになる…という、いずれにせよ逆向きのフィードバック制御になっている、ってことですね。
まぁ、図にもあるように、こちらはちょっとlacオペロンより要素が多いだけにもうちょい高級な制御もされているんですが、まぁ入門編では特に気にしなくてもいいでしょう(「小分子が、OFFスイッチをON」ってのが最重要ポイントですね)。
ちなみに、オペロンはそれぞれの遺伝子の制御に働いていますから、登場人物は遺伝子によって異なり、小分子のみならず、リプレッサーもオペレーター領域の配列も、それぞれ異なる感じです。
具体的に、trpリプレッサーはこんな感じで…
…ってまぁ例によってこんなの見てもまるで何も分かりませんが、以前見ていたlacリプレッサーことlaciとはまるで別物だ、ってことですね。
(こちら(↓)は、DNA(オペレーター配列)と結合した状態のtrpリプレッサー結晶構造図です。まぁ、結局よぉ分かんないですけど(笑)。)
あとそれからオペロンはまだいくつか知られているようですが(Wikipediaに記事がある範囲では、gabオペロン、araオペロン、galオペロンなどがありますね)、まぁ正直マイナーだし、やや複雑なだけで基本は同じ遺伝子の発現制御ユニットでしかないので、触れる必要もないでしょう。
以前も書いた通り、我々ヒトのような高級な生物では、オペロンというよりむしろ、場合によってはもっと入り組んだ形の複雑な制御で遺伝子スイッチが管理されてるともいえますから、まぁ名前はともかく、「遺伝子の発現はしっかりコントロールされているのです」という認識をもてばOKといえる話ですね。
では、次回はまたソーマチン合成実験の話の続きへと参りましょう(もちろん、ご質問があったら、そちらの方が面白いので、そちらを優先したい限りです)。