逆浸透!

今回も早速、アンさんからいただいていたご質問を見ていこうと思います。


こちらは……ちょうど、↓の、真水について触れていた記事にいただいていたものですね。

con-cats.hatenablog.com

早速参りましょう。

 

H2Oが水であることは間違いないけれど、水といっても H2Oであるとは限らないということですかね?その考え方だと。


「何かが溶け込んでいても関係ねぇ、H2OはそのままH2Oなんだ」

ということは、

「そのグラスに水が入ってる」と言っても、もしかしたら食塩が混入しているしょっぱい水という可能性もあるということですよね?


んなアホな。笑


と言いたいところですが…これ、私が思っているところの“水”に何かが混入してる場合、例えば食塩水だとすると、 H2O+NaClになって、やっぱり H2Oは“水”っていうことになるんじゃないんですか??

食塩水以外の場合でも、水に何かが混入しているということは、「水と何か」という考え方になる?


⇒こちら、久々に見直してみたら「どういう話だったんだ…?」と一瞬謎に思えたんですけれども、これは、「真水でない水はH2Oではない…ってコト!? そうなると、それは最早水じゃなくない?」という↑の記事でいただいていたご質問への回答から派生していた話だった感じですね。


改めて、とにかく小さすぎて目に見えないため最終的には自分なりにイメージを持つしかなく、中々にややこしく難しいところではあるのですが、とりあえず最初の「水といっても H2Oであるとは限らないということですかね?」については、これはやっぱり、「水は、H2Oという分子の集まりです」というのが答になるかなぁ、という気がします。


もちろん、氷という固体になったり、一番一般的な水といえる液体だったり、高温では目に見えない水蒸気になったり(改めて、沸騰しているやかんから見える湯気は、あれは蒸発した水蒸気が冷やされて液体に戻った、あくまで液体の水なんですね。水蒸気は目に見えません)…と、その形を変えることはあれど、結局は水素原子2つと酸素原子1つが電子を2つ共有してつながった、H2Oという分子そのものが水だし、水はH2Oという分子でしかない…といえる感に思います。

 

アンさんがどのようなイメージをお持ちになられているかが完璧には推測できないものの、もしかしたら恐らく、例えば赤い絵の具と青い絵の具を混ぜたら、もう完全にそのどちらでもない「紫の絵の具」になってしまう…というのと似たイメージを持たれていたのかもしれませんね。

要は、水に食塩を混ぜたら、ちょうど「赤と青を混ぜたら紫の絵の具が生まれる」のと同じように、もういわば完全に元とは別の「食塩水」という全然違う物質になる、みたいな感じでしょうか……


ところが水と食塩の場合は全くそうではなく、水と食塩を混ぜたら、まぁ「食塩水」にはなるわけですけど、分子レベルで見たら、そのコップの中には「大量の水分子」と「溶かした分だけ存在するナトリウムイオンと塩化物イオン」が存在している形になり、元の水分子は普通に元のまま存在しているのです。


「食塩付き水分子」みたいな別物に変形するわけではないってことですね。

 

とはいえ、そんなこと言ったら絵の具も、実は分子レベルだと別に「紫の絵の具」になっているわけではなく、「赤と青が混ざった結果、人間の目には紫に見えるようになっただけであり、元の絵の具はそのまんま存在している」ともいえるんですけど…

(その辺に関しては、以前光の話をしていたこの辺の記事で見ていました↓)

con-cats.hatenablog.com
…まぁ、あくまでイメージとしての話ですね。


塩を混ぜても、砂糖を混ぜても、醤油を混ぜても、水分子は変わらず水分子のまんまで、水の中に不純物が大量に混じってくるだけ(=水中に、水分子と一緒に存在しているだけ)だといえましょう。


というわけで、後半の疑問点はまさにアンさんのお考えになられた通りで、水に何かが混入しているということは、「水と何かが共存ている」と考えれば良いだけの話になっているという感じに思います。

 

