アミノ酸について知ってみよう

前回、21世紀初頭にブームになっていたアミノ酸飲料に触れていましたが、おもむろに、アミノ酸について自分の持っている知識をひけらかしたくなって、居ても立ってもいられなくなってしまいました。

まぁ割と自分の専門に近い話ではあるので、記事の水増しとしてはまたとない良い題材ともいえましょう。

…といっても専門に「近い」だけで、僕はアミノ酸の専門家でも栄養学の専門家でもないのですが…。

まぁ逆に真の専門ではないからこそ、化学や生物学を学んだことのない中学生なんかにでも分かりやすいような話ができるのではないかと、無責任に未来の自分に期待したい所です。

 

まず、アミノ酸という言葉を知らない方はいないと思うんですけど、これが何者なのかを三日三晩語り続けられるような方は、そんなにいらっしゃらないのではないかと思います(いやそんな奴そもそもこの世にいねーよ)。

アミノ酸」と聞くと、「何となく栄養素っぽい感じ」というのは誰でも持ってるイメージではないかと思うんですが、一番の特徴を一言でいいますと、「つながるとタンパク質になる、タンパク質の成分みたいなもの」ということに尽きます。

タンパク質はこれまた誰でも聞いたことありますし、よりイメージがしやすい物質ではないかと思うんですけど、何を隠そう、タンパク質ってのは、アミノ酸からできているのでした。

同じような感じで言い表せる、何か身近で上手い例はないかな……うーん、あんまり完璧な例えではないけど、レゴブロックを組み合わせると、色々な作品(オブジェ)ができるじゃないですか。お城だったり、車だったり、飛行機だったり、動物だったり…。

そのレゴブロック1個1個がつながってできたものを「お城」や「乗り物」といったオブジェとみなすように、アミノ酸1個1個がつながってできたでっかい分子を、僕たちは「タンパク質」と呼んでいるという、そういう話なわけですね。

タンパク質についてはまた後で戻ってくるとして、まずはアミノ酸についてもう少し…。

アミノ酸」というのはあくまで総称(グループ名)で、「アミノ酸」という名前の物質が存在するわけではありません。

これはちょうど、「糖」というのはあくまで総称であって、糖といっても砂糖もあればブドウ糖果糖乳糖なんてのも聞いたことがあるかと思うのですが、色々な種類の糖がこの世には存在する…それと同じなんですね。
(レゴブロックもまさに同じです。一口に「レゴブロック」といっても、色も形も色々なものがあるのとちょうど一緒ですね。)

アミノ酸自体はこの世に何百種類もあるんですけど、人間の体の中でタンパク質の成分として使われるのは、たったの20種類になります。

まぁ、「たったの」といいつつ、20という数字は多いっちゃ多いんですが、化学・生物学系の学生はその20個を覚えさせられる感じです。

というか、別に強引に覚えさせられることは特にないけど、あまりに重要すぎる頻出事項なので、気付いたら覚えてるレベル、といえるかもしれません(特に生化学では)。

20個全部を挙げるのも鬱陶しいかもしれませんが、まぁ折角なので名前だけ挙げてみましょう。恐らく、どこかで聞いたことあるものも多いのではないかと思います。

大体小さい順(性質の似てる仲間はグループ化しつつ)に挙げていきましょうか。

グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリンシステインアスパラギンアスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、リシン、アルギニン、ヒスチジチン、メチオニンフェニルアラニンチロシントリプトファン

…の合計20種類ですね。

20個それぞれについて、簡単にエピソードトーク(いや別にアミノ酸なんぞにまつわるエピソードなんてないから、紹介トークですが)をつらつらと語れるぐらいになれば、まぁ立派な生化学系の学生ということができましょう。

まぁその辺の各種アミノ酸の紹介トークは(今は)ともかくとして、この20種のアミノ酸の中から1つずつ選んでつなげていくと、タンパク質ができあがるという仕組みに、世の中はなっているというわけなのです。

しかも立体的に組み合わせが可能なレゴブロックと違って、全てのタンパク質は、一直線につなげていくだけで完成します。

もちろん完成したタンパク質はギュッと丸まったりYの字になったりと、それぞれ固有の形になりますが、上手いことピロピロ~っとほどいていくと、全て1本の鎖になってるという分かりやすい設計になっているんですね。

…ということで、まず今回の話で最重要なポイントは、アミノ酸がつながると、タンパク質ができあがる」(というか「タンパク質とは、アミノ酸がつながったものである」というほうが分かりやすい?)って点ですかね。

これを把握できた時点で、アミノ酸については半分マスターしたも同然でしょう。


しかしそうなると今度は、「いやそもそもタンパク質って何よ?」って話になると思うんですけど、まず言うまでもなく、タンパク質も総称(グループ名)であり、「タンパク質」という1つの物質が存在するわけではありません。

アミノ酸」というグループには20種類のやつらが存在しましたが、それらが色んなパターンでつながってできあがるタンパク質は、当然、無限…とまではいいませんが、星の数ほどの種類があります。

きっと、まだ知られていない未知のタンパク質だって、いくらでも存在することでしょう。

マジで、信じられないぐらいの種類があり、しかも、20種類しかないアミノ酸がただ一直線につながっただけの単純な物体のくせして、めっちゃくちゃ色んな機能を持つものが存在する、あり得ないぐらい有能なやつら、それがタンパク質なのです。

一番有名なタンパク質って何でしょうかね…?

