このDNAは何個つながって出来ているんだい?

「具体的に姿を見ないとイメージも湧きませんよね」とか言いながら、「DNAというものがどんな見た目をしているのか」を紹介していたのが前回の記事(↓)でしたが、ただの白いモヤモヤという情報量ゼロすぎる物体で、よぉ考えたらあんなのを見たところで何か遺伝に関する理解が進むわけはなかったような気もしてきました(笑)。

 

con-cats.hatenablog.com

 

ということでもうちょい補足から入ってみますと、前回画像で見ていた白モヤのDNA、まぁ実際測ってみないと正確には分かりませんが、経験上、あれぐらい大きな沈殿ですと、前回も書いていた通り恐らく数ミリグラムはあるように思えます。

 

どんな画像だったか示すために改めてリンクカードを貼っておきましたが、試験管に漂うあのぐらいのDNAが、果たしてどのぐらいの大きさなのか、ちょっくら計算して理解というか、数・規模感の目安を得ることで「DNAへの親しみ」を深めてみるといたしましょう。

 

まぁ「大きさ」と言っても、この手の試験管は直径2センチ弱ぐらいなので、まぁそこに収まっているぐらいの大きさでしかないわけですけど、知りたいのはそういうことではなく、今まで散々「DNAというのは、A, C, G, Tの4種類の塩基(ヌクレオチド)が、大量につながってできた分子なのです」と書いていた通り、DNAというのは塩基が延々と何個もつながって出来た物質ですから、「一体いくつの塩基がつながったらこういうサイズ感のカタマリになるのか?」ということを知ってみよう、って話ですね。

 

上述の通り、正確な重さは実際計測してみないと分からないんですけど、まぁ数ミリグラムぐらいとして、「重さ」から「個数」を知るためにはどうすればいいのかというと、これは「分子量」と呼ばれる、以前の記事で何度か見たこともあった「分子の体重」的な数字を使えば一発になります。


とはいえ「分子量」は「分子1個あたりの重さ」ではなく、「分子1モルあたりの重さ」になっているので注意が必要ですけど、とりあえずDNAの構成物質である4種のヌクレオチド・A, C, G, Tの分子量は、各分子の情報を見れば一発で……

 

ja.wikipedia.org


…まぁさっきから「一発」って言ってる割に実は数ステップ必要なんですけど(笑)、例えばDNAで使われる「A」は上記「デオキシアデノシン一リン酸」で、分子量は331.222とのことですね。

 

実際は、これが次の塩基とつながる際に水分子が外れるし、他のヌクレオチド(C, G, T)は当然またちょっと違う重さなわけですけれども、一般的にDNAに含まれるヌクレオチド1つの平均の重さはぢょうどこの「A」に近い「330」といわれているので、計算のためにここはまぁ「330」という数字を用いていくとしましょう。

 

なお、これまたおさらいですが、分子量というのは「1モルあたりの重さ」を示すので、単位でいえば「g/mol」(グラム・パー・モル=「1モルあたりのグラム数」という意味)になる感じですね。

 

つまり、100塩基がつながったDNAが1モル集まると、(1塩基1モルの重さは330グラムなので)おおよそ330×100=33000グラム=33 kgもの重さになるわけですね。

(もちろん、100塩基程度の長さなら、「平均の体重」ではなく、実際に「Aが何塩基、Cが何塩基、Gが何塩基、Tが何塩基」と具体的に数え上げて、正確な重さを求めることができるわけですけれども、まぁもっと数が多くなると数え上げるのも面倒くさいですし、ランダムな配列なら概ねそれぞれが等量含まれていると仮定して考えればよく、完全に正確ではないにせよそれほど遠からずな値が得られるという感じといえます。)

 

例の画像の「モヤモヤ」は数ミリグラムという話だったので、「たった100塩基しかつながっていないDNAで33 kgってことは、じゃあ写真のあれはもっとめちゃくちゃ短いDNAなの?」と思いきや全くそうではなく、例によってこれは、「『モル』って単位が普通にとんでもない数をまとめたものになっている」という話に過ぎないんですね。


「モル」に触れるときは毎回この例え話を書いてますけど、まぁこれがマジで一番分かりやすいと思うのでまた擦らせていただくと、例えば「12個入り」のものを「1ダース」という別の単位で呼ぶことがあるように、「モル」という高校化学で初めて出てきて、僕の経験上、恐らく8割ぐらいの人が何ぞよぉ分からんまま卒業してそのまま一生触れることもないであろうこの謎の単位は、実は「ダース」と全く同じ、「特定の個数をまとめて呼んだだけ」の単位でして、ダースの場合「12個=1ダース」だったのが、モルの場合、「約6000垓 (がい) 個 = 1モル」と呼んでいるに過ぎない話になっているのでした。

 

まぁ、この「垓」とかいうカスが、ギリギリ日常生活で聞いたことがあるレベルの倍数単位じゃなくなっていて全くイメージが湧かない…というのが腹立つポイントで分かりにくさに拍車をかけているんですけれども、まぁ「垓」は「京」の次で、あえて数字で書き下すと、

