美しい分子その3・キモトリプシンインヒビター!

脱線・数増しネタとして、タンパク質の美しい結晶構造を紹介するシリーズが続いています。


…といってもよく考えたらまだニューロトロフィンしか出していませんでしたが、前々回前回と見ていたそのニュートロさんはバリエーションも豊富で(何度か書いていた通り、生物種によって同じ機能のタンパク質でも微妙に配列は違いますし、結晶化条件でもまた構造は変わってくる形ですね)、機能的にも見所がある、なかなかナイスな分子でした。


ちなみに最初の文で「タンパク質の」という但し書きをつけましたが、もちろん分子の結晶構造はタンパク質に限らず、他の高分子でも、もちろん低分子でも解明されています。

 

特にタンパク質と並んで生体にとって重要な高分子であるDNAは、二重らせん構造をとることで有名で、まさにその解明こそが遺伝・遺伝子の仕組みを解き明かす分子生物学という学問の夜明け・発展につながる、偉大な最初の一歩となった感じですね。

 

とはいえDNAは4種類の塩基のみで構成されており、染色体では極めてコンパクトにまとまっていますし、二本鎖DNAの結晶構造は基本的にどんな配列でも二重らせん構造をとりますから、特に話として面白くない…というとあれですが、広がりはない感じだといえましょう。

DNAは情報の貯蔵庫にすぎませんし、実際に20種類のアミノ酸が組み合わさって凄まじいパターンを取り得るタンパク質こそが、結晶構造解析の花形だといえる感じに思います。

 

まぁ、分子を2, 3紹介するだけで特にそこまで話が広がらなさそうなため適宜脱線の中に更なる脱線を交じえている感じですが、美しいタンパク質の続きに戻りますと……

ニューロトロフィンの方は、こちらのQuoraの記事(↓)でAlaka Halderさんが紹介されていたものをお借りしたわけですが…

www.quora.com

続いて挙げられていたのは、オオムギの種子から取られたプロテイナーゼ・インヒビターであるCI-2という分子で、こちらは美しい星型を形成するとのことですね!

https://www.quora.com/What-are-some-of-the-prettiest-protein-structures-you-know-ofより


まあまあキレイな構造ですが、僕がお好きではない黒背景の画像なので、早速RCSBの方で検索してみたところ、まさにドンピシャの、2CI2というPDBナンバーの結晶構造が見つかったものの……

https://www.rcsb.org/structure/2ci2より

…あれ、いや星型っちゃ星型だけどさぁ、何かこう、ゴージャス感に欠けるね、という構造に思えちゃいました(笑)。

 

というか正直、黒背景で、リボンの色がかなりテカテカ美しく描画されているのがゴージャスさの理由かもしれず、実際両者は同じ結晶構造のはずなので、「描き方によっては別にそない美しくもない」という、まぁ実際現実的にはこんなカラフルなリボンの分子ではないのでそれが当たり前なんですけど、何だかちょっとガッカリ感もありますね(笑)。

 

まぁ見た目が若干冴えなかったので中身の方に着目してみますと、この分子はプロテイナーゼ・インヒビターの一種なわけですが、プロテイナーゼはまさにこないだ見ていた通り、タンパク質分解酵素のことで…

(普通は「プロテアーゼ」ですが、あえてプロテイナーゼ呼びする場合、エンドで=タンパク質の内部を切断する酵素という話でした)

…一方インヒビターというのは、日本語にすると「阻害剤」なので、これはタンパク質分解酵素の阻害剤(=ブロックするもの)なんですね。

 

で、具体的な物質名である「CI-2」というのは何かと思ったら、これがまさかの、キモトリプシン・インヒビター2という、これまたこないだ見ていたキモぃトリプシンの働き妨害するやつだったんですねぇ~。

 

単独のCI-2自身は星型の1つを形成している球状の部分のようで、結晶を形成する際に6つ並ぶ(六量体=ヘキサマーの形成)のが特徴のようですが、さらに条件によっては二重六量体を形成することもあるようで、特徴的な形で分子の構造決定メカニズム的にも大変興味深い分子であるのか、このQuora記事で回答されていたより後の時代、2019年には更に面白い結晶構造が解かれていました。

 

しかもポイントとして、一部のアミノ酸をちょちょいっといじったら構造が面白いように変わるという点があるようで、2種類もの、より複雑なCI-2結晶構造が解かれていましたよ。

 

こちらが構造その1で…

https://www.rcsb.org/structure/6qiyより


そしてこちらがちょちょいっと改変を加えて誕生する、構造その2…

https://www.rcsb.org/structure/6QIZより


ズバリ、アミノ酸を変えることで中央部・星型を形作っていたβシート(=矢印モチーフ)が形成されなくなるというのが大きな違いに見受けられますが、これによってまぁCI-2の何が分かるというものでもないものの、タンパク質というのは多少の変化で構造を大きく変えることができ、またそれを上手にシミュレーションすることもできるという、タンパク質工学の可能性を示すナイスな報告だといえましょう。

 

研究の中身についてはともかく、まぁモノが増えて見栄えが良くなっただけともいえますけど、ダブルヘキサマーで見事な星型を形成する…これは実に美しい分子だといえますねぇ!

Quora記事では紹介されていなかったゴージャス分子が発見できて、何よりでした。

 

…と、正直これが一番「お見事っ!」と思える結晶構造でしたが、まぁもうちょい紹介されていた興味深いタンパクもあったので、次回、苦し紛れにもう一回だけ美分子シリーズを続けてみようかなと思います。

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