ここ最近は脱線も続いていた「basic」に端を発する一連のシリーズですが(英語スラングで「つまんねぇヤツ」なのが元ネタで、普通の英語で「塩基性=アルカリ性」からの派生ネタ)、以前の記事にいただいていたご質問の続きに参りましょう。
毎度おなじみ、ご紹介させていただくコメントはアンさんよりいただいたものになります。
そこに触れておきたかったんすよ、と思える、痒い所に手の届くナイスポイント、毎度本当に心より深謝の極みです!
食塩水のような「水と何か」のお話しですが、最早自分の中でも何を思って質問したのかすら曖昧な感じになっていますが…
「水は、H2Oという分子の集まりです」というのは、まぁわかるっちゃわかるんですけど、感覚として“水”は水であって、食塩水は水ではないんと違いますのん?と言いたい感じですよね、やっぱり笑
まぁ、『何かが溶け込んだら「真水ではなくなる」であり、「水ではなくなる」というわけでは決してない』ということは、一応わかりました。
⇒こちらは、この辺(↓)の、真水について書いていた辺りの記事へのコメントですね。
実際、お茶っ葉を淹れて緑や茶色になった液体を「水」と呼ぶ人はいないですし、コーヒーやココアや牛乳から「水」なんてもう全く想像できないぐらい色も味も何もかも違いますから、日常生活では「何かが溶けた水」を「水」と呼ぶのに違和感を覚えるのもむべなるかな、って感じかもしれません。
しかしやはり化学的には、食塩水なんかでも、全くもって水分子は水分子としてそのまま存在しているし、食塩は単に水の中でイオンに分かれているだけの、いわゆる「混合物」でしかないわけですね。
牛乳だって、多量のタンパク質・脂質・糖質…などが溶け込んだ水でしかなく、遠心分離や濾過や逆浸透などを駆使すれば、溶解物の減った、かなり水に近いものに戻すことも可能なわけです。
(とはいえ、牛乳ほど大量の不純物(まぁ人間的には栄養ですが)を含んだ液体を完全に真水に戻すのは困難を極めると思いますが、コスト度外視で何でもしていいなら、超純水まで戻すことも可能だと思います。
…もちろん、一番簡単なのは蒸留することだと思いますけど、「水を蒸発させずに、液体のまま、とにかくキレイに!」というオーダーでも、ほぼ完全な真水状態にまでもっていくのさえ十分可能といえましょう。
これに関しては、ちょうどご質問の続き、次の段落でお尋ねになられていたことと関連するので、また後ほど触れてみようと思います。)
ちなみに、水のキレイさは、イオン性物質の有無を示す「比抵抗」(単位:MΩ・cm)と、有機物の量を表す「全有機炭素」(「TOC(Total Organic Carbon)」の方がよく使われますが)(単位:ppmやppb)とで表されることが多いですけど…
比抵抗はズバリ、「電気の通しやすさ」(というより、抵抗が大きいほど電気は流れないということなので、「通しにくさ」の方が正確ですけどね)を意味するもので、まさにここ最近の記事で何度も見ていたように、イオンは電離してプラス・マイナスに帯電した粒子に分かれますから、この比抵抗が大きいほど、水に含まれるイオンが少なくてキレイだと言え…
一方のTOCは、まぁこれはそのまんま、「水の中に何%の有機物が含まれるか」というのと全く同じ考えになりますけど、バリクソキレイな水を論じるときに「%」などという単位では数字が小さくなりすぎて不便なので、もっと小さい数字が扱いやすくなるように、別の単位を用いて表されることがほとんどです。
先ほど書いたppmは「parts per million」で、ppbは「part per billion」のことですけど、そもそも「%」って何なのかというと、これは英語で「per cent」……「cent」は「100」のことですから、そういえば小学校でそう習った気もする「百分率」というもので、「100あたりの何とか」という意味なんですね。
今考えている「水に溶けたものの重さ」の話であれば、「水溶液100グラムあたりの有機物の重さ」を意味することになり…
例えば100グラムの水溶液の中に1グラムの有機物が溶けていたとしたら、これは当然、1%濃度になるわけですけど、数式にすると、「溶質(g) / 溶液 (g) × 100」 で、「1/100 × 100=1%」なわけですが、この最後にかける「100」が、まさに百分率=パーセントたる理由だといえましょう。
まぁそれはともかく、先ほど書いた通り%は「水溶液100グラムあたりの」って意味であり、超キレイな水を論じるうえでは規模がデカすぎて話になりませんから、この業界では「百万分率=ppm」や「十億分率=ppb」が使われているんですね(ミリオン=100万、ビリオン=10億)。
要は、有機物が1%含まれている濃度の水は、「100グラムの水溶液に1グラム」の割合で有機物が混ざってるってことですけど、例えば1 ppm含まれるものなら、「100万グラム=1000キログラム=1トンの水溶液に、1グラム」の割合で有機物が含まれている、となるだけの話なわけです。
