乳化だよ~

おもむろに脱線していた洗剤ネタ、せっかくなのでこれに関する、分子的なメカニズム的な話の方にもちょろっと逸れてみようかなと思います。

 

セッケンや洗剤で手や皿を洗うとキレイになるというのは幼稚園児でも知ってる話なわけですが、果たしてこれは何がどうなってキレイになるのでしょうか…?


もちろん様々な要因が複合的に絡んで洗浄効果を発揮するわけですけど(例えば今回挙げない点でいえば、pHがアルカリ性側に傾くのは、有機物の分解に有効という感じですね)、一番重要なポイントを挙げるとすれば、やはりこれも結局、分子の構造を見るのが一番だといえましょう。

 

こないだ「イモムシみたいでキモいだけですし、以前触れたことがあった気もするので、構造モデルの画像は省略しましょう」と書いていたんですが、どうやらSDSの構造は使ったことがなかったみたいですし、代表的な洗剤であるSDSの分子構造を、ウィッキー先生から結局お借りさせていただくといたしましょう(笑)。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/ラウリル硫酸ナトリウムより

そう、以前見ていた「楽しい有機化学講座」の脂質関連の話なんかでちょろっと触れたことがあった気もするのですが、石鹸・洗剤として使われる分子というのはこういう、炭素鎖(黒=炭素と、白=水素の、長く伸びた棒ですね)の端っこに酸素やナトリウムが電気の+/-でくっついているもの(=イオン結合ってやつですね)であり…

末端のイオンの部分は電気の偏りがあるもので、そういう物質は大変水に溶けやすく(なぜなら、水分子そのものも、HとOとで電気的な偏りがあるから、プラス(H)はマイナスと、マイナス(O)はプラスの物質となじみやすいのです…的な話も、こないだのイオンネタでちょろっと書いていました)…

一方、炭化水素の鎖はそういった電気の偏りが発生しないため、水には決して溶けない(というのも言いすぎですが、極めて溶けにくい)性質を有している感じになります。


そう、世の中にある「油」ってのは、実はほとんどの場合、こういう炭素と水素の鎖がつながってできたものなんですね(鎖の長さや、途中に二重結合があるかどうか、みたいなのが違う程度)。


どなたもご存知、水と油というのは混じり合わずに分離するわけですが、その理由は分子内の電気勾配にあり、食塩みたいなイオン結合で生じた物質は水に溶けると陽イオンと陰イオンに分かれる形で水になじむわけですけど、油というのはそういう電気の偏り(=専門用語で「極性」)がないため、水になじむことができないのです。

(その辺の話も、こないだのイオンネタで触れていた感じでした↓)

con-cats.hatenablog.com

 

で、翻って「洗剤」として使われるSDSなどの界面活性剤ですが、こいつは上述の通り、分子内に水に溶けやすい極性部(ナトリウムイオン)と、水に溶けにくい非極性部(炭素の鎖)とが共存しており、「水にも親しみやすいし、油にも親しみやすい」という二面性を持っている形になっているんですね!

 

そんなわけで、例えば洗剤を水の中に入れますと、水と仲良しの部分は当然水と接したくなるわけですが、油と仲良しの部分は水とは触れたくない形になりますから、分子同士が上手いことくっついて、

「外側が水と仲良しの部分だけが顔を出す形で、油と仲良しの鎖部は完全に囲って隠す」

…という構造が自動的にできあがるわけです。


文字だけだと分かりにくいですが、検索したらこの辺の話をわかりやすく解説してくれていた記事が、日本化粧品工業会の解説サイトに見つかりました(↓)。

 

www.jcia.org

画像を一部お借りさせていただきながら説明してみますと……

 

まず、先ほどのイモムシ的なSDSの分子構造は、更に模式的に描くとこんな感じで表せるわけですね。

https://www.jcia.org/user/public/knowledge/explain/surfactantより


で、こいつらは、先ほど書いていた通り、分子同士が協力して、「水と仲良しの部分だけを外側に」出す構造を作ることができるわけです。


(もちろん、それは誰が指示するでもなく自動的に形成されるわけですが、この構造を作るには数が必要なので、↓の画像にもその旨の記述がある通り、ある程度以上の濃度がないと形成されないものではある感じですね。)

 

https://www.jcia.org/user/public/knowledge/explain/surfactantより

このセッケン分子が集まってできた構造を「ミセル」と呼んでおり、以前有機化学ネタを見ていた時に触れていたことがあったと思いきや検索してもなかったので初登場だったかもしれませんが、この「ミセル」が、油汚れを取り除く最強の刺客だった、ってことなんですね!

(ちなみに画像ではわかりやすく断面図になってますけど、現実的には当然、360°全体に親水部が露出している形(=親油部の鎖は、完全に中に隠されている形)で、まさに球体になってる感じです。)

 

ようやく本題ですが、このミセルを形成する際、油汚れが存在しますと、「油と仲良し」の部分は文字通り油分となじむため、油汚れの分子をキャッチすることができ、取り囲むようにしてミセルを形成できるようになっています。

https://www.jcia.org/user/public/knowledge/explain/surfactantより

この構造を取れればしめたもので、元々食器や手に頑固にこびりついて離れなかった油汚れは、このミセル先生に取り込まれた結果、元の食器表面からは離れ(=今や水に溶ける物質になっているため)、大量に流す水とともにサヨナラ~と排水溝の彼方へと流れ去っていくわけで、そんな仕組みで洗剤を使うと油汚れがキレイに落ちる、というカラクリになっていたのでした!

 

ちなみに、このように、普段は決して混ざり合わない水と油が、SDSのような界面活性剤の力を借りて混ざり合うことを「乳化」と呼んでいます。


牛乳は、まぁ界面活性剤=洗剤が混入しているわけではないですけど、同じような機能をもつタンパク質が界面活性剤的に機能してああやって白濁しているので、個人的には洗剤の方がイメージ湧きやすいですけど、分子レベルでは同様の現象なので、おいしそうな「乳化」などという用語で呼ばれている感じですね。

 

ちなみにこの「乳化」という用語、個別指導塾のアルバイトで中高生を教えていたときに、めっちゃ話の面白い高2の少年がいたんですけど、有機化学のこの話を教えていた際、「これが乳化って呼ばれる現象だね、まぁ水と油の話であんまり『乳』っぽくないし、聞いたこともないと思うけど」と言ったら「いや、聞いたことあるっすよ」と言うので「え?どこで?」と尋ねてみたら、

「子供の頃、お祭りのおっちゃんが、○○の液(詳しくは忘れましたがシャボン玉の溶液とか、あるいは屋台の鉄板を洗浄する石鹸水とかだったかもしれません)をかき混ぜながら、スゲェ笑顔で『乳化だよ~』って教えてくれたんす」

…とのことで、「おっちゃん、結構高級なこと子供に教えてくれるやん(笑)」と笑えたとともに、「よくそんな昔の祭りの小さなこと覚えとるな、やっぱり面白い子はそういう細かいエピソード覚えるの得意なんだろうなぁ~」と感心した覚えがありますねぇ~。

 

なお、画像をお借りしたのが化粧品に関する記事だったことからも分かる通り、乳化は洗剤での洗浄のみならず、化粧品なんかでも重要な話になる感じですね。


その辺もうちょい詳しく触れてみたかった&他の関連脱線ネタにも触れようと思っていたのですが、またしても時間切れとなってしまったため、しつこく次回へ持ち越して適当に記事を見繕っていこうかなと思います。

洗浄ネタ、次回へと続く…。

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