その前段の「『そのグラスに水が入ってる』と言っても、もしかしたら食塩が混入しているしょっぱい水という可能性もあるということですよね?」という部分については、これは単に日本語の問題にすぎないといいますか、普通は、明らかに感じ取ることができるぐらいに何かが溶け込んだ水は単なる「水」とは呼ばず、「塩水」だったり「砂糖水」だったりと呼ぶだけであり、ドッキリのいたずらでもない限り「グラスに水が入ってるよ」といって実際は食塩水が入っているなんてことはないように思いますけど、改めてそれは単なる呼び名にすぎず、実際は人間が何と呼ぼうと、「水分子と、イオンに分かれた塩化ナトリウムが存在している」という事実には変わりありません。

 

結局、何かが溶け込んだら「真水ではなくなる」であり、「水ではなくなる」というわけでは決してない、というのがポイントだったかもしれませんね。

 

…が、絵の具の例と絡めて考えてみると、先ほどから「塩化ナトリウムの各イオンと水分子はそれぞれ独立して存在している」と書いてはいるものの、実際一度水に溶けてイオンに分離した塩化ナトリウムを、何か凄いピンセットとかを使ってイオン同士をキャッチして固体の食塩に戻して水中から引っ張り出す…みたいなことは、極めて難しいです。


「戻せないなら、紫の絵の具みたいに、もう混ざって別の物質に変わったって考えるのと何が違うのさ?」と疑問に思われるかもしれませんが、これはやっぱり、水中から食塩を引っ張り出すことは不可能レベルに難しいんですけど、逆に、ちょうどこないだの記事(↓)でも似たようなことに触れていましたが、「水を蒸発させて、イオンを溶かしているものを強制退場させることで、塩だけ残す」ということは容易であり、そう考えるとやはりこいつらは「ただ一緒にいるだけ」であり、必ずしも別の物質に変わってしまったわけではないことはご理解いただけるように思います。

con-cats.hatenablog.com

ただこれ、「水の蒸発というズル技を使わず、水の中から食塩を取り出すのって実際何か方法はないかな?」と考えてみたんですけど、イオンに分かれているだけに電気の力で戻そうにも、ナトリウムのイオン化傾向は極めて高いこともあってこいつを塩化ナトリウムに戻すのは困難を極めますし、マジで案外ないんですよね。


ただ、「食塩を取り出す」ことは難しいものの、食塩が混ざった水を、「かなり食塩の少なくなった水」と「かなり食塩の濃くなった水」とに分けることは、非常に容易に行うことが可能となっています。


実際産業的には非常に多用されている手法で、それが記事タイトルにも挙げました、逆浸透

 

水の精製といえば、実際の研究現場で非常にお世話になっております、Millipore(ミリポア)という企業があるのですが、今では色んな企業と提携しており、日本だと「メルク・ミリポア」のようですけど、水の王者ミリポアの解説記事から、画像をお借りして説明してみましょう。

 

(ちなみにこのミリポア社の作る、現状最も完全なる真水に近いグレードの水といえる「MilliQ水(ミリQ水)」というのも、生命科学系では非常に多用されています。

 これはミリポア社の商品名ですが、あまりにもスタンダードすぎて、絆創膏を「バンドエイド」と呼ぶように、超純水のことはしばしば「ミリQ」と呼ばれます。

…絶対以前どこかの記事で触れたことがあったと思ったんですが、検索してもヒットしなかったので、このブログで触れたことはなかったみたいですね…)

 

https://www.merckmillipore.com/JP/ja/20140903_032618?bd=1より

うーん、この話をするためには、高校化学で学ぶ「浸透圧」について知る必要があるんですけど、またちょっと時間がないのでまぁごく簡単な説明に留めさせていただきますと……


まず、図の一番上に名前が示されているように、世の中には「液体の水分子だけ通して、そこに溶けている不純物の分子やイオンは通さない」という性質の、半透膜と呼ばれるものが存在します。


で、図のようなU字管に、半透膜で間を仕切って、不純物濃度の異なる溶液(分かりやすく食塩水としましょう)を入れてやります。

↑の図の場合、左側に薄い食塩水、右側に濃い食塩水を入れるという感じですね。

 

すると、「水は半透膜を素通りできるけれど塩化ナトリウムの各イオンは通れない」という性質から、非常に面白いことに、左側の薄い食塩水から右側の濃い食塩水に向かって、水分子が移動していくのです!