まぁ、このブログの想定読者は大人の方なので、アルデヒド脱水素酵素とかは聞いたことがあるのではないでしょうか。

こいつ、お酒を分解しくれる、酒飲みの強い味方ですが、これはまさにタンパク質なんですね。

…というか、「酵素」というのがタンパク質のことなのです。

人間にとって何か特別な機能を持つタンパク質を、我々は「酵素」と呼んでいるわけですね。

消化酵素とか、洗剤とかに使われる油を分解する酵素とか、その他もろもろ、日常生活でも色んな製品で結構使われている酵素は、全てタンパク質なのです。

もちろん酵素と呼ばれるやつら以外にも、タンパク質には色んなタイプのものが存在しますよ。

中学生以上であれば誰でも聞いたことのあるヘモグロビン(血液内で、酸素を運ぶ)とか、老若男女全員が何となくどんなものかのイメージができると思われるコラーゲン、あとこれは生物系の大学生以上にしか馴染みがないと思いますが、名前が面白いチューブリン(その名の通り、チューブみたいな構造になるタンパク質…発見者&命名者は日本人の毛利秀雄さんで、本当はチューブラリンという名前にしたかったけど日本語での響きがよくないからやめた(英語的には、むしろそっちの方が自然だけど)という話も有名です)とか、マジで星の数以上にいっぱいあるので、挙げていけばキリがありません。

とにかく、生き物の体は色んな特徴がありますが、そのほとんどが、タンパク質が生み出しているものだといっても過言ではない感じです。


タンパク質についてもまたいつか触れたいですが、とりあえずアミノ酸との絡みに話を戻すと、例えば最初に挙げたアルデヒド脱水素酵素(特に、お酒の分解能力に関わるものは、2型と呼ばれるほうです)、ALDH2という略称で呼ばれますが(英語名の、Aldehyde dehydrogenase, class 2から)、このタンパク質は、517個のアミノ酸がつながってできています。

結構な数ですね。

とはいえ、わずか517個のアミノ酸を順番に正しくつなげるだけで、飲んだ酒を無害な成分にまで分解してくれる有能物質が、いきなり爆誕するのです。

え?どういう順番でつなげばいいかですって?

もちろん、そんなのは余裕で完全に解明&公開されています。

タンパク質データベースは沢山ありますが、UniProtと呼ばれるサイトが、凄まじいまでの情報を収録している、研究者ご用達のデータベースですね。

ALDH2のあらゆる情報が含まれるUniProtのページは、こちら↓。

www.uniprot.org
リンク先の「Sequence(配列)」に、517個のアミノ酸の順番が明記されています。スクショを撮ったので、ペタッと引用させていただきましょう。

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517個のアミノ酸を並べるのもスペースを食うので、アミノ酸は1文字で表記されています。

Mがメチオニン、Lがロイシン、Rがアルギニン……という感じですね。

つまり、メチオニンにロイシンをつなげて、次にアルギニンをつなげて、さらにA(アラニン)を3つ連続でつなげて…と順番に、最後517個目のS(セリン)までアミノ酸をつなげると、なんと、あなたの手元には、酒飲み用酵素ALDH2が存在するのです!

しかしもちろん、アミノ酸の粉末を薬局で買ってきて、ピンセットでメチオニン、ロイシン、アルギニン……とくっつけていっても、当然ALDH2は完成しません。

ちゃんと、分子レベルでつなげる必要があるんですね。

どうやって?

もちろん、タンパク質合成マシーンみたいなものを使えば、今の技術があれば自力で作れなくもないですが、実は、僕たち人間は、何を隠そう、自分自身がタンパク質合成マッシーンなのです!

誰に習ったわけでもないのに、僕たち人間(というかあらゆる生物)は、自分でアミノ酸をつなげてタンパク質を合成することができるんですね。

どうやって?

