プロテアーゼ、プロテイナーゼ、ぺプチダーゼの違いは?

前回の記事では、Proteinase Kという、めちゃくちゃタンパク質をバラバラにできる破壊力の強い酵素について触れていました。

(といっても、何気に想像していたより完璧に分解するほどでもなく、具体的にはちょうど半分、10種類のアミノ酸の結合をスパッと切断する機能をもつ酵素ということでした。

…もちろん、1つの酵素が10種類ものアミノ酸を認識して分解できるってのは、実際かなり強力には違いないですけどね。)

 

…と、そこからまたちょっと別の話に脱線しようと思っていたのですが、今回もうちょい気になるかもしれない部分に目がいったので、まずそちらから触れていこうと思います。


それがズバリ名前についてで、タンパク質分解酵素でより良く目にする気がするのは(まぁ専門外だと、そもそもそんなもん目にすることもないかもしれませんが)、「プロテアーゼ」という語の方になると思うんですけど、前回見ていたPro-Kは、「プロテイナーゼK」と呼ばれるもので、微妙~に違いのあるものでした。

 

この違いについてなんですが、正直どちらも日本語にすれば「タンパク質分解酵素」と言えるもので、ぶっちゃけ英語でもどちらもその意味になるわけですけど…

(おさらいですが、酵素の名前は非常にしばしば「-ase」という語尾で終わりますけど、特に「物質名+ase」という形だと、「その物質を分解する酵素」という意味になることが非常に多い感じという話をしたことがありました。

 例えばRNA分解酵素は、英語でRNase(まぁこれはRNAのAとaseのaが融合して表記されるので、ちょっとややこしいかもしれませんが…)とか、中学理科でも出てきた記憶のあるおなじみ酵素「アミラーゼ」は、でんぷんの主成分である「アミロース」を分解するものだからその名前になっている、という感じですね。

 なので、前半はどちらもproteinという語から派生していますし(というか後者は一語まるまるですが)、どちらも「タンパク質分解酵素」に他ならない、ってわけですね)

…実は、両者は微妙に違いというか使い分けが存在しています。


とはいえ正直、あんまり意識されず、日常会話では漠然と「タンパク質分解酵素」の意味で「protease」「proteinase」(ちなみに、これも何度か書いていますが、アメリカ英語では「ase」は「エース」と読むので、それぞれ「プティエース」「プテイネース」みたいに呼ばれますね。「ーゼ」の「ア」の部分にアクセントがつきがちな日本語とは、アクセントも違いますが)をあんまり区別なく適当に使っている人も見受けられるような気がします。

(まぁ、より一般的かつ短いこともあり、わざわざ「プロテイネース」なんて呼ぶ人はまずおらず、基本、「プロティエース」で全て呼ばれる、っていう方が正確かもしれませんが…。)

 

その違いについてですが、まぁそんなに複雑ではないものの、体系的に説明されたいい資料がないかな…と思って調べてみたら、ズバリ、1986年とやや古いものながら、査読付きの論文として、1ページの短い特集記事として公開されているものが目につきました!


僕が今までどこかで聞きかじっていた話は、この論文が元になっていたんですねぇ~。

 

リンクはこちら(↓)、題して「Nomenclature: protease, proteinase and peptidase」というものですが……

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

「Nomenclature」というのは、僕は大学院生の頃、有志の学生が英語を使って自分の研究を発表する会みたいなのがあり、当然、当時は英語で発表するなんぞ無理無理のカタツムリだったので発表者としては参加せず聴衆として見ているだけだったのですが、そこで参加していた英語に自信アリの同級生の発表で、担当の教授が質問タイムに、

「Nomenclatureはどうなってるの?自分で考えたの?」

…と、もちろん質問も英語だったわけですが発表者に問いかけており、僕なんぞは「あ、その単語、どっかで見たことあるけど、意味あんま覚えてないやつだった!どういう意味だっけ…?質問の意味すら分からん(笑)」と、幸い単なる聴衆だったので分からなくてもセーフだったわけですが、これはズバリ「用語体系」とか訳される感じで、要は「命名ルール」というのが、この「ノゥメンクレイチャア」という語の意味なんですね。


