青い花・英語版で気になった所を挙げていこう:3巻その2

早速3巻後半に参りましょう。

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(3) p. 118:"UMIHANATEI"(「海花亭」)

実はこのページで描かれている「のぼり」の旗、日本語版では「海花亭」ではなく、前のページで誰か(あきら?)が言っていた「RAW SHIRASU」(生しらす)という文字が書かれているんだ。

A. Googleで軽く検索してみると、「海花亭」というのは江ノ島にあるお店の名前ってことでいいのかな?もしかしたら、江ノ島に行ったら、しらすが食べられるお店があると知ってほしい、という翻訳者の思いがあったのかもしれないね。

個人的には、これは必ずしも間違いだとは思わない。むしろ、英語化に際しての「あえて」の判断として妥当なものだと思う:"raw shirasu"あるいは"raw shirasu on rice"(生しらす丼)という表記は、日本食レストランで食事をしたことのある英語圏の読者にとっては、いささか違和感がある。アメリカにある実際の日本食レストランでは、メニューに"shirasu-don"のような言葉が使われているはずだからだ。

しかし、何らかの理由で、翻訳者は"shirasu-don"を使いたくなかった。恐らく、想定読者の中には、「しらす丼」が何かを知らない人もいると思われるからであろうか。

そこで、会話の台詞では"raw shirasu on rice"とし、旗は店名に置き換えたのだろう。(しかし、なぜ、"raw shirasu on rice"ではなく、"raw sardines on rice"にしなかったのだろうか?もしかしたら、翻訳の際に少しでも日本の「味」を残したかったのかもしれないね。)


⇒(追加メッセージ:)
あぁなるほど、でも実は、次のページで「海花亭」の看板自体は出てくるし、この旗で店名を見せる必要はないのでは?…とも思えるね。

むしろ、前のページで、"I WANNA EAT RAW SHIRASU ON RICE."(「生しらす丼が食べたい」)とあって、続くこのページで"THERE!"(「ホラ」) といってノボリが表示される場面につながっているということもあるし、このノボリは"RAW SHIRASU"という表記の方がいいんじゃないかなぁ、と思ったり。

⇒(Frankさんからの、追加メッセージへの返信:)おっしゃることはよく分かるよ。

でも、アメリカのネイティブスピーカーは、"RAW SHIRASU"という看板を見たら、やっぱり変だと思う人が多いように思う。

アメリカでは、レストランで"Raw"(「生」)という言葉を看板に出すのは、"Raw Bar"、すなわち生牡蠣を出す店である場合だけだと思う。

"Shirasu"とだけ書かれてあるなら、それはいいと思うけどね。


⇒(再追加メッセージ:)なるほどね。そんな文化の違いがあったとは、大変興味深い。

あともしかしたら、キャラたちが「海花亭」というレストランの名前から「生しらす」を連想したと仮定しても一応理解はできるし、会話の流れがおかしくないといえるかもしんないね(でもやっぱり、普通は店名ではなく、実際の名前を見て食べ物を思い出すと思うけど、ハハハ)。

 

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(3) p. 152:"MERRY X'MAS"

XMASをX'MASと「'」付きで表現するのは日本だけの伝統で、英語ではこれは正しくない表記だという話を聞いたことがある。そうなんかい?

A. その通り。英語圏のネイティブは必ずXmasか(場合によっては)X-masという表記を使うよ。

 

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(3) p. 159:"YOU'LL FORGET ALL ABOUT HER AFTER GRADUATION."(「卒業したら彼女のことを忘れてしまうわ」)

実は本編の翻訳中の訳注でも既に指摘していたんだけど、これは「あなたは私のことを忘れてしまう」(日本語では、いつものように主語や目的語がはっきり述べられてはいないんだけれど、個人的には、これは「姿子のことを」ではなく、織江と日向子自身のことを述べているんだと思う)ではないだろうか。