600000000000000000000000個

という形になり、0を並べすぎるのも分かりづら過ぎるため、仕方なく見慣れない倍数単位に頼っている感じなわけですね。

 

とりあえず例え話から考え方を改めて紹介してみますと、例えば自転車を1ダース納品したら、この箱の中に、自転車自体は12台あることになり、タイヤは24輪存在することになるわけですけど、あえて単位込みで書いてみますと、

・タイヤは自転車1台につき2輪あるので、「2 輪/台」

・自転車1ダースというのは12台のことなので、「12 台/ダース」


…と表せるため、例えば「自転車を8ダース購入したら、タイヤは何輪存在する?」という問題を解くためには、

「8ダース」

「2 輪/台」

「12 台/ダース」

…という3つの数字(と単位)から、「輪」という単位だけを残せばいいことになるので、「単位同士も約分したら消える」&「分母の分母は分子に行く」というポイントを抑えつつ考えれば、これはズバリ、

8 (ダース) × 12 (台/ダース) ÷ 2 (輪/台)

という計算式を立てればよく、これは小学生レベルの計算であり、48 (輪) と、答えの数字とともに、ちゃんと単位も求めたい「輪」だけが残る感じになっています。

 

まぁ流石にこの例は、単位とか面倒くさいことを考えなくても、多分小学生でも解ける問題になってたと思うんですけど、これが「モル」になるだけで、なぜか高校生ですら解けなくなるというんだから面白いものです。

 

例えば、

「水360 mLに、水素原子は何モル含まれるか?(ただし、水の比重は1、水の分子量は18とする)」

…という問題、これを解ける大人は多分10%もいないと思うんですけれども(大人を過小評価しているかもしれないものの、正直、本音をいえば1%もいないと思います)、マジでさっきの自転車と全く同じ問題でしかなく、使う数字(と単位)は、以下のものだけですね。

・水の比重は1なので、「1 g/mL」

・水の分子量は18なので、「18 g/mol」

・今存在する、モル数を求めたい水の体積が 「360 mL」


結局用語を「単位」込みの数字に変換してしまえば本当に楽勝で、この3つのアイテムから「mol」を残すにはどうすればいいかを考えますと、例によって「単位同士も約分」&「分母の分母は分子へ」という話から(というか、分かりやすいために「割り算記号」を使ったので、むしろ「割り算は、ひっくり返してかけるだけ」ってのがポイントでしょうか)…

1 (g/mL) × 360 (mL) ÷ 18 (g/mol) = 20 mol

…っちうことで、この360 mLの水分子は20 molという数存在していることが分かりましたが、ここで聞かれているのは「水素原子の数」なので、水はH2Oですから、ちょうど自転車のタイヤと同様、水分子1つに水素原子は2つ含まれるため、(まぁこれは同じ「個」という単位同士なので、計算式に混ぜにくいんですけど、こういうのはむしろ現物をイメージすれば当たり前ですね)、これを2倍したのが水素原子のモル数になるという罠にも注意する必要があるものの、答えは20の2倍で、40 molだと、そうなるわけです。

 

(というか結局、難しいのは、「各用語を単位に置き換える」部分のみなのかな、って気がしますね。)

 

ずっと前も似たような説明を長々としましたし、果たしてこんなつまらん計算を延々ペラペラと語る意味はあったのか甚だ不明ではありますが、ようやく本題の、「あのモヤモヤのDNAは何個つながってるの?」という問題を、全く同じように考えていきましょう。

 

「数ミリグラム」という話でしたが、まぁここは計算を簡単にするために、3.3ミリグラムであったことにしましょうか、都合いい値にも程がありますけど(笑)。

 

で、使う数字は以下の通りですね。

 

ヌクレオチドの平均分子量は330なので、「330 g/mol」

・1モルは6000 垓個の分子なので、「6 × 1023 個/mol」

・今求めたいDNAの重さが、「3.3 mg」


そして問題が、「このDNAには何個ヌクレオチドがつながっている?」というものになるわけです。

 

楽勝ですね。

 

単位を注視して考えれば、今回は最後「個」という単位を残せば勝ちなので、掛け算割り算していく数字の順番はどうでもいいですけど、上手いこと分子分母を調節する形で「個」が残るようにしてやりまして……

 

3.3 (mg) ÷ 330 (g/mol) × 6 × 1023 (個/mol) = 6 × 1021(ミリ個)

 

…と、まぁ数字の右肩に乗った指数の計算に慣れていないとこれも結構難しいかもしれないんですけど、簡単に言えば指数ってのは「後ろに並ぶ0の数」なので、↑の式の場合、「3.3÷330」の部分で「÷100」が残るわけですけど、「100で割る」ってのは「桁を2つ減らす」ってことですから、指数の数字を2つ引けばいいだけになっています。

 

…と、初稿では実は「mg」の「ミリ」の部分を完全に失念してしまっており、以下間違った計算を書いてしまっていたんですけれども、再読時に気付きました、「ミリ」を忘れてましたね……。

 

「ミリ」ってのは「1/1000」を意味する英語版の倍数表現ですから、「ミリ」なしの「個」に直すためには、指数をさらに3つ減らしてやればOKになります。

 

ということで真の答はズバリ、 6 × 1018個、日本語の力を借りると、「垓」というクソ単位のままなので何の実感もないんですけれども、(⇒無事、1000分の1されて、見覚えのある単位になりました!(笑))600京個のヌクレオチド(塩基)がつながってできたものが、あのDNAだと、個数ではそういえる感じなんですね!