その発表会で「覚えてなかったらやばかった」と冷や汗をかき、無事に覚えた単語でしたが、この論文は、プロテアーゼ・プロテイナーゼ、そしてもう一つ、アミノ酸がいくつかつながったものを意味する「ペプチド」を分解する酵素という意味で使われるペプチダーゼといった語のNomenclatureを分かりやすく説明してくれるものになっているということになります。

 

幸い無料で全文公開されている記事だったので、引用文献以外の本文を翻訳紹介してみるといたしましょう。

 

命名法:プロテアーゼ、プロテイナーゼ、ペプチダーゼ

「プロテアーゼ (protease)」と「プロテイナーゼ (proteinase)」という用語の正確な意味は、長い間不明確なもののまま広まってきた。今、関連用語である「ペプチダーゼ (peptidase)」についての曖昧さが解消されたことからも(直近に報告された、参考文献2報引用)、タンパク質分解酵素 (proteolytic enzymes)の命名法について、さらなる明確化を試みる時期が来ているのかもしれない。

「プロテアーゼ」という言葉は、GrassmanとDyckerhoffが1928年、これらの酵素には全く異なる2つのタイプがあるということを認識した時には既に、ペプチド結合の加水分解によってタンパク質を分解する酵素を指す言葉として、広範に定着したものであった。彼らは、タンパク質分解酵素の中には、無傷のタンパク質に最もよく作用するものもあれば、小さなペプチドを基質として好むものもあるという記述を残した。この点を考慮して、彼らは(論文の最初のページの脚注で)無傷のタンパク質に特異性を示すプロテアーゼを「プロテイナーゼ」という新しい用語で呼ぶことを提案したのである。このプロテアーゼの2つのグループ間の特異性の違いは、末端アミノ酸をブロックした、あるいはブロックしていない合成ペプチド基質を用いた研究の結果、より明確なものになり、1936年、BergmannとRossによって「エンドペプチダーゼ (endopeptidase)」と「エキソペプチダーゼ (exopeptidase)」という用語で明確に表現されることとなった。

スキーム1に示したように、「ペプチド(結合)加水分解酵素」にも、「エンド作用ペプチド(結合)加水分解酵素」にも、同等な2つの用語があることがわかる。「ペプチダーゼ」という用語がより合理的であることは間違いなく、将来いずれ標準になるはずである。短期的には、最近明らかになった「ペプチダーゼ」の意味が受け入れられるようになるまで、「プロテアーゼ」の利用を完全に放棄することを勧めるのは難しいだろう。必ずしも完璧に満足できるものではないが、「プロテイナーゼ」という語も使われ続けられることはあり得そうだ。なぜ不満があるかといえば、この語が、エンドペプチダーゼだけでなく、タンパク質を分解するエキソペプチダーゼにも適用されると考える人もいるかもしれないからである。文献に登場する「エンドプロテアーゼ」や「エキソプロテアーゼ」といった用語は不必要であり、使うべきではない。

エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼの両方の活性を示すペプチダーゼもあることに注意すべきである(例えばカテプシンB)。これらのペプチダーゼは通常エンドペプチダーゼに分類されており、その慣例を維持することが賢明であると思われる。

スキーム1. タンパク質分解酵素の主要タイプを呼ぶ、許容される用語

(引用文献:省略)

 

…という感じで、うーん、正直バリクソ分かりやすい話になってるんですけど、しかし、「もし自分が大学1年の頃ぐらいにこれを読んだら、多分何言ってるのかぶっちゃけほぼ全く意味分かんなかったような気がするな…」という気もするかもしれません。

 

もうちょい丁寧に 説明を加えようと思ったのですが、例によって完全なる時間不足につき、間に合いませんでした(笑)。

 

まぁ、「それなりに分かっている専門の学生とかが、検索してたどり着いて上の記事を読んでくれれば、バッチリ疑問も解決するでしょう」という想定の記事ということで、中途半端ですがもうちょい込み入った説明はまた次回にまわさせていただこうと思います。

(とはいえ説明といっても特にそこまで深いものもないので、次回、当初書こうと思っていた内容に入ってちょうどいい分量になりそうかな、って感じですね)。

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