あ、読み進めていたらちょうど今、別のヒントを見つけた。

p. 171で、同じ文が使われているこの部分、英語版でもこちらの方は"YOU'LL FORGET ME"に変更されているね。

A. 私も同意見だ。私の素人目には、p. 159の日本語の台詞は、p. 171の台詞と同一に見える。

書体からして、p. 171の文章は明らかに日向子が過去の会話を思い出していることを意味している。つまり、p. 171は、日向子がp. 159の会話を思い出していることを意味し、どちらの場合も同じ訳語を使うべきということになるね。

p. 171では、河久保が昔の日向子の言葉を繰り返していることを暗示している:河久保は、かつて日向子が自分で言ったことを、日向子に言っているわけだ。そして、2つの状況の他の類似性を鑑みると、これは日向子が織江に言ったということであり、日向子は「あなた(織江)は私(日向子)のことを忘れてしまう」ということを意図しているのだろう。

ということは、159ページは "You'll forget all about me. "と訳すべきだといえるね。

読者にとって意味が変わってしまっていると思うので、もし第2版を作るときは、このことを「付録:誤植」の章に加えようと思う。


⇒(追加メッセージ:)
まさにそうだね。

ちなみに(英語版だと違うものになっている)p. 159とp. 171の台詞は、日本語の台詞では、完全一致だよ。

だからこれはやっぱり翻訳ミスの一種だね。

⇒(追加の追加メッセージ:)…と、今、もらったメッセージをブログ用に翻訳していて気付いたけど、その解釈はちょっとおかしいね。

もしかしたら英語だと変な流れに見えちゃうのかもしれないけど、日本語だと、p. 159の会話は、こういう流れ(吹き出しの形では明示されていないけれど、ほぼ100%確実に断言可能):

織江「卒業したら(日向子さんは私のことを)きっと忘れてしまうわ」(悲しくてシクシク泣いている)

日向子「そんなこと言わないで」

(泣き続ける織江、考えを巡らす日向子)

→次ページ

日向子「あなたみたいな(大げさに悲しむ)人が、案外あっさりと(人のことを)忘れるものよ」

織江「ひどい!」

…なので、例の「忘れてしまう」の台詞は、日向子ではなく、織江による発言、ってことだね。


⇒(Frankさんからの返信:)OK、それは納得いく流れだね、ありがとう。

これも、「付録:誤植」の章の新しい候補の一つだ。

 

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(3) p. 162:"I WONDER IF SHE WAS MY CLASSMATE? / YES, I THINK SHE WAS."(「お姉さんは私のクラスメイトだったのかしら?」「そうだと思います」)

こちらも、原文の日本語台詞とは大分違う会話になっている。

原文だと、"In what year did she graduate?"(「何期生の方かしら」)"Well, maybe..."(「ええと確か…」)というやり取りだよ。

でもまぁ、大筋としては、全然意味のある違いではないけどね。

A. 個人的には、訳者は、この場合実際日本語の文章の意図をちゃんと捉えているように思う。

なぜ、日向子は "In what year did she graduate?"と聞いたのか?それは恐らく、日向子は、姿子の卒業年度と自分(日向子)の卒業年度を比較したかったから、この質問をしたのだと思う。そうすることで、日向子は、自分の位置付けを判断することができるわけだ:先輩 (senpai)、後輩 (kohai)、同級生 (same-year classmate)などの。

英語のネイティブスピーカーは、この「先輩/後輩」という考え方にあまり慣れていないのである。(実際、私の考察本では、そこが重要なポイントになっている。)ネイティブは、日向子と姿子が同じ時期に高校にいたのか、つまり同級生なのか、そうでないのかにしか興味がないといえよう。

その意味で、英語だと、"I wonder if she was my classmate?"の方が、より自然な質問の仕方となるのである。(ここでいう"classmate"は、必ずしも「同じ学年」という意味ではない。)この質問を別の形の英語で表現するなら、"I wonder if we went to school together?"(「同じ時に学校に通っていた人かしら?」)となる。


⇒(追加メッセージ:)
そうだね、言語と文化の違いは理解できるし、意味がほぼ同じなら、訳は自然である方がいいわね。

ただ一つ気になるのは、日向子と姿子は実際はクラスメイトではなかったので、和佐は("Yes, I think she was."ではなく)"She may not, but..."(「違ったかもしれないけど…」)みたいな答え方にした方が良かったのではないかと……って、あ、ちょっと待った!