(当然、右側の水面が上がっていく。)


どの程度移動するかというと、もちろん「同じ濃度になるまで」なので、例えば左が1%食塩水、右が5%食塩水だったら、水分子が移動することで左が濃くなり、右が薄くなっていくことで、最後両方が同じ3%食塩水になった時点で止まります。


本当に不思議なんですけど、実際に図の真ん中のように左側の水面が低く、右側の水面が高い状況で落ち着くんですね!


これはもう、「世の中はそう出来ているから」としかいえない話で、理屈も何もないですけど、いずれにせよ本当にこうなります。


で、この水面の高さの違いを「浸透圧」と呼んでいるんですね。

(水というものは、水面までの高さに応じて、底に圧力としてのしかかります(まぁ水に限らず何でもそうですけど)。

 だから、海底の水圧はとんでもなく高く、深海魚をいきなり海面付近へ持っていくと、普段よりも圧倒的に水圧が小さすぎて、深海魚の中には破裂してしまうやつもいるというのは有名な話だと思います。)


で、ここからが本題で、何もしなければ図真ん中のように、濃度差に応じた浸透圧が存在して落ち着くわけですけど、ここで、人間が無理やり、ピストンとかを使って右側の水を押してやるとどうなるでしょう?


もちろん何もしないと水はガンガン右側に移動してくるので、相当強い力で押す必要があるわけですけど、自然の浸透圧以上の力で押し続けてやると、いうまでもなく、右側に存在する水分子は強制的に左側に押しやられるんですね。


その結果、元々濃かった右側は水が減ってさらに濃く、一方元々薄かった左側はより薄く、すなわち真水に近いピュアな水が得られると、そういう話になります。


この、濃度勾配に逆らった強制的な水の移動を「逆浸透」と呼んでおり、英語ではReverse Osmosisで、「RO」などと略されます(日本語でもそう略されることが多いです)。


生命科学の実験室には、ほとんどの場合、水道水の蛇口の他に、このRO水を取り出せる蛇口も存在しており、簡易的なピュアな水が利用可能になっていまして、僕も毎日RO水を実験に使っています。

(図を見れば分かりますが、不純物自体が消えてなくなるわけではなく、あくまで「薄めている」だけなので、ミリQのような超純水に比べると、精製度はかなり低い水になる感じですね。

 とはいえ、水道水よりは遥かに不純物濃度が小さくなっています。)


で、「食塩を取り出す」という話に戻ると、逆浸透を使えば、水を蒸発させることなくより濃い食塩水を作ることができ(精製水を作りたい場合、それは逆に要らないゴミの排水といえるわけですけど)、まぁ流石に溶解度を超えて食塩水を濃縮して、固体の塩化ナトリウムを取り出すというのは尋常じゃなく強い圧力が必要&半透膜が多分すぐ目詰まりしてダメになってしまうと思われるので、これを使っても「食塩が混ざった水から、塩を取り出す」のは困難を極めるように思いますけど、一応、一度溶けたものの濃度を、水の量を変えることなくいじることはできなくはない、という豆知識でした。


なお、上記ミリポア記事によると、水道水の精製に使われる逆浸透圧は大体1 MPa(メガパスカル)前後とのことで、大気圧は大体1 hPa(ヘクトパスカル)ですから、メガ=100万、ヘクト=100なので、水道水というそれなりに綺麗な水をより綺麗に精製するためには、地上の気圧の1万倍もの圧力をかけないといけないということで、相当ですね。


という所で、今回も適当な脱線話に逸れた結果、ちょうどいい分量となりました。

また次回、続きのご質問を見ていこうと思います。

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