圧力シリーズの脱線ネタとして、前回は「圧力とは何ぞや」という話もそこそこに、「ストローで水を吸う高さの限界」みたいな話をつらつら書き殴っていました。
そのストローネタも、また圧力というか大気圧について触れた後に改めて戻る機会があれば戻ってみたい所ですが、同じような「水の柱」が関連するもので面白いネタとして、サイフォンなんてものにもちょっくら触れてみようと思いつつ、前回はそこに行くまでの時間がなくて辿り着くことがなかったため、今回はそこから話を始めてみようと思います。
サイフォンの原理と呼ばれる中々面白い物理現象、これは、そんなに身近なものでもなく、ご存じない方のほうが多いのではないかと思えるため、まずはどんなもんかの説明から参りましょう。
ウィッキー先生の記事に、大変分かりやすい図があったので、例によってそちらをお借りさせていただきますが…
簡単に説明しますと、ズバリ…
「内部まで完全に水を満たしたU字型の管を用意する。
このU字型の管の一端を、別で用意した水の入った容器に挿すと、その容器に入った水を吸い続ける形で、管の逆の口から水が排出され続ける。
この水の移動は、元々の水を吸い込んでいるコップの水面と、水が流れ込む受け口の水面の高さが一致するまで止まらない」
(↑のウィキ図の例なら、上のコップの水は、空っぽになるまで全部下のコップに移動する)
…ってなやつで、まぁややこしく書いたものの、要は…
「どんなに長いU字管でも(※)、入口コップと出口コップの水面の高低差がある限り、水はU字管に吸い込まれて、低いコップへと移動し続ける」
…という、まぁあんまり「要」してない長ったらしい話のままかもですが(笑)、いずれにせよ、電気の力とか特別な装置とかを何も使わず、「水が勝手に(一時的にですが)高いところへ吸い上がっていく」というのは案外不思議なもので、実際に見たら結構インパクトの大きいものではないかと思います。
動画で見るのが一番ですね。
一番簡単にできそうな例として、パッと目についた子供向けの簡単実験動画に、ストローを使ったこんなのがありました…
www.youtube.com
こちらは、ストローが短すぎて、移動元の水がすぐになくなって空気を吸って終わってしまうため、そこまでのインパクトはないかもですけど(別にストローを切る必要は一切ないと思うんですが……まぁ、ストローが長いと、水を満たしにくいという難点はあるかもしれませんけどね)、水が勝手に吸われて移動する様子を見るにはナイスな実験ですね。
より完全な移動としては、こんな動画(↓)もありました。
こちらは、水が高所から低所へ、完全に移動しつくしているパターンですね。
個人的には、受け口の洗面器の高さをもう少し上げて(そして透明な洗面器を使って)、液面が一致した瞬間にマジで「水の移動が自動で止まる」って場面まで見せてくれたら「うぉ~、スゴイね!」の感動がより強くなったのでは……と思いますが、本当に、別に機械や誰かが「吸ってる」わけではないのに、水が「勝手に吸い上げられて移動していく」というのは中々面白い現象ではないかと思います。
(※先ほど「どんなに長いU字管でも」と書きましたが、実はこれも当然前回の話が絡んでくる話で、10メートルを超える高さの管の場合は、流石に水が上がっていきません。
ウィ記事にもあった通り、実用上は7-8メートルが限度とのことですが、それ以上高い管だと、どうしても上部に空間ができてしまい、水の移動が妨げられてしまうんですね)
このサイフォンの原理、僕が初めて生で見たのは、大学生の頃に所属していた研究室が使っていた、「ピペット自動洗浄器」なるもので……
検索したらモノタロウにドンピシャのものがあったので画像をお借りしますと…
この「本体」は、向かって右側から水道水を流し込める形になっているのですが、洗浄にはまず「バスケット」にピペットを詰めて、本体に入れます。
水道から水を流し込むと、水がどんどん溜まって上に行くわけですが、本体から溢れる少し手前で、底からつながっているU字管(向かって左、水道を流し込む口とは逆側ですね)の最上部・折り返し地点に達し、そこからは当然、水がU字管の開いた口から一気に排水溝へと流れ続けることで、水位がガンガン低下していきます。
U字型の出口は本体の底部よりも若干下に設置されているため、水は最後まで完全に流れ切り、空になったら、U字管は最終的に空気をガボガボっと吸いこむ感じになるわけですけど、そこでU字管に満たされていた水は一旦完全に空になるわけです。
水道の水は流しっぱなので…
(したがって、このピペット洗浄器、便利ですが、死ぬほど水道代を食う感じですね(長いピペットも洗えるように、高さは60 cm以上はある、結構大型なものです)。まぁ、大学研究室の水なので、誰も気にしてませんでしたけど(笑))
…U字管が空になったらまた下から水が溜まり始め、以後最初に戻って繰り返し……って形で、何度も何度も新しい水が上下して、ピペットの中を洗浄できるという優れものなんですね…!
もちろんサイフォンの原理を応用して、「一旦U字管に満たされた水は、完全に(少し高い位置にある)本体側の水全てが排出されるまで流れ去り続ける」というのがポイントなわけですけど、初めて見たときは「何て賢いっ!」と思えたものでした。
そんなわけで、ピペット洗浄を何度もやらされていたこともあって個人的には馴染みの深いサイフォンなんですけど、これ、結構感動したものの、
「まぁ、水は高いところから低いところへ流れる、ってこっちゃね。
詳しくは、まぁ大気圧の差がどーたらこーたらなんちゃいます?