あぁ、そこがいただいた回答のポイントで、"classmate"には「同じ時期に学校に通っていた」という意味もあるってことなのか!それなら全然問題ないね!!

実に面白いね。"classmate"という単語にそんなイメージは全くなかったよ。

⇒(追加メッセージへのFrankさんからの回答:)うーむ、改めて考えると、"classmate"はここで使うのにベストなワードではなかったね。なぜなら、英語の"classmate"は、通常は、全く同じクラスに在籍していることを意味するからだ。

より良いワードは "schoolmate"で、これは実際の英単語ではあるが、あまり一般的に使われる言葉ではない。

だから、前回、"Did you go to school together?"とか、"Were you at school together?"のような文を提案していたわけだね。


⇒(追加の追加メッセージ:)あぁ、大変明快だし、説得力があるね。

ところで、関連してふと思い出したんだけど、今いる大学のビルの中の一つに、「Class of '64」みたいな名前の、恐らく1964年に卒業した学生の寄付によって設立されたと思われる教室(大ホール・講堂)があるんだ。

あと、そこから続く廊下には、「Class of 'XX」の卒業記念写真がズラッと貼ってあってたくさん見かけるので(もちろん、今も毎年増え続けている)、アメリカでも「卒業年次」は必ずしも完全に無意味なものではなく、言及されることももちろんあるってこっちゃね。

でも、件の日向子・和佐のやり取りみたいな例の場合、自然な会話の中で卒業年に言及することは恐らくないような気はするね。


⇒(さらなる回答:)その通り。同窓会がある、クラスで寄付をする、同窓会誌にクラスのニュースが載るなど、「20xx年のクラス」であることを口にすることは、かなり一般的なことである。

そして後半の話も、まさにその通りだね。普段の日常会話でクラス年が言及されることはあまりない(ないわけではない)ように思う。

「Xと私は『the class of 20YY』だった」ではなく、"I was at school with X"(「私はXと一緒の学校だった」)と言う人の方が多いであろう。


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(3) p. 165: "HEY, TEACH!"(「せーんせ」)

一般的な英語の質問。

恐らくご存知のように、我々日本人は先生のことを"teacher (sensei)"と呼ぶ(時には苗字を伴うこともあるけど(「山科先生」のように)、「先生」だけの場合もある)。

でも英語では、必ず「Mr. XX」や「Mrs. XX」という形で、「先生」に当たる言葉はないように思う(というか、そう習った)。

ってことで、ここで河久保が"TEACH!"と言ったのが驚きだった。

これは珍しいケースだよね?ちょっとフレンドリーすぎて、多くの場合、適切でないような感じ?

A. これはまさに、日本語から英語に翻訳するときに、本当に困る大きな問題だね。

おっしゃる通り、伝統的な英語には「sensei」に相当する汎用的な単語は存在しない。

しかし、職種によっては、それに相当する言葉があることもある。例えばスポーツの世界では、アメリカの選手がチームのコーチに対して「Coach」と呼ぶのはごく一般的なことである:"Coach, I'm ready to play"(「コーチ、プレーする準備はできています」)、"Let's talk to Coach about what we should do here"「ここで何をすべきか、コーチに相談しよう」など。

だから、日本のスポーツ漫画やアニメで「先生」が使われている場合、英訳では「Sensei」を「Coach」に置き換えるだけでいいんだね。これは「先生」と同じように、敬意を伴う呼び方である。


