洗った後でもまだ汚い…?

温度の話から唐突に洗剤の話に移っており、前回は水と油が混ざりあう、乳化の話などをしていました。

 

もちろん洗剤には、その乳化状態を作るための分子である界面活性剤の他にももっと色々な成分が含まれているわけですが、逆にそういった追加成分は、頑固な油汚れを落とすためには効果的なものの、分子レベルでいえば不純物に他ならないわけで、実験室でガラス器具や専用の機器を洗浄する際には忌避されがちなのです……などということを何度か書いていました。

 

それに関連してまた1つ思い出ネタを書いてみますと……

まず、実験室でのガラス器具の洗浄方法としては、特にタンパク質や脂質を使った実験でなければ水洗いのみ、結構しつこい汚れにはSDSとかSCATとかその他実験器具用の洗剤を使うことが多い……

…というのはこないだ書いた通りですが、結局、実験で用いる器具類は洗った後の残留成分どころかイオンレベルでキレイにしておきたいことが多いので、洗浄後、RO水(以前(↓の記事などで)触れたことがありましたが、ROはReverse osmosis membrane(逆浸透膜)を通した精製水のことで、多くの研究室には、水道水の他に、ひねるとRO水が出てくる蛇口が併設されています)で水道水をリンスして洗い流すという伝統も存在しています。

con-cats.hatenablog.com

正直ぶっちゃけ、「そこまでする意味あるんか…?」とは思えますけど、水道水ってのはカルキやら各種イオンやらが微量とはいえ無視できないレベルで含まれているので、そういったものが次に行う実験に影響を及ぼさないよう、よりクリーンな水で、洗浄後の濡れたガラス器具などを(もちろん、「乾く前」にですね。そういった成分は、乾いたら水垢としてこびりついてしまうので)最後リンスして洗い流す(よりキレイな水で置換する)という流れであり、面倒っちゃ面倒なんですけど、もう癖で洗浄後はそのままRO水の蛇口を捻ってピューっと最後の追加洗いをしている感じです。

 

で、これに関して、例のこないだ「洗剤の方が汚い」というアドバイスをくれたと書いていた、卒研でお世話になった先生にまたお叱りを受けたという話を思い出したんですけど、研究室配属後、4年生で本格的に実験を始めたばかりだった僕は何となく「かなり高価なガラス機器だから、洗浄からキレイなRO水を使った方がいいのでは…?」とか思い、スポンジでしっかり洗って洗剤を洗い流すステップからRO水を使っていた所、たまたま横に来てそれを目撃したその教授に…

「あなたねぇ、そんな洗い方してたら予算がいくらあっても足りませんよ。

 最初の洗いは水道水でやって、精製水は最後のすすぎだけに使ってくださる?」


…と苦言を呈されまして、良かれと思ってやったことでしたが言われればまぁ実際そうだな、と思い(基本的に大学4年生なんてのは、マジで右も左も分からない、メチャクチャなことをしがちな人種ってことですね、我ながら)以後改めるようにしたのですが、まぁ実際RO水もそれなりに製造コストがかかるもので、(同じくこないだ↓の記事などで触れていた)超純水であるMilliQ水ほどではないですけど、そんな風に使ってはいけないものだ、ってことですね。

con-cats.hatenablog.com

(…というか、洗剤をRO水で洗い流すとか、マジで無意味の極みといいますか、(洗剤と、水道水と、RO水それぞれの)質の違いを全く理解できていない、何も考えていないアホ行為にしかなっていない、って感じだといえましょう。)


しかし、研究室配属に遡ること前年、3年生の時に学生実験の講義(実習)で一通りそれなりに基本的なことを学ぶのですが、学生実験で使っていた実験室にはなぜかRO水の蛇口が引かれておらず、汲み置きのMilliQ水を最後のリンスに使ってたんですけど、今さらですが指導者的な立場から言わせてもらうと、これは良くないなぁ、って思えますねぇ。

流石にMilliQ水ほどの超ハイグレードな水をたかがガラス器具洗浄工程の最後の仕上げ程度の用途に潤沢に使うのは無駄の極みで、下手したら「RO水で洗剤を流す」よりハイコストになるため、他に手段がなかったとはいえちょっとモノの価値を錯誤してしまう、悪いやり方だったように思います。


そのせいで、確か4年生になって配属された直後、その研究室でMilliQ水を使ってリンスしたら、その教授に「ちょっと、そんなもったいないことやめてくださいよ。RO水ってのが蛇口から出てくるようにしてあるんですから、それを使って」とたしなめられ、「いや、学生実験の時にミリQ使ってリンスするように習ったんですけど…」と言った所、確か「えぇ?それは良くないですね、工事する必要がありますねぇ…」とかそういえばそんな話になってた気がするので、僕の次の代ぐらいからは、学生実験の部屋にもRO水が引かれるようになった、なんて記憶もうっすら蘇ってきました。

