美しい分子その5・フラーレン他

前回の記事ではApo AIという螺旋リング構造(「リング」と「らせん」って、まさに貞子の登場するホラーシリーズのタイトルズバリですが(笑))を紹介し、「結晶構造の花形といえばタンパク質ですが、他には特に目ぼしいものもありませんでした」と、幕を閉じる所でした。

 

まぁ実際特にこれといった結晶タンパク質はもうないのですが、せっかくなのでもうちょい大学の生命科学系の講義なんかでよく耳にする話に触れておくと、「αヘリックスから成る構造モチーフ」といえば、何気に「ロイシンジッパー」という特徴あるものが知られていまして……

 

ja.wikipedia.org

…上記ウィ記事のトップ画像はおもんない模式図だったので、3Dモデル画像の方も画像単体でお借りしますと…

https://ja.wikipedia.org/wiki/ロイシンジッパーより

…こんな感じの、まさに新体操で舞っていそうなリボン構造が2つ噛み合わさるような感じでくっついており、その様子から「ジッパー」などと言われているわけですけど、これは特定の分子の全体構造というわけではなく、部分的にこういう構造を取ることが知られている、1つの分子の一部の構造になるわけですが…

(全体ではなく一部領域によるものなので、「ドメイン」と言われます)

…このドメイン構造を持つタンパク質はDNAに強く結合することが知られていまして、具体的には遺伝情報をDNA→RNAへと変換する反応、いわゆる「転写」を調節する機能性タンパク質にまま見られるものであり、その意味でも前回見ていたアポリポさんはロイシンジッパーを形成する分子というわけではないのですが(アポさんはコレステロールを形成する分子なので)、まぁ似た構造モチーフであり、ちょうどその辺のものが頭にも浮かんでいた感じでした。

 

(ちなみに前回、Apo AIの分子全体を黒くした後、ロイシンだけを赤く塗りつぶしてもみましたが、一部ジッパー的に噛み合わさってるように見える部分もあったものの、やっぱり等間隔でロイシンが並んでいて本当にジッパーのような接着力を生み出す「ロイシンジッパー」とは少し違う形ですね。)

 

そんな感じで、タンパク質は他にも色々面白いモチーフが知られており、構造生物学の講義なんかでしばしば話に出てくるものですが、まぁ覚えても別に何もいいことはないですし(一応、このロイシンジッパーなんかは転写調節因子に関する論文なんかでは大変よく出てくる、重要なモチーフとはいえますけどね)、そもそもそない美しいわけでもないですから(「面白い・興味深い」って側面が大きいですかね)、その辺でタンパク質の構造とはお別れしましょう。

 

タンパク質以外にも、自然界に美しい分子というのは色々ありまして、こちらはアミノ酸が何百とつながったタンパク質に比べると低分子になりますけど、やはり低分子でも立派な構造を取りやすいのは腕が4本あって自由な組み合わせが可能な炭素原子、つまり有機化合物になるわけですけど、パッと浮かんだのですと、高校化学でも教科書にチラッと載っていた、フラーレンというものがありますね。

 

ja.wikipedia.org

こちらはまさに上記Wikipedia記事のサムネイル画像にもある通り、炭素原子の4本の腕が、別の3つの炭素原子(1つは二重結合として使われています)とつながって、ズバリ、まさしくサッカーボールのような構造を作っているものでして、60個の炭素から成る、いわば炭素の結晶の一種になります。

 

あ、「フラーレン」って固有の物質名かと思ってたんですが、これは実は「数十個の炭素から成る閉殻空洞状の分子のことを呼ぶ総称」だそうで、一番有名な↑のサムネのサッカーボールはC60フラーレン、あるいは構造モデルを提案した方の名前を使って、通称バックミンスターフラーレンと呼ばれるものだったんですね。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/バックミンスターフラーレンより

 

…とはいえまぁ、分子構造が立派なだけで、構造自体もただのサッカーボールで美しいってわけでもないですし、実際の見た目は↑の画像にもある通り単なる炭カスですから(笑)、「美しさ」でいえば同じ炭素の結晶であるダイアモンドの方が圧倒的に上といえましょう。

 

…でもまぁ、分子レベルでいえばやはりフラーレンは大変ユニークなものですし、ついでなので他にも面白い炭素化合物を挙げてみますと(こちらは炭素のみではなく、炭化水素ですが)、「バスケタン」なんてのもよく知られていますね。

 

ja.wikipedia.org

https://ja.wikipedia.org/wiki/バスケタンより

ちょうどバスケットというか開いた箱というかのような構造なのでこの名がついたわけですが(炭化水素化合物は総称「アルカン」で、個別物質名も「-ane」が基本なので。メタン、エタン、プロパン…などですね)、日本語の響き的には何気に名前も強烈に可愛い感じといえましょう(笑)。

 

英語版の記事に掲載されていた、バスケタンの合成法も、炭素リング(1) と無水マレイン酸(2) が組み合わさったものが完全に人型分子のようで、面白いですね!

https://en.wikipedia.org/wiki/Basketaneより

 

まぁ他にも面白い構造・美しい構造の分子は探せば色々あるわけですが、何気に一番ゴージャスだったCI2 (↓)でもそこまでの感動がなかった気がするのは…

con-cats.hatenablog.com

…結局、自然界では何かそういうシンメトリーで大変美しいものが形成されるってことを僕らはもう知っているからといえまして、一番よく見聞きするのでいうと、やっぱり雪の結晶ってのがゴージャスさと美しさを兼ねた、素晴らしい構造な気がします。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/雪片より

まぁ一口に「雪の結晶」といっても色々なパターンがあって、単純な六角形みたいな冴えないものもあるものの、やはり美麗さNo. 1は、↑で画像をお借りしたような、六花・樹状構造パターンですね!

 

もちろんこちらは単一分子では全くなく、雪=凍った水が一定の構造を取っただけのものになるわけで、純品の分子が「同条件であれば必ず同じ構造を取る」ことになる単分子結晶の素晴らしさも当然あるっちゃあるんですけど、逆に↑の画像の説明文にある通り、その時の状況次第で同じものは二度と現れないという儚さも、ある意味美しさを増しているように思えます。

 

雪の結晶の場合、冷えた黒い紙に置いてやれば最悪肉眼でもしっかり確認できる、ってのも、肉眼では見えない(というか例の3D画像はあくまでモデル図)ミクロ分子の構造より、ポイントが高いといえそうですね。

 

まぁ、雪の結晶を出してはみたものの、これが形成される詳しい物理メカニズムなどは存じ上げないのでただ話に出しただけだったのですが、何だかんだ自然というのは意外とシンメトリーに満ちた神秘的なものを生み出すことも多いですね、という話でした。

 

(その辺の話は、「フラクタル」なんかも密接に絡んでくるものだと思いますが……

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…これまた専門外で、特にウィッキー先生以上に語れることはないので、「フラクタルですね」と知ったかぶってリンクを紹介するだけで終わりとさせていただきましょう(笑)。)

 

それではまた次回からは、少しずつ途中状態だった話に戻っていこうかなと思います。

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