しかし、"Teach "は "Coach "と同じようには使わない。私が高校を卒業したのは大分昔だが、実際にアメリカの高校生が先生に「teach」と呼びかけることはあまりないと思う。まさにちょうどおっしゃられていたように、インフォーマルで、やや無礼な表現と見られるだろう。

一般的なアメリカの辞書では、「teach」は名詞としての掲載はないし、あっても俗語としてのみ載っている。

https://www.merriam-webster.com/dictionary/teach
https://www.ahdictionary.com/word/search.html?q=teach

そしてほぼ間違いなくそう感じる話なんだが、「teach」を名詞として使う習慣は、漫画やアニメの翻訳をしている和→英の翻訳者が発明したようなものであろうと思われる。その文脈以外ではほとんど全く見かけないからね。


個人的には、「sushi」「tsunami」「otaku」などが英単語として輸入されたように、英語でも「sensei」を日本語からの借用語として採用すればいいのではないかと思う。

アメリカの10代、20代の若者が使っている語彙の近似値として使えるurbandictionary.comのようなサイトを見れば、「sensei」や「senpai」などが掲載されている。

つまり、多くのアメリカ人は「tsundere」の意味を知っていて、アニメや漫画以外の文脈でも使っているのと同じなわけだ。

だから、"sensei "を使っても大丈夫だと思えるね。

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今回は、日米文化的な違いの話も多々あり、大変面白かったです。

最後はまた、この巻で見かけた面白いイディオムに触れて終わりとしましょう。


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青い花で学ぶ英語】

(3) p. 129:"pigged out"(グルメツアー)

あーちゃんがふみちゃんと、先輩と別れた事件の後、一緒にたくさん出かけたことを思い出して、"AND WE PIGGED OUT EVERYWHERE!"(※ぶっちゃけあんまりフォントの違いが分からないのですが、一応原文も太字で強調されているように見えます)(日本語原文:「途中からただのグルメツアーになってたもんね」)と笑い合う場面でのこのイディオム……面白いですね!

直訳すると「豚を外に出す」という感じですけど、「pig out」は「ガツガツ食べる」「食べ過ぎる」という感じで、文脈&everywhereという単語を伴って、ここでは「グルメツアーをしていた」的な意味になる感じですね。


ブタが大食い・肥満の象徴というのは、国を問わず近しいものがあるという所でしょうか。

しかし、実際の豚さんは、肥満だなんてとんでもなく、何気にモデルよりも体脂肪率の低いイケボ(イケてるボディ)だというのも有名な話です(検索してトップに出てきた記事↓)

ja.god21.net

all-guide.com
まぁ、「ブタ」という音の響きがもう、日本語の場合はなんだかデブチンな印象を伴っているのが可哀想な所な気もしますし(笑)、人肌っぽい色や、皮がダルダルになってそうなイメージ、そしてもちろん食用肉で頻繁に肉を目にすることからも、そういう偏見がついてしまったのかもしれませんね。

人間が家畜として太らせただけともいえるのに、何とも哀れブタさん…。

ビタミンB群を豊富に含む、優良な肉ともいわれますしね、そういえば僕は猪年という名のブタ年生まれということもあり、豚さんの悪口だけは本当に許せないんだブー。

(いやまぁそこまで豚シンパでも何でもないですけど(笑))


…と、話が逸れましたが、gourmetというフランス語由来の単語は英語にもありますが、この単語は日本語の「グルメ」ほどカジュアルではなく、「本当に素晴らしく格式高い料理」の意味で用いられることが多いと聞きますし、その意味で、あーちゃんが使うような文脈での英語としてはやはりpig outがベストだったという感じでしょうか。

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次回は4巻へと進みましょう。

英語版『放浪息子』5巻表紙、https://www.amazon.com/dp/1606996479より

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