 

…ではあるんですけれども、この考え方の場合、「600京個の塩基がつながった超クソ長いDNAが1つだけ存在」という話になるのですが実際はそんなわけはなく、例えば、

「100個の塩基がつながったDNA分子が、1億個ある」

「1億個の塩基がつながったDNA分子が、100個ある」

というのは、合計の重さは全く同じになるのが明らかだと思うんですが、これも実際はそうなっていると言えてしまいます。

 

…まぁ、それでなくとも既にめちゃくちゃ面倒でややこしい話が、さらに複雑になってしまうだけで何とも気が引けるんですけれども、もうひと踏ん張り、かつ、実はそんなに難しいことを言っているわけではないのでご辛抱いただきたい限りですが……

 

例えばあの写真のDNAはヒト細胞由来のものであったとすると、DNAってのは人間の細胞の中で「染色体」という形でまとまって存在している……というのは、既にちょっと触れただけでまた追って補足で細かく触れていこうと思っていた所なんですけれども、とりあえずヒトのDNAってのは、23本(が2組で、46本)の染色体に分かれて存在しています。

 

では、染色体というのは、どのぐらいの長さのDNAなのでしょうか…?

 

まぁ、ツラツラとクソみたいにおもんない計算しなくても、このデータを見るだけで単純に「染色体のサイズ感」に親しめただけだったかもしれないものの(笑)、以下の東京薬科大の記事に、美しい染色体構成因子(=クロマチン:話に出したことはなかったので、これもまたいずれですね)の電顕写真とイラストとともに数字が載っていたので、こちらをお借りしましょう。

 

www.toyaku.ac.jp

 

https://www.toyaku.ac.jp/lifescience/departments/biomed/keyword/#anc-22より

ズバリ、23本あるヒト染色体の平均サイズは「1億4000万塩基対」とのことで、まぁ染色体ってのは大きさの順に名付けられているので、「1番染色体」が最大で「22番染色体」が最小なんですけど、平均すると1本あたり「1億4000万個の塩基対」がつながってできている分子といえるんですね。

 

ということで、先ほどの計算結果で得られた、

「600京個の塩基がつながったDNA分子が、1個ある」

というのは、実際は

「1億4000万個の塩基がつながったDNA分子が、★個ある」

というのがより現実に近いデータだったため、この★を求めることで、あの画像の白いモヤモヤのDNAの正体がようやく明かせる感じだということに相成ります。

 

これは流石に、単位とか考えるまでもなく、小学生レベルの比計算ですね、★を求めるためには、普通に600京を1億4000万で割ってやればよく、(ポイント:「1億」は1の後に0が8個続くので、108になります)

6 × 1018 ÷  1.4 × 108= 4.2857143 × 1010

…ということで、★=約428億5714万個のDNAだということで、これは、「億」という馴染みのある単位のおかげでめちゃくちゃ分かりやすくなりました、ズバリ、平均すると1.4億個もの塩基がひとつながりでズラーっとつながったクソ長DNA分子が約428億個……と思ったら、もう一点だけ注意すべきポイントを見落としていました。

 

先ほどの引用記事をよく見ると、「1億4000万塩基」となっていたわけですけど、「DNAというのは二本鎖を形成する」という話だったので(「塩基対」というのは、「1つの塩基がダブルでペアを形成している」という意味ですね)、1つの塩基対にはペアの塩基がくっついて2塩基存在することになりますから、「長さ1億4000万」の「塩基」には、「2億8000万の塩基」が存在していることになるわけです。

ってことで、先ほどの計算結果に戻ると、「実際のDNA 1分子は、太さが2倍であった」ということなので、分子の個数としては半分しか存在しないことになるんですね。

 

ようやく結論にたどり着きました、ズバリ、あの白いモヤモヤのDNAのカタマリというのは、

約1.4億個もの塩基がひとつながりでズラーっとつながったクソ長DNA分子(ただし、2本鎖なので、1分子に2.8億の塩基が存在。また「平均」なので、もう少し長いものも短いものもある)が、約214億個ぐらい寄り集まって作られたモヤモヤである

…というのが実態だったことになります!

 

…いやぁ~、これもう正直、「分かってる人には当たり前すぎて全く面白くない」「でも分からない人がこんな通り一遍な説明で理解できるような話にもなっていない」という、誰も得しない話になってしまった気がしますが、一応、ちゃんと読めば筋は通っている話だと思うので、気になった方はぜひ追ってみて、DNAの規模サイズ感を実感していただければ幸いに思います。

では次回も、この辺の話を踏まえて染色体シリーズを続けていく予定です。

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