改めて流れの補足

前回はプロモーターの認識の話に脱線していましたが、いただいていた質問2つ目、基本的な流れというか全体像の把握みたいなものについての話に戻りましょう。

Q2. まず、あの輪っかの図(プラスミドマップ)が、どいたち何のことかわからん苦手意識があるっていうか、さっきのラクトースオペロンがこのプラスミドにどう関係しちゅーかがちっともわからん。(まさに、得意の“つながらん”ってやつや。)  

そもそもなんやけんど、、プラスミドに入ったソーマチンDNAは、いつまでプラスミドに入っちゅーんやか?

そして、「最初のうちの菌の数を増やすフェーズ」っていうがは、あの実験全体フローでいう「5.」のことやか?

 

A2.すっかりオペロンの話も遠い過去のものになっていましたが、簡単におさらいだけしておくと…

そもそもオペロンというのはまぁ遺伝子の制御メカニズム全体を指す言葉で、具体的なものを指すものではない、大して意味のないものなんですが、オペロンの主役はオペレーターで、大層な名前はついてますけどこれもプロモーターと同様、単なるDNAの領域のことで、「ここからRNAの合成が始まる、いわばONスイッチ」というプロモーターと対極をなすといえる、「ここに邪魔者がくっつくことでRNAの合成が強制的に妨害される、いわばOFFスイッチ」なのがそのオペレーターですね。

プロモーターに結合することで合成のスイッチをONにして、実際に合成反応も進める有能がRNAポリメラーゼ、そしてOFFスイッチであるオペレーターに結合して邪魔する方の分子がリプレッサーという名前でしたが、この辺の流れは、Wikipediaの3分ぐらいで描けそうな簡単な図とともに、以前この辺の記事で紹介していました。

まぁこういう基礎知識なら別に信頼できるも何もないですが、色々なソースの絵を見るとより説得力が増すというか「描き方や見方が変わっても何いってるのか分かる!ちゃんと理解できてるな」と、より納得感が増すように思えるので(逆に、ソースが1つだと、「本当にぃ?お前がそう思ってるだけというか、それが間違ってる可能性はないのぉ?」的な疑心が暗鬼を生ずることも、なくはない気がします)、今回は別の画像を貼っておくとしましょうか。

科学技術関連の世界最大規模の出版社・Elsevierの運営する学習記事まとめ系サイト・ScienceDirectのLac Operonページで引っ張られていた画像が、簡潔でありながらちょうどいい感じにまとまっていたので、こいつを引用させていただきましょう。

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https://www.sciencedirect.com/topics/biochemistry-genetics-and-molecular-biology/lac-operonより

まぁさらに単純な、3秒ぐらいで描けそうなショボい図ですが(いやまぁ3秒では描けないし、勝手に引用しておいて失礼千万にも程がありますが(笑))、Wikipediaの画像とは違って、リプレッサーであるlaciが、ラクトースの結合に伴って形が変わることがハッキリ記述されている(結果、オペレーターに結合できなくなるのが直感的にも分かりやすい)のがナイスですね。


そんな感じで、下流の遺伝子の発現(RNA合成、いわゆる転写)を制御するのがこのオペレーターというかオペロンの肝であるともいえるわけですけど、いただいたのは、「このオペロンとプラスミドの関係がさっぱりワカランチンだ」というものでした。

まぁこれは結局、

  • 大腸菌ではオペロンという仕組みで、遺伝子のON/OFFコントロールが巧みになされているということが分子生物学の黎明期、まだコドン表も見つかる前から知られていた
  • 分子生物学の発展とともに、遺伝子の切り貼りも容易になり、大腸菌を使って自分の好きな遺伝子から作られるタンパク質を大量にゲットだぜ!…ということが可能になる、pETシステムというよくできた実験ツールが開発される
  • ただし、作りたいタンパク質によっては大腸菌にとって毒となることもあるため、菌を増やす段階ではその遺伝子の発現をOFFにし、いざ菌が増えたら(この際タンパク質が作られたら菌の生育が悪くなったり、最悪死んだりしても構わないので)一気に遺伝子発現をON!…という感じにしたい
  • そこで着目されたのがオペロン。lacオペレーターというDNAの配列というか領域をpETシステムで使うプラスミドに入れて、必要なときまで遺伝子の発現をOFFにするという工夫が取られたのであった…

…というもので、そんな流れで、pET-15bにはlacオペレーターが導入されている、ってことですね。

何度か貼っている、pET-15b公式マニュアルの、クローニング・発現用の領域拡大図を再掲しておきましょう。

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https://www.emdmillipore.com/US/en/product/pET-15b-DNA-Novagen,EMD_BIO-69661#anchor_VMAPより

まさに、挿入する遺伝子の発現(例として考えていたソーマチン遺伝子は、NdeI-BamHIの制限酵素部位を使って挿入するという話でした)に使われるT7プロモーターの直下に、lacオペレーターがでーんと陣取っています。