何か無駄に長くなりましたが、果たしてこの世界で超キレイな水と呼ばれる、「超純水」(逆浸透について触れていた記事(↓)で、名前だけは出したことがありましたけど…
con-cats.hatenablog.com
…絆創膏を「バンドエイド」と呼んだり(まぁこれは地域差もあるので、議論を呼ぶかもしれないものの(笑))、ラップを「サランラップ」と呼んだりのように、代表的な企業の製品名で「ミリQ」と呼ばれますが)
…と、脱線が長くなったので仕切り直すと、超純水と呼ばれるのはどれぐらいのグレードの水なのかといいますと、もちろんTOCについては「0」、全く1分子も水の中に存在しないのが当然理想なんですが、現実世界でそれはほぼ不可能(普通の空間に置いておくだけで、空気中の物質が溶けみますし、そもそも技術的に本当に完全に分子レベルで全ての異物を取り除くのは困難に思います)なため、大体の基準が設けられており、検索したらアズワン社の提供する研究者向けの読み物記事(↓)に見やすい画像が掲載されていたので、画像をお借りさせていただきましょう。
まぁ画像だと具体的な数字は分かりにくいですが、記事本文によると、一般的に「超純水」と呼ばれるものは、「比抵抗値が18.2 MΩ・cm、TOCが50 ppb以下の水」をそう呼ぶということで、まぁ電気の通りにくさである比抵抗は数字を見てもよぉ分かりませんけれども(ただ、ミリQをよく使う我々には、大分馴染みのある数字です。理論上、ほぼ純粋な水の比抵抗は18.2メガオームなんですね)、有機物の量は50 ppb以下、つまり、
「10億グラムの水=100万キログラムの水=1000トンの水=小学校の25メートルプールが大体50万リットルぐらいと仮定して、1000トン=100万リットル=プール2杯分の水に、50グラム以下の有機物」
…ということで、あれ、そう考えると、「プール2杯に50グラムの汚物が溶け込んでる」水でも「超純水」と呼ばれてるってことになりますけど、これは結構汚ぇっすね(笑)
まぁそれは大体の基準ですし、天下のミリポア社のスペックシート(↓)を見てみると…
www.emdmillipore.com
ミリQ水は、2 ppb未満であることが保証されているようで、先ほどの例でいうと25メートルプール2面満タンの水に、1-2グラム程度の有機物しか混入していないということになりますから、これはまぁ、めちゃくちゃキレイといえそうですね!
…ってまぁ、ゆーて混入有機物なんて目に見えませんし、その数字がキレイなのかどうかぶっちゃけよぉ分かんないですけど(笑)、先ほどのアズワン記事の画像を参考にすると……と思ったら、縦軸が対数のグラフで、「一般水」のグループはかなり広い範囲にわたっていたため具体的な数字が分からなかったことから、軽く検索してみた所…
…ヒットしてきた、上記CRC食品環境衛生研究所の資料によると、水道法に、水道水のTOCは「5mg/L以下」であることが定められているとのことです。
まぁ基準値いっぱいではないでしょうから、いい方に見繕ってあげて水道水のTOCは1 mg/Lだとすると…
- 1リットル=1000グラムの水に、1ミリグラム
⇒100万グラムの水に、1グラム
⇒10億グラムの水に、1000グラム
…ということから、水道水は大体、1000 ppbぐらいだったということで、何気にアズワンの画像で「そのぐらいかな」と思っていたその通りの値でした(笑)。
それはともかく、プールで考えると、水道水の場合、25メートルプール2面分に、なんと1 kgもの有機物が溶け込んでいるという計算になりますから、それと比べると、1グラム程度しか混入していないミリQ水がどんだけ尋常じゃなくキレイかは容易に納得いくものだといえそうです。
(単純に、水道水より1000倍キレイ、って話ですが、まぁ「キレイさが1000倍って何だよ」って思えますし、その表記も微妙でしょうか(笑))
ちなみに、興味本位で調べてみたらトップでヒットしてきたJ-CASTニュース (↓) によると…
なんと、20代女性の半数がプールでお小水を垂れ流した経験があるということで、「まま、その母集団ならギリ許せるわ」と思えるものの(笑)、40-50代男性は過半数超えが垂れ流しスイマーだそうで、こっちは死んでほしいですけど(笑)、ともかくプールの水のTOCは、1000 ppbどころじゃなく、多分その100倍はゆうに下らないのではないかと思えるぐらい、スーパー爆上げでしょうね…!
(まぁ、尿に限らず、人の体がどっぷり浸かってる時点で、尋常じゃない量の有機物が溶け込んでるわけですけど、そういうことを考えると気持ち悪くなるのでやめましょう(笑)
塩素でちゃんと消毒されているので、問題ありません…!)
…と、そんな所で、ご質問の方はあまり触れられず、唐突に「キレイな水」の話に脱線していましたが(最後ゲボクソ汚い話になりましたけど(笑))、具体的な数字で考えたこともなかったので、中々面白かったです。
次回はまたご質問の続きに戻っていこうと思っています。