原理は知らんけど、実際マジで水の移動は起こってるから、細けぇことはいーんだよ」
…と思ってあまり深く考えたこともなかったんですが、何気に、この駆動原理は結構今でも議論され続けているぐらい、意外とかなり難しい話だったようです。
一見、話のキモは大気圧にも思えたのですが、もちろん大気圧の影響もなくはないものの、主な駆動力は「水に働く重力である」という考えの方が的を射ているように思えます。
以下の解説記事(↓)が、分かりやすく書いてくれていましたね。
また、「大気圧はほとんど関係がない。なぜなら、真空中でもサイフォン管は作動するから」ということを動画とともに示してくれている記事(↓)もありました。
「ははーん、なるほどね、大気圧ではなく、水にかかる重力ね。最初からそうじゃないかと思ってましたよ」
と納得しかけたのですが、実は…!
最初に貼った日本語版のWikipedia記事にはそこまでの説明はなかったものの、遥かに詳細な説明が掲載されていた英語版「Siphon」の記事を見てみたら…
重力説の主張としては、当然「重い方に引っ張られる」ということで、しばしば「鎖がつながったモデル」が挙げられるようですが…
(低い方が鎖が沢山あって重いので、こっちに引っ張られる、という話ですね。)
しかしなんと!
このモデルを1秒で論破する図が、すぐ次に掲載されていたのです…!
管の太さが異なり、上側の方がより沢山の水が存在していて明らかにそっちの方が「重い」状況でも、水は普通に低い方へと流れていくということで、どうやら重力説は必ずしも正しいとはいえないようなんですね。
他にも、「水という液体は凝集する作用があるので、水がポンプのように連続して駆動されるのは、水の凝縮力によるものであろう」という説もあるようですが、これも、「上部に空気を入れた状態でサイフォンスタート!」しても普通に上から下へ水が流れるそうで…
その説も普通に(もちろん、大気圧も重力も水の凝集も、ある程度水のサイフォン的駆動に関わっているのは間違いないとはいえ)、これが決定的なサイフォン駆動力の主要因という訳ではなさそうなんですよねぇ~。
(ちなみにこのエアスタートですが、例のピペット洗浄器も実は「水の勢い的に、たまにサイフォンが走らない(=底まで水が下りてきても、U字管が空にならず、水道からの水がずーっとU字管に添加され続けて、次のラウンドが始まらない)」みたいな状況もありましたし、その例同様、結構条件はシビアで、あまりにも上部の空気が多すぎたら、普通に水の移動が起こらず、単にCの水がDの方へ落ちていくだけで終わり……のこともあるんじゃないかとは思えますね。
ただ、この状況でもサイフォンの駆動が起こることがあるのであればやはり、水の凝集が駆動の必須要素とはいえなさそうです。)
英語版Wikipedia記事下の方では、ベルヌーイの定理を用いて、難解な数式で考察がされていましたけど、それはサイフォン中の液体の移動速度の計算などをしているだけで、どうも決定的な「原理を説明できる答」は、令和の今となっても実はまだよく分かっていないぐらいのようです。
さらに検索したら、まさに今書いたのと同じような考察をされていた記事(↓)が見当たりましたが…
(といっても、考察レベルは天と地で、実際にベルヌーイ他の数式も用いられてより深い考察をされている、ガチめの記事ですね!)
…やはり、決定的なサイフォンの原理の説明には至らずの状況であるように見受けられます。
こんなに難しい話だったとは露にも思いませんでしたが、まぁ僕は物理学者でもないですし、個人的には「水は高いところから低いところに流れるんだ、当たり前だろ?しかも途中高い山があっても、水は普通に上ることができるんだ、スゴイね」で終わりにしていいかな、って思える気がするかもしれません(笑)。
ちなみに、より身近な例としては、「灯油ポンプ」みたいなものも完全にサイフォンの原理を応用した製品として有名ですけど…
僕は家で使ったことはなかったものの(ポンプは家にあった気がしますが、灯油を入れるお手伝いとかはしない少年だったので(笑))、実は研究室には完全に同じものがありまして、ちょうどこないだ書いていた200 Proofのクソデカエタノールタンク(↓)から、普段使いのより小型なボトルにエタノールを移すときなんかに使っている感じですね!
これも普通に、ポンプで吸い上げて、一旦両側のチューブが液体で満たされたら、後は何もせずとも自動で低いところに置いたボトルに液体が移動し続ける……という便利装置なわけですけど、まさに「実際現実で便利に使えてるから、詳しい仕組みとかはどうでもいいや。『液面が等しくなったら止まる』ってことさえ知ってれば、不便はないしね」という感じだといえましょう。
(とはいえまぁ、そういう仕組みが気になるタイプではあるので、いつか「完全なサイフォンの原理の説明、思いついたぞ!」という話があれば、ぜひ見てみたい限りです……自分では面倒くさくて考えないから、誰かヨロ、っていう無責任の極致ですね!(笑))
他にも、当初「もしかしたら『サイフォン』は、『コーヒーサイフォン』という名前で一番聞くかもしれませんが、これは気圧差で液体が移動してコーヒーが作られるだけで、いわゆる『サイフォンの原理』とは全然関係ありません」みたいな話も書こうと思ったのですが、また時間切れのため、今回はこの辺で区切りとさせていただきましょう。
連続で脱線面白ネタの紹介だけで終わってしまいましたが、次回は「圧力とは?」的な話を見ていこうかな、と思っています。