この「lacオペレーター」とラベルされている「GGAAT……ATTCC」という二十数塩基の配列の内、「具体的にどこが重要で実際にリプレッサーはどの塩基と結合しているのか?」とかは、(前回のT7プロモーターの話同様)調べれば分かると思いますけどまぁ実用上そんなことはどうでもよく、この領域にリプレッサーであるlacIが結合して、下流のソーマチン遺伝子を含むことになるRNAの合成を邪魔している(邪魔というと言葉が悪いですが、最初は合成したくないので、積極的に漏れを防いでくれている、ともいえます)、ってことですね。

ちなみにこの記事(スイッチのスイッチで厳重管理)で触れていた通り、この自分が入れる遺伝子意外にも、スイッチONの大役を与っているT7 RNAポリメラーゼ遺伝子の方もオペロン制御されているんですが、まぁその辺は単に二重に制御されてます、ってだけで、結局ポイントとしては、オペロン(オペレーターとリプレッサー)による「スイッチOFF能力」が、pETシステムでも活用されているのです、って話に過ぎないといえましょう。


そんな感じの話が1つ目のポイントへの回答かな、って感じですが、続いて3段落目の、「最初のうちの菌の数を増やすフェーズとは?」というご質問……当初、こちらも間が空きすぎたので改めて何のこっちゃ振り返る必要がありそうかな、とか思っていましたが、ちょうどたったさっき触れた話になりましたね。

先ほどの箇条書き3番目でも書いていた「菌を増やす段階」ってのがそれなわけですが、ご質問は「そのステップというのは、あの実験全体フローでいう「5.」のこと?」というものでしたけど……

まぁあの全体の流れは、何度も再掲しているくせして割と省いている部分も多いので、あの流れで「ここ」とはピンポイントで書きづらいわけですが、そもそもその「全体フロー」とはどんな感じだったか一応再掲しておくと、この流れ(↓)ですね。

大腸菌にタンパク質を作ってもらおう!】

1. 遺伝子DNAをゲットする!⇒済み!遺伝子を注文しよう!

2. そのDNAを、制限酵素とDNAリガーゼを使って、プラスミドに導入する(クローニング)!⇒済み!図を見れば一発?!改めて、分かりやすくDNA切り貼りの仕組みを紹介!

3. その遺伝子組込みプラスミドDNAを大腸菌にぶち込む(形質転換)!⇒済み!たった数日で1000万円分のモノが作れる、楽しい作業

4. DNAがぶち込まれた大腸菌選別⇒済み!遺伝子をぶち込まれたやつだけが生き残れる、サバイバルゲーム!

5. 選ばれた「DNAがぶち込まれた大腸菌」をひたすら増やそう⇒済み!DNAを増やそう

6. タンパク質合成のスイッチON←まだココ

7. 満を持して、目的タンパク質の収穫

8. さすがにそのまんまでは大腸菌まみれで汚いので、キレイに精製しよう!

→見事、手元には大量の純品タンパク質が!やったね!!


…まぁ、件の「スイッチをOFFにしておきたい、菌を増やす段階」は一応5番とはいえるんですけど、5番は5番で「まずK株でプラスミドDNAを増やすステップ」として触れていたこともあるので、ちょっと違うといえば違うって感じになってしまう…という、まぁ流れのまとめ方が良くなかった、って話に尽きますね。

改変すると、こんな感じでしょうか。

5-1. DNAクローニング用の大腸菌K株で、「プラスミドがぶち込まれた大腸菌」をひたすら増やそう!

5-2. ミニプレップで、プラスミドDNAを回収、念のためシークエンシングで配列を確認しておこう!

5-3. (正しい配列の遺伝子が正しい位置に入っていることが確認できたら)改めて、その得られた純品プラスミドをタンパク質合成用の大腸菌B株にぶち込んで、ある程度まで大腸菌をじっくり増やそう!

6. いざ、タンパク質合成のスイッチON!

…って感じで、ご質問の「最初のフェーズ」は、この改変版の流れでいうちょうど5-3ということですね。

詳しくはまた次回以降見ていきましょう。


とにかく、流れについては、一通り終わったら図込みで改めて振り返っておきたいですね。

実際にやったことのない方にとって、言葉だけで何が行われているかを想像するなど、あまりにも困難を極めることなのは間違いありませんから…。

分かりやすい図がその辺に落ちてることを願いたい限りです(この辺は分子生物学基礎中の基礎&学生実験の最初としても打ってつけの話なので、多分いい図があるのではと期待しています)。


次回は、スイッチONについて見ていきたいとともに、多分それだけでは一瞬で終わるぐらいの中身のなさなので、スペースに余裕があったら、RNAの転写で1点触れていなかったことについてもちょろっと触れておこうかな、と考えている次第です。

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