 

まぁそんな昔の話はともかく、今いる研究室では、ガラス器具の洗浄は、基本的にディッシュウォッシャー(業務用の食洗機)でまとめてやってる、ってことも以前どこかの記事で書いていた気がしますが、流石は研究用途で導入されたもののようで、高温での洗浄・流し後、最終ステップに「RO水でのリンス」機能まで備わっているというめちゃくちゃ優れものになっています。

(ちなみに先代のものが壊れて割と最近最新型が部局の共同機器として導入されたのですが、先代のものにはその機能はなく、洗浄後、アチアチのガラス器具をわざわざRO水でリンスするというアホクサいステップを踏んでたんですけど、それをやらずに良くなってめちゃくちゃ便利になりました。)


とはいえ機械での自動洗浄なので、相当大量のRO水を使ってる感じでかなり無駄にも思えるのですが、便利さには変えられない、ってやつですね。


同じような話で、液体を測り取るピペット類は、僕が学生時代にいた研究室ではガラス製を使って、学生やパートの補助員さんが定期的に使用済みのやつを洗っていたんですけど(以前サイフォンの話で触れていた、自動ピペット洗浄器みたいなやつですね)、アメリカの場合、「洗うための人を雇うより、使い捨てのプラスチックを使った方が遥かに安上がりである。人件費が最も高コスト」という理由で、ほとんどのラボがディスポ(使い捨て)のプラスチックピペットを使っている感じです。


その辺はやっぱり、(もちろんこちらにもガラスピペットを使って洗っている研究室もありますけど)アメリカの方が効率重視といいますか、かなりシビアに「無駄なことは極力避ける」って意識が強い気もしますね。


(まぁ日本でも潤沢な予算がある所は使い捨てのものを使ってる印象がありますし、一見「無駄」といっても、それは予算の話なだけで、環境には再利用した方がいいでしょうし(とはいえこれも、繰り返し洗浄することで発生する排水も相当なものになるんじゃない?って気もするものの…)、それ以上に、何気に人を雇うことって「雇用を生み出している」という、社会においては良い面もありますから、一概に「無駄」と断じるのもどうかと思えるかもしれません。)

 

…と、引き続き時間があまりにもなさすぎる状況が続いており、「一体何のネタだったんだ…」というか、研究系という特殊な分野の話でしかない「水道水で洗うだけでは不十分」という話のみで、他に触れようと思っていた話にはまたしても触れられなかったんですけど、続きはまた次回持ち越しとさせていただきたく存じます。

 

画像に使えるネタが何もなかったのですが、あぁ、先ほど書いていた学生時代の「MilliQでのリンス」というのは、流石にミリQ製造装置を毎回起動させて水をしっかりとかけてガラス器具をヒタヒタに……というわけではなく、洗ビンに汲み置きしたミリQ水を軽くピューっとかける感じだったんですけど、こないだも「SDSを溶かした溶液は洗ビンに入れて使ってます」と書いていたこの「洗ビン」、意外と専門用語かもしれないのでどんなものかをお示しすることで、アイキャッチ代わりとさせていただきましょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/洗瓶より

ちょうどWikiPにドンピシャの記事がありましたが、何てこたぁない、「瓶」といってもプラスチックでできた単なるボトルで、まさにこういう、押したら先端の細いノズルから中の液体がピューっと出てくるだけの、こんなやつ(↑)ですね。


見て分かる通り細い水しか出て来ませんから、特に学生実験の頃は、「マジでこんな細い水をピューっとぶっかけるだけで、ちゃんと水道水をリンスできてるといえんのか…?」と思っていたもので、正味、「やれと言われたからやってるけど、まさにやってる感の極み」でしかなく、絶対洗浄後のガラスについてる全部の水滴が置換できていないのに、適当に数秒ピューっとミリQをぶっかけたらそれでヨシとしていました(笑)。

 

まぁ利用量は極少といえるので、その意味でコストの面では学生実験でまさかの「ミリQを洗いに使う」という暴挙に出てもそこまで問題なかった、とは言えたのかもしれませんが、今は普通に蛇口から普通の水道のようにドバドバ出てくるRO水でしっかりリンスしているので、一応水分置換の効果は完璧ですね。


いうまでもなく、科学実験で必要な話なだけで、日常生活の食器の洗浄後とかにわざわざ精製水でリンスする意味は1ミリもないので、どうか無駄なことをされないように願ってやみません(する人なんているわけないと思いますが(笑))。

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