ここで登場するのが、みなさまご存知、DNAなわけですよ。

めっちゃ簡単にいうと…

DNAの中に「ALDH2の作り方:1. M→2. L→3. R→………→517. Sを順番につなげる」という情報があるので、それをもとに、RNAアミノ酸を1つずつ運んできてくれて、忠実に丁寧に517個のアミノ酸をつなげていく

…という仕組みになります。

もちろん、DNAにはALDH2だけではなく、チューブリン(451アミノ酸もヘモグロビン(141アミノ酸のαグロビンと146アミノ酸のβグロビンが作られて、それぞれ2個ずつが合体してヘモグロビン完全版になって働いてる)も、その他人間を作るあらゆるタンパク質の作り方が、しっかりと記録されています。

大体今分かってる範囲で、人間のDNAには2万~3万種類ぐらいのタンパク質の作り方が記録されており、僕たちは日々そのDNAに刻まれた設計図(命令)どおりに、必要なタンパク質を必要な場所で必要な量合成し続けているんですね(もちろん、使わなくなったタンパク質を分解したり除去したりもしています)。

例えば、ALDH2は、お酒を分解する肝臓で大量に使われますから、肝臓の細胞で「沢山作りましょう」というプログラムがなされていて、肝臓でバンバン作られていますし、ヘモグロビンですと、血液に乗って全身を巡る必要がありますから、血液のもとが造られる骨髄でガシガシ作られている…といった具合です。

人間の体内では、平均して大体1秒で20アミノ酸をガチャコンガチャコンとつなげることが可能といわれています。

今これを読んでいるあなたの体内でも、DNAの指示通りに、RNAアミノ酸を1つずつせっせとつなぐことで、酒飲み用酵素ALDH2なりヘモグロビンなりチューブリンなりが作られ続けているのです(571アミノ酸ALDH2でも、大体30秒もあれば1つできちゃいますね)。

いやこれマジで、誰にやり方を教わったわけでもないのに、あらゆる生物が生まれた瞬間から平然と無意識でやってのけてるとか、生きてるやつら、スゴすぎん?(自画自賛

1秒で20個を捌く仕事なんて、中々できませんよ!?(っていうか速さもだけど、その仕組みそのものがヤバいスゴい。)


でも、本当にそんな素早く何個も何個も正確につなぐなんてできるの?…っていうか、ミスったらどうなる?

…というのは誰しもが抱く疑問だと思いますが、もちろんちゃんとミスがないかを監視して直す品質管理機構とかも備わっているんですけど(ヤバいミスを含むものは、問答無用でぶっ壊すとか)、実際、アミノ酸たった1つを取り違えてしまうだけで致命的になってしまう例は、いくらでも存在します。

といっても、アミノ酸をつなぐときのミスというより、設計書であるDNAの情報にミスがあるという方が正確ですが、ちょうど上でも触れていた例でいうと、酒飲み酵素ALDH2は、504番目のE(グルタミン酸)が、K(リシン)に、つまり、全517個のアミノ酸の内、たったこの1つが変わるだけで、ALDH2のお酒を分解する能力が、劇的に(ほぼ完全に)失われてしまうのです!

そして、この「お酒分解できません」バージョンのALDH2(K型と呼びましょうか)を作るDNAを持っている人は、何を隠そう我々アジア人を中心としたモンゴロイド系人種に結構な割合でいまして、およそ50%の人がこのALDH2のK型を持っているといわれています。

この辺からはちょっと遺伝学の話になりますが、人間は、お父さんからとお母さんからとそれぞれ遺伝子を受け継ぐので、分かりやすくいうと2種類の遺伝子を持っています

…まぁ遺伝学というか、これも中学レベルの話ではあるので、多くの方が覚えてると思いますが、メンデルの豆の実験のあれですね。

その辺を覚えてなくても、血液型がAAとかBOとかABとかは、ご存知の方が多いのではないでしょうか。

(父と母両方から、AかBかOかを受け継ぐ⇒AAかAOならA型に、BBとBOはB型に、OOがO型に、ABがAB型になるやつですね。)

それと全く同じで、ALDH2のお酒分解能力のあるE型か、ないK型かも、当然、両親から1つずつ受け継ぐんですね。

で、この場合は、EEの人は極めて酒に強いタイプ、EKの人はすぐ顔が赤くなるなど、あんまり強くないタイプ、そしてKKの人は全く飲めない(冗談抜きに、酒=毒になる)タイプ、って分かれるわけです。

まぁ僕は多分EKでしょうね。

EE型の人は、お酒に強い九州とかに多くいらっしゃるのかもしれませんね。こればっかりは遺伝子で決まっているので、KK型の人にお酒を強要するのはやめましょう(啓蒙)。

 

…と、アミノ酸というより分子レベルでのタンパク質合成の話が中心になってしまいましたが、この辺の話、正直めっちゃ面白くないですか?

まぁ、僕はそこまであんまり面白いとは思わないですけど……というのは例によって照れ隠しの冗談で、実際似たような話の研究をしているだけあって、流石にまぁ面白いとは思うんですが、いかがでしょうか?

でも、「まあまあ面白くはあるけど、やっぱYouTube見る方が断然面白いわ」ってぐらいかもしれませんね。正直、同意します(笑)。

…が、YouTubeより面白いブログ記事なんてそもそも書けませんしね、せっかくなので、思い出のドリンクからはまたちょっと逸れますが、アミノ酸話をまた次回も書いてみようと思います。

(ドリンクすら、そもそも本題から外れてた話題なんですけどね。まぁ、別に本当の本題は婚活のはずで、既に意味不明なぐらいに逸れてるので、特に問題ないでしょう